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4 空京郊外 倉庫・前

 空京の周辺には、その郊外とも呼べる一帯がある。
 空京のの結界からは外れるが、空京にオフィスを置く会社の工場や倉庫、またそこで働く人々の利用する商業施設などが、それぞれ簡易結界装置を用意して利用している地区が点在している。
 そんな地区のひとつ。
 問題のオフィスから最も近い、シャンバラ地区への流通の拠点とされている倉庫群があった。
「ここには、怪しい者の出入りはなさそうだが」
 夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)が心持ち胸を反らし、そう報告した。
 相棒のブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)に、先刻のオフィス街での失敗の汚名を返上すべく、ここまで引っ張られて来た。
 そして、気合いで捜査を続行したのだ。
「警備担当者2、3人締め上げて聞いた。間違いない」
「し、締め上げたのか……」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が、呆れたような面白がるような、微妙極まりない笑顔で呟く。
 しかし甚五郎にはそのニュアンスは伝わらなかったらしく、さらに胸を反らし、少し誇らしげに言った。
「俺の気合いと腕っ節、こいつに逆らえるヤツはおらん。この情報には信憑性があるぞ!」
「えー……通報されなくて、幸運でしたね」
「うむ、通報はするな、と言い聞かせておいた。気合いでな」
「……脅迫付きか……なんて危険なヤツだ」
 メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)小さく呟いた言葉も気に留めず、しかし少しだけ怪訝に顔をしかめてエースを見る。
「だから、ここはアジトとしては空振りだと思うのだが……それでも潜入するのか?」
「ああ、まあね」
 エースは涼しい笑みを浮かべて、
「テロリストのいないただの倉庫の方が、調べやすいこともあるんだ」
 そう言ってブラックコートを身に纏う。
「言っておきますが、これはれっきとした不法侵入ですからね。夜刀神さんの腕っ節と大差ありません」
 メシエが口を挟む。そう言いながらメシエも既にブラックコートに霧隠れの衣と、やる気の出で立ちだ。
「わかってる。ただ、僕らはもう少し……スマートにやりたいもんだね」
「ええ、倉庫荒らしで捕まったら、不名誉どころの騒ぎじゃありません」
 甚五郎に出入り口の警戒を依頼して、2人は倉庫の中へと向かった。
「まず、迅速を持って最善となす。俺は倉庫のデータから、モノと人の流れの詳細を調べる」
「では私は事務所で活動記録等を探しましょう。サイコメトリを使える隙があればいいんですが……」


4 空京警察 一係

 顧客情報回りのセキュリティーは流石に高く、気づかれずに短時間でデータを盗めるような状態ではなかった。
 しかし、社内のシフト状況、倉庫間の荷物のやり取り等のデータはあっさりと手に入った。
 電話や通信の記録からは、会社側がテロ予告に困惑していること、現在の状況が掴めていないことも読み取れる。
『それから、ひとつ矛盾のある妙な指令が飛んでいる』
「なんでしょう」
 空京のリカイン・フェルマータが、通話とともに送られてきたデータをチェックしながら聞く。
『まず支社長命令で、倉田博士、富田林刑事をシャンバラ大荒野に放置させたらしい』
「……それは、こちらでも予想していました。現在捜索中です」
『ああ、手が早くて助かる。で、この後が本題なんだが……直後、倉田博士と、西園寺のるる刑事の身柄を、『保護』しろという命令が出てる』
「……どういうことです」
『わからん』
 短い答えに、リカインはちょっと息をついた。
「……空京で調査中のメンバーから、本社オフィスで倉田博士と西園寺刑事が接触した可能性があると報告がありました」
「どういうことだ」
「わかりません」
 短い間の後、二人は同時に小さくため息をついた。
『だな。で、富田林刑事は殺してよしってことだ」
「で、その命令は支社長秘書のD.サカーイ氏から出ていて、更にそのすぐ後、社長からはD.サカーイ氏の捜索と「保護」の命令が出た』
 リカインの脳裏に、漠然と人間関係が描かれる。
 しかし……今はじっくり推理するよりも先にすることがあった。
「了解しました。その情報、行動中の皆さんにこちらから通達します」
『助かる。こちらは引き続き、アジトになりそうな施設の調査にあたる』
 エースの言葉に、リカインは少し声を潜めた。
「不正アクセスも犯罪ですよ。くれぐれも、その……バレないように」