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シャンバラ大荒野にほえろ!

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シャンバラ大荒野にほえろ!

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「バカもーーーん、なんでお前は俺の前を走るんだーーーっ」
「だ、だって、トンさんがっ、追いかけてくるから……っ」
 風で砂が巻き上がり、視界がはっきりしない。前のめりになって必死で走るのるるにとって、走るべき「前」は背後に迫る富田林の怒号から逃げる方向しか考えられなかった。
 竜巻、竜巻から逃げる倉田と富田林、その前をのるるとセレン、そして稲穂を庇うようには知る木枯と、さらに的が大きい分風にあおられて苦しそうなロボとタコ。そして、そのさらに前方を、何故かのるるを襲った男たちが必死で駆けている。
「だから、トンさん言うなっ、にょろりっ」
「にょろりじゃないです、のるるですっ」
「黙れ、のろろっ! 追いかけてねえ、俺は、追いかけられて……おいっ」
 併走していた倉田の気配がないのに気づいて脚を止める。
 振り返ると、倉田は転んだのか、数メートル後ろでうずくまっていた。息が上がり、風に舞って乱れる紙の間から、苦し気に歪んだ表情が見て取れた。
「も、もう、僕、ゴールして、いいですよね……」
「いいわけあるか! 立って走れ!」
 駆け戻った富田林が叫んで引き起こそうとするが、倉田はぜいぜいと息を切らせ、脱力したまま立ち上がろうとしない。
「無理、ですよ……僕は、インドア派、なんです……」
「くそっ、このモヤシ学者がっ」
「肩、貸すわ」
 すかさず駆け寄って来たセレンのコートが、風に舞う。顔を上げた倉田が、ぎょっとしたように目を見開いた。
 ……何故この荒野でこの状況で目の前にビキニの美女が?
 倉田の地球的な論理回路では、ひとつの結論しか導き出せなかったらしい。
「……とうとう、幻覚、が……」
 虚ろな声でそう言って、視線を空に彷徨わせた。
「はは、は……こんなもの……実在するわけが……」
「……うわ」
 状況も忘れて一同の目に同情の色が浮かぶのを見て、木枯がつぶやいた。
「武士の情けだ、それ以上聞かないでやってくれ……」
「……って、何やってるの、行くわよ!」
 我に返ったセレンが肩を貸そうと身を屈めると、倉田は悲鳴を上げて飛び退った。
「も……もう、ダメだ……」
 その表情は恐怖に強張っている。
 倉田の妄想にも見えた「恐怖」が眼前の現実だと気づいたのは、富田林だった。
「……マジか」
 曇天の下、風にあおられながら一直線にこちらにやって来るものを凝視して、彼も絶望的な声を上げた。
「……ドラゴン……だと……」


 

「見えた」
 先刻、富田林と倉田をパニックに陥れた「ドラゴン」フロイデの背から、レリウスが叫んだ。
 竜巻の引き起こす暴風の中、砂塵を立ててこちらに疾走して来るベアトリーチェも、彼に気づいたようだった。
 後方からは竜巻から逃げる一同が、ハイラルのバイクに先導され、やはり彼を目標にして走って来る。
 のるるを襲撃したグループは、既に散り散りに逃げ去っていた。
「もう少しです、頑張ってください!」
 
 キキキィーーーーーーーッ!
 派手なブレーキの音とともに砂煙を立てて、ベアトリーチェの車がのるるの目の前に停車した。
「お待たせしました、リボンの騎士ですっ」
「騎士じゃないけどね」
 ツッコミを入れつつ美羽が言った。
「中へどうぞ、結界装置を作動します」
 その言葉に、倉田がへなへなと座り込んだ。
「よ、よかった……」
「ちょ、まだ脱力しないで! 竜巻の範囲から離脱しますよ」
「えええ」
 情けない声を上げる倉田の襟首を掴んで、富田林が喚いた。
「少しは根性を見せやがれ、モヤシ野郎。無事逃げ切ったら、ビキニでもなんでも買ってやる!」
「……え」
 美羽とベアトリーチェの顔が引き攣る。倉田は情けない声で叫んだ。
「いりません!」