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リアクション
第四章
1
大荒野での行動中に状況が変わったという連絡は、警察の通信ではなく、リカインの携帯電話で空京に届いた。
場合によっては、警察に事情を話せないままでの行動が必要になるかもしれないという説明に、リカインは思わず声を潜める。
「つまり……警察との情報共有を中断するってことですか」
それから、ちらりとデスクの藤堂を見る。電話に向かって指示を出している彼は、こちらのやりとりには注意を払っていないようだ。
「わかりました、回線を切り替えます。ちょっと待ってください」
「無人の倉庫、ねぇ」
1ブロック離れた廃ビルの屋上から倉庫を監視していた 柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)が、双眼鏡から目を離して呟いた。
「無人って、人がいないってことだと思ってたぜ」
「主、最初から、無人だなんて思っていなかったのでしょう?」
傍らでエグゼリカ・メレティ(えぐぜりか・めれてぃ)が笑うと、恭也はため息をついて肩をすくめた。
「……にしても、露骨すぎるぜ」
「でも、質は悪そうですよ」
エグゼリカは設置したカメラのモニタを操作し、倉庫の入り口を確認した。
若い男が三人、入り口の階段に座り込んで何か話をしている。武装はしていたが、いわゆる不良座りで談笑する様子は、テロリストというよりは町のチンピラといった雰囲気だ。
「これなら、あと何人か応援が来れば、ちょっとスリリング程度で制圧できると思いますが」
「いやいや、スリリングじゃなくていいって……」
恭也は顔をしかめてぼやく。しかし、すぐに真顔になって双眼鏡を目に当てた。
「でも、まあ……バイオテロなんて許すわけにはいかないし、ウィルス確保は急ぎたいよな」
常になく真剣な視線を倉庫の方に向けて、恭也は言った。
「取りあえず、応援が来るまでは情報収集だ。テロリストのアジトを丸裸にしちまえ」
「……了解、ひん剥きます」
エグゼリカが頷いた。
「空京周辺を縄張りにしてるグループです。まあ、チンピラですね」
エグゼリカから送られてきた画像から、レギーナがグループを割り出したのは、その後すぐだった。
グループのメンバーリストと、データを送信する。
詐欺、恐喝、違法な約物の売買……と、並んでいる罪状はテロリストと言うよりは街の不良グループだ。
その顔写真の中には、確かにシャンバラ大荒野で西園寺のるるを襲撃したメンバーが混じっている。
「こいつらのアジト……というか、たまり場はわかっていますか?」
「空京の外れのクラブにたむろしていたらしいですが、最近立ち寄った様子はありませんでした」
リカインが資料を見ながら、
「エースさんの報告の中に、例の秘書が人払いをさせた倉庫があって、柊さんが調査に向かっていました」
「……誰か、応援は向かっているか?」
通信に叶白竜の声が割り込んで来た。
「いえ……空京にいるメンバーに向かってもらうつもりですが」
「……今、隣の地区にいる。俺が回ろう」
「ウィルスの所在もまだ不確定です。くれぐれもお気をつけて」
「危険には慣れている……が、気遣いは感謝する」
白竜は短く言って、通信を切った。