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「ダリル、データ出して! 大至急!」
 巨大な竜巻を目視して、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が叫んだ。
 言われるまでもない、と答える間さえ惜しいのか、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は無言でPCに向かう。
 荒野に散らばって捜索活動をしていた協力者たちから送られたデータを、空京のリカイン経由で受け取り、解析する。その表情が次第に強張ったものになった。
「座標確認。東南東方向に約90k/mで移動。規模は……F4からF5」
「それって……」
「地上でも最大クラスのバカでかい竜巻が、まだ巨大化しながら猛スピードで移動してるってことだ!」
「うわ、助けに入るってレベルじゃねーな、これは」
 横からカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が言った。確かにドラゴンやモンスター相手とは違い、戦って足止めできるものでもない。
「こりゃ、奴らが人里離れた場所に放置されたのは幸運だったかもしれねーな」
「え?」
「ヤツが飲み込まれれば消えるんだろ。むしろ飲み込まれてもらった方がいいんじゃねえか」
 この辺りは集落らしい集落もない場所だが、あくまで人間のスケールで言えば、だ。
 あの巨大竜巻が好き勝手に暴れ回れば、人里や旅人に被害が及ぶ可能性がある。
「ちょっ……簡単に諦めないでよ!」
 慌ててルカルカが声を上げた。
 しかし、ダリルも難しい顔でモニターを睨んで呟く。
「普通の竜巻なら、進行方向から離脱させれば済む。だがこいつは、彼らを追って移動してるんだぞ」
「……つまり、この進行方向に富田林刑事か倉田博士がいる、ってことよね」
 ルカルカが目を輝かせた。
「ね、2人を結界内に保護すれば、竜巻は消える?」
 その意図を察して、ダリルは顔をしかめてルカルカを見た。
「竜巻に突っ込みにいくようなもんだぞ。一歩間違えたら……」
「何の為に、結界装置持参で救助に来たのかな?」
 笑顔のまま、ルカルカが言う。
 こういう顔をしたら、止めて止まるルカルカでないのはわかりきっていた。ダリルは小さくため息をついて再びPCに向かった。
「……急ぐぞ。消えるったって、一瞬で消え失せる訳じゃない。それに……竜巻は俺たちと逆方向に向かっている」


『すぐにこの近辺で竜巻の進行方向に回り込める人を探してください。それから、俺たちより近くに小型結界装置を所持している人がいれば、そちらにも協力を頼みたい』
 本部のリカイン・フェルマータは、ダリルからの連絡を受けて、モニターに目をやった。
「了解、確認します」
 申告されている各々の捜索ルートを確認して位置を割り出す。
「竜巻の影響で通信状態が悪化しています。近辺の協力者は、可能な限りテレパシーの中継をお願いします」


「了解、すぐに向かいます。正確な座標をください」
 レリウス・アイゼンヴォルフ(れりうす・あいぜんう゛ぉるふ)が通信機に返す。それから顔をしかめて言い直した。
「電波障害が酷いな。数値で頼みます」
「……まあ、あれじゃ仕方ないよな」
 傍らのハイラル・ヘイル(はいらる・へいる)が呟いて、北の空に目をやる。
 彼方に、天と地を繋ぐ巨大な渦が見えた。重く垂れ込めた黒い雲の中では、断続的に稲妻が光っている。あれでは通信はもとより、電子機器が使用できるかどうかも怪しい。
「……あれに突っ込むのか。ぞっとしないね」
 竜巻の進行方向に回り込み、そこにいるであろう「外部」の人間……おそらく富田林刑事か容疑者の倉田博士、或いはその両方を保護、小型結界装置の方向に誘導する。
 位置と機動力からいって、これが自分たちが動くべき任務なのはわかっている。
 だが、本来なら今頃、空京で羽根を伸ばしている筈だったのだ。
「あー……かーさん、俺の休日、どこに行ったんでしょうね……」
「惚けたふりしてもダメです。行きますよハイラル」
 相も変わらずクソ真面目な相棒の背中に、ハイラルは大きくため息をついて喚いた。
「この依頼終わったら、何か奢れよこの野郎!」


「了解です、向かいますっ!」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)はリカインからの通信を切ると、飛空挺から乗り出して下に向かって叫んだ。
「聞いた? 至急、大至急の要請よ、頑張れっ」
 竜巻と富田林の位置から見て、彼らが竜巻に呑み込まれる前に届けられる小型結界装置は、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)の駆る格安の自動車付属のもの、ただひとつだった。
 結果、ベアトリーチェは荒野の道なき道を、全速力で格安の自動車を走らせることとなったのだ。
「が、頑張ってますけど、書く安ですからっ、限界が……っ」
 言いかけだベアトリーチェの言葉が、途切れる。
 舌を噛んだのだ。
 ベアトリーチェは僅かに涙をにじませて、無言でアクセルを踏みしめた。