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壊れた守護獣

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壊れた守護獣

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「ってなわけで、俺も今から避難の方を手伝うぜ」
 タイニーに乗り、西の入り口の安全を清泉 北都(いずみ・ほくと)に伝えにきたアッシュ。それを受けて町の住人の誘導を始める。タイニーは中心部にて森の暴走を喰い止めることとなった。
「りょーかい。というわけです。皆さん、町の西の入り口が開いたようですのでそこから脱出しますよー! 速やかに、けれど焦らずについてきてくださいねー!」
「オレたちが守りながら行くから安心だ! さあ、さっさと逃げ出そう!」
 北都のパートナーである白銀 昶(しろがね・あきら)も住人の避難にあたっていた。一行はタイニーがいなくなった町の西方へと歩を進める。
 避難住人の数も少なくないため、避難する速度はゆっくりになってしまう。ここは確実に一歩一歩進むしかなかった。
「周りの警戒を怠らないでねぇ。何やら守護獣以外にも動き回ってるそうだからさ」
「抜かりはないぜ!」
「……子供たちにもふられながら言われても説得力にかけるっていうか、ねぇ?」
「仕方ないだろう? こんな時だからってこいつらが遊んじゃいけないなんて、頂けないぜ。それにだ」
「それに?」
「もふもふは癒しだ!」
「……とりあえず、避難するだけじゃなくて逃げ遅れた人がいないかもよろしく」
「おう!」
 『超感覚』や『禁猟区』を発動しながら、危険がないかを確認しつつ先を急ぐ一行。
 そして起こりえてほしくなかった事態が起こる。北都の『禁猟区』が反応を示したのだ。
「まったく、ついてないねぇ。どこにいるかわかる?」
「……あそこに一体と、もうちょい奥にもう一匹! 教えてもらったモンスターの目撃情報とばっちり一致する姿形だ!」
「なら、土くれで間違いなさそうか。ともかく先制してしまおうか。混乱は避けたいしね」
「オレが行くか?」
「いいや。ここは僕が行こう。フォローはお願いするよ」
「はいよ!」
 『エイミング』を発動し、手前に居る土くれモンスターに照準を定める北都。向こうから襲ってくる気配はない。遠慮せずそのまま通常攻撃で土くれモンスターに弾丸を叩き込む。
 土くれモンスターは文字通り、土くれとなって崩れ落ちた。
 同じ要領で奥にいる土くれも撃破する北都。だが、あまりの手応えのなさに違和感を覚える。
「へっ大したことないなー! これなら余裕で避難できるってもんだ!」
「……だと、いいんだけどねぇ」
「あー! 土のお化けだー!」
 昶をもふもふしていた子供の一人が土になったモンスターを指差して叫ぶ。
「おいおい、あんまり大きな声出すなよ?」
「んー。……でもおっかしいなぁ。さっきはいっぱいいーっぱいいたのに」
「……いっぱい? それってさっきのモンスターがたくさんいたってことかい?」
「うん! それでどわーっていっぱいきて、うわーってなってるところをお兄ちゃんたちがとりゃーって助けてくれたんだよ!」
 子供の話を聞いて、北斗の脳裏に嫌な予感がよぎる。そして運悪く、その予感は早くも的中することになってしまった。
「昶、戦う準備はオーケーだね?」
「ん、全然平気だけどそこまで気を張る必要は……!?」
「そう。ご覧のとおり、こいつら土くれモンスターは、集団で動いているモンスターだったみたい。そして、土くれの状態からモンスターへと変わることができる。道理で禁猟区にも超感覚でも捉えきれないわけだ。何せ最初は土だったんだから」」
 二体、どころではない。見る見るうちに、数え切れないほどの土くれモンスターが周りを取り囲んでいる。それを北都の『禁猟区』が知らせていた。契約者たちも臨戦態勢を準備し始める。
「なるべく距離をとった状態で土に還すよ?」
「了解っ!」

「……疼く、疼くよ! こっちのほうに危険が危ない状態があるって疼くのだ!」
『うう、ボクの身を少しは案じてくださいよー』
『まあそう言わないで。ボクに関係ないんだしさ』
『こっちは関係ありまくりなんですよー!』
 一つの体で三者三様の会話をしているのは鳴神 裁(なるかみ・さい)ドール・ゴールド(どーる・ごーるど)物部 九十九(もののべ・つくも)の三人だ。
 裁の体を媒体として、鎧として纏われているのがドール、憑依しているのが九十九という状態だ。
 一つの体で【千里走りの術】にドールと九十九、二人のスキルである【妖精の領土】と【超人的肉体】を重ねがけして常人では目で追いきるのすら難しい速度で戦場を跋扈していた。
 更に【野生の勘】に反応する地点を発見。裁はすぐさまその場所へと急行する。急行した先。そこで見たものは、無数の土くれモンスターたちだった。
 その奥を見やれば、避難真っ最中の住人とそれを警護する契約者たちの姿が見えた。
「成る程ねっ。これは相当な危険だね! だからこそ、腕が鳴るってものだよ!」
『ちょ、ちょっと! いきなり突っ込まないで少し考えてからでもっ』
『残念ながら無理だろうね。今の裁は風なんだから』
「そう。ボクは風。土を薙ぎ払う一陣の風。風は駆け抜ける、何も考えず駆け抜けるだけだよ!」
 言葉を置き去りにして土くれモンスターの集団へと突貫する裁。そのスピードが更に増す。九十九の『ゴッドスピード』を使用したのだ。
『それに、こいつはおまけだよっ。手厚く受け取ってね!』
 憑依した状態で『嵐の使い手』を発動させる。複数体の土くれモンスターが暴風に巻き込まれて土へと還る。ようやく裁の存在に気づいた土くれモンスターたちも反撃を試みようとする。が、
「土の君たちに、風(ボク)の動きを捉えきれるかな?」
 一体が土になる。数秒後、離れた土くれが同じように。まるで突風に薙ぎ倒されるように崩れ落ちていく土くれモンスターたち。異常な速度からの正確な通常攻撃。その攻撃方法は範囲攻撃に近くなりつつあった。
「ほらほら、どんどんこないと全部攫っちゃうよ!」
『あ、あんまり無茶はしないでくださいよ!?』
 ドールが『ミラージュ』を展開。これにより、土くれモンスターの攻撃が裁に当たる確率が低下する。もはや万に一つも当たらないかもしれない。
 しかし土くれモンスターにも厄介な点がある。
「……数だけは多いねっ。嫌になるくらいにさ!」
 数十体目の土くれモンスターを薙ぎ倒す。だが、これだけやっても数を減らせず、むしろ増していく一方だった。
「通常攻撃だけで平気かと思ったけどだめみたいだね。倒しても倒しても沸いてくるんだもん」
『これじゃ、いつか押し切られちゃいますよ!』
『押し切られはしないと思うけど、押し切れないのも事実かもね』
「……倒してだめなら、もっと倒す! 本気で行くからね!」
 裁が【忍法・呪いの影】を同時に使用。裁の影が立ち上がり土くれモンスターへと向かう。裁もまた一緒になって土くれモンスターを排除していく。
 そして、この作戦は成功する。僅かながらにも土くれモンスターが押されてきていたのだ。
 しかしそうとわかった土くれモンスターは思わぬ行動に出る。
「ちょ、ちょっと! そっちは避難している人たちが! 君たちの相手はボクだって、こんのぅ!」
 土くれモンスターは裁を無視して続々と避難している住人の方へと向かっていく。
『あんな姿で知性があるってことですか!』
『……いや、そうじゃないよ。避難している人たちの後ろからも土くれモンスターが来てる!』
「つまり、前進せざるを得なくて前に進んだところ、こいつらの射程圏内に入ったってことだね!」
『ど、どうするんですか?』
「ここを離れたらもっと多くの土くれがあっちに行っちゃうよ! だから私たちはここでできる限り相手をする。あっちは他の人たちに任せて、今はここに集中するよ!」
 二人が返事をする。裁は他の契約者を信じ、この場に留まり、土くれモンスターを一体でも多く相手取るのだった。