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壊れた守護獣

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壊れた守護獣

リアクション

 見事な歌の連携により短時間でタートの撃破に成功した契約者たち。そんな彼らの脳に直接何かの声が聞こえてくる。
『あたたたっ、あまり年寄りをいじめるものではないぞ? が、暴走を止めてくれたことは感謝じゃて』
 自我を取り戻したタートが話しかけて、というより直接脳内に語りかけてきていたいのだ。
『……ほう。タイニーにバーンまで倒されたのか。最近の人の子は強くなったものじゃな。……さて、私はタイニーと共に森の暴走を食い止めるとしよう。
お前たちはドランと戦う者たちのところへ急ぐといい。バーンもそこへ向かっているようじゃしのう』
「ドランって、結構な人数が割り振られているから大丈夫なのでは……」
「そうだそうだ。タートの数倍の人数は振られていたんだから私たちも森を食い止めたほうがいいだろう!」
「だ、そうじゃが?」
 美夜湖、輝夜、刹那が真っ当な疑問を投げかける。それに笑った後、ゆっくりと答えるタート。
『ドランはな、ワシの比ではないほどの強さをもっているのじゃ。際限ない強さをな。そして弱点らしい弱点もない。純粋な力と力のぶつかり合いで勝つか、
認められるかされなくばドランの暴走は止められまいよ。まあ騙されたと思って行って見るんじゃ。なあに、森の暴走はあの虎っ子とワシでどうにかしておく』
 それだけを告げて、タートはゆっくりと町の中心部へと移動していった。どうするべきか悩んでいた契約者たちだったが、タートの言葉どおりに全員でドランの元へと行くことにした。
 残るのはドリー・ドラン一体のみ。町の安全を守るため、復興するためにも一刻も早くドランを倒す必要がある。そう決意してドランの元へと駆ける契約者たちだった。

 契約者たちの働きにより四体の守護獣もあと一体となった。その最後の一体であるドリー・ドラン。今なお、東の入り口の上空を暴れ舞う。
 ほぼ同時に撃退に当たっていたというのに、ドランは体力を消耗しているようには見えない。

―――――ツッッ!

 形容できない鳴き声? 嘶き? 通常の獣が発するものとは明らかに違う異質感。空気を裂くようなドランの鳴き声を聞いてなお引かぬアゾート。
「悪いけど、賢者の意思を創るまでは死ねないよ」
 ウィザードである彼女であってもこの戦場においては生傷が耐えない。それだけ戦いは熾烈を極めていたのだ。
「倒れるようには見えないけれど、実際は疲れているんだよね? さっきよりも高度が下がっているよ」
「これ、おぬしこそ疲弊しきっているじゃろうて。無理せず下がっておれ」
 そう言いながらアゾートに『グレーターヒール』を使用したのはルクレシア・フラムスティード(るくれしあ・ふらむすてぃーど)だ。今は最前線から引いて援護と回復を担っている。
「ありがとう。助かるよ」
「そうでもしなければ生き残れないからのう。それでじゃ、一応確認をしておきたいのじゃ」
「なに?」
「あの竜、幻覚と風を操る、そう認識しておるのじゃが間違ってはおらぬか?」
「ええ。この町の言い伝えではそう」
「そうか、いやよかったよかった。あやつらも百も承知の上だと思うが、心配性でな。感謝するぞ」
「前線に戻るなら気をつけてね」
「言われなくとも。まあ、暴れているのはドランだけではないからな。そちらのほうが心配じゃ」
 それだけ行って仲間がいる前線へと向かうルクレシア。その前線で戦うは、ミルゼア・フィシス(みるぜあ・ふぃしす)リディル・シンクレア(りでぃる・しんくれあ)巫剣 舞狐(みつるぎ・まいこ)の三人だ。
 ミルゼアはさぞ楽しそうに、リディルは冷静に、舞狐は若干戸惑いながらドランと戦っていた。ルクレシアは三人に呼びかける。
「あー、わかってるとは思うがそいつは風と幻覚を用いるそうじゃ。用心せえよ、っとこれはおまけじゃ」
 ルクレシアが持つ【魔桜弓ペトローズスワール】から放たれた矢がドランの体の奥へと突き刺さる。だがドランは動じず、長い尾を四人目掛けて振り下ろす。
「ミルゼア様、お下がりください」
「了解だ」
 ドランの攻撃にもまったく動じず軽々と避ける二人。
「大丈夫ですか!?」
 少しはなれたところから舞狐が二人に叫ぶ。
「平気よ。シアの話通り、幻覚と風には気をつけていきなさい」
「は、はいっ!」
「しかし、この竜如き。中々に楽しませてくれる。ここまで三枚におろすのが難しいのは久々ね」
「如何いたしましょう?」
「変更はないわ。こんな強い相手、早々いないのだから存分に楽しまないとね」
「かしこまりました。ではリディルは防御に回らせていただきます。存分に攻めてください」
「言われなくともそうするさ。頼むぞ、リディ」
「はい」
 同時にスタートして、ドランの尾を伝い頭部へと一直線に走る。しかしここでドランの瞳が怪しく光った。
「……ほう、辺り一帯が暴風雨か。案外優しい幻覚なのだな」
「ドランの幻覚攻撃、かなりの広範囲のようですね。殺気看破とイナンナの加護を持ってしても完全に回避することはできないとは、申し訳ありません」
「案ずるな。次はない、そして幻覚攻撃の解除方法は昔から決まっているのよ。……舞狐!」
「はああっ!」
 二人とは反対方向に位置し、幻覚攻撃の範囲外だった舞狐がドランの体の一部に二刀の太刀で流れるように攻撃をする。まさしく、竜と踊るが如く美しく赤き液体が舞い上がり落ちていく。
 すると怪しく光っていたドランの瞳が通常時の青色へと戻り、二人にかかっていた幻覚も解かれたのだ。広範囲に効く代償として、ドラン自身の動きも鈍くなる。
 幻覚の効果が解除されたミルゼアは既にドランの眼前にまで来ていた。そして身の丈ほどある大剣【ディザスター・オリジン】を振りかぶる。
「この攻撃で、あんたの首は飛んでしまうのかな? ……試させてもらうよ!」
 最大限まで力を溜めて、臨界点ギリギリのところから一気に解き放つ『一刀両断』。空気さえ消滅させそうな一振りに、さすがのドランも長い首を縦横無尽に暴れさせる。
「ミルゼア様には塵一つ触れさせません」
 ミルゼアの横に立ち『スウェー』を使いながら暴れ狂うドランの無差別な攻撃を避け、切り伏せるリディア。見事に防御の役目を果たしていた。
 しかしながらミルゼアの渾身の一撃を持ってしてもドランは倒れる素振りを見せない。無尽蔵かと思われるほどの体力に、ミルゼアは歓喜していた。
「……本当に久々だわ。殺しきれないほどの強さをもった竜なんて、素敵過ぎるわ」
「楽しそうじゃのう?」
「楽しいもの。援護と支援、任せるわよ」
「了解じゃ」
「リディと舞狐もいつも通り。だけど決して止めを刺しちゃだめ。私が倒すんだから」
「命のままに」
「はいでございますっ!」
 血が踊るのを止められないミルゼア。そしてまた向かっていく。長く長く、ギリギリを踊ってくれるドランのその喉元へと、大剣を突き立てにと。

「まだ倒れないのね。こちらの面子もそう集まるものではないのだけど」
「アゾートさん! 大丈夫?」
「問題ない。今のところは」
「よかった。ウィザードなのに前線に出るからどうしたかと思ったよ」
 アゾートの心配をして駆けつけてきたのはヴァイス・アイトラー(う゛ぁいす・あいとらー)だった。以前にアゾートと縁があり、今回もアゾートと協力して今回の作戦に参加していたのだ。
「ある程度前に出ないと当たらないから」
「だからって出すぎだよ! 今じゃ土くれモンスターも沸いて三つ巴のようにしっちゃかめっちゃかなんだから無理は禁物だって!」
 ヴァイスの言うとおり、土くれモンスターもどこからか沸いて出てきて契約者たち、更にはドランにまで襲い掛かるという緊急事態となっていたのだ。
「ここからは魔法や回復で後方にいる人をオレができる限り援護していくから、あんまり前に出ないでね」
「善処する」
「善処するって……っ甘い!」
 音もなく後ろからやってきた土くれモンスターの気配を『殺気看破』で察知し、『お下がりくださいませ旦那様』で迎撃。流れるような動作。
「お見事、これなら思う存分魔法が撃てるよ」
「……それもいいけど、オレに当てないでね?」
「善処しよう」
「だーかーらー! ん、ドランの高度がまた低くなった?」
 遠目から見ても飛んでいるドランの位置は先ほどよりも低くなっていた。これをチャンスと見たヴァイスはすかさず『天のいかづち』をお見舞いする。
 同時にアゾートも『サンダーブラスト』にてドランを攻撃。落ちはしなかったもののドランの高度は更に低くなり、地上にいる契約者たちも格段と戦いやすくなる。
「あそこまで落ちれば、地上からの攻撃もそう苦労することはないはず」
「魔法もね」
「……もう終わらせてやらないと、ドランだってきっと、キツイんだ」
「そうだね。なら話している暇はないよ。全力で倒そう、助けるために」
「……ああ!」
 ヴァイスはアザートを守りながらも攻撃の手を休めない。ドランが早く、楽になるように。