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リアクション
stage3 早急に最深部を目指せ!
「これならすぐ解除できるな。ティー、頼む!」
「……わかりました」
源 鉄心(みなもと・てっしん)がティー・ティー(てぃー・てぃー)に仕掛けられた罠の解除を頼んだ。
鉄心達はミッツ・レアナンド達捜索隊を救出するために、≪三頭を持つ邪竜≫の心臓が眠る遺跡へと侵入していた。
外では≪アヴァス≫の攻撃、中は遺跡の罠、と捜索隊が危機が迫っている。
そのため、鉄心はスキルで、ティーとイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)は妖精のジュースで移動速度を強化して遺跡内を急いで進んでいた。
鉄心は銃型HC弐式で周囲に要救助者がいないことを確かめると、これまで進みながら記録してきた遺跡内の地図を確認していた。
すると、走り続けて息の上がったイコナが、鉄心の服を引っ張ってきた。
「ん、どうした。……疲れたか?」
「ちがっ――ま……まぁ、それもありますわ。
ですけど、その前にティーが……」
「ティー?」
鉄心から見て、ティーはいつも通り真面目に自分の役目を果たしていて、別に体調が悪いとかそういった感じには見えなかった。
「ティーがどうかしたか?」
「どうしたかと言われましても、ええっと……」
イコナは腕を組んだり、鉄心の横を左右に行き来したり、手足をばたつかせたりして、懸命に説明する言葉を探したが――
「よくわかりませんが、なんか冷たいんですわ!!」
――結局、うまい言葉が見つからなかった。
鉄心はもう一度、立ったまま罠の解除作業をしているティーに目をやる。
「……そういえば、あんまり今日は笑ってないな」
「で、ですの!」
もしかしたらティーは怒っているのかもしれないと、鉄心は思った。鉄心にはティーが怒ったと思わる原因に、一つ心当たりがあった。
鉄心も聞かされた話なので詳しくは知らなかったが、なんでも先日戦艦に乗り込んだ際に、イコナがティーに「最近、太ったんじゃないか」と言ったらしい。
それが原因で自分にはいつも通りだが、イコナには冷たい態度をとっているのかもしれない、と鉄心は思った。
「自業自得というか……」
「え? 今、何かいいましたの?」
「いや、なんでもない」
鉄心はどうすべきか考えた。
おそらく、イコナはあの時先に進んでいた鉄心に追いつきたい一心だったから、ティーへの言葉に悪気はなかっただろう。だから、頭ごなしにとりあえず謝れなんて言っても、納得してもらえず後々面倒になりそうだと思った。
そこで考えた結果――鉄心は何もしないことにした。
ティーもイコナのことをわかって許すはず。時間が解決してくれるのを待とう、という結論に達した。
しかし――
「ちょっと、ティーと話してきますわ!」
イコナはじっとしていられなかった。
ティーの元へと駆け出すイコナの背中を見て鉄心はため息を吐くと、銃型HC弐式に視線を落とした。
「あ、あのティー……」
「…………」
「……ティー」
いつもならすぐ返事をしてくれるティーが無視して罠の解除を続けている。
どうしたらいいかわからなくなったイコナは、声を震わせ、瞳を涙で潤ませる。
すると、ティーがため息を吐いてイコナの方に向き直った。
「……なにか用ですか、イコナちゃん?」
イコナの表情がパァと明るくなる。
「あ、あ、あのっ……」
ようやくティーが反応してくれた。でも、その後どうしようかなど考えていなかった。
何か話題はないか考え、考えて――
「そ、そうですわ! おやつを持ってきましたの!
ティーもどうですの?」
そう言ってイコナはお菓子を取り出した。
「桃とわたくしが特製ドリンクもありますの!」
イコナは両手に桃の入った容器と水筒を手に、ティーに見えるようにと背伸びして手を伸ばしていた。
その一生懸命な姿に、ティーは少し冷たくし過ぎたのかもしれないと思った。それに、このままだとイコナちゃんが鉄心に迷惑をかけるかもしれないと思うと、このままにしておけないとおもった。
飲食は控えたいけど、仲直りするためにも少しは食べてあげた方がいいのかもしれないと思った所で、ティーは先を急いでいた事を思い出した。
「あの、鉄心……」
「少しだけな。こっちのデータを確認するまでだ。
ちゃんとした休憩はミッツさんを見つけてからにしよう」
「……はい」
ティーは嬉しそうに笑って、イコナから桃と飲み物を少しだけ頂いた。
「どうですか、北都さん。近くに誰かいそうですかねぇ?」
レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)が共に遺跡を進む清泉 北都(いずみ・ほくと)に尋ねる。
「う〜ん。血の匂いが結構したからねぇ。
近くにいるはずだよ〜」
北都は【超感覚】で嗅覚を強化して、怪我をしているだろう捜索隊の居場所を探った。
途中、捜索隊とは別に、壁に飛び散った古い血痕を発見した。近くに罠はなく、何者かに殺されたといった感じだった。
――不安が胸をよぎる。
「皆さん! こっちにいました!」
リオン・ヴォルカン(りおん・う゛ぉるかん)が声を上げる。
北都とレティシアは顔を見合わせ、急いでリオンの元へ駆けつける。
「だめだ……た、たけてくれ……」
「もう少しです! いま助けにいきます!」
リオンが空飛ぶ箒シュヴァルベを手に持つ。
彼の眼下には、無数の針が待ち受ける底の深い落とし穴があった。その落とし穴の壁に、捜索隊員の一人がナイフを突き刺してどうにかねばっていた。
ナイフを握った手が震えている。それに合わせて刃が少しずつ壁から抜けていく。自らの死を感じた捜索隊員の表情が引き攣る。
リオンは箒に乗って落とし穴を降下する。
その時――
「!?」
捜索隊員のナイフが抜け、体が針に向かって落下を始めた。
リオンは体を箒に密着させ、空気抵抗を減らして速度を上げる。
長い黒髪が風を受けて背後に流れていく。リオンは必死に手を伸ばし、捜索隊員の手を掴もうとした。
針を目前にし、空気を、風を切り、そして――
「届けぇぇぇ!!」
手が捜索隊員の腕を掴んだ。
リオンは安堵する暇もなく、箒を逆方向に向ける。
引き上げるために掴んだ手が、引きちぎれそうなくらいの激痛が走る。
歯を食いしばって痛みに耐え、リオンは捜索隊員と一緒に北都の元へと戻ってきた。
転がるように石造りの地面に降り立ったリオンは、休む間もなく捜索隊員に【グレーターヒール】をかけ始めた。
するとミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)が心配そうに尋ねてきた。
「リオンさん。私がやりますから、少し休んでください」
「そんな心配してくださらなくても、大丈夫ですよ」
「でも……」
疲労から、大量の汗を流すリオンを、ミスティは不安そうな表情で見つめていた。
すると、少しずつ体力を取り戻してきた捜索隊員が口を開いた。
「あ……」
「なんですか?」
「あっちに……もう一人……」
そう口にした捜索隊員は手を動かそうとしたが、ナイフを握っていた手は硬直してうまく動かず、もう片方の手は壁を引っ掻いた時にできた傷でボロボロになり、うまく動かせなかった。
代わりに視線で場所を伝える。
「あっちですか……すいません。私はこの人を見ていますので、お二人はそちらをお願いできますか?」
「わかりました。そっちの人はあちきとミスティさんにお任せください。
行きますよ、ミスティさん」
「はい!」
レティシアとミスティは指示された方向へと向かっていった。
「リオンさん、大丈夫でしょうか?」
「腕を痛めていたみたいですけど、たぶん大丈夫だと思いますよ? 北都さんもいますしねぇ」
ミスティの質問にレティシアはニコニコ笑いながら答える。
それから、すぐにレティシア達は捜索隊員を発見した。
「あ、いましたねぇ。
ミスティさんは治療をお願いします。あちきはこの拘束を解きます」
捜索隊員は壁から飛び出した鉄の拘束具で腰を捕えられ、肩に毒の弓を受けていた。
ミスティは【歴戦の回復術】と【清浄化】を駆使して捜索隊員の傷を癒し、レティシアは【ピッキング】を使って拘束を解除する。
拘束が外れ、捜索隊員が地面に腰を下ろしたところで、レティシアはミッツ達の居場所を尋ねた。
すると捜索隊員はゆっくり説明してくれた。
「私達は何名かに別れて遺跡内に残された情報を記録していたんだ」
「残された情報?」
「ほら、そこに……」
捜索隊員が指さした壁を見る。そこには「人間が巨大な白い怪物に襲われている」壁画が描かれていた。
「……これはなんなのですか?」
「まだわからないが、おそらく遺跡内に入り込んだ者を迎撃するシステムの一種、ガーディアンじゃないだろうか」
「ガーディアン……」
「おーい!」
レティシアが神妙な面持ちで壁画の意味を考えていると、北都が走ってきた。
北都はレティシアの前にやってくると、肩で呼吸をしながら息を整えていた。
「どうかしましたか、北都さん」
「うん。……怪我人を連れて、早く脱出した方がいいんじゃないかなぁって。
ここ、何か出るみたいだから……」
「何かですか?
この壁画にあるガーディアンのことですかねぇ?」
「ガーディアン? 違うよぅ。もっと厄介で大量にいるんだよぉ」
「?」
レティシアは北都が遺跡の古代文字や他の壁画から読み取った内容について聞かされた。
そして、話し合った結果。
レティシア達は捜索隊員達を今すぐ遺跡から脱出させることにした……。
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