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鍵と少女とロックンロール

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鍵と少女とロックンロール

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【十二 消えた魔獣、消えた鍵】

「フレームリオーダー、撤退していきますっ!」
 支援トラックの運転席で、彩羽が各イコンパイロットに、驚くべき事実を口早に告げた。
 彼女がいうように、フレームリオーダーが次々に撤退行動へと移っていたのである。
 その上空では、急速離脱してゆくメガディエーターを、ウィンダム、ライネックス、クェイル?といった機影が追撃しようともせず、その空域でじっと見送っている。
『ねぇ……もしかしてだけど、ラーミラさんの魔導暗号鍵摘出が、成功したんじゃないかな』
 ライネックスのコックピットで、蛇々は朋美からの通信をぼんやりと聞いていた。
 確かに、その通りかも知れない――いや、恐らく間違いないだろう。
 でなければ、それまで苛烈な戦闘を繰り広げていたメガディエーターが、あれ程に鮮やかな撤退行動に出るなど、考え辛いのである。
『つまり……結果として、こっちの勝ち、という訳か』
 クェイル?から、クランの声がスピーカーに乗って送られてた。
 今の今までメガディエーターに圧倒されていた蛇々達は、とても勝ったという実感を持つことなど出来なかったが、それでもラーミラを守り抜き、魔導暗号鍵を摘出するという最終目的を果たしたのであれば、それは勝利といって差し支えないだろう。
 他のフレームリオーダー達も、これ以上の戦いは無益であるといわんばかりに、次々と撤退してゆく。

     * * *

「……戦術的撤退、って訳ね。良い退きっぷりだわ」
 グレイゴースト?のメインパイロットシート上で、ローザマリアが渇いた喉に軽い痛みを感じながらも、走り去ってゆくオクトケラトプスの巨大な後ろ姿を、じっと見つめていた。
 正直なところ、グレイゴースト?の耐久力はかなりギリギリのところまで追い詰められており、オクトケラトプスが退いてくれたのは、ローザマリアにとっても渡りに船ではあったのだ。
「これで、終わりなのかな……?」
 フィーグムンドの問いかけに、しかしローザマリアは、明確な答えを返してやることが出来ない。
 ラーミラの魔導暗号鍵を巡る戦いは、確かにこれで終結した。
 だが、フレームリオーダーの大半が生き残っているこの現状を、どう把握して良いのかまでは、ローザマリア自身にもよく分からなかった。

     * * *

 アシュラムのコックピット内で、北都は心底疲れ切った様子で、大きく姿勢を崩した。
 フォートスティンガーが、目の前から去っていった。その事実だけで、北都にとってはこの狭苦しいコックピットでさえ、天国であるかのように思われたのである。
「やっぱ……虫は苦手だな」
「あの、蠍は昆虫ではありませんが」
 クナイの冷静なツッコミなど、今の北都には聞こえていない。
 とにかくもう二度と、あの禍々しい姿だけは見たくないという思いで、メインコンソールを切ってしまう有様なのである。
 倒した訳ではない為、またどこかに出現する可能性は否めないのだが、今の北都はもう、それ以上は考えないことにした。

     * * *

『アイアンワームズ、撤退確認……どうやら、これで今回の仕事は終わりのようですね』
 枳首蛇の白竜が、スピーカー越しに淡々とした声を寄せてくる。
 だが和深は、未だ興奮冷めやらぬルーシッドをなだめるのに必死で、もうそれどころではなかった。
「ちょっと、逃げるってどういうことよ! まだ勝負はついてないんだから!」
「いや、だからもう、こっちも撤収命令が出てるんだって」
 まだもうしばらくは、和深はルーシッドの怒り心頭の大爆発を抑えるのに、苦労しなければならないようであった。
 一方、枳首蛇のコックピットでは、白竜が妙な表情で去り行くアイアンワームズの巨影を眺めていた。
「……どうした? 不満なのか?」
 羅儀が、からかうような調子で声を絡ませてきた。
 白竜は何ともいえない顔つきで、小さく肩を竦める。
「リベンジ、とはいいませんが、せめてもう少し、胸のすく思いをしたかったというのは、事実です」
「まぁ、そう落ち込むなって。生きてさえいりゃあ、またいつか会えるだろうさ」
 羅儀はそういって笑うが、白竜は別に落ち込んでいる訳ではない。
 ただ、フレームリオーダーが再び目の前に現れるのか、という点については、多少の疑問を抱いたのも事実ではあったが。

     * * *

 撤収命令を受けて、ランデブーポイントまで引き返してきたコア・ハーティオンと勇平のバルムングは、キュイジーヌのコックピットから降りてきた正子に呼びつけられ、慌てて歩を寄せて行った。
「ご苦労だったな。初めての対フレームリオーダー戦にしては、実に良い動きをしておったわ」
 思いがけず称賛を受けて、コア・ハーティオンと勇平は何となくこそばゆい気分であったが、すぐに表情を引き締めて、正子に問いかける。
「でも結局、あいつらは一体たりとも倒されずに姿を消した……これから、どこへ向かう気なんだろうな?」
「そのことだが」
 勇平の何気ないひとことに対し、正子は、その強面に渋面を浮かべて唇を僅かに歪めた。
「先程、天音から連絡があってな。どうやら魔導暗号鍵には、矢張りスペアキーなるものが存在するらしい」
 更に曰く、そのスペアキーはこのパラミタのどこかに隠されているらしいのだが、しかし少なくとも、シャンバラ国内ではないということだけは、間違いないようであった。
「全く、美津子の奴め……とんでもないものを抱えて雲隠れしおったな……」
「ん? どういうことだ?」
 コア・ハーティオンが思わず聞き返したが、正子はそれ以上は何も語らず、次々に引き返してくる他のイコンをランデブーポイントに誘導すべく、再びキュイジーヌのコックピットへと登って行った。

     * * *

 それから数日後の、天御柱学院内カフェテリアにて。
 佐那、庚、生駒の三人は、UBFでの活動内容を提出用のレポートにまとめ上げ、三人で互いに内容をレビューし合っていた。
 その折、庚が妙な話を持ち出した。
 曰く、あの決戦の日の夕刻、妙な電気信号が天沼矛の外壁経路を伝播し、途中で海上に霧散してしまったという情報が、校内のそこかしこに出回っているというのである。
「ちょっと待ってください……その電気信号って、まさか……」
 佐那がぎょっとした表情で、庚の渋い面を見つめた。
 庚は、正子からの又聞きという形で、エージェント・ギブソンが語っていた内容をこの場で披露する。
「魔導暗号鍵が摘出された時、電魔波動というのが放射されたらしい。その電魔波動に乗って、大気中に霧散したオブジェクティブ達の残核粒子が天沼矛に向かったそうだ」
 つまりオブジェクティブ達は皮肉にも、自らが倒されることで念願の地球効果を果たしたことになる。
 尤も、それら残核粒子の大半は、天沼矛の外壁上を伝播する中で霧散し、意味を為さないただの浮遊電波と化してしまった、ということらしいのだが。
「あ、そういえば……レティーシア・クロカス(れてぃーしあ・くろかす)さんが、今回協力してくれたコントラクター達を招いて、慰労パーティーを開きたいっていってたそうだよ。ふたりはどうする?」
 生駒が急に思い出したように、全くベクトルの異なる情報を口にした為、佐那と庚は一瞬、呆けた表情を浮かべてしまっていたのだが、ふたりとも断る理由が無い為、すぐに頷き返した。
「そりゃまぁ、折角誘ってくれるんなら、行っとかないとな」
「貴族さんの出してくれるお料理って、美味しいんでしょうねぇ〜」
 妙にうっとりと宙空を眺める佐那に、庚と生駒は揃って苦笑した。



『鍵と少女とロックンロール』 了

担当マスターより

▼担当マスター

革酎

▼マスターコメント

 当シナリオ担当の革酎です。
 このたびは、たくさんの素敵なアクションをお送り頂きまして、まことにありがとうございました。

 ご覧の通り、一年余りに亘って続いてきましたオブジェクティブのストーリーは、本シナリオを持ちまして終了となりました。
 お付き合い頂いた皆様方には、厚く御礼申し上げます。
 尚、フレームリオーダーは大半が生き残っておりますが、今後のシナリオに登場する予定は、今のところございません。
 あしからず、ご承知おき下さいませ。

 また、対フレームリオーダー戦以外で、トラックやドラゴネット、パワードスーツ等の、データ上はイコン扱いとなっているものに関しては、シナリオガイドにも少し言及してある通り、大きな破壊の余波を他に及ぼさないものであれば使用OKとしました。
 併せて、ご承知おき下さいませ。

 それでは皆様、ごきげんよう。