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第1章 海だ!

「きゃっはー!」
 夏、海、青い空。
 ハート・ビーチに健康的なビキニ姿の雲入 弥狐(くもいり・みこ)の声が響く。
「いくわよー!」
 少し際どいビキニを身に纏った西村 鈴(にしむら・りん)の弥狐に向かって投げたビーチボールが、青空に高く高く飛ぶ。
「ふふ……来て良かったわ」
 少し離れた砂浜で、そんな二人を見て微笑むワンピースの水着にカーディガンを羽織った奥山 沙夢(おくやま・さゆめ)

 ハート・ビーチは海水浴客で賑わっていた。
 ハート型の砂が見つかったり、やたら岩陰の多い『恋人のためのビーチ』として有名なこのビーチには、その名前に違わず、カップル率がとても高い。
 勿論、カップルだけでなく、雑貨屋『ウェザー』が企画する海水浴で来たり、友人同士だったり。
 たくさんの人々の笑顔が、ハート・ビーチに溢れていた。

「あははははっ、夏はやっぱり海だよね!」
「ええ、たまには泳ぐのも悪くないわね」
 ビーチボールで遊んだ後、海に飛び込む弥狐と鈴。
 沙夢は泳げないので砂浜で座ったままだが、二人の様子を眺めている彼女の顔は嬉しそうだ。
 す……と眼を瞑ってみる。
 瞼の裏に、照りつける眩しい太陽を感じる。
 焼ける浜辺の砂、海の香り。
 風が、様々な音を運んでくる。
 波の音。
 ざざーん。
 歓声。
「きゃー」「はははははっ」
 悲鳴。
「きゃぁあ!」「うわっ!」
 嬌声。
「あっ……んっ」「い、やぁ……ぁ」

「……ん?」
 首を傾げる。
「今、何か変な声が聞こえたような気がするけど……」
 そういえば、周囲も妙に騒がしいような気がする。
「ま、気のせいよね」
 にこりと笑って否定する。
 こんな素敵な夏の日に、青空の下で、何か起こるはずないじゃない。
「あー、楽しかったあ! さあ、次は定番の、海の家のかき氷よね!」
「海もいいけど、海の家で一杯ってのもいいわよね」
 一通り海で泳いだ弥狐と鈴が、ビーチに上がってきた。
 彼女たちの視線の先には、屋台。
 それを引いているのは、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)
「いらっしゃいませー!」
「ようこそであります!」
 屋台にはたくさんの人が集まっていた。
「焼きそばください!」
「焼きトウモロコシ3本!」
「ジュース2本お願いしまーす」
 客を捌きながら、コルセアは吹雪に声をかける。
「やったわね、今日の屋台は大成功じゃない」
「ここまで屋台を引いて来た甲斐がありました」
 笑顔を忘れず、時にオマケまでつけてくれる吹雪たちの屋台は大人気だった。
 定番メニューの他に、急遽用意したアイスやかき氷も好評だ。
 そこに、弥狐と鈴も走って行く。
「すいませーん、かき氷、イチゴくださいな!」
「生ビールある?」
「はーい、まいどありがとうございます!」
 海の家は、ますます繁盛していく。

「あ、あったあ!」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、手にしたものを高々と掲げる。
 ズームアップしていくと、それは小さな小さな砂粒。
 ただし、ハート型。
「ホントにあるんだね、ハート型の砂粒って……」
 コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が感心したようにそれを見上げる。
「この砂を見つけると、恋のおまじないになるんだって」
「恋?」
「あっ……」
 コハクの言葉に、思わず自分の口を押える美羽。
 しまった、内緒で探すつもりだったのに。
 そして、内緒でコハクに……
 顔に血が昇ってくるのが分かる。
 コハクはコハクで、不安そうな様子で美羽を見ていた。
 恋のおまじない……美羽は、一体誰におまじないをする気なんだろう。
 もしも、もしもそれが、自分だったら……
 そんな都合のいい想像をしてしまい、そんな自分を恥じるように首を振る。
「どうしたの?」
「う、ううん。……その、僕も手伝うよ」
 慌てた様子で砂浜にしゃがみ込むコハク。
「あ、うん、ありがと」
 美羽もしゃがみ込み、砂探しを再開する。
「あっ」
「あっ」
 砂浜を探っていた美羽の手と、コハクの手が重なる。
「ごめん……」
「う、ううん、全然!」
 思わずそっぽを向く二人。
 そんな二人の視界の先に入ってきたのは、とんでもないものだった……!