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【第二話】激闘! ツァンダ上空

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【第二話】激闘! ツァンダ上空

リアクション

 ノックしたのは先頭を行く羅儀だ。
「どうぞ」
 ほどなくして返ってくる妙齢の女性の声。それを待って羅儀はドアを開けた。入室する羅儀に対し、白竜はドアの外で外で待つ。いかにも軍人的な風貌のイリーナを刺激しないよう配慮してのことだ。それ以外ではニキータとタマーラ、そしてトマス隊の面々が入室する。
「こんにちは。身体の調子はどうだい?」
 病室に入った羅儀はベッドに横たわる女性――イリーナへと声をかけた。
「また、来てくれたのね……ありがとう。怪我の方は以前よりも良くなってきたわ、少しずつ……だけど」
 羅儀の姿を見て取り、イリーナは微笑んでみせるが、その笑みには力がない。横たわるイリーナはベッドを半分だけ上げて上半身を起こしており、今はベッドの上半分に寄りかかっている姿勢だ。
 持ってきた花束をベッドサイドにある花瓶に生けてやる羅儀を見つめていた後、ニキータはイリーナへと話しかけた。
「ニキータ・エリザロフ士官候補生です。よろしくね〜イリーナ中尉、女同士気楽に付き合ってくれると嬉しいわ」
 そう自己紹介してニコニコしているニキータであるが、どう見てもガタイと声の良いオカマさんである。
 イリーナへの自己紹介をニキータのすぐ近くで聞いていたタマーラはぼそりと呟く。
「……ずうずうしいオカマ」
 だが、ボソリと呟いた途端、その一言を聞きつけたニキータから頬ずり攻撃を受けるタマーラであった。
「冷たい天使ちゃんねっ!でもそういう所も愛らしいわ〜〜〜」
 タマーラへの頬ずり攻撃を堪能した後、ニキータはイリーナへと視線を移した。
 イリーナはプラチナブロンドの長い髪と白磁のような白い肌が印象的な女性だ。名前の通り、ロシア系なのだろう。
 相変わらず笑みには力がなかったが、ニキータとタマーラのやり取りを見て少しだけ笑顔になってくれたようだ。
「イリーナ・阿部よ。よろしくね、ニキータさん。それと、そちらの可愛いお嬢さんも」
 少しだけとはいえ笑顔になってくれたイリーナを見つめいてたニキータはふと、彼女が手にしていた写真に目を留めた。そこに映っているのはイリーナ本人と、彼女の夫と思しき若い男性、そして、彼女たちの子供と思しき少年だった。夫と子供は東洋系の顔立ち、特に日本人的な見た目をしていることや、イリーナのフルネームを考えれば、イリーナの結婚相手は日本人であろうことが伺える。
「あら、いい男。日本人かしら? もしかして旦那と息子さん?」
 何かを察し、そう問いかけるニキータに向け、イリーナは再び少しだけ笑みを浮かべると、小さく頷いた。
「ええ……」
 写真を見つめるイリーナの目は遠く、悲しげだ。しばし無言の時が続いた後、意を決して羅儀が口を開いた。
「少しだけ、いいかな」
 ゆっくりと写真から顔を上げ、自分へと目を向けたイリーナの目をじっと見つめながら、羅儀は笑顔で告げる。
「この前ここに来た裏椿や、今ここに来てるニキータ、そして後ろにいるトマス隊の面々は信頼できる連中だ。きっと、そう簡単に話せることじゃないと思うし、話すにしたって凄く辛いことだと思う。けど……力になれることがあればオレでも彼らにでも何でも言ってくれ」
 羅儀の真摯な言葉に、イリーナは柔らかく微笑んだ。その表情に警戒の色はない。
「ありがとう」
 一言、羅儀に礼を言うと、イリーナは大切そうに写真をベッドサイドに置いた。
 羅儀は何かを思い出したようにポケットから腕時計型携帯電話取り出すと、それをイリーナに差し出す。
「これは裏椿から。「いつでも何かあったら連絡してね」だそうだよ」
 もう一度礼を言ってイリーナは腕時計型携帯電話を受け取ると、それを写真と同じくベッドサイドに置いた。そして、羅儀の目を真っ直ぐに見返して呟く。
「そろそろ、話しておかないとね……『偽りの大敵事件』について、あなたたちに」
 羅儀の目を真っ直ぐに見つめながら呟いたイリーナはそこで一旦口をつぐむと、合わせたままの目を逸らさずに語りかける。
「今日は……それを聞きに来たんでしょう?」
 そう問いかけられ、羅儀は静かに頷き、そしてゆっくりと口を開く。
「ああ……俺達は知らなくちゃならない。『偽りの大敵事件』というものが何であるのか――そして、それが一連の事件にどんな形で関わっているのかを」
 迷いなく言い切った羅儀の決意を感じ取ったのか、イリーナは一呼吸置いてから問いかけた。
「理王さんと屍鬼乃さんにも言ったけれど、これを聞くには覚悟が必要――他ならぬ、あなたたち自身に、あなたたち自身の覚悟が。今まで信じていたものが砕け散り、まるで足元が崩れるような絶望を味わうことになろうと、それでも真実を知ろうとする覚悟が」
 そう前置きしたイリーナに、真っ先に答えたのはトマス隊の面々だった。
「自分たち自身の、今まで信じていたものが砕け散り、まるで足元が崩れるような絶望を味わうことになる……という過去の事実を知る覚悟、ですか。まあ、そういうことも長生きしていれば何度となく有ったわけですし、今度だって乗り越えられないことはないでしょう。よく言うように、天は乗り越えられない困難を人に与えない、と」
 最初に答えたのは子敬だ。それに続いてテノーリオも答える。
「今まで信じていたものが砕け散り、まるで足元が崩れるような絶望を味わうことになる…って、オレには大概『今』しかないからな。トマスや魯先生、ミカエラ……パートナーの事だけは別格だけど。それを知った上で、前進しなけりゃならないのが俺達の運命ならば、なんとかそいつを乗り越えるさ」
 二人が答えるのを待ってミカエラも答えた。
「私も二人と同じ。今までにも何度だってそういった危機をトマス隊は乗り越えてきた。だから、その真実と正面からぶつかる覚悟は私もできてる」
 各々が答え終えたトマス隊の三人は、隊長であるトマスをじっと見つめ、彼の答えを待つ。そして、隊員たちに見つめる中、トマスは満を持して口を開いた。
「トマス隊のみんなと同じく、僕にも覚悟はできてる――シャンバラ教導団の学生として、九校連の一員として、そして……パラミタに関わる者の一人として、この事件の真実を聞く覚悟が」
 トマス隊の全員が覚悟を伝え終えた後、イリーナはニキータとタマーラに目を向けた。
「もちろん。あたしも覚悟はあるわ」
「私も」
 ニキータにも覚悟を問うたイリーナは、最後に再び羅儀の目をじっと見つめ、他ならぬ彼自身にも確かめる。
 イリーナの瞳から目をそらさずにじっと見つめ返した後、羅儀は一度深く頷いた。そしてゆっくりと顔を上げた後、口を開く。
「覚悟なら既にしてある。君の力になる為、そして一連の事件を解決する為、『偽りの大敵事件』が何であるかを君から聞く――その為に俺はここに来た。俺はもちろん、外で警護にあたっている白竜にもその為の覚悟がある」
 羅儀がそう告げるのに対し、イリーナは思わず聞き返していた。
「……私の……力に……?」
 聞き返してきたイリーナに向けて頷いた後、羅儀は前回の戦闘で目の当たりにした光景を思い出す。
「ああ。そうだ。俺は前回の戦いで……敵の自爆行為に戦慄を覚えた。俺は彼らを――この戦いを挑んでくる者達をそこまで追いつめるものを取り除くべきと考えている。そして、君も追い詰められた者の一人だ。だから俺は君の力になりたい」
 その一言で羅儀の心情を理解したのか、イリーナはもう一度頷くと、羅儀からトマス隊の面々やニキータとタマーラへと視線を巡らせ、最後に羅儀のもとへと視線を戻し、そのまま彼の目をじっと見つめたまま、視線をそらさずに話し始めた。