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 魔王城、廊下。

「よし、何とか逃げられたぞ」
 甚五郎達から逃げたヒスミは城内を走り回っていた。
「というか捕まったらマジでヤバイよな。外に出てキスミと合流でも……ここどこだ?」
 ヒスミは走り疲れて少し立ち止まり、見慣れない周囲に戸惑う。
「と、とりあえず何とかしねぇと」
 捕まったら確実に痛い目に遭うと知っているヒスミは再び走り始めるも足はすっかり疲れているようでもつれ、前方に転んでしまった。
「っ痛! どこかで休もう。少しだけ」
 よろよろと立ち上がり、近くの部屋に入り込んだ。

「ヒスミの奴どこに行ったんだ」
 甚五郎は呆れながらも鼠一匹見落とさない鋭い眼光で周囲を見回っていた。効率を上げるため羽純と別れて捜している。

「……こういう事ばかり長けておるとは、嘆かわしいのぅ」
 羽純は未だ見つからぬヒスミにため息をついていた。

「……ヒスミさん、どこですか。勇者さんが来ますよ」
 外から戻って来たホリイもヒスミ捜しに加わっていた。

「勇者が来始めていますね。しかし、ヒスミが戻って来る様子がありませんが」
 ブリジットは街の様子を見ながら今の状況を冷静に考えていた。今、勇者が来ても倒すべき魔王が行方不明では締まりがないと。

 一方、ヒスミは
「こんな部屋があったのかぁ」
 入り込んだ部屋に声を上げていた。
 ヒスミの眼前に広がるのは、危険印の道具が保管されている場所だった。
「……使ってみるか。その隙に外に出れば」
 このまま逃げ回っていても必ず甚五郎達に捕獲されるのは目に見えているので何か手を打たなければと考えた。
「……何じゃこりゃ。こんな物あったか」
 すっかり逃げている事を忘れ、部屋の物を弄り始める。
「……押して下さいって言ってるな」
 幻聴でも聞こえるのかヒスミはそこら辺に落ちていたボタンを拾いためらう事無く押した。
「ん? 何も起きないぞ」
 何の異変も無い事につまらなそうにヒスミはボタンをそこら辺に放り、他の物を物色し始めた。

 その瞬間、周囲の空気が震え、激しい音を立てて弾け始めた。
「うぉっ! な、何が起きたんだ」
 ヒスミは突然襲った痛みに驚き、周囲を見回すも何も見当たらない。
 しかし、弾ける音はすさまじく周辺の道具を破壊し、壁にも傷をつける。危険物を置いているため破壊された道具のいくつかは爆発や溶け出したりなどの二次災害を起こしていた。
「わぁぁ」
 当然、ヒスミにもダメージを与える。あまりの事に部屋を飛び出してしまった。
 ヒスミは逃げる事で被害から離れる事が出来たが、逃げられず酷い目に遭った者がいた。

 それは
「……(これは)」
 魔王城となってしまった第七式だった。忍耐強い第七式でもさすがに我慢出来ず、立ち上がった。

 第七式が動き出すという事は、体内にいるヒスミや甚五郎達も巻き込むという事でもある。
「な、何だ揺れてるぞ」
 ヒスミは突然の揺れに立ってられなくなって床に座り込んだ。

「何だ!?」
 甚五郎は揺れに対して『歴戦の立ち回り』で対応し、速やかに脱出。
「何じゃ、また余計な事をしたんじゃなかろうか」
 羽純はヒスミが悪さをしたのだろうと考えるも『歴戦の立ち回り』を使い城を出た。
「ゆ、揺れますよ」
 ホリイは『歴戦の防御術』で身を守った。
「……これは」
 ブリジットは『ゴッドスピード』に速やかに城から脱出した。

「……何かあったみたいですね」
 朱鷺は荒れ果てた庭園でヒスミや甚五郎達が吐き出される様を見ていた。

「……」
 立ち上がった第七式は城内にいるホリイとヒスミを吐き出した。
 明らかにヒスミの行為に怒っていた。
「ホリイ、大丈夫か」
 甚五郎が飛び出て来たホリイの無事を確認した。
「大丈夫です」
 無傷のホリイは笑顔で答えた。
「ヒスミも無事なようじゃな」
 羽純は地面に座りながら第七式を見上げているヒスミを見ていた。捜す手間が省けたようだ。

「いてぇ〜。何で城が動くんだよ」
 ヒスミはお尻を撫でながら立ち上がった。

「もしかして」
 ホリイが第七式に訊ねるよりも先に
「我は魔王城也」
 第七式が答え、庭にいた朱鷺を見つけて肩に乗せた。
「……これでは城の中で戦闘をするわけにはいかないな」
 甚五郎はさすがに第七式の中で戦闘をする訳にはいかないと思った。なんせ戦闘の最後には被害甚大と思われる大イベントが待っているので。
「でも相手さんはこちらを目指しているんですよね」
 ホリイは城を目指している勇者達の事を思い出していた。
「外ですれば良かろう。広さもあるからのぅ」
 羽純は周囲の広さを確認しながら言った。
「それでおぬしはどうする?」
 甚五郎は第七式の肩に乗っている朱鷺に訊ねた。
「朱鷺はここにいます」
 朱鷺は八卦術について思考しながら甚五郎に答えた。
 この後、情報を仕入れに来た勇者軍にもしっかり戦闘はここでする事を伝えた。

「おしゃべりはここまでだ。せっかく来てくれるんだ。魔王軍らしく戦うとするか!!」
 甚五郎の合図で気合いを入れて勇者軍が来るのを待つだけとなった。

「甚五郎、コアをお願いします」
 ブリジットは自爆のためにコアを甚五郎に預けた。
「あぁ」
 甚五郎はしっかりとコアを預かった。
「自爆後、事が済むまで再生は始めない様にしておきますね」
 ブリジットはちらりと離れた所にいるヒスミの方を見ながら言った。羽純が『その身を蝕む妄執』で見せたものを実際にロズフェル兄弟に見せる事が大事だという事で彼らには内緒に進行している計画。
 各々出撃を始めた。

 街。

「で、どうするんだ?」
「なかなか見つからないね〜」
 キスミを捜索しているアスカとホープ。
 しかし、なかなかそれらしき人物が見つからないでいた。
「誰かに捕獲されたんじゃないか」
 ホープが周辺を確認しながらある可能性を口にした。

 その時、
「……アスカさん」
 同じようにキスミを捜していた薫が声をかけて来た。
 薫の後ろには孝高とピカもいた。
「ん、あっ。もしかして巻き込まれたの?」
 薫達に気付いたアスカが訊ねた。
「そうなのだ」
 薫はこくりとうなずいた。
「お互いに災難だったな」
 孝高が呆れながら言った。
「本当だよ〜」
 アスカも同じように困ったように言った。
「それでおまえ達は何をしてるんだ?」
 ここでホープが薫達に訊ねた。大方予想は出来るが。
「キスミさんを捜してるのだ。見つけて一緒に魔王討伐に行って二人揃ったところで懲らしめるつもりなのだ」
 薫が自分達の目的を話した。
「私と同じかも。早くこの世界から出るにはキッス君の仲間に入った方が早いと思って」
 アスカも自分達の目的を明らかにした。いつの間にかあだ名まで付けられているキスミ。
「しかし、いないのだ」
「ぴきゅ(なのだ)」
 薫とピカも収穫ゼロの状況を話した。

 ここで状況を知る人物が現れた。
「……今、別の所で修行をしているぞ」
 会話が耳に入って来た樹が間に入り、ブリジットの自爆を含んだ詳細を語った。
「修行で更正は無事に成功するか? これほどまでの事をした者がそんなにあっさりと」
 孝高は更正するとはどう考えても思えない。むしろ力を付けて厄介になるのではないかとさえ思う。
「してなければしてないでこれでまたスパーンでございますよ!」
 ジーナが伝説のハリセン片手に言った。
「……城にもう一人いるんだよね〜」
 アスカが城の方を見た。キスミをどうにかしてもまだヒスミがいる。
「あっちはあっちで何とかしてると思うよ。勇者軍がいれば魔王軍になった人もいるだろうし」
 ホープも同じように城を見ながら言った。
「もうそろそろ戻って来るだろうから待っていたらいい」
 樹はそう言ってジーナとコタローを連れてやるべき事をに戻った。やるべき事というのは、城突撃のための準備だ。いくらブリジットの自爆計画で終了となるとはいえ、そこに至るまでには戦闘があるので。

「……とりあえず、待ってみようかぁ」
「我も同意見なのだ」
 アスカと薫はキスミ達が戻って来るのを待つ事に決めた。
「……最後は自爆って、本当に何やってるんだあの双子は」
 ホープはしばらく終わりそうにない状況にため息をついた。何気に犯人の兄弟が双子という事で妙な罪悪感を感じる。自分が双子の弟だからだろう。
 目的が同じという事で五人はこのまま一緒に周辺でキスミ達を待つ事にした。

 ちなみに別れた樹達はキスミの武器を揃えるために舞花の店に立ち寄っていた。
「いらっしゃいませ」
 舞花が気持ちの良い挨拶で樹達を迎えた。
「キスミのための装備を見繕いに来た」
 樹は舞花に挨拶をした。
「なかなか、良い品が揃っているでございますね」
 ジーナは品揃えの豊富さに感心していた。
「いろいろあるらお」
 コタローはきょろりと様々な物が置いてある店内を見回している。
「キスミ様の装備ですか。それなら特別な物をお出ししますね」
 舞花は棚に並べていないとっておきの商品を出した。
「これはどうでしょうか。軽く使いやすくそれでいて切れ味抜群です」
 出て来たのは、立派な剣だった。装飾品は無く、素朴な鞘に入っていた。
「なかなかの良い品だが、棚には並べていなかった物を売って大丈夫なのか」
 樹は剣を抜いて品定め。
「これは城へ向かう勇者様のための特別ですから」
 舞花は笑顔で言った。剣はこの時のために用意していたのだから。
「……樹様、これにしましょう」
 ジーナも剣の良さを確認し、樹を促した。
「そうだな。これで頼む」
 樹は、即決め、剣を舞花に渡した。
「はい。ありがとうございます」
 そう言い、勘定した。値段はかなりの格安だった。これもまた勇者のためにと設定した値段だった。
「しかし、互いに巻き込まれて大変だな」
 勘定を終えた剣を手に樹は巻き込まれた事について言った。
「そうですね。でも少しすれば終わりますからね」
 舞花はうなずくも何とか終わるだろうとは思っていた。
「今頃、勇者の修行がどうなっているかは知らんが」
「そうでございますね」
 樹とジーナはキスミが何度も魂が抜けながらも頑張らされている修行の様子を想像していた。おそらく、想像通りだろうとも思いながら。
「それではな」
 樹はジーナと抱き付くコタローと共に店を出た。
「ありがとうございました。またのお越しを」
 舞花は丁寧に挨拶をして見送った。

 この後、近くの食堂でジーナの大好きな甘い物を食べてから樹達は、無事キスミ達と合流した。