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大迷惑な冒険はいかが?

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「……またあの双子に巻き込まれたか」
 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は賑やかな通りを確認するなり、状況把握を瞬時に済ませた。すっかり双子に巻き込まれ慣れしてしまっている。迷惑である事には変わりないが。
「というか俺の役何なんだ。元魔王軍だったが改心して勇者の仲間になった鎧の魔物なんて長すぎだろ」
 よくある変身ヒーロー風の魔物となってしまったエヴァルトは自分の役柄に多少ぼやく。
「……とっとと魔王とやらを倒して帰らんとな」
 ぼやきはすぐに終わり、やるべき事に心を戻す。そのやるべき事は一つだけというかあのロズフェル兄弟を相手にするにはそれしかない。多少痛い目に遭わす事。
「俺の他にも動いている奴もいるだろな。そいつらと協力して手早く終わらせるか」
 エヴァルトは他の仲間もいるだろうと考えながら動き始めた。

「……たまたま三人でイルミンスールの図書室に来ていたら……何でこんな事に」
 武闘家になった林田 樹(はやしだ・いつき)は様変わりした様子を確認しながら行った。
「ねーたん、じにゃ、こたすごいれす!」
 林田 コタロー(はやしだ・こたろう)は、仮想世界に来た影響で愛らしいナース服の女の子に変身していた。
「こたちゃん、可愛いナースちゃんですね」
 魔法使いのジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)は、コタローの変わりぶりに驚きつつ楽しそうに自分の姿を確認しているコタローを見ていた。
「……すごいな。あちらこちらで悪戯をしている話は聞いていたが、まさか巻き込まれるとはな」
 樹もコタローの様子を見た。イルミンスールに出入りしてるためロズフェル兄弟については話を聞いた事があるが、まさか二人の悪戯に巻き込まれるとは予想外であった。
「どうします? 樹様」
 ジーナがこれからの事を訊ねた。
「とっ捕まえてさっさとこの世界を終わらせてやる」
 早く帰りたくてたまらない樹の使命はただ一つ。
「それじゃ、行きますか。出来れば他のみんなと協力する方がいいかもしれません」
 ジーナは他のみんなも動き出しているだろうと予想。
「そうだな。とりあえず行くか」
 樹は動き始めた。
「こたもいくれす」
 コタローはそう言って樹に抱き付いた。コタローの移動時に多く見られる事である。
 コタローの『捜索』を使って三人はキスミ捜しを始めた。

 魔王城、廊下。

「またあの兄弟に巻き込まれたみたいだな」
 夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)は、城らしき様子を見回しながら苦笑していた。
「はぁ、本当にどうしようも無くなる前に気付いて欲しいのだがのぅ」
 草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)は、犯人であるロズフェル兄弟にため息をついていた。
「すごい事になりましたね」
 ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)も周囲を興味深そうに見ていた。
「……これからどうしますか」
 ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)がみんなに訊ねた。
「まずは城の主の魔王に説明を聞きに行くか」
 甚五郎が答えた。聞くのは事情だけではないが。
「しかし、このような事ばかりし続けてはいずれ取り返しがつかない事が起ころうに」
 ロズフェル兄弟に自分を重ねている羽純は呆れを通り越して二人の行く末を心配していた。力の使い道も解らず、力に振り回されて破壊をし続けた末、封印されていた自分と。
「……それはそうだが、あの二人が考えを改めるかどうか。性格矯正は難しいものだ」
 甚五郎も羽純の心配はよく分かるが、あの兄弟の性格を考えるとどうにも更正成功のビジョンが見えない。
「……悪い人じゃないですけどね」
 ホリイはロズフェル兄弟にフォローを入れた。
 何やかんや言いながらも四人はとりあえず事情を聞くために玉座の間を目指した。

 魔王城、開かずの間。

「……ふむ、なかなか」
 東 朱鷺(あずま・とき)は黙々と八卦術の研究に没頭していた。
 魔王城の開かずの間で引きこもっている八卦術の研究者である朱鷺を知る者は誰もいない。
「……これならば」
 黙々と研究を続ける。おそらく自身が魔王城にいる事さえも気付いていない。
「……それから」
 研究をしながら合間に運ばれる食事を片手間に済ませ、とにかく八卦術に熱心であった。

 城下町を見渡せる場所。

「……(我は魔王城也)」
 一番目立つ場所にいて一番目立たない魔王城となった第七式・シュバルツヴァルド(まーくずぃーべん・しゅばるつう゛ぁるど)は、自分の体内にいる人に迷惑が掛からないように心の中でつぶやいていた。
「……(もう少し素材を集めなければ)」
 第七式は八卦術の研究素材で少なくなっている物を頭の中でリストアップし、準備をした。ちなみに先ほど朱鷺が食べた食事も第七式が用意した物である。
「……」
 そして、自分のするべき事が終われば、静かに待機。朱鷺の八卦術の研究が滞りなく進んでいる事を見守っていた。

 魔王城、玉座の間。

「またやってくれたのぅ」
 ヒスミがいる場所に辿り着くなり羽純は、厳しい言葉を投げかけた。
「げっ」
 玉座の間で何やら作業をしていたヒスミはやって来た甚五郎達、特に羽純を見て表情が凍った。
「何をしているんですか?」
 ホリイはいろんな物が散らばった部屋を見渡しながら訊ねた。
「……大砲弾の作製」
 ヒスミは元気の無い声で答えた。この先何が待っているのか予想出来ているようだ。
「またろくでもない物を」
 甚五郎はすっかり呆れていた。
「さて詳しい事を聞かせて貰おうかのぅ。この遊びの終了条件の勇者が魔王を倒すという事じゃが倒すとはどういう事か、どこまでか」
 羽純は、終了条件について問いただし始めた。変わらず厳しい口調で。
「……どこまでって」
 思いもしなかった問いかけにヒスミは困り顔になる。
「考えてなかったのか」
「……そんな事は」
 羽純のさらなる追求に言葉を濁す。
「トランプやじゃんけんで勝てばよいのか? 一発殴り倒せばよいのか? それとも……」
 羽純は、様々な例えを上げつつ、声の調子に少しずつ恐怖を混ぜていく。
「……?」
 言葉を止めた羽純に首を傾げるヒスミ。少しだけ嫌な予感。
「死ぬまでかのぅ」
 羽純は、静かな口調と射殺すほどの瞳の輝きで言葉を締めた。
「……!!!!」
 ヒスミは言葉無く飛び上がった。羽純の目が本気だったからだ。
「……羽純の奴」
 甚五郎は出番無く羽純の様子を眺めていた。
「……気絶して戦闘不能か降参を宣言するまでかな」
 ヒスミは怯えたように小さな声で終了条件を言った。
「かな?」
 羽純は語尾の疑問形を凄味をきかせて聞き返す。
「間違いないです!!」
 ヒスミは背筋を伸ばして言い直した。
「……かなり怖がっていますね」
 二人のやり取りを見ているホリイは感想を洩らした。
「……話も一段落した所でこの城の内部について教えてくれ。罠はあるのか? 街の外を見られる水晶玉のような物は無いのか?」
 甚五郎が城内部について聞いた。
「……罠までは作る時間が無くて出来なかった。街の外を見る物は……」
 罠について話した後、ヒスミはその辺に転がっている水晶玉を拾い上げ、頭上に放り投げた。
 すると水晶玉は宙に浮き、部屋全体に街の様々な場所の様子を映し出した。
「で、見るのをやめる時は」
 そう言うなりヒスミは一定のリズムで手拍子を始めた。その手拍子が終わるなり水晶玉は落ちてヒスミの手の中に収まった。
「なるほど」
 甚五郎はしっかりと覚えて水晶玉をヒスミから貰い、宙へ放り投げ街の様子を確認した。
「……なかなか賑やかだな。それぞれ動き出しているな」
 街の様子を確認した甚五郎が感想を一つ口にした。街の住人の中にはキスミ捜索をしていると思われる人達の姿もあった。
「あと、これが城内部の地図」
 ヒスミは懐から城内部の地図を取り出し、ホリイに手渡した。
「はい。たくさん部屋があるんですね」
 受け取ったホリイは地図を確認した。
「ふむ、予想以上に巻き込まれた人が多いですね」
 ブリジットも映し出された街の様子を確認していた。
「……本格的な説教は他の者がやってくれるであろう。わらわは前座を務めるとしようかのぅ」
 羽純はゆっくりとヒスミの前に立ち、口元に笑みを浮かべた。
「えっ?」
 羽純の気迫にやられてヒスミは逃げたくても逃げる事が出来なかった。
「そなたも知っておると思うが、よくあるお伽噺や伝記では大体魔王は死ぬものじゃ」
 そう言うなり羽純は、『その身を蝕む妄執』を使い、ヒスミにその凄惨な様子を見せた。
「……」
 見終わったヒスミの表情は真っ青になっていた。心にしっかりとダメージが届いたようだ。
「……楽しんでおるのも結構じゃがこれが最後の楽しみかものぅ」
 羽純は含みのある物言いをしながらヒスミを見た。
「……」
 言葉を失ったままのヒスミ。
「よく考えることじゃ。ただ、負けだけは宣言させぬからのぅ」
 羽純はしっかりと釘を刺した。ここで負けを宣言させては、ロズフェル兄弟更正にはまだまだ足りないからだ。
「……は、はい」
 ヒスミは小さく返事をした。それと共に恐怖からある計画が頭の端からわき出していた。
「大丈夫ですね。二人共頭のいい子ですから分かってくれるはずです」
 ホリイは羽純のやり取りを見守りながら優しい事を言った。
「だといいですが。積み重ねていくしかありませんね」
 ブリジットはヒスミを見ながらぽつり。とても現実的な意見である。今回も説教された憂さ晴らしで起こし、以前にも何度も騒ぎを起こしている。つまり一度の説教では効かないというより慣れているのだ。それなら何度でもするしかない。
 それはともかく、甚五郎達は魔王軍として迎え撃つための話し合いをした。

「甚五郎、ワタシ城と街を見て回って来てもいいですか?」
 話し合いが終わるとホリイは地図片手に甚五郎に訊ねた。城の中に興味津々なのだ。
「あぁ、気を付けて行けよ。ついでに外にいる勇者側の奴らにも内部とわしらの計画も話しておいてくれ」
 甚五郎はあっさりと言った。ヒスミについては自分や羽純、ブリジットがいるので問題無い。それよりも怪我人を出さないようにする事の方が大事だ。
「はい。分かりました。では、行って来ます」
 ホリイは元気良く旅立った。

 魔王城、廊下。

「……ん〜、ここってどこだろう? お城みたいだけど」
 天野 木枯(あまの・こがらし)は見慣れない廊下の様子に首を傾げた。部屋数が多く、雰囲気からどこかの城である事は分かるが、それ以上は不明だ。
「そうですね。私達イルミンスールの図書室にいたはずですけど」
 天野 稲穂(あまの・いなほ)も木枯と同じように首を傾げながら周囲を見回した。
「何かの本の世界に入ったのかなぁ」
 木枯は思いつく事を口にするが確証は無い。
「とりあえず、歩き回ってみましょう。何か分かるかもしれません」
 稲穂は状況確認のために情報収集を提案。
「そうだねぇ。人に会ったら聞いてみようか」
 木枯は賛成し、早速探検が始まった。
 ただ、見知らぬ場所という事で何が起きるか分からないので稲穂の『殺気看破』で周囲を警戒しながら進んだ。二人共『方向感覚』を持っているので無駄に通った道を行ったり来たりする事はなかった。