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第二章 迷惑のんびりの風景


 総合雑貨店。

「いらっしゃいませ」
 舞花が元気良く迎えた。
 入って来たのは、自警団のルファンとイリア。ウォーレンは別行動をしている。
「自警団じゃが魔王軍の妨害は無いかのぅ」
 ルファンは、自警団らしく仕事を務める。
「今の所は大丈夫ですよ。お店、大丈夫ですか?」
 舞花はルファンに答えた後、同じ商人でもあるイリアに訊ねた。
「大丈夫、大丈夫。なかなか貴重な商品があるね」
 イリアは即答しつつ、店内の品揃えに感心していた。
「はい。探索や交易で手に入れたんです。少しでも皆さんのサポートが出来ればと」
 舞花はイリアに答えた。自分が今出来る事で協力する事がこの世界脱出のためには必要だと認識しているのだ。

「それは頼もしいのぅ。ところでギャドルを知らぬか?」
 ルファンはまだ行方の分からないギャドルについて訊ねた。
「……見かけていません。もし見かけたら一言伝えておきますね」
 舞花は申し訳なさそうに答えた。
「そうしてくれるとありがたい」
 ルファンは舞花の助けに礼を言った。
「じゃ、何かあったら自警団まで知らせてね。ダーリン、次行こう」
 確認終えたルファンとイリアは舞花と別れ、見回りを続けた。時々魔王軍と遭遇したりしたが、蹴散らして仕事を遂行した。何とか無事に仕事終え教会に向かった。

 街。

「せっかくの旅人風を使わない手は無いよな」
 ルファン達と別れて見回りをしていたウォーレンは順調に仕事をこなしていたが、ふと旅芸人風の見た目を利用して活動する事を思いついた。
「さて」
 早速、ウォーレンは踊りや歌などの一芸の披露を始めた。呼び込みをしていないのにどんどん人が集まっていた。

「賑やかでまさに城下町ですね」
 アンドロマリウスは店先からウォーレンの様子を楽しそうに眺めていた。すっかり楽しんでいる。
「……のんびりでいい」
 スウェルも商売をしながらこの世界の空気を楽しんでいた。

 そんな時、
 モンスターが店を訪れ、楽しい空気を台無しにし始めた。
「ちょ、か弱いに町人になんて事を〜よよよ」
 アンドロマリウスは悲しげに叫びながらそっと足を出してモンスターを引っ掛けて倒す。
「あぁ、商品が今日のご飯が、ただのか弱い町人なのに」
 スウェルは地面にばらまかれた道具を拾い集めつつ『しびれ粉』を撒いた。
 相手はしびれて動きが鈍る。
「誰か助けて下さい! 魔王軍が妹を」
 アンドロマリウスが助けを呼ぶ。か弱い町人らしく。
「魔王軍!?」
 近くにいたウォーレンがすぐさま反応し、駆けつけた。
 そして、獣槍レヴァ・クロディルでしびれているモンスターをあっという間に片付ける。
「もう、大丈夫だぜ」
 街を守る自警団らしく町人を守るウォーレン。
 危機を感じたモンスター達は逃げ出していくが、無駄な行為となる。
「逃がさねぇぜ」
 ウォーレンが素早く『雷術』で消し炭にして全滅させた。槍だけではなく魔術も使う臨機応変型の自警団員である。

 モンスター全滅後、
「ありがとうございます、自警団さん。スウェル、大丈夫ですか」
 アンドロマリウスはウォーレンに礼を言い、兄らしくスウェルの無事を確認。
「……大丈夫」
 スウェルはこくりとうなずいて無事を教える。
「そうか。しかし、兄妹で道具屋とは大変だな」
 ウォーレンはスウェルの無事を確認後、しっかり自警団設定を演じる。
「いえ、とても楽しいですよ。町の人はみんないい人ばかりですから」
 にっこりとアンドロマリウスは健気に兄妹で頑張る町人を演じる。
「助けてくれたお礼、どうぞ」
 スウェルはお礼にと果物をウォーレンに渡した。
「おう」
 ウォーレンは受け取るなり一かじり。
「自警団さん、勇者さんは見つかりましたか」
 アンドロマリウスは今の状況を訊ねる。アンドロマリウスが言う勇者とはキスミの事である。
「いや、まだみてぇだ。なぁ、ギャドルを知らねぇか?」
 ウォーレンはしっかりとアンドロマリウスの言外の言葉を察して答え、ついでに未だ所在の分からないギャドルについて訊ねた。
「……知らない」
 スウェルが答えた。
「……そうか。それじゃ、まぁお互い楽しもうぜ」
 ウォーレンはアンドロマリウスとスウェルと別れ、自警団としての活動を再開した。

「……酷い有様ね。聞き込みを」
 オデットは街で悪戯をしまくる魔王軍達をすり抜け、近くの店に聞き込みに訪れた。
 その店とは、エースとエオリアの花屋だった。

 花屋。

「ありがとうございました」
 エオリアは花を買って行った女性客を見送った。エースは花の世話中である。
「いらっしゃいませ。素敵な花はどうですか」
 エオリアは女性客と入れ違いに来たオデットに声をかけた。
「……あの。あ、あなた達は城の専属庭師」
 オデットは街の様子を訊ねようとした時、エオリアの顔を見て驚いた。
 それはエオリアも同じだった。
「……姫ですよね。魔王軍に追い出されたはずでは」
 実はエースとエオリアは、元城の専属庭師だったのだ。それ故、王族であるオデットとは顔見知りという事になっている。
「……姫? あぁ、これはオデット姫。ご無事で何よりです」
 花とのお喋りをいつの間にか終えていたエースが会話に加わり、薔薇を一輪オデットに差し出した。
「あ、ありがとう。魔王軍に追い出されてからずっとこの街の事が気がかりだったの。それで何とか戻って来る事が出来たのだけど」
 薔薇を受け取ったオデットは身の上を語った。周囲に知られないように音量を落として。
「そうですか」
「踊り子にまで身をやつして」
 エオリアとエースも小さな声でそれぞれうなずいた。
「えぇ、この街の民に比べれば大した事は無いわ。それより、街はどうなの?」
 オデットは改めて街の様子を訊ねた。姫を見事に演じている。
「大変な状況です。今は自警団の方々が頑張ってくれているのですが、なかなか。やはり、城にいる魔王を何とかしない限りは」
 エオリアが小さな声で説明した。
「そう」
 オデットは困ったようにうなずいた。
「今は自警団の他にも勇者達も集まっていると言う話だから大丈夫さ」
 エースが励まそうと希望ある動きが起きている事を付け加えた。
「……店に来た勇者側の人達には抜け道や大雑把な警備状況を記した城の地図を渡してありますからきっと大丈夫ですよ。もし、城に行くという事なら僕達も協力しますよ」
 エオリアは花屋だけではなくきっちりと勇者軍のサポートもする。城専属庭師なので城についても知っているのだ。警備状況はエースが植物から手に入れた情報である。
「ちょうど、城にいる植物達が心配で何とか様子を見に行きたいと思っていたところだしね」
 魔王軍が城に住んでから城専属庭師は廃業になってしまったためエースとしては魔王退治よりも庭手入れが気になって仕方が無い。花を愛する心のない魔王軍に酷い扱いを受けていないか心配なのだ。
「ありがとう。それでその自警団に会いたいのだけど」
 オデットは二人に礼を言い、自警団の居場所について聞いた。
「まだ見回りの最中だと思いますので街を歩いていればどこかで会えると思いますよ」
 エオリアは先ほどやって来たルファンとイリアを思い出していた。
「ありがとう。自警団に会った後、またここに来るから」
 オデットはエオリアに礼を言ってから自警団に会うべく急いだ。
「エース、僕達も……」
 オデットを見送った後、エオリアは自分達もオデットに協力するための準備をしようと声をかけるもすぐに呆れてしまった。
「ほんの少しの間だけ辛抱しておくれ」
 エースは店内にいる花達に出発前の挨拶をしていたのだ。おそらく店内全ての花に話しかけるまで終わらない。
「当分、無理ですね」
 エオリアは一人さっさと城へ向かう準備を始めた。