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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 5

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 5

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第6章 ケルツェドルフ村…調査 Part3

「エリザベートちゃんが言うには村と森、手分けして情報を集めるってことだったよね。どっちにする?エース」
 早く事件を解決して、キャンプファイヤーとかするんだい!と意気込むクマラが言う。
「俺としては、両方…といきたいところだけど。時間的に厳しいよな」
「セイニィちゃんのことも心配だし、早く見つけてあげたいからね。お昼ご飯までに、出来るだけ情報を集めよう!」
「そこのお嬢さん。村でいなくなった人たちについて、教えてもらえないかな?」
 エースは通りがかった村娘を呼び止め、花を1輪渡す。
「民家で若い奥さんとかが、何時間経っても戻ってこないという話を聞きましたが」
「それは心配だね…。その人たちの年齢や性別、身体的特徴などが分かれば教えてもらいたいんだけど」
「あの、なぜそのようなことを…?」
「魔法学校の校長が、今回の事件の依頼を受けたからね。俺たちは、村の依頼で来たんだよ」
「そうでしたか…。行方不明の方は、皆若いひとばかりです。10代から…30未満の方々のようです。若い女の人だけでなく…男の人もいなくなっていますし、体系などもあまり関係ないみたいなんです…」
 女はもらった花を見つめながら、怯えたような口調で言う。
「きっと、次は私かもれません……っ」
「事件が解決するまで、なるべく家から出ない方がいいね。…大丈夫。いなくなった人たちは、きっと俺たちが見つけてあげるから」
「―…はい」
 彼女は黒い瞳に涙を浮かべて頷いた。
「私も聞き込みしなきゃ…っ」
 これだけ騒ぎが広がっているなら、森に近づく者もいないだろうと、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は小さな子供に話しかける。
「ねぇ、森の様子が変だなって思ったことない?」
「んー…。おかーさんとおとーさんが、あの辺は行っちゃいけないって言ってるからわかんなーい」
「あの辺ってどの辺り?」
「あっちだよー」
 子供は月夜たちが魔法学校からここへ向かった道ではなく、誰も立ち入らなそうな道を指差した。
「川のほうも1人で行っちゃいけないって言われるよー」
「―…川のところに、何かあるの?」
「うーん、わかんないよー。あーでもね、おじいちゃんとかが、よくないものがいるって言ってたかなー?」
「そのお爺さんは。よくないものについて話してくれた?」
「だーれも見たことがないから、ただのそーぞうだと思うんだけどね。…なんだか忘れちゃったーっ」
 昔聞いた話を思い出せず、子供はふるふるとかぶりを振った。
「本当に何も思い出せないのか?」
 この子供が知っていることが、村に伝わる伝承のことなのだろうかと玉藻 前(たまもの・まえ)が聞く。
「んーとね…。えっとぉー。あ、そうだ!生き物を食べちゃう、こわーいものなんだって!」
「生物であれば、何でも食べるということか?」
「なんかね、しんせんなおにくが大好きなんだって」
「ふむ…。(幼い者ならば、もっと恐怖心があってもよさそうなのだが…。誰も見たことがないようだからな、信じておらぬのだろうな)」
 子供が遅くまで遊ばないように、早く帰るための伝承とも思える。
 しかし、何人もいなくなったことと、それが関連しているのであれば、伝承通りの怪物が存在している可能性もあるだろう。
「そ、そうなの…。じゃあ、最近何も言わないのに、帰ってこない人たちが同じ物を持ってたりしない?例えば、お守りとかね」
「ううん。ボクのおかーさんとぉー、近所の小太りのおにーちゃんが、おなじ物をもってるところ見たことないよー?」
「お母さんが帰って来ないの?」
「やそうつみに行ったまま戻ってこないんだよねー。朝ごはん前までに、戻ってくるーって言ってたのにー!!ボクおなかすいちゃったよぅー」
「早く戻ってくるとよいね…」
「うん!おとーさんがしんぱいするから、かえるねー」
 ぶんぶんと手を振り、父親が待つ家へ駆けていく。
「あの子の母親、魔性に捕まってなければいいんだけど…」
「依頼があってから、2日も経っていないのだろう?ならば、まだ生存の可能性はあるやもしぬな」
「そうだといいね」
「―…」
 確かにまだ希望はあるが、何のために生存可能性があるかは、月夜には黙っておいた。
 それを知れば月夜のことだ、情報交換を行わないうちに、森の中へ突っ走って行ってしまうだろう。
「うーっ。ちょっと暑い…ジュースを買っていこう、支払いは刀真から勝手に借りたお財布で〜」
「…我は熱い茶を貰おう、こういう時こそ熱い物を飲んで感じる暑さを和らげるのだよ」
 パートナーから拝借した財布からコインを出し、自販機で飲み物を買う。
「うん、冷たくて美味しい!」
「さて、汗もかいたし後で一緒に風呂へ入るか、月夜?」
「…玉ちゃんとお風呂?良いよ〜、背中を流してあげるね」
 のんびりと話している一方で、パートナーの樹月 刀真(きづき・とうま)は…。
「月夜が俺の財布で買い物をしている!?」
 コテージのモニターに、ばっちり映っている2人を見る。
 エースがつけている小型カメラのおかげで、犯行の様子がしっかりと見えるのだ。
「―…げっ、ホントに財布がない!またかよ!」
 荷物の中身を全部出してみるが、自分の財布が見当たらない。
「…そして、あいつ等風呂とか言ってるし、後で覗くぞ、カメラで撮るぞコラ」
「変態行動は許しません〜!!」
「うげっ!?」
 刀真の言葉が運悪くエリザベートの耳に届き、チョークが額にヒットする。
「どうして俺ばかり、こんな目に…っ。ちくしょうー…」
 ひりひりと痛む額を擦り、涙目になった。
「またおかしなことを言ったら、カメラとりあげちゃいますよぉ〜」
「それだけは勘弁してくれ」
 他の生徒の授業風景が撮れなくなってしまう!と思い、腕の中でギュウッと抱きかかえる。
「あぁそうだ。校長…。1つの魔性が憑くことで、狼の群れのような複数を操ることは可能なのかな?」
「器は1つですがぁ〜。呪によって複数を操ることはありますぅ〜」
「へぇー…。それも厄介そうだな」
 後でパートナーたちにも教えてやろうとノートに書いた。



「(ふーむ…。合宿へと参加したはいいが、実戦にまだまだ知識が足りん上に技量も足りん)」
 それは徐々に経験を積んでゆけば問題なさそうだが、アルマンデル・グリモワール(あるまんでる・ぐりもわーる)の本当の悩みは別にある。
 座学の時のようにレイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)の中にいる者が、いつ現れるか分からず、彼女から目を離せない。
 対抗する手段を持たないアルマンデルは、ただ見守るしかない。
 今回の合宿は今後に役立てるため、知識を身につけようと参加している。
 だがもう1つの顔が出てきてしまっては、レイナはノートすら満足に取れず、代わりにアルマンデルがこまめに書き込んでいる。
 そのレイナの様子は、今のところ身体を乗っ取られる予兆もなく、大人しくモニターを眺めていた。
 しかし授業開始の時から、一言もパートナーに話しかけられずにいる。
 もう一つの存在の仕業とはいえ、何度も彼女に口汚く罵声を浴びせたり、刺しかけたりして酷いことをしてしまった。
 レイナはそのことをまだ気に病み、話しかけづらいのだ。
「(―…これ以上、私が…いえ…あの子がまた周りに何かしてしまう前に何とかしないと…。ただ…その前に…、いい加減…認めないとダメですよね…)」
 現実に存在してしまっているのだから、目を背けても何も変わらず、否定しても“存在させてしまった”事実も変わらない。
 自分が魔道具を扱えないのは内側に“あの子”を抱えているからだ。
 それも自分自身に問題があるからだと、“あの子”が告げたのだ。
「(……ならばそれを如何にするか…ですよね。今回はせっかくの合宿ですし…。魔道具が扱えないまでも見て学ぶことは多くありますし…『あの子』との接し方を考えながら…学ぶとしましょう…)」
 彼女を生み出してしまったのは、レイナにも責任がある。
 無闇に対抗しようと考えず、向き合い方を学べばよいかと考えた。
「(…ですが…あの子から私に対して何か伝えるのは前回前々回の授業で身に染みましたが…。私からあの子へはどうやって接すればいいのでしょう…?」
 内側に閉じ込められてしまった時、表へ戻ることも出来ず、ただ泣き喚くことだけしか出来なかった。
「(……ふむ…もし仮に…あの子を魔性と仮定した場合は…。奥に潜んでなかなか姿を現さないようなタイプとなるのでしょうか…?…その場合どのように接するとよいのか…。折角ですし講師の方に聞いて見ましょうか…)」
 レイナは静かに手を挙げ、ラスコットに質問してみる。
「あ…、あの……。人間などの生物の奥に潜んでいて…、なかなか姿を現さないような…、魔性はいるのでしょうか…」
「本体の器の持ち主が気づかないまま、憑依していて時々本性を現す者がいるかってことかな?」
「―……え、えっと…。本人が知らないうちに、もう1つの人格が生まれてしまった場合などです…」
「それが魔性化するかどうかってこと?」
「は…はい…」
「よっぽど強い意志を持っていないと、そうはならないね。平たく言えば、魂が2つあるような感じになってしまうし」
「魂が……増えるわけではないのですね…?」
「基本的には1つの生命に、1つの魂しか宿らないからね。複数あったら、いくつも命があるようなものだから」
「た、…確かに…そうですね……」
 講師の話を聞きながら、自分なりに纏めて考え見る。
 やはりレイナの身体には、1つの魂しかないのだろう。
「あんまり例のないことだけど。仮に魔性化たとして、祓うとなった場合。魂は半分に分かれるわけだから、寿命も本来の半分になるね」
 無理に剥がせば身体よりも先に、それを維持する魂の限界がくる時が、早まってしまうと告げる。
「普通の人よりも早く年を取ったりするってわけじゃないけど。思うように、自由に動きづらくなったり、なんらかの病にかかりやすくなることはるだろうね」
「―…無理やり分かれるのは、どちらにとってもよくない…ということでしょうか…」
「必ずしも、祓うほど酷いものになるわけでもないよ。相手との付き合い方次第っていうこともあるし」
「そ……、そうなのですか…」
 やはりちゃんと“あの子”と向き合ったほうがよさそうだ。
 恐れず否定せずに接していれば、だんだんと会話していけるようになるだろうか。
 どちらにしても、2人の教師の様子を見ると、まだ“あの子”は魔性化には至っていないようだ。
 なにやら考えを纏めた様子のレイナに、アルマンデルは“ようやく覚悟を決めたようじゃな”と、心の中で呟いた。



「行方不明者については、他の者が聞き込みを行っているだろうからな。私たちは、別の方向から調査をしよう」
 涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)はメモ用紙を手に、民家へ向かう。
「イルミンスールの者だが、いくつか訊ねたいことがあるのだがよいか?」
「…何かしら?」
 布団を干していた中年の女が振り返る。
「まずは、ここに住んでる方々が森へ入る際、その行動範囲や…よく行く場所を教えてもらいたい」
「村の外にある森のこと?だいたい、村の周りから何キロか離れた場所に行って、食用の野草を摘みにいくこともあるわ。よく行く場所は、人それぞれだからわからないわ。1つの箇所に人が集中すると、収穫出来る野草が減ってしまうからね」
「森に入る目的は、野草を摘むためだけということかな?」
「そうでもないわ。たまに川へ行って魚を獲ることもあるわ。まー、その辺りは滅多にいかないわ、それも日が高いうちだけね。村長があまり行くなって言うし。村からあまり離れてないところだと、子供とかがよく遊んでたりするかしら。あーでも、そんなに奥へ行ってないわよ。迷子になったら食べ物を見つけられないから、行き倒れになるだけだって、よく理解してるからね」
「森の中の動植物に関しても聞きたいのだが」
 女の言葉を一語一句聞き漏らさず、メモを取りつつ質問を変える。
「私たちが立ち寄る場所は、リスとか野うさぎだとか…ごく普通の動物ね。植物は、レモンみたいに酸味が強いリンゴのような果物とかもあるし。」
「香りのよい香草や、野菜代わりなるものとか、いろいろあるのよ」
「―…最近、それらに変化などはなかったかな?」
「いいえ、ないわよ?あっ、そうそう。村の近くで見かける動物の数が、減っちゃっているのよ。何かあるのかしらねぇ?」
「そうなのか…、ありがとう」
 なぜ動物の急に減ってしまったのか、村人も原因を知らないようだ。
「私も訊ねたいことのがあるのだが。今までに、行方不明になった人の年齢・性別を教えてくれ」
 林田 樹(はやしだ・いつき)の方は森での異変でなく、いなくなった者について調査しようと女に聞く。
「んー、私が知っている限りじゃ、10歳くらいから30いかないくらいの人ね。男も女も、両方いなくなってるのよねぇー」
「ふむ…?(あまり年の者は狙われないのか…。10歳未満はなぜ狙われないのが謎だな)」
「もういい?これから洗濯物しなきゃいけないのよね」
「あぁ、すまない。情報提供、感謝する」
 樹たちは忙しいと告げる女から離れた。
「お父様、捜索は夕方近くでしょうか」
「情報交換の時間もあるから、それくらいだな」
「暗くなってしまったら、森での活動はですわね。店でいくつか準備しておいたほうがよいですわ」
 灯り用のランタンなどを用意しようと、ミリィ・フォレスト(みりぃ・ふぉれすと)が提案する。
「応急処置の薬類も揃えておきましょう」
「では、まずは薬局だな」
「はい、お父様」
 ミリィは捜索時に備えて、涼介たちと薬局に行く。
 消毒用のエタノールや包帯などを購入すると、雑貨屋へ入った。
 そこではランタンや、ろうそくを買い集めた。
 荷物は全て彼女の代わり涼介が持っている。
「後は…キャンドルショップに行きましょうか」
「もう少し聞き込みもしたいからね」
 涼介はミリィに頷きショップに向かう。
 彼は店員を呼びとめ、民家にいた女と同じ質問を投げた。
 店員もその女と同様、同じような答えを返した。
「―…動物が減り始めたと感じた頃と、行方不明者が多発した時期は、同じ…ということかな?」
「えぇ、そうです…」
「忙しいのに答えてくれて、ありがとう」
 涼介は丁寧に例を言うと、情報だけもらうのは失礼だろうかと思い、妻へのプレゼント用にキャンドルを購入する。
 キャンドルは野うさぎが人参を食べようとしている形をしていた。
「これはレモンラベンダーの香りがするのか…。アロマのほうも、もらおうかな」
 淡い藤色のアロマキャンドルも買ってみる。
 店の外へ出ると、何とも言い難い光景を目にした。
 “あー、詠唱は確か気持ち込めれば、文は短くても良かったんだっけ…”と緒方 太壱(おがた・たいち)が言い、祓魔の護符を紙飛行機の形に折ってしまったのだ。
「言葉が短くても、発動時間の短縮にはならないよ。…それはそうと太壱君、君は何をしようとしているんだい?」
 緒方 章(おがた・あきら)は退屈すぎて遊び始めた子供を見るように、太壱を軽く睨み視線を向けた。
「この祓魔の護符を上手く投げつけられる方法はねーかと思ってよ、親父」
「そういった攻撃の工夫は、エリザベート校長とかに聞いてみた方がいいんじゃないの?いきなり我流じゃヘタ打つよ」
「うっせーな親父、俺は俺の方法でやりてぇの!」
「…アキラ、バカ息子、お前たちは何をやっているんだ」
 店の前で騒ぐ2人を、樹が一発ずつ殴る。
「うっせーな親父、俺は俺の方法でやりてぇの!…いってー!お袋ぉ!何すんだよー!」
「酷いよっ、僕まで殴らなくたっていいじゃないか」
「黙れアキラ、バカ息子。仲間割れは即、魔性につけ込まれると前回学ばなかったか?教導団での軍事行動と同じだ、共闘が大切だぞ」
 片足をガッと踏み鳴らし、文句があるならもう一発殴ろうか?と睨んだ。
「ぅう…」
 喧嘩両成敗ということにされ、何も言い返せなくなってしまった。
「私が索敵を担当する、アキラは詠唱、『息子』は攻撃だ。…光術くらいは使えるようになったのであろうな?」
「お袋!…光術は使えるし、器のレベルも上げたモンね。ディテクトエビルも使えるし〜!」
「…僕もディテクトエビル使えるようになっていますよ、太壱君」
「このバカ者が。スキルはそれぞれ、手持ちの魔道具に合わせたものを覚えるべきだ」
「護符ならペンダントと両方持っていても問題ないはずだよな、お袋」
「あぁ、そうだ。だが、アキラは何故スペルブックだけなんだ?」
「うーん…。両手で使わなきゃいけないからね。他にも何かあるのかな?」
「何々?どうしたの」
 3人の騒ぎ声に気づいた月夜たちが駆け寄る。
「いや、何でもない。気にしないでくれ」
「ちょうどいいや。スペルブックって、ペンダントみたいに何かないといけないの?」
「スペルブックだけだと、低級の弱いものくらいしか祓えないじゃないかな。強い魔性と祓うのは、哀切の章かしら。あなたのクラス何?」
「ウィザードだよ」
「もしもアシッドミストを使えるなら、裁きの章を使えるね。私のスペルブックに記されている哀切の章は、バニッシュを習得している必要があるんだけどね。それとスキルを取得しなくても使える章もあるわよ」
「へぇー、そうなんだ」
「でね、どれも使い慣れないと、強い魔性や霊などを祓うのは難しいの」
「なるほどね、よく分かったよ。ありがとう」
 章は月夜の言葉に頷きながら覚える。
 彼が上の空で聞いていないか、樹は睨むようにじっと監督していた。
「って親父、ちゃんと覚えたのかよ?」
「うん、大丈夫だよ」
「ホントに?」
「問題ない、私が覚えているからな。忘れたりしたら、どうなるか分かっているだろう?」
 黙って聞いていた樹が横から口を挟み、拳をギュッ…と握り締めて告げる。
「わ、分かってるよ!」
 何度も殴られたらたまらないと、章は必死に何度もこくこくと頷いた。