リアクション
タシガンの夏休み 「なんだい、みんな出払っちゃってるのかい。元気だねえ」 「はい。そのようです」 古城の玉座に座るルビーに、アラバスターが淡々と答えた。 「伯爵はどうしている?」 「堀の黒蓮の手入れのようですな。種から育てたようですが、結構増えております」 「おかげで、城を隠すのも容易なわけか。うんうん、悪くはない。少し、興味がわいたかな」 面白そうに何度もうなずくと、ルビーが城の外のストゥ伯爵の姿を見通すかのように視線をむけた。 ★ ★ ★ こぢんまりとした部屋の中央で、レグルス・レオンハート(れぐるす・れおんはーと)は胡座をかいて静かに座っていた。 早くなりそうな呼吸を整え、強面から油断なく視線を周囲に投げかける。 ピクンと、頭の狼の耳が動いた。 部屋の片隅で、何かが蠢いた。 レグルス・レオンハートがそちらへ視線を投げる。 そして、にやけた。 「ほーら、おいでおいでおいで」 猫じゃらしをパタパタさせて、部屋の隅においてあった鍋の中で目を覚ましたにゃんこの気を引く。ここは、タシガンにオープンした猫カフェ『たしにゃん』である。 「にゃー。おいでにゃー」 ごついレグルス・レオンハートが、まさに猫なで声でにゃんこたちを呼ぶ。ちょっと、知っている人には見せられない光景かもしれない。 そんな見た目のせいか、にゃんこたちもまだ遠巻きにしてレグルス・レオンハートを観察していた。 こちらから近づいていったのでは、習性としてにゃんこは逃げていってしまう。それを知るレグルス・レオンハートは、座ったままじっと動かず、にゃんこたちの方から近づいてきてくれるのを辛抱強く待っていた。この男、プロである。 辛抱強く待っていると、やがて営業部長らしいにゃんこが、そろそろと近づいてきた。白い長毛種のにゃんこである。 「こんにちにゃー」 人差し指を差し出すと、にゃんこに臭いをかがせて確認をさせる。大切な御挨拶である。 敵でないと確認したのか、にゃんこが首筋を手にこすりつけて臭いつけをしてきた。それを見て、他の場所に隠れていたにゃんこたちが、そろりそろりと姿を現し始める。 「かわいいのお」 ゆっくりと手をのばすと、レグルス・レオンハートがにゃんこの眉間と顎の下を指先でこしょこしょした。にゃんこが、うっとりと目を細める。 ここまで来たら、もうこちらの物である。 レグルス・レオンハートが、にゃんこをもふった。 もふもふもふ。もふもふもふ。もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ……。 「至福じゃあ!」 めろめろになったレグルス・レオンハートの尻尾がパタパタと勢いよく左右に振れる。それを見た仔にゃんこたちが一斉にじゃれついてきた。 「ああ、もう好きにして……」 にゃんこをだいたままコロンと横になるレグルス・レオンハートの身体に、にゃんこたちが群がる。上に乗っかって揉み揉みしたり、箱座りしたり、ピッタリとくっついてだらーんと寝転んだり、もうやりたい放題である。 そのまま閉店時間まで、にゃんこたちをもふもふするよりも、にゃんこたちにもふもふされるレグルス・レオンハートであった。 |
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