リアクション
ヴァイシャリーの夏休み ぴろぴろりーん。ぴろぴろりーん。 「ううーん」 朝一で、携帯メールの着信音で雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)は目を覚まされた。 けだるそうに手をのばして、枕元の携帯をつかみ取る。 寝ぼけ眼で届いたメールを開いてみると、フォスキーアセッカ・ボッカディレオーネ(ふぉすきーあせっか・ぼっかでぃれおーね)からの物だった。 『たまにワ、別荘の方にモ遊びに来てほしいワ』 そう言って始まるメールには、写真が添付されていた。 その写真を見たとたん、雷霆リナリエッタの顔が厳しくなる。フォスキーアセッカ・ボッカディレオーネの隣には、あの男、嘉月兔 ネヴィア(かげつと・ねう゛ぃあ)の姿が映っていたのだ。自分の最も憎む男と瓜二つの男が……。 つらつらと書いてあるフォスキーアセッカ・ボッカディレオーネの嘉月兔ネヴィアとの近況を読み流すと、雷霆リナリエッタは半ば反射的にネットのショッピングモールにアクセスしていた。 メールにはガーデニングを始めたと書いてあった気がするので、花を贈ってやろう。花言葉を確認しつつ、贈る花をチョイスする。 一つ目は悲しみのキンセンカ、二つ目は憎しみの黒薔薇、三番目は不誠実のジギタリス。もちろん、完全な嫌がらせである。 雷霆リナリエッタは、ためらわずに購入のボタンを押した。 ★ ★ ★ 「これが、百合園女学院の新型イコン……」 納品されてきたイコンを前にして、七瀬 灯(ななせ・あかり)が感慨深げに言った。 機体型番SHIZUKA。機体名ミネルバ。まさにできたてほかほかのイコンだ。 もともと桜井 静香(さくらい・しずか)をモデルにしたと思われるSHIZUKAだが、それをベースとしたミネルバは、さらに人型に近いデザインにカスタマイズされている。いわく、肌色成分が多いのだ。フェイスと太腿部分は追加装甲を外し、ラバーによる人肌に近い質感を再現している。背部スラスターとウイングユニットも取り外して、腰部フロータースラスターに換装してあった。そのため、上半身の取り回しが格段によくなっており、旋回能力などもよくなっている。だが、その分巡航時のエネルギー効率が悪くなっているのは仕方がない。 「早く新型に慣れるのが重要ですね」 なにぶん、初めて乗る機体であるので、早急に機体に慣れる必要がある。七瀬灯は、ラトス・アトランティス(らとす・あとらんてぃす)とともにさっそくミネルバに乗り込んでいった。百合園女学院のイコンデッキのゲートが開き、外の光が差し込んでくる。 まずは歩行訓練からである。 重心が下がったせいで、地上歩行時の安定性はかなり増している。とはいえ、基本は飛行移動となる。 「離陸します」 スロットルを開いて、七瀬灯がミネルバを離陸させた。 完全に閉じていてまるで剣の鞘のようであった両腰のフロータースラスターがハサミのように開き、ノズルを展開し、インテークのカバーをオープンにする。下方にむいたスラスターが発光し、ふわりとミネルバが宙に浮きあがった。 「飛行テストに入ります」 ゆっくりと加速して前方に飛ぶミネルバが、やや前傾姿勢になってバランスを取った。スラスターがやや閉じて、高速移動形態に移行する。発生する気流に頭部の金髪を靡かせながら、ミネルバがヴァイシャリー湖の上に達した。 「いい眺めですね。やっぱりキラーラビットではこうはいかないですよね」 眼下に広がるヴァイシャリー湖をモニタ越しに見渡して、七瀬灯が言った。 まだ武装が届いていないので射撃訓練はできないが、慣らし運転としてはこれでも充分だろう。 「さあ、ヴァイシャリー湖を一周しましょうか」 そう言うと、七瀬灯はミネルバのコントロールスティックをかたむけた。 |
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