校長室
学生たちの休日9
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★ ★ ★ 「〜♪ 〜♪ あれっ? なんでこんな所に……」 行きつけのアンティークショップで、新作のジュエリーを堪能していたナナリー・プレアデス(ななりー・ぷれあです)が、ウインドウ越しに通りを歩くエリファレット・レイシィ(えりふぁれっと・れいしぃ)を見つけておやと首をかしげた。機晶姫であるエリファレット・レイシィのそばには、いつも整備士のパートナーがいるはずなのであるが……。 「やっぱり、エリファだわ。なんでこんな所を一人で歩いているのよ!?」 店から出て来たナナリー・プレアデスが、エリファレット・レイシィを呼び止めた。なんだかちょっとふらふらしているようにも見える。ちゃんと整備をしてきたのだろうか。 「いつも通り、私の姉妹を捜しているのだが……。それより、こんな場所に君がいる方が驚きだ」 そうエリファレット・レイシィが答えたが、ナナリー・プレアデスとしてはなじみのお店なのだから少しも珍しいことではない。もしかすると、今までもこうやってふらふらと一人で人探しをしていたのだろうか。 もともと、生き別れとなってしまった自分の姉妹機を捜し出すことがエリファレット・レイシィの目的なのであるから、それ自体は凄く当然の行動であるのだが。けれども、一言ぐらい手伝ってほしいと言ってくれればいいものを。 今までだって機会がある度に探す手伝いはしてきたのだが、依然見つけられずにいた。この広いパラミタで、自分たちの足だけで見つけようというのはどだい無理な話なのかもしれない。だいたいにして、捜しているというエリファレット・レイシィの姉妹機の姿形を知っているのは、エリファレット・レイシィ自身しかいない。説明はしてもらったのだが、どうにもよけいな主観が入りすぎていて、要領を得ないのであった。だいたい、姉妹機と言っても、同じ作者によって順次ロールアウトしたと言うだけで、血の繋がりも定かではない。だいたい、機晶姫は完全な同型機でない限りは、外観など千差万別だ。手がかりはあまりに少なかった。 「いつも、一人で街をふらついていたの?」 「いや、今日は特別だ。何か、私と同じ波動を感じたので……。それも二つ。これは、可能性が高いだろう?」 そうは言われても、今までと何ら変わらないような気がする。そんな勘みたいな物で見つかったら、今まで苦労したのはなんだったのだろう。だいたいにして、機晶姫に勘などあるのだろうか。 「いずれにしても、一人でふらついちゃだめよ」 まるでお母さんのようにナナリー・プレアデスが言った。ここは、しっかりと監督しなければならないだろう。 とりあえず、買い物を済ませようと、ナナリー・プレアデスはエリファレット・レイシィの腕を引っぱって、いったんショップの中に戻っていった。 会計を済ませていると、観光客らしい女の子たちが入ってくる。 「ヴァイシャリーなら、きっとステキなアクセサリーとかいっぱいありますよね……?」 一瀬 瑞樹(いちのせ・みずき)と一緒に店の中に入ってきた一瀬 真鈴(いちのせ・まりん)が、店内を見回してあれっと言う顔になった。 「もしかして……」 つんつんと一瀬瑞樹の袖を引っぱって、エリファレット・レイシィの方を示す。 「えっ? うーん……、あの人どこかで見たような……」 「でしょう?」 「もしかして、GEM−E!?」 「ええ、私もそう思います」 朧気な記憶を辿った一瀬瑞樹に、一瀬真鈴が同意した。 「確かめよう」 「うん」 ちょっと勇気を出して、一瀬瑞樹と一瀬真鈴がエリファレット・レイシィに近づいていく。もちろん、エリファレット・レイシィの方でも、逸早くそれに気づいた。 「GEM−Aと、J……?」 「えっ、どうしたの?」 まだ何があったのか理解していないナナリー・プレアデスが、突然女の子二人とだきあったエリファレット・レイシィを見て目を白黒させた。危なく、いきなり女の子に手を出したと見えたエリファレット・レイシィをひっぱたくところだった。 「じゃあ、この二人が、エリファの捜していた姉妹なのね」 ナナリー・プレアデスの言葉に、三人が同時にこっくりとうなずいた。 なんという偶然と、ナナリー・プレアデスは驚きを隠せなかった。果報は寝て待てとでも言うのだろうか。まして、話を聞くと一瀬瑞樹と一瀬真鈴は846プロ所属だと言うではないか。まさに灯台下暗しである。 「こんな場所でGEM−Eに会えるなんて……」 「エリファレット・レイシィ。それが今の私の名だよ。エリファでいい。二人の今の名前も教えてほしいな」 型番で呼ぶ一瀬真鈴に、エリファレット・レイシィが言った。 「話したいことは、たくさんあるんだ」 「じゃあ、とりあえず、運河沿いのレストランにでも移動したら? そこでゆっくりとね」 「はい」 気をきかせたナナリー・プレアデスに送り出されて、再会を果たしたエリファレット・レイシィたちはとめどなく会話を交わしながらヴァイシャリーの街を歩いて行った。 ★ ★ ★ 「なんだか、即配便で発注した覚えのない苗が届いたんだけれど、キーアが頼んだのかい?」 突然どかどかと届いた花の苗を足許において、嘉月兔ネヴィアがフォスキーアセッカ・ボッカディレオーネに訊ねた。 「ええっと、なんだろう、送り主はリナじゃない。なんか似合わないよ」 ちょっと意味が分かりかねて、フォスキーアセッカ・ボッカディレオーネが首をかしげた。なんとなく悪意を感じるので、これは雷霆リナリエッタのちょっとした嫌がらせなのだろう。まあ、本当にプレゼントということもないとはいえないが、雷霆リナリエッタのあの嘉月兔ネヴィアへの嫌悪感からして、まずマイナスのイベントだ。 それにしても、なんで雷霆リナリエッタはあんなに嘉月兔ネヴィアを毛嫌いしているのだろうか。雷霆リナリエッタの実家と対立しているマフィアの関係者? それとも、単に嫌いなタイプなだけ? けれども、一緒にこの別荘で暮らしてみると、ごくごく普通の人間にしか見えないのだが。 そういえば、剣の花嫁は契約者の大切な人に似ると言われているが、そのへんはどうなのだろうか。 「地球にいたこと? それはないなあ。彼女とはあのときが初対面だったし、以前何かあったというわけじゃ。それに、この顔は生まれつき変わってはいないと思うんだけど、まあ、そのへんはどうなんだろうね」 けだるい午後にフォスキーアセッカ・ボッカディレオーネを膝の上に乗せて絵本を読んでいた嘉月兔ネヴィアが、唐突な質問にちょっと困ったように答えた。 「人の心は不可思議だから。だといって、詮索はよくないしね」 送られてきた苗の花言葉があまりにストレートなので多少苦笑しつつも、午後はそれらの花をどこに植えようかとフォスキーアセッカ・ボッカディレオーネと相談する嘉月兔ネヴィアであった。 ★ ★ ★ 「それじゃ、これが私の現在の連絡先だよ」 エリファレット・レイシィが一瀬真鈴と連絡先を書いたメモを交換しているレストランのテーブルの横では、何やら騒がしい御一行様がフルコースを堪能していた。 「美味しい! やっぱり、ヴァイシャリーは海産物よね!」 ジェットドラゴンでイルミンスールから一気にヴァイシャリーにやってきた小鳥遊美羽とコハク・ソーロッドのグルメツアー御一行様である。 「うん、美味しいね。今日の日のために貯金をしたかいがあったね」 伊勢エビのグラタンのほこほことした肉をフォークに突き刺したコハク・ソーロッドが同意した。直後に、パクンと伊勢エビを頬ばる。ジューシーな伊勢エビから溢れ出た汁が、ベシャメルソースと絡み合いながら喉を通っていく。焼けたチーズの香ばしい香りが鼻腔から抜け、思わず目が細くなった。 「もっと頼みましょう。あと、シタビラメのムニエルと、ホタテのムースキャビア添えと、牡蠣のカクテルと、ボンゴレリゾットに、海ぶどうのサラダ!」 「サザエの壺焼きに、鰹のたたきに、マグロのユッケに、スズキのカルパッチョ!」 はたして、小鳥遊美羽とコハク・ソーロッドの胃袋が満たされるのはいつのことだろうか。