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リアクション
「順調なようだな」
「ああ。皆のおかげだ。私だけでは満足に囮にもなれなかったからな」
「どういうことだ?」
次の囮地点に向かい静かに移動するソフィアに十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)が声をかける。
「今回の作戦前に、一人で囮になろうと試していたのだが。一度も引っ掛からなかったんだ」
「良ければ今からでもリイムと共に動いてみないか? だいぶ印象が変わると思うのだが」
「是非とも僕を抱き枕にいかがでふ?」
進み出たリイム・クローバー(りいむ・くろーばー)にソフィアは思わず笑みを浮かべた。
「次の地点まで一緒に来てくれるか?」
「もちろんでふ」
リイムは楽しく談笑をして、できるだけ和やかな雰囲気を作りだしていく。
並んで歩きだす二人を、宵一は後ろから見守るようについてゆくのだった。
楽しそうに談笑している風を装いながら、エリスとアスカは高級ブティックの近くの裏通りで動き回っていた。
両手に大量の荷物を持ち、お買い物帰りの散歩中、おしゃべりに夢中になっているように見せかけているが、常に周囲の気配を探っていた。
「来たわね」
「そうねー」
囁きあう二人の前に仮面たちが立ち塞がった。
「ちょ、ちょっと、何よ、これ」
「え、嫌だ、何……?」
二人は怯えたフリの上、泣きそうな芝居まで打って見せる。
「お嬢さんたちのとこ、ひっかかったぜ!!」
「よし、行こう!」
エリスとアスカと事前に相談し、あらかじめパッシェム・ウォウルガート(ぱっしぇむ・うぉうるがーと)が張っておいた禁猟区に反応があったのだ。
上空で待機していた紅坂 栄斗(こうさか・えいと)と、急ぎ該当地点へと向かう。
そのころ、エリスとアスカはお互いを庇いあうフリをしながら隣の路地に犯人たちを誘いこんでいた。
最後の一人が路地に入ったのを確認するや否や、二人は同時に炎を放った。
「か弱い乙女ばかり狙うとか最低。そんなに女が好きなら、女の私が天国に行かせてあげるわ」
「殺すなよ」
パートナーに一声返すと、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が信号弾を放ち、すぐさま援護射撃に移る。
合流した宵一も、魔剣ディルヴィングを振りかざし、犯人たちの無力化を図る。
「これを食らうでふ!!」
リイムも、犯人がソフィアに近づいた瞬間、ムーン・キャットSを剣の姿に変身させて装備すると攻撃を始める。
「ありがとう」
「どういたしましてでふ!」
ソフィアはリイムを宵一のところへ送ると、犯人たちに突っ込んでいく。
「ソフィア!」
「1人も逃がさないように気を付けてくれ!」
「もちろん! 乙女の敵、見っけ!」
ルカルカはその場をソフィアに任せると、離脱しようとしていた犯人に向かって真空波連射しながらダッシュローラーで急迫する。
「一人残さず火だるまにして、消し炭に変えてあげるわ!」
「火だるまになっちゃえ!」
エリスとアスカは背中合わせで移動しながら、合わせ技で異常に協力になった攻撃を次々と放っていく。
「どう? お嬢様の熱い吐息で、身も心もとろけちゃいそうでしょ」
目の前で膝をついた犯人にウインクを1発贈ると、逃げる犯人の足元に「氷術」を放ち、足を凍らせて動きを鈍らせると同時に、地面もつるつるに凍らせて滑って転ばせる。
混乱の中で、転んだ犯人に他の犯人がつまずき、将棋倒しのような状態になる。
「お嬢さんたち、やるね〜。お兄さん感動しちゃったよ。今度デートしない?」
軽口を叩きながらパッシェムは転んだ犯人たちに近づくと、次々に縄をかけていく。
「無駄だ」
ダリルは犯人の動きを読み、二兆拳銃で移動先の足元や武器を狙い犯人たちを逃げられないように追い込んでいく。
なお悪足掻きする者たちにはギア発動で背後に回りこみ、首の後ろを銃底で強打し意識を奪う。
ルカルカは犯人たちの攻撃をかわしながら、魔剣の腹や柄でぶっ叩いていった。
「ねえ、まだやる?」
主犯格と思われる仮面の前で、ルカルカは握力で手近な石を握りつぶして見せる。
「はい、残念。お前はこっちだよ!」
逃げようとする犯人の後ろに回り込んでいた栄斗が犯人の首根っこを?まえるとそのまま上空へと飛び上がった。
「あんたには色々聞きたいことがあんだよ」
「大人しく答えたほうが楽だと思うけどね」
パッシェムも加わり尋問を始める。
「回りくどいことをするつもりはないから。誘拐の目的は? 首謀者は誰だ? 本拠地はどこにある?」
犯人をぶら下げたまま、栄斗が無表情で淡々と畳み掛ける。
「黙秘、か……」
まったく口を開こうとしない犯人に、栄斗はちらりとパッシェムのほうを見やる。
「なあ、まさかこの状況で逃げられると思ってるわけじゃねえんだろ?」
「複数人で女性ばかりを狙う行為、許せないね。さっさと答えなよ」
パッシェムが鬼眼を発動し、脅しながら栄斗が重ねるがまったく反応が見られなかった。
地上では、ダリルが犯人達を手錠とロープで拘束し終えたところだった。
「この場で私たちができるのはここまでだ」
「くそっ」
「しょーがねえな……」
下からソフィアに呼び掛けられ、栄斗とパッシェムは犯人を下におろすと他の犯人たちと一緒に自警団に引き渡した。
「ソフィア、怪我はないか?」
「ああ、大丈夫だ。残る1組のところへ行く」
ダリルに頷き返すとソフィアはすぐに駆け出していった。
その頃犯人たちのアジトでは、アルコリアが拘束を引きちぎっていた。
「投降を。さもなくば死にますよ?」
自分を連れてきた二人に向かって微笑みかける。
二人が攻撃の構えを取るのを見ると、ラズンが楽しそうに笑い出した。
「きゃはっ、正義と悪って何だか知ってる? 悪はレッテル。正義はレッテルを貼り付けいい訳を許さず暴力を正当化する事だよ! 漫画や小説読みなよ、よく分かるでしょ? きゃはは」
と同時に、アルコリアが容赦のない連打を放つ。
「ほら、誘拐犯ってレッテルを貼り付けた。これでいくらボコっても正義。 テロリストなんかも便利なレッテルだよね!」
「どのような理由で有れ、叩き潰すと決めてきたのです。貴方達のその行いに報いただけです。敵対を望んだのでしょう? 叶いましたか?」
呆気なく床に沈んだ二人に向かって、アルコリアが冷たく言い放った。