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【メルメルがんばる!】ヴァイシャリーに迫る危機!?

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【メルメルがんばる!】ヴァイシャリーに迫る危機!?

リアクション


★第一章3「メルメルがんばるの」★


「ロック鳥が原因とは言え、動物や魔獣達を放ってはおけないよね。ヴァイシャリーの街に入ってしまう前に何とかしないと」
 気合いを入れて考え込んでいるのはレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)カムイ・マギ(かむい・まぎ)の飛空艇に乗りながら、その優れた視力で動物たちの移動状況を把握する。
 それから指を舐めて風にさらす。マギには少しの間だけ止まってもらい、それで風の方向を確認。すぐにまた追いかける。
 何をするのかと思えば、次にしびれ粉をまきはじめた。
「これでちょっとは速度落ちた、かな?」
「はい。先ほどより落ち着いたようです」
 心配げな声に、カムイが同意する。
「止まってー。そっちにいったら大変なことになるのー」
 レキは大声で呼びかけ、念のためにと配置したゴーレムが少しだけ進路を変えさせるが、動物たちは止まる気配もない。
 できれば傷つけたくないのに。
 想いだけでは届かないのか。

「お手伝いしますよ、可憐なお嬢さん。貴女の知恵を貸してくださいませんか」
 ブーケを渡しながらメルメルに挨拶をしたエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は、優しく微笑んだ。
(メルヴィアさんと似ているけど、姉妹か何かかな?)
 後々、彼女の正体を知ったエースは落ち込むかもしれない。一度会った女性に気づかないなど、紳士としてあってはならないからだ。
「さ、何かあっては大変です。下がっていてください」
 そう優しく諭す彼に、メルメルは首を横に振る。
「ありがと。でもメルがんばるの。メル、大尉だから」
「しかし……え、大尉?」
 この時の彼の衝撃は、察してあげて欲しい。
 とにもかくにも、エースはメルメルのアドバイスを頭に入れてから動物たちの暴走を止めに行く。
「ヒポクリフもいるの? 鷲の頭と翼をもった馬系の魔獣というか幻の獣っていうか。ペガサスの亜種のようなものじゃない。
 つまり私のエレス(ワイルドペガサス)の親戚の様なものよね! 馬系の幻獣が酷い目に遭う事態は絶対回避しなくっちゃ」
 リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)は隣でそう気合いを入れている。
 そんな2人の耳に届いたのが、レキの必死な叫びだった。
「お願い! とまってー」
 必死に呼びかける姿に、2人は顔を見合わせて頷き、手伝いに向かう。
 まずエースが弓を構えて矢を放つ。すべての矢は地面に突きささるだけで、動物たちを傷つけることはなかった。ただその殺気のこもった一撃で、動物たちの目がエースへと向く。
 ひとまず意識をこちらに向けさせるのが一番と考えたのだ。
「そこのお嬢さんの言うとおり、この先には人の街があって、そこに入るのは良くない事が起きる事になるよ。元居た所にお帰り」
「そうだよ! ロック鳥なら他のみんながなんとかしてくれるから大丈夫だよ」
 エース、レキが優しく語りかけていく。
 その間も走り続けている動物たちは、リリアがしっかりと見守り、足がもつれてこけそうになればすぐさま駆け寄り助け出し、空を飛ぶものたちは傷つけぬように飛行を解除。怪我を負えばヒールをかけて回る。カムイも届く範囲でその治療を手伝う。
 4人の想いは1つ。このまま互いに傷つけあうことなく、彼らに元の場所へと帰ってもらいたい。
 心をこめた説得と治療に、動物たちの血走った目が段々と落ち着いていく。
「もう怖くないから」
 戦略として評するならばよい方法とはいえなかったろう。時間がかかるうえに、止まってくれる保証もない。
 だがそれでも必死に呼びかけ続けたその声は届き、動物たちは足を止めたのだった。
「……よかったぁ。ありがとう」
「ええ、本当に……あ、怪我をしていらっしゃいますね。治療を」
「やっぱり誠心誠意声をかけたら通じるんだ」
「……(棲みかに帰る前にヒポちゃんをまふまふしてもいいかしら)」
 安どしている面々の中で、密かにヒポクリフを抱きしめているリリアの姿があった。



「この速度と進路だと……まずいな」
 橘 カオル(たちばな・かおる)がそう危機感を募らせている横で、マリーア・プフィルズィヒ(まりーあ・ぷふぃるずぃひ)はいつもと大して変わらぬ様子だった。
「まあ、動物たちを街からそらしてうまく逃げさせたらいいんじゃない?」
「そうは簡単に言うがな」
 カオルはちらとメルメルを振り返る。事情は知らないのだが、彼女が動物に詳しいらしいので話を聞く。
「このままだと速度についていけない子たちが後ろの子に轢かれちゃうの。それに急には曲がれないから、速度を落とすのが優先なの」
「分かった」
「うん……ねぇ、もしかして」
 話しているうちにマリーアは気づく。メルメルが、メルヴィアによく似ていることを。
 もちろん、話し方や雰囲気はまるで違うわけだが……あとは女の勘とでもいおうか。確証はなくとも、周囲のメルメルに対する接し方なども見れば外れていなさそうだった。
(カオルは気づいてないみたい、うぷぷ)
 内心笑いをこらえつつ、マリーアは後方から動物たちを威嚇しながら追いかけて進路を変えさせようとしている。
(道中息絶えてしまった動物がいたら、あたしがちゃんと供養してあげる……ふふふ)
 空飛ぶ箒に乗りながらよだれを垂らすマリーアだが、残念ながら息絶えている動物は今のところいない。また速度が落ちていないからか、中々進路の変更も上手くいかない。

「ああ、やはりメルヴィアでしたか。いえ、そうであるのか自信がなかったもので」
 メルメルの正体について友人に確認をとっていたルース・マキャフリー(るーす・まきゃふりー)は、前へと向き直る。そこには懸命に大声を出して周囲へ指示をしているメルメルの姿があった。
「やれやれと言いたいところですが、娘にしたいメルヴィアを傷つけさせるわけには、いきませんからね」
 そして動物たちを止めに向かう途中、メルメルの頭を撫でて「安心しなさい、お父さんが助けてあげますからね」と声をかけていくのも忘れない。
 心の中ではこんなに変わるものなのかと驚きながら。
「麻酔弾を撃ち込んで捕獲……だと怪我をさせてしまいそうですね」
 あの速度では急には止まれない。さらには次から次へと動物たちがやってきている。踏まれる可能性も高い。
「足元に打ち込めば遅くなってくれるでしょうか」
 当たらないように銃を撃ち込んでいくが、かすかに速度が落ちるだけ。どうしたものかと考え込む。

 黒崎 天音(くろさき・あまね)はタシガンからヒラニプラに定期報告に行った帰りに、土煙に気づいて足を止めた。同じく振り返ったブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)も土煙を眺めて首をかしげたが、なななからの応援要請に気づいて作戦へ参加した。
「僕たちも手伝うよ」
「しびれ粉をまくから、少し離れていてくれ」
「はい。お願いします」
 そうカオルやルースに話しかけた天音とブルースは、動物たちの様子をしっかりと観察した後、適切な量のしびれ粉を散布する。ゆっくり。しかし確実に速度が落ちていく。
 速度が落ちれば、マリーアの動きにつられるように動物たちも進路を変えていく。
「こっちはオーケーだよ。あ、ルースさん、そっちに」
「ええ、分かってます」
 しかしさすがに数が多く、全員が同じ方向にはいかない。そのまま直進していく動物たちや魔獣はルースが麻酔銃で眠らせ、一頭たりともヴァイシャリーへとは向かわせない。
「む、天音。まだあまりしびれ粉が効いてないのがいるぞ」
「……パラミタエレファントか。さすがにあれだけじゃ無理だったみたいだね」
 天音は吹き矢を取り出す。パラミタエレファントがこけても大惨事なので、矢の部分につけるしびれ粉で作った薬は先ほどよりも強いが強すぎることのないよう、獣医の知識を駆使して調合。
 その矢を尻に当ててしばらく様子をみると……動きが鈍くなってきた。
「あとはもう大丈夫そうかな」
 そう言いつつ、天音はレッドキュアラルリーフを使った超すっぱいキャンディを足止めとして動物たちの口へ放り込んだ。
「>×<」
 ブルースがなんとも酸っぱそうな顔をした。

「さあっあっちだよー。力尽きたら供養してあげるからねー(じゅるり)」
「おい、まさか食おうなんて考えてないだろうな」
「メルヴィアの頼みです。もう少し頑張るとしましょう」
 マリーアに追いかけられ、時には麻酔銃で眠らされて数を減らしていったその群れも無事に湖へ着水。救助された。
「しかしこれは人為的なのか自然のものなのか……それが問題だよな」
 マリーアのフォローに回っていたカオルは、安どに顔を緩めることなく考え込んだ。自然発生ならば二度と起きないように対策を練らなければいけないし、もしも人為的なものならば犯人をとらえなくてはいけない。
「ま、調べるのは全部終わってから、か」
 後方を見ればいつのまにやらロック鳥との距離が大分開いており、そこではいまだ戦っている姿が見えた。



 動物たちは、みんなの努力によりほとんどが正気を取り戻しているようだった。
「よかった〜。なんとかなりそぉ」
 メルメルがようやく、ホッと一息ついたところでキランっと目を輝かせた影があった。
 朝霧 垂(あさぎり・しづり)である。
「さぁ、メルメル! このリボンを結んで魔法少女に変身をっ」
「へっ? わっ」
 飛空艇の速度が落ちた瞬間を見計らって彼女の手をとった垂は簡易更衣室の中へと彼女を入れ、赤いリボンと可愛らしい衣服を手渡した。ひらひらしたその服は、たしかに魔法少女っぽい衣装だった。
「こ、これは?」
「メルメル。これは只のリボンじゃないんだぜ……これはな『魔法少女』になる為のリボンなんだ!」
「……可愛いの」
 力説され、良く分からないメルメルも服装の可愛らしさに目を輝かせた。垂がもてる技量すべてを使って最速で仕上げた魔法少女コスチュームだ。なるほど、たしかに似合いそうだ。
「で、でもメルにはまだやらなきゃいけないことが」
 可愛いものが好きなメルメル。それでも大尉としての自覚はある。今はこんなことしている場合じゃないと言う。
「ほらほら早く着替えないとまた動物たちが」
 半ば強引に押しこんで着替えさせる垂。そして戸惑いながらも出てきたメルメルの髪をツインテールにして、
「さあっヴァイシャリーの街を救うんだ!」
「え、う、うん。分かった」
 そのまま指揮へと戻ったメルメルは、周囲へ癒しを送り続けたと言う。――わりと本人も乗り気でしたと付け加えておく。


「依頼があったからかけつけて見れば、なーんかどっかで見た事有るような美人さん?」
 紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が首をかしげる。スタイルや顔立ち……いや、まさかな、と否定した。もしも知っている彼女なら赤いリボンでツインテールにした魔法少女っぽい恰好はしないだろう、と。
 とにかくそのメルメルから状況を簡潔に聞き、まだ暴れている一群がいるからそこへ言って欲しいと言われた。
「分かった。じゃあしばらく手はちょっと手ぇ出さないでくれよー。そんじゃ良いぜリーズ! お前に任せた!」
「唯斗? どうす……ああ、なるほど。いいわよ。それならなんとかできそうだもの」
 同意を返したリーズ・クオルヴェル(りーず・くおるう゛ぇる)が赤毛の狼へと姿を変えた。そして動物たちの一番先頭を走り、吠えながら徐々に進路をずらしていく。
 先頭の生き物についていくと言う習性を利用したのだ。
「ほら、皆! 向こうに行くわよ」
 狼へ変貌したとしても、先頭を走り続けるのは中々厳しい。後ろからは大きな音と共に追いかけてくる一団があるのだ。恐怖もある。だが危なくなれば唯斗が助けてくれるだろうと確信を得ていたリーズは、なんの憂いもなく全力で駆け抜ける。
 進路が完全にヴァイシャリーから逸れたのを見て、唯斗が一気に駆け抜けて力尽きたリーズを回収する。
「お疲れさん、リーズ」
 抱えたまま安全なところまで移動し、ホッと一息ついた。
「大丈……あ! ふわふわさんなのぉ」
「え?」
 他の場所への指示をすませたメルメルが飛空艇でやってくるが、赤毛の狼――つまりリーズを見て目を輝かせた。
 可愛いものが好きで女の子らしいメルメル。先ほどまでずっと緊張しっぱなしだったのだが、それからも解放されたメルメル。
 彼女がそのストレスから解放され、次にとる行動は……思いっきりリーズをもふもふしてストレス発散することだった。
 そのまま唯斗を轢いたが、気づかないメルメル。
「ちょっ何この子っ? いやー、離してぇっ」
 リーズは暴れようとしたが先ほどの全力疾走で疲れ果てていた。唯斗はといえば、なんとかワイヤークローでぶら下がったものの、あちこちに身体をぶつけており救助どころの話ではなかった。

 ……めでたしめでたし?