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【メルメルがんばる!】ヴァイシャリーに迫る危機!?

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【メルメルがんばる!】ヴァイシャリーに迫る危機!?

リアクション


★第一章3「メルメルがんばるの」★


「えっとね……イノシシさんはこめかみが弱点なの。ここらへんだよぉ」
「なるほどな。こめかみか」
 メルメルから動物たちの弱点を聞いていたエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、右拳を左手で包み込んでにやっと笑う。
(せっかくくつろいでたってのに、邪魔されてたまるか)
 そう思って動物たちへ向かおうとしたエヴァルトだったが、ふと振り返る。そう、このメルメルという女性。どこかで見かけた気がするのだ。
「ああところで、メルメルさんと呼べばいいのか? ……どこかで会ったことが?」
「えっとぉ?」
 メルメルもどこかで会ったような、と首をかしげたが互いに思い出せず、とりあえず現状をどうにかしようということになった。
 群れの後方にいる巨大なイノシシへと近づく。こめかみが弱点らしいので、そこを横から狙って殴りつける。
 さすがに一撃では倒せなかったが身体はふらつき、さらにイノシシの前を走っていた動物がイノシシの速度が落ちたことで安堵して少しスピードを下げる。
「さてと、この調子で行くか」
 後続から徐々に大人しくさせて、なるべく怪我をさせないように。エヴァルトはそんな想いを胸に、動物たちへ拳を振るう。

「聞くのだなぶら殿、吾輩に獣達を追い払う秘策があるのだ!」
 そんなエヴァルトの様子を見ていた木之本 瑠璃(きのもと・るり)が、ピキンとひらめく。自信ありげな顔だが、相田 なぶら(あいだ・なぶら)は嫌な予感がしてならなかった。
 一応それでも「どんな秘策だ?」と聞いてみる。
「大群でやってきた獣達も結局ロック鳥……自分達より強き者から逃げて来ているのだ」
「まあ、そうだな」
 この時点で嫌な予感は倍になる。瑠璃はふふんと胸を張った。
「つ・ま・り、ヴァイシャリーにいる吾輩達が自分達よりも強き者だと獣達に知らしめれば本能で危険を察知して、ここに逃げ込んで来ようなんて思わなくなるのだ! きっと!」
「こちらの強さを知らしめる、ねぇ。で、どうやって知らしめるつもりだい?」
 なぶらが半目で自信満々の瑠璃へ問い返すと、瑠璃は
「そんなの……拳で解らせるに決まってるのだ!」
「それは策じゃなくて力づくって言うんだ! って、待て!」
「行くのだ〜! なぶら殿は援護を頼むのだ!」
 なぶらの制止も聞かずに飛び出す瑠璃。それはパートナーへの信頼の証……だと思いたい。
(はぁったく。珍しく策があるって言うから少し期待して聞いてみれば、これだ)
 もはやため息しか出てこない。
 しかし宣言通り正面から殴りに行ってしまった瑠璃を放っておくわけにもいかず、なぶらはフォローへと向かって行ったのだった。
 先ほどまで明るかった瑠璃の瞳が、鋭くなる。まるで鬼のような険しい瞳に、射すくめられる動物たち。止まらずまでは至らずとも速度を落とすことには成功した。
 何よりもロック鳥を別の仲間たちが押さえているため、距離が開いているのも要因だろう。
 そこへさらに瑠璃は拳へ獣の力を乗せ、拳を前へ突き出す。直接は当てず、全身から見えただろう獣の姿に群れの動きが鈍くなる。
「やるなっ! っと、もうこれ以上は行かせねーぜ?」
 エヴァルトが瑠璃へ賛辞を送りつつ、群れの中でも大型で強い動物たちの弱点を突き、大人しくさせていった。
 だがまだまだ動物たちは元気で、多少進路はそれたがまだヴァイシャリーへと向かっていた。そんな時、かすかに聞こえてきたのは歌声。
「力になれるのなら、なるまでよ……歌は、聞こえるのかしら? お願い。できるならどうかこの歌を聞いて目を覚まして」
 奥山 沙夢(おくやま・さゆめ)だ。傷ついている動物たちを見て心を痛めながら、今はただ落ち着いてもらえるようにと。悲しい、悲しい歌声を響かせる。
「とりあえず速度を落とせばなんとかなるんじゃないかな?」
 っと、考えて自らの脚力を高めているのは雲入 弥狐(くもいり・みこ)。何をするのかと思えば、突如動物たちの群れへと突撃して行った。
 動物たちの身体に触れることなく、間を縫うように走り回る。瞬時にルートを見極めて足を動かし、動物たちを傷つけぬようにひたすら動き回った。一体何をしているのか……そんな弥狐の周囲を、何か粉のようなものが舞っている。
 しびれ粉だ。
 悲しみの歌にしびれ粉で速度を落とした動物たちは、大分我へと返ったようで……だが、それでもパラミタエレファントには有効とは行かなかった。暴れ、目の前の馬を踏みつぶそうと足を
 と、そんなパラミタエレファントに近寄っていく影があった。
 スレイプニルにまたがった十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)が、その足をなぎ払って角度を変え、落下地点をずらす。おかげで馬は無事だ。
「やれやれ。ロック鳥をおいかけるはずだったんだがな」
 吐き出されたのは苦笑じみた声。言葉通り、連絡を受けてロック鳥へと急行していたのだが、途中で出会ったメルメルがもふもふ好きであることを知ったリイム・クローバー(りいむ・くろーばー)が、
「もふもふ好きな方をほうっておけないでふ!」
 と叫び、それでもロック鳥へと向かおうとした宵一の前で駄々をこね出してしまい、やむなくこちらを手伝うことになったのだった。パラミタ1の抱き枕を目指すリイムにとって、もふもふ好きなメルメルを放っておくと言う選択肢はなかったのだ。
 そんなリイムは、メルメルの近くで待機し、彼女に襲いかかろうとする動物たちから守ろうと陽動射撃で注意をそらしたり、眠らせようとしたりと頑張っている。メルメルにしても可愛いものが好きなので、リイムが傍にいるともっとがんばろうと決意を固めていた。
「なぜ? なぜなの」
 ふるふると肩や拳を震わせているのはヨルディア・スカーレット(よるでぃあ・すかーれっと)。リイムがメルメルに懐いている(?)のを見ながら、悔しそうだ。
「なぜうちのリイムはメルメルさんにとても懐いているの? はっ!」
 ヨルディアが気づく。飛空艇の操縦かんを握る腕の中からのぞく胸の谷間に。
「まさかやっぱり胸の大きな人が好きなのねっ? おのれ、巨乳!」
 まったくもって勘違いなのだが、ヨルディアは燃えていた。怒りを動物たちへと向ける。ドラゴンにまたがりながら、空を飛ぶ生き物へ死の風を送り動きを阻害。
「あなたはこれでもくらいなさいっ」
 ヒポクリフに天のいかづちを怒りのままに放つ。とばっちりだが、ちゃんと加減はしてある。あくまで飛行能力を失くすのが目的だ。そして地に降りたヒポクリフの耳に沙夢の歌声が届き、目に正気を取り戻す。ある程度ダメージ(ショック)を与えれば、声も届くのだ。
 そして並走していた宵一はというと、獣寄せの口笛を吹き、進路を変えさせようとしていた。
 スピードが出過ぎていると曲がることはできないが、今はエヴァルト、瑠璃(となぶら)、ヨルディアの怒り(?)や沙夢の歌のおかげで大分速度が落ちている。この速度なら問題ないだろうと判断したのだ。
「ま。こっちをなんとかするのも大事だしな」
 宵一はそう言いながら、二本のロイヤルソードを握りしめる。狙いは、動物や魔獣の中でも巨大で気性の荒いパラミタエレファントだ。
「厄介だからな。悪いが、ちょっと気絶しててくれ」
 メルメルからあらかじめ聞いていた急所をソードの峰で狙い打ち付ける。が、一発二発ではなかなか効かない。むしろ怒ったパラミタエレファントが鼻で攻撃してくる。
 身をのけぞらせて鼻を避け、自らの上を通過していく鼻を打つ。痛みで動きが鈍くなったところを、スレイプニルに指示して跳び上がり、高い位置にある眉間を強打。
 パラミタエレファントはふらふらと頼りなく数歩進んでから、横向きに倒れる。その時、他の動物たちを傷つけそうになるが、寸前で救助する。
「ふぅ。危なかったな」
 腕に抱いた兎がどこも怪我をしていないか確認して、安全な場所に下ろす。兎はきょとんとしていたが、もう落ち着いているようだった。
 宵一は再び群れへと向かっていく。
「俺も手伝わせてもらう」
「おっ助かる」
「拳でわかれー、なのだっ!」
「だからそれは……ああっもう!」
「おのれ、巨乳めぇ」
「もふもふでふよー」
「回復なら任せて」
「痛いの痛いの飛んでケー」
 と、どたばたしつつも、暴れる動物・魔獣の鎮静係と誘導係、傷をいやす係と綺麗に分担が別れ、なんとか誘導および制止に成功したのだった。
 沙夢弥狐は、ホッとするのもつかの間。こけたりぶつかったりで怪我をした動物たちの手当てに奔走する。
「もう大丈夫だからね」
「安心していいよ!」
 そう優しく声をかける沙夢と弥狐に、今だおびえていた動物たちは安堵したのか、暴れることなく治療を受けたのだった。



「一群が外れて進んでいる。あちらは誰もいない湖だ。進路を右へ」
 そんな通信がダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)から入る。ダリルはスレイプニルにまたがり、上空から動物たちの動きを見て、指示を出しているのだ。
「了解っ! すぐ向かうわ」
「め、メルも」
「大丈夫。大尉はここにいてみんなに指示を……リボンが無くても大尉は大尉、自信持って!」
「……うん。ありがとなの」
 ダリルからの声を受け取ったルカルカは、隣にいるメルメルへにこって笑顔を見せ、そちらへと向かって行った。
(でもびっくりしたぁ。最初は一般人かと思っちゃった)
 そんな呟きは内緒である。
「さあっ! こっちにゃ怖ぇ鋼鉄の魔物がいる! 右に逃げろ!」
 拡声器片手に『咆哮』するのはカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)。全身から放たれる気迫、その声の圧に、動物たちは本能で従う。ダリルの指示通り、右へとそれていく。
『このままの速度で水に落ちたら危ないの。速度落として』
「速度をね。ああ、分かった。ルカ!」
「ええ、まっかせて」
 獣寄せの口笛で誘導を手伝っていた夏侯 淵(かこう・えん)がルカルカを呼び、2人でヒプノシスを使い、眠気を起こさせる。
(念のために空砲や放水装置は用意していたが、この調子ならいけるか)
 冷静に動きを観察しているダリルはそう呟く。しかしその時、右へと進路を変えた群れの中から、そのまま直進する動物が数頭いた。
 ダリルは少し眉を中央に寄せたが、すぐにまたどこかへ通信する。
「2頭がそちらへ向かった。対処を頼む」
『了解』
『分かったであります』
 返事をしたのはトマス吹雪だ。

 トマス、吹雪両者の目にその影が見えたのは連絡を受けたすぐあとのこと。2人は街を守るためにパートナーたちへ呼びかけ、動物たちを押さえに向かった。

 街の付近で待機している彼らにそちらの対処を頼み、ダリルは再び指示へと戻った。
(4頭ほどなら少数でも簡単に対処できるだろう。俺たちはこちらに集中すべきだな)
「後方の速度が速い。このままでは前方を轢いてしまう可能性がある。後方に重点的にヒプノシスを」
「分かったわ」
 常に冷静に周囲を見回していたダリルの指示のおかげで、ルカルカたちは無事に仲間が待機する湖への誘導に成功したのだった。
「今回のことで大尉が素のままでも自信を持ってくれると良いんだけど」
「…………」
 そう呟くルカルカの隣に降り立ったダリルは何も言わず、淵は自分の髪を見ていた。正確に言うなら紙ひもを意識した。
『えん、とっても怖いのぉ』
 紙ひもを解いたら乙女モードに……ならない、はず。
「はははっ。もしなったら淵ジェルモードって呼んでやらぁ」
「止めろ。あるわけないだろう」
 察したカルキノスがからかうように言ったのを淵はさらりと否定するが、内心冷や汗をかいていた。
(まさか……な)