校長室
【ぷりかる】トラップティーパーティーへの招待状
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第二章 「ようこそ」 「こちらで名簿にご記入をお願いしますー」 「結局受付まで手伝ってもらって申し訳ない。すっかり抜けていた……」 「いいよいいよ。どのみちここに立ってるつもりだったし」 入口に設置した机で参加者を迎えながら、ソフィアと桐生 円(きりゅう・まどか)が小声で話す。 「あ、そういえば、窓辺に動く肖像画掛けちゃった。監視カメラ代わりになるかなと思って」 「ああ、構わない」 「ってちょっとロザリン! その恰好で入るつもりじゃないよね?」 「あら? 刺客の人も普段着の百合園生だと考えてくれると思ったのですが……ほら、ソフィアさんも鎧を着ていらっしゃいますし」 いつも通り、鎧を着こんだ姿で現れたロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)に円が驚きの声を上げた。 「こういう時は、ソフィアくんを見習ったらダメなの! 着替えてきて!」 「容赦ないな……」 円の言葉にソフィアが遠い目で呟く。 「今のところは仲間内ばっかりだね」 「さすがに正面からは来ないか……」 次々と訪れる参加者たちを二人で会場内に誘導していると、着替えたロザリンドが戻ってきた。 「あ、円さん、ソフィアさんと私を間違えないで下さいよー?」 「その恰好のロザリンなら大丈夫だよ、たぶん!」 「たぶん?」 「それより、ソフィアくんに怪我させないようにね」 「もちろんです。ではお二人とも、また後程」 「ああ」 二人に軽く会釈するとロザリンドは会場内に入っていく。 「これで招待客は全員、か」 「そだねー。ソフィアくん、後はボクが見張ってるからそろそろ始めちゃって」 「ありがとう」 円に入口を任せるとソフィアは会場内で軽く挨拶をし、ティーパーティーが開始となった。 「どこからどうみても刺客をおびき寄せるためのトラップとは思えない、本格的なパーティー会場だよね」 「立派に令嬢のパーティー会場だわ」 「ああ。レキとカムイがトラップすべてにうまく飾りを付けてくれたからな。トラップ位置は先ほど渡した通りだが……そなたたちには今日配膳のため動きまわってもらう機会が多いからな。気を付けてほしい」 「全部把握してるから大丈夫だもん」 「私も問題ないわ」 「頼もしいな」 裏で配膳の準備をしていた騎沙良 詩穂(きさら・しほ)とローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は、様子を見に来たソフィアと最終打ち合わせを行う。 「かなりの席数だが、二人で大丈夫か?」 「詩穂も給仕の家系だもん。ちゃんとお客様が必要としてるものを察して整えるよ! ちゃんと見張りながら、ね」 「念のため確認だけど。今中にいる人たちは、全員ソフィアからの招待状を持ってるのよね? 招待状を忘れた人もいないわね?」 「そうだ。よって、恐らくは今会場内には刺客はいない」 「潜んでない限りは、ね」 「そういうことになるな」 ローザマリアの鋭い指摘にソフィアは頷く。 「まずはお茶を配りながら様子を見るようにするね」 「じゃあ、私はカップを交換するときにサイコメトリを試してみるわ」 詩穂とローザマリアは顔を見合わせると頷き合った。 「大変だろうが、よろしく頼む」 「任せてっ!」 「ええ」 ソフィアが会場内に戻ると、詩穂は慣れた手つきで盆に乗せたティーカップと添え菓子を素早く丁寧に配膳していく。 落ち着いた所作で動き回るが、メイド服とご奉仕ブーツからのぞく絶対領域が可愛さも添え、会場の内装とすっかり馴染んでいた。 一通り1杯目を飲み終わるタイミングを見計らって、ローザマリアが順番にカップを交換して回る。 一つ一つ丁寧にサイコメトリをしていくが、殺気といった刺客に関わりそうな情報は読み取れなかった。 「このテーブルは、一体どうなっているんだ……?」 「俺もティーパーティと聞いていたのだが、想像してたのと違うな」 「いや、私が想像していたものとも違うんだが、というか他のテーブルと全く違うんだこのテーブル」 「どういうことだ……?」 各テーブルを挨拶して回っていたソフィアが、源 鉄心(みなもと・てっしん)たちのテーブルの前で首を傾げる。 その言葉を聞いた鉄心が驚いたようにソフィアを見る。 「ティーパーティをやるといううわさを聞いてとんできたのだ〜〜! ティーパーティ……ティー・ティーの誕生日か何かだったのだ、たぶん!」 「ん? ティーの誕生日が分かったのか?」 「あれ?ティーさんの誕生日って、俺と同じで一月だったような気がしたんですけど……」 「ふむ。プレゼント持ってくるの忘れてしまったからとりあえず、わらわにできることでもしようかのー……」 鉄心の言葉に、鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)も首を傾げる。 その隣では医心方 房内(いしんぼう・ぼうない)がティーへの誕生日プレゼントを考えていた。 「まあ細かいことはどうでもいいので、今回はいつもお世話になっているティーの為に一生懸命ティーパーティの準備をしたのだ〜〜! ティー・ティーお誕生日記念なのだ〜〜!」 「要は、黎明華さんのいたずら……か」 屋良 黎明華(やら・れめか)の言葉に鉄心が思わず苦笑いをこぼす。 「それにしてもそなた、なかなか面白いものを用意したな」 「ティーさんといったら緑茶だから、緑茶セットを用意したのだ。静岡生まれの黎明華がいいお茶をチョイスしたのだ〜。純和風なテイストで急須も必須なのだ!」 「ティーパーティー、ですけどね」 テーブルの上を興味深そうに見回すソフィアに答えた黎明華に、ティー・ティー(てぃー・てぃー)が柔らかな笑みを浮かべながらツッコんだ。 「あとスイカが大好きなはずだから黎明華特製の輪切りスイカで楽しくおもてなしなのだ〜! ひゃっはあっ!」 「黎明華さん、ありがとうございます」 ティーの嬉しそうな表情を見て、鉄心とソフィアも顔を見合わせると笑みを見せた。 敵を誘きだすためには気を張っているのも逆効果。 少しは楽しむことも大事だなと鉄心は考える。 「ああ、確かにとても香り高いお茶ですね」 「そうだろうそうだろう!」 貴仁の言葉に黎明華は嬉しそうだ。 「しかし、スイカの輪切りというのはなかなか見ないですよね……どうやって食べるのが正解なんでしょうか」 「4分の1程度に叩き割れば良いのではないか?」 「……え?」 真顔で提案したソフィアに貴仁は引きつった笑みを浮かべた。 「……んーと、ティーはいつもイラストでちっぱいに描かれることを気にしているようじゃし、胸が大きくなるようにマッサージでもしとこうかの」 房内は言うやいなやティーの胸を揉みはじめる。 「……ほうほうこの胸は……育ちすぎる前のカブのようなのじゃ!!」 「なっ、なっ、なっ……!!!」 「てぃ、ティーが……」 「それぐらいにしてください。ティーさんよりソフィアさんとイコナちゃんが倒れそうです」 ふむふむとひとりごちる房内をティーから引きはがしながら、やれやれといった様子で貴仁がなだめる。 「決して、わらわがただ胸を触りたいだけじゃないんじゃからの!?」 「墓穴ですよ」 「主様!!」 ふたりのやり取りに、鉄心やソフィアも思わず笑い出した。 (そういえば、誕生日ってティーは鉄心と同じ日にしてるのに、わたくしだけ仲間はずれですわ) 盛り上がるテーブルの中で、ふとそんなことを思い寂しそうな表情を浮かべたイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)に気づいてか気づかずか、黎明華が再び声を上げた。 「メインディッシュは「いかのおすし」で決まりなのだ! 新鮮なイカを購入して、とびっきりのいかのおすしを握ったのだ〜! イカがあまったのでついでにいかの天ぷらも作ったのだ〜! 純日本人の黎明華の純和風な料理で、ティーをおもてなしするのだ〜!」 「なんでもアリですね……」 貴仁はすかさずテーブルの上を整え、黎明華がイカ料理を並べやすいようにセッティングした。 「ソフィアさんも何か少し取りましょうか?」 「ああ、ありがとう」 綺麗に取り分けられた皿を貴仁から受け取ると、ソフィアは興味深々といった様子で皿を覗き込む。 「……い、いかのおすし! いかのおすし!」 「お、おい! なんというか……そなた、大丈夫か?」 黎明華につられるように突然声を上げたイコナの肩をガクガク揺すりながら、ソフィアが心配そうに尋ねた。 「だ、大丈夫ですわ」 「そうか……何よりだ」 「え、ええ」 ソフィアの勢いに、イコナはコクコクと頷いて見せる。 「ときに、いかのおすしとは……?」 「ああ、黎明華さんの料理でイコナが標語を思い出したんだろう。いかない、のらない、大声を出す、すぐ逃げる、知らせる、だ」 「なるほど。よくできているな」 鉄心の説明にソフィアが感心したように頷いた。 「イコナちゃんは、こういうのちゃんと覚えてますよね」 「と、当然ですわ!」 貴仁に褒められ、イコナは恥ずかしそうにうつむく。 「おいしいです」 「そうですわね。鉄心もちゃんと食べてますの?」 「ああ、順番に食べるよ」 一通りテーブルの上を片づけると、ティーは会場内のBGM代わりにハープの演奏を始める。 それに併せてイコナもフルートの演奏を始めた。 「良い音だな……」 そう呟くと、ソフィアは次のテーブルへと向かった。 「あ、ソフィアー! こないだはお疲れ様っ!」 「ああ、美羽。あの時は世話になったな」 入口近くのテーブルでぶんぶんを手を振る小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)の隣に座ると、ソフィアは美羽とその奥に座っていたコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)に軽く頭を下げた。 「後味は悪かったけど、なんとか無事に解決できて良かったよ」 「皆のおかげでな。今回も甘えてしまったが……」 コハクの言葉にソフィアが頼もしそうに周囲を見回した。 「大変な時こそ助けあわないとね!」 「助かる」 元気の良い美羽の言葉にソフィアが嬉しそうに頷いた。 「ところで、円から何か連絡は入っているか?」 「ああ、ソフィアさん。今のところ特に異常は無いようです」 「そうか」 ロザリンドの言葉にソフィアは軽く息をつく。 「ソフィアさんは得物は何を多用しますか? 私はランスを少々嗜んでいる程度ですが」 「私は主に剣と槍だ」 「いつかお手合わせ願いたいですね。……しかし、こう、肩にある程度荷重が無いと身を守る物が少なく感じて、か弱い乙女としは不安になりませんか?」 「「か弱い乙女……?」」 ソフィアと美羽の声が被さる。 「円ちゃんも聞いてたら面白かったのに」 美羽が呟く。 コハクは隣で苦笑いを浮かべていた。 「か弱い乙女……」 「ソフィアさん?」 鎧姿のロザリンドしか連想できず、ソフィアは小さく唸った。 「美羽さんの今日のドレス、可愛いですよね」 「そ、そうだね」 突然ロザリンドから話を振られ、コハクが照れくさそうに呟いた。 「まあ、スカートの中にマシンピストル隠してるんだけどね。こないだソフィアが買ったドレスも可愛かったよね」 「あんなに何着も試す機会はなかなかなかったからな」 「円さんと美羽さんが選んだものですね」 「うん。あれなら完璧に囮になれたと思うんだよね」 「二人が選んでくるドレスは、装飾が多い割には意外と動きやすいものが多くて驚いたんだ。さすがだな」 「ちゃんと動けないといざって時に不便だもん!」 武器を隠したスカートを軽くつまみながら、美羽がいたずらっぽく微笑んだ。 「もっともだ。すまないが、円から何か報告が入ったら教えてくれ」 「ええ、分かりましたわ」 「うん!」 ロザリンドと美羽が同時に返事をした。 「今のところは動きなし、か」 「ああ。すまないな、ずっと動きっぱなしで疲れるだろう」 「何のことだ?」 「始めからずっと、私の死角にいてくれただろう?」 「気づかれるもんだなー……」 思わぬソフィアからの言葉にシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は苦笑する。 「お二人とも、少しゆっくりされてはいかがです?」 ゆったりとした口調でリーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)が二人に席をすすめた。 「なぁ、ソフィア」 「なんだ?」 「敵が来るまでお茶飲んでるだけなのもなんだし……お前のこともっと聞いていいか? こないだはそれどころじゃなかったし、敵の事とは別に興味あるしさ」 お茶を飲んで一息つくと、シリウスが切り出した。 「私のこと、か?」 「あ、別に話しにくいことならいいぜ。それくらいは分別あるよ。ただ、最近やたら事件が多いなと思ってさ」 不思議そうに首を傾げるソフィアにシリウスが補足する。 さり気なくリーブラが二人のカップにおかわりを注いだ。 良い香りが再び立ち上がる。 「先日の事件は、私が勝手に首を突っ込んだだけだがな……」 「ああ、そういやそうだったか」 二人は顔を見合わせると思わず笑ってしまった。 「今回は明確に私が標的だからな。個人的には狙われる理由はないが……やはり家名だろうか……」 「ま、お前も色々大変なんだなー。さて、もう少し動きまわってみっか」 労わるようにぽんぽんとソフィアの背中を叩くと、シリウスは立ち上がった。 (あ、あの、パーティの様子を誰かに連絡してる人とか、パーティーが始まる前にパーティー会場のテーブルとか椅子にと、盗聴器とか何か細工をしてる人はいらっしゃいませんでしたか?) リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)は会場の様々なところに飾られた鉢植えの影に隠れては、花たちに、心の中で質問を続けていた。 しかし、どの花からも見かけていないという答えが返ってくる。 (そ、そう……ですか。ありがとうございます) 最後の鉢植えに確認を終えると、リースはセリーナ・ペクテイリス(せりーな・ぺくていりす)のもとへと戻った。 「あ、そ、ソフィアさん」 ちょうどセリーナとソフィアが空いていたテーブルに座るところだった。 少し遅れてナディム・ガーランド(なでぃむ・がーらんど)もテーブルへと戻る。 「どうだった? リースちゃん、ナディムちゃん」 「えっと、お花さんたちは、どなたも見ていないそうです」 「こっちも、見て回った限りでは怪しい影はなし、だな」 「そう。レラちゃんも特に何も感じないようだわ」 「まだ侵入していないということだな……参考になった。ありがとう」 3人の話を聞くと、ソフィアは少し考え込む仕草を見せる。 「ごめんなさいね。もう少し役に立ちたいのだけれど」 「この間は、ご迷惑をおかけしてしまいましたし」 「迷惑? 何のことだ?」 セリーナとリースの言葉にソフィアが首を傾げる。 「この間の犯人探し、失敗したのは俺なんだから姫さんもリースも気にする必要ないと思うんだけどな……」 「ああ、あの事件のことか。結果的に被害もなく解決できて良かった。リースたちが犯人の逃げた方角を確認していてくれたのも大きかったからな」 「アントニヌスのお嬢さんもこう言ってくれてるし、姫さんもリースも考えすぎないほうが良いと思うぜ。で、どうする?」 「もう少し様子を見る。何か気づいたら教えてくれ」 「わかったわ」 「は、はい」 ナディムの言葉にソフィアが答えると、3人は頷きあい、再びさりげなく会場内を動きはじめた。 「こうしていると、まるで普通のティーパーティーみたいね」 「そうですわね……」 「紅茶もお菓子もおいしいですね〜」 窓際のテーブルで、綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)とアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が優雅にお茶を楽しんでいた。 「さゆみおねえちゃんとアデリーヌおねえちゃんのドレス、きれいです〜」 「ありがとう。せっかくのパーティーだし、季節のカラーを取り入れてみたの」 席を立ってパタパタと二人の周りを動き回るヴァーナーの姿に、さゆみは微笑む。 ソフィアから告げられたパーティーの趣旨からすると決して穏やかなものではなかったが、楽しそうなさゆみの表情にアデリーヌも穏やかな笑みを浮かべた。 「このテーブルは華やかだな」 「あ、ソフィアおねえちゃん〜」 静かに歩み寄るソフィアを見つけると、ヴァーナーが飛びついた。 「ようこそ、ティーパーティーへ。もっとも……またしても力を借りることになってしまっているが」 「いいのよ。それに、なかなか楽しませてもらってるわ。ね? アデリーヌ」 「ええ」 申し訳なさそうな表情を浮かべるソフィアに、さゆみは首を振って見せた。 「うん。楽しいですよ〜」 「そうか。そう言ってもらえると嬉しいが」 ソフィアが安心したように軽く息をついた。 「現状は内部には侵入していないようだ。よければ……少しさゆみの歌を聴かせてくれないか?」 「わあ! ボクも聴きたいです〜!」 「そうね。折角だし」 ソフィアの提案にさゆみはアデリーヌと軽く目を合わせるとすっと立ち上がった。 その歌唱力を活かして、雰囲気に合わせた歌を披露し場を盛り上げる。 「すごいですね〜」 「ああ、さすがだな」 ヴァーナーとソフィアの感心したような声を聞き、さゆみとアデリーヌは顔を見合わせると微笑みあった。 「こちらも、そろそろ動くか」 袖の中に握っていたメモをこっそりもう一度確認すると、ソフィアはちらりとグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)に目線を送った。 そのままさりげなくグロリア―ナの座るテーブルへと向かう。 「なんだ。誰かと思えば少佐襲撃犯ではないか。余興だ。付き合え……少佐襲撃の返礼が未だ済んでおらぬ」 「ライザ殿も私も、騎士の何たるかは知っているつもりです。ですから此処は余興に御付合い下さいませ」 さり気なくテーブルの上の食器を安全な位置にずらしながらささやいたブラダマンテ・アモーネ・クレルモン(ぶらだまんて・あもーねくれるもん)の言葉にソフィアは頷いてみせる。 「あの時は長曽禰殿と決着が付けられなかったが、その勝負受けよう」 ソフィアの言葉にグロリアーナは満足げに頷くと、ソフィアに手袋を放った。 「はあっ!」 「っく! やあっ!」 それを合図にソフィアは剣を抜くとそのままの勢いで切り掛かる。 グロリアーナは受け止めると、刀筋を横へとはじきそらした。 二人の激しい剣戟を、周囲は息を止めて見守る。 事前に予定していた通りの動きがメインではあったが、御互い剣の心得があるという事を活かし、殺気を抑えつつも手を抜いていると思わせない様な力強い剣戟が続く。 「これで、誘われてくれれば良いが」 「そなたの話を聞く限り、刺客も相当の手練れであろう。この隙をつかぬはずはあるまい」 「そうだな」 お互いが剣を押し合う際に軽く会話を交わす。 予定通りとはいえ、一歩間違えればどちらかが怪我をしかねない作戦であるため、互いに集中力を高めながら剣を交わしてゆく。 ただでさえ腕の立つ二人のやり取りは迫力を保ったまま終盤へと進む。 ブラダマンテは二人の様子をしっかりと見つめている様に見せかけつつ、どこから刺客が現れても対処できるよう、様々な方向に意識を集中させていた。 「ゆくぞ!」 口の動きだけでそう伝えてくるグロリアーナに、ソフィアも目で頷き返す。 「はっ!」 踏み込んできたグロリアーナの動きを交わし、ソフィアが下段から切り上げる。 そこをグロリアーナが巻き込むと、ソフィアの刀を真上に飛ばし、ソフィアに剣の切っ先を突きつけた。 『奥の窓!!』 「ソフィアさん! 窓です!」 その瞬間、円の報告を受けたロザリンドが、武器を構えた美羽と共に窓に向かって走りながら叫ぶ。 ほぼ同時に、窓を突き破ってドラゴンに乗った男が会場内に突っ込んできた。 ロザリンドが椅子を振り回して見事にガラスの破片を払うと、ケーキやデザートに使っていたナイフやフォークを掴み、次々と投げる。 うまく窓付近に固まったガラスに、すかさずコハクが取り去ったカーテンを被せて怪我人が出ないように対処する。 「龍騎士か!?」 鉄心が驚きの声を上げる。 と、会場前方にあったテーブルのフライドチキンの山が崩れ落ちた。 「私を食べて!!」 響いた叫び声に全員が思わずそちらに気を取られる。 「せっかくソフィアお姉さまが可愛い女の子たちと合コンして、ハーレムを築きたがっていらっしゃるのに、それを邪魔するなんて!」 「……恥ずかしい……はぁ……」 フライドチキンの下に隠れていたレオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)とクレア・ラントレット(くれあ・らんとれっと)の姿は胡椒と油でなかなか大変なことになっていた。 「びっくりした!! 正直龍騎士よりこっちのがびっくりした!!!」 「ソフィアちゃん!」 「あ、ああ」 呆気にとられていたソフィアだったが、ナディムとセリーナの声に我に返った。 「美羽!」 「うん!!」 コハクが刺客の周囲の重力を操った瞬間に、美羽が二丁拳銃で射撃を行った。 「ソフィア殿!」 綺麗に床に刺さったソフィアの剣を素早く抜くと、ブラダマンテはソフィアに剣を渡す。 「ありがとう」 とっさに、刺客とソフィアの一直線上に立ちはだかっていたグロリアーナは、ソフィアがブラダマンテから剣を受け取ったのを確認すると、軽く目で合図してから刺客へと飛び込んでいった。