校長室
【ぷりかる】トラップティーパーティーへの招待状
リアクション公開中!
「可愛い後輩に手出しするような輩だ、遠慮なくぶっとばしてやれ!」 「ええ。口はきける程度に、ね」 シリウスの言葉にリーブラは頷く。 「効かないみたいだな」 子守唄を試してみたが、思うような効果が得られず、シリウスは軽く舌打ちをすると、刺客の攻撃や流れ弾からソフィアをかばうように、行動を切り替えた。 「どうりで姿が見えないと思ったら……そんなところにいたのか!」 刺客からの攻撃を避けながらソフィアは、レオーナとクレアに駆け寄る。 「ああ! お姉さま! 大丈夫です。あの悪い奴は私とクレアでタコ殴りにして、お姉さまのハーレムのために頑張ります!」 「は?」 「すみません。すみません。レオーナ様がどうしても、ソフィア様を和菓子で守りたいとのことで……」 「和菓子!?」 「お姉さま!」 クレアの説明に驚くソフィアに、レオーナが強い口調で呼びかける。 「あなたは死なないわ……和菓子が守るもの」 レオーナは淡々とした口調で、妙なキメ顔でそう言い切る。 「ですから、レオーナ様、そのような柔らかいもので盾になるのは自殺行為です」 「大丈夫! 守れるよ!!」 そのままソフィアと刺客の間にかるかんを携えて進み出たクレアにレオーナは頭を抱えると、とっさにかるかんに氷術をかけ、気持ちばかりでもある程度の攻撃は防げるように対処する。 「なんでよりによってまたえらく防御力弱そうな菓子選んでんだよ!!」 「おっしゃる通りです……ですが凍らせましたのでかろうじて致命傷は避けられるかと思います。恐らく……」 「あんな小さい菓子でか!?」 「なんというか……今日のナディムは非常に頼もしいな」 「良かったわ」 ソフィアの言葉にセリーナが嬉しそうに微笑む。 「うわあああああああああああああっ!」 と、刺客が剣でかるかんごとレオーナを吹っ飛ばした。 「レオーナさん!」 「シリウス!」 「任せときな!」 クレアの声とソフィアの声が重なる。 シリウスはすぐさま倒れたレオーナに駆け寄ると、クレアと共に外に運び出す。 彼らに攻撃が及ばないよう、リーブラは刺客とシリウスたちの直線状に様々な物を投げて射程を塞ぐ。 「はあっ!」 「彫像!?」 かなり重いはずの彫像を軽くブン投げたリーブラにソフィアが思わず声を上げた。 「あら? わたくし何かしましたかしら?」 「い、いや、なんでもない……」 きょとんとした表情のリーブラにソフィアは首を振るとすぐさま刺客へと向き直った。 刺客がソフィアに槍を構えるのを見て、セリーナはとっさにソフィアの周りに花びらを散らし防御のための壁を作る。 その隙に、刺客の斜め後ろからナディムが剛腕の強弓を放った。 「よしっ!」 シリウスたちがドアにたどり着く瞬間、円が外からドアを開け放ち、誘導する。 4人が外に出ると再びすぐさまドアを閉じ、固くロックをかけた。 「離れた場所で手当てしたほうがいいね」 「そうだな」 「すみません……」 「あなたは……和菓子が……守……」 シリウスとリーブラがレオーナを抱えると、クレアとともに手当ができそうな場所へと向かうのだった。 「どんな理由であれ、俺の友を襲おうというのなら、覚悟してもらおうか……!」 会場にエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)の声が響く。 驚いて全員の意識がエヴァルトに向いた瞬間を狙い、素早くソフィアの元へ移動する。 「アントニヌスさん、失礼するぜ」 「……っ!!」 早口でそう伝えると、エヴァルトはソフィアを抱えて飛び上がる。 「今だ!」 刺客がソフィアを追って目線を上に向けた瞬間、エヴァルトが合図を出した。 「よそ見しちゃダメですよ〜!」 そこにヴァーナーが刺客へと体当たりをかますと、そのまますぐに刺客から距離を取る。 予想しなかった衝撃に、刺客が剣を取り落しそうになり、慌てて持ち直した。 そこにさゆみがスモークを焚き、刺客の視界を塞ぐ。 連携してアデリーヌが刺客の顔を狙って雷術を撃ち込んだ。 「おねえちゃんたち、さすがです〜」 二人の息のあった連携攻撃にヴァーナーが興奮したようにぴょんぴょん飛び跳ねる。 「刺客は一人か?」 「ああ、恐らくな」 「いったん外に避難するか? 今のメンバーなら、あの刺客を潰すのも時間の問題だろう」 「……いや」 飛び上がっていたためスモークから逃れたエヴァルトが、そのまま刺客の標的であるソフィアを外に逃がそうとするが、ソフィアは静かに首を振った。 「だが、あの龍騎士の目的はアントニヌスさんだろう?」 「ああ、だからこそ、逃げるわけにもいくまい。皆には協力を頼んでいるだけであって、私の護衛を頼んだわけではないからな。これで、そなたには伝わるだろう? 本来なら、巻き込むべきですらないのだ……甘え過ぎだな……」 「分かったよ。じゃあ、降ろすぜ!」 後半は小声過ぎて聞き取れなかったものの、ソフィアの意図を汲んだエヴァルトはスモークから少し離れた地点に降下し始める。 「頼む!」 エヴァルトが丁寧にソフィアを床へ降ろすのとほぼ同時に、スモークからよろよろと刺客が逃れてきた。 「基本的にこのパーティーそのものは、ソフィア様を狙って現れる刺客をおびき寄せる為のものですものね……つまり、暴れて良し!という事ですわ、アグラヴェイン。今回は、ソフィア様と一緒に少々ほこりを立てたと致しましても、文句は言わせません事よ。すでに彫像が飛んで、スモークも吹き出していることですし」 「お嬢様、ソフィア様、今回は犯人を捕らえる事が目的で御座います故、少々手荒い事になるのは避けられぬと思いますが、百合園生徒ととして優雅さをお忘れにならぬよう……」 この混乱の中、少し離れたテーブルで優雅にティーカップを傾けていた白鳥 麗(しらとり・れい)と、その後ろに控えるサー アグラヴェイン(さー・あぐらべいん)の姿にソフィアは目をみはる。 「見習うべき冷静さだな」 「あら、ソフィア様。わたくしたちのパーティーはこれからですわ」 麗はにっこりと微笑むと、片手で優雅にカップを口元に近づけながら、もう片手で近づいてきた刺客にストマッククローをかます。 「こちらのお菓子も良い香りですわ」 一かけら口に運んだクッキーの甘さを楽しみつつ、そのまま4の字固めへと転じる。 「それにしましても、もうすっかり秋ですのね」 頬杖をついて、物憂げに窓の外を眺めながら、頬杖をついた手の肘で動きを封じた刺客の首の痛いツボをぐりぐりと押した。 「あれは……痛いな……」 もはや同情するような目つきでエヴァルトが呟く。 「ふっ……。完璧ですわ。なんと優雅なティーパーティー。そうは思いません? ソフィア様」 「あ、ああ、確かに、完璧だな」 「うふふ。あら、アグラヴェイン? こめかみを押さえて苦悶の表情を浮かべておりますが、風邪ですの?」 「……。……いえ、もう、私ごときが口を出せる次元はとうの昔に終わっていたのだな、と……」 「よくわかりませんけれど、皆様に移さない様に気をつけなさいな」 「……はい、かしこまりました」 ソフィアは麗が押さえつけている刺客の手から武器を奪うと、自らの剣の切っ先を突きつけた。 「貴様、目的は何だ?」 「……くっ……すでにこんなにもお仲間がいらっしゃるとは……」 刺客は悔しそうにうめき声をあげた。 「ソフィア!」 「無事!?」 と、ドアが凄まじい勢いで開かれ、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)とルカ・アコーディング(るか・あこーでぃんぐ)が同時に声を上げながら飛び込んできた。 「ああ、この状態だ。そろそろ自警団が到着する頃だろう」 切っ先を刺客に向けたまま、ソフィアが二人のほうを見て頷く。 「そっかぁ。ソフィアとのパーティーちょっと楽しみだったんだけど。ま、片づけに間に合ったし良しとしますか!」 「しょうがないよね」 ルカルカの言葉にアコがうんうんと頷く。 「とはいっても、ルカはちょっちする事があるのよね」 「あ、サボリだー」 「す、すぐ済ますから! ソフィア、ちょっとこの人借りるね」 ルカルカは動きを止められている刺客の目の前でしゃがみこむ。 「ねえ、自分の意志でソフィアを狙ったの? あるいは、誰に、何の目的で依頼されたのかな?? 優しく話しているうちに素直に教えてくれると嬉しいなあ」 笑顔で口調こそ明るいが、一切目が笑っていないその様子に、緊張感が走る。 「ルカが優しく話してるうちに答えた方が幸せになれるよ。でないと……、話したくても喋れなくなるもん」 「いいから、アコはサイコメトリ!」 「はいはーい」 同じく笑っていない目で楽しそうに話しかけたアコに、ルカルカが指示を飛ばす。 刺客の剣や槍、身にまとっているものなどを次々にサイコメトリしていく。 「うーん。とにかく強い殺気。それだけだね」 アコが残念そうにルカルカに伝える。 「「やっぱ本人に聞くしかないってことだねっ」」 二人の声が重なった。 「ルカルカはぁ、聞き分けの悪い子にはおしおきしたくなるのよね」 ルカルカの声が凄みを増す。 「何が目的だ?」 ソフィアも、剣を下さないまま刺客に問いかける。 「……ここまで、か……っくっ!」 「しまった!!」 ガクッと刺客の全身から力が抜ける。 「「舌噛み切った!?」」 ルカルカとアコの声に、エヴァルトが駆け寄り刺客の様子を見る。 「ダメだな」 「そうか……」 ゆっくりと首を振ったエヴァルトにソフィアは静かに答えた。 「ルカルカ、悪いが運び出してもらってもいいか? 自警団が回収してくれるはずだ」 「うん。任せて」 ルカルカとアコが刺客を担ぎ上げるとドアのほうへと向かう。 「この潔さは従龍騎士か……」 ソフィアが何かを確信したかのように呟いたその言葉は、ざわざわとした会場内で誰の耳にも届かなかった。 「皆、協力感謝する。巻き込んでしまってすまなかった」 「ソフィアだけの問題じゃないよ。皆で協力して解決すればいいんだよ」 苦しげな表情で頭を下げたソフィアに、戻ってきたアコが声をかける。 周囲にいたメンバーたちも皆一様に頷いていた。 「ありがとう……皆のおかげで今回の件も片が付いた。皆気を付けて帰ってくれ」 ソフィアに言葉をかけながら、皆順々に帰路につくのだった。