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リアクション
村長の家の応接間に、女性が佇んでいる。
女性は腕に、力なく目蓋を閉ざす血の気のない乳児を抱いている。
「残念じゃが、その子は――リュイシラは、もう生きてはおらぬ……」
「そう、ですか……」
今よりもだいぶ若い村長は、項垂れた女性に対してどのように声を掛けたらいいのか、考えあぐねるように視線を彷徨わせた。
「……村長、その子は?」
女性は、応接間の隅に置かれた籠の中に眠る乳児に目を留めた。
「隣の村からの帰り道、ツァンダ東の森に近いあぜ道で、この籠に入れられて捨てられているこの子を見つけたんじゃ。見捨てることもできずに連れてきたんじゃが……」
女性はしばらく、眠っているその子供を見ていた。
「お願いします――どうか、その子を私のリュイシラにしてくれませんか」
村長は目を見開いた。
「無茶なことを言っていることは分かります。それでも、どうか聞いてくれませんか」
「じゃが、しかし……」
村長は黙り込む。
「……この子は、貴女にもご主人にも似ないじゃろう」
「構いません。私は失ってしまった我が子の分まで、この子を本当の子として愛し育て続けます」
女性はまっすぐな目で、村長を見つめていた。
もう一つ、映像が流れ込んできた。今度は嵐の夜のようだ。落雷の音が辺りに木霊する。
「あの子は、呪われた子として捨てられた私の娘です。この子は生まれつき、人並み外れた魔力を有しておりました。
そのため、魔力が暴走して村を壊滅させるのではないかと恐れられ、村人たちから捨ててくるよう脅されて手放したのです」
村長とリュイシラの母の前に、大柄な男が立っていた。
「――そんな」
「決して彼女に、彼女自身が獣人であるということを伝えないで下さい。そして、決して彼女を心の底から怒らせてはなりません。
……私は、あの子を善意で拾ってくれたあなた方に感謝しています」
男は再び隠れ身をすると、風のように倉庫を出て行った。
「……貴女は素晴らしい育て方をした。リュイシラが素直ないい子に育ったのは、貴女のおかげじゃ」
沈黙を破ったのは、村長だった。
「いいえ……一度でもあの子を本気で怒らせてしまったら、この村を滅ぼしてしまうかもしれないでしょう」
どこか疲れたような表情で、リュイシラの母は呟く。
「そんな不確かな未来を悲観するべきではない」
「私は――私はリュイシラを本気で愛してきました。けれど、もう愛せない」
リュイシラの母の声は、微かに震えていた。
「たった一度の判断ミスで、自分の命だけならまだしも、何十人という人の命を奪ってしまうかもしれない……」
「貴女が信じてあげなければ、誰がリュイシラのことを信じてあげられるというんじゃ」
「…………」
「貴女は、そんな安易な考えでこの子を娘にしたのかね?」
「……はい。安易な考えであの子を娘にした私が、全て悪いのです」
リュイシラの母は村長の顔を見ることさえなく、部屋を飛び出して行った。後に一人残された村長は、黙ってその背中を見つめていた。
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