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再び、みんなで楽しく? 果実狩り!

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再び、みんなで楽しく? 果実狩り!

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『歌姫で、魔法少女で』

「おーい、豊美ちゃーん! ボクも魔法少女になりたいんだけど、いいかなぁ?」
「はーい、いいですよー。……なるほど、【魔法少女アマテラス】ですかー。とても素敵な名前だと思いますよー」
 赤城 花音(あかぎ・かのん)の呼びかけに応じた豊美ちゃんが、希望する魔法少女名を耳にして感想を口にする。
「ボクは魔法少女になっても、歌で多くの人に“希望”を灯す、その夢は変わらず持ち続けたい。そのためには歌を歌うこと、他人を思うことはもちろん大切だけど、自分の身は自分で守ることも大切だと思うんだ。そうすれば、今まで踏み出しにくかった多くの困難へ立ち向かうことが出来る。ボクはそうやって、険しいかもしれない道を進むことで夢見た世界へ辿り着きたいんだ」
 これまでの自分は、歌うことに関しては一定の成果を挙げていると思う。けれどそれは、周りの人たちが自分を守ってくれたから為せたこと。
 せめて、自分の身は自分で守れるくらいの力は、身につけたい。その上で歌を歌って、絶望に打ちひしがれる人へ『希望』を届けたい。
「わー、花音さん、勇ましいですー。私も花音さんの姿勢は、見習うべきですねー。
 分かりましたー、今日から花音さんを魔法少女として認定しますねー」
 花音の姿勢に感銘を受けた様子で豊美ちゃんが頷いて、手のひらにパッ、とメモ帳のようなものを出すと、そこに花音の名前と【魔法少女アマテラス】を書き留める。
「ありがとう、豊美ちゃん! これからよろしくお願いします♪
 思ったんだけど、歌姫と魔法少女の組み合わせってイケそうじゃない? 二人が手を組んだら凄い力が発揮できそうな感じ!」
「歌姫と魔法少女ですかー、考えませんでしたけどなんだか楽しそうですー。魔法少女でアイドルの方もいらっしゃいますし、確かにその通りかもしれませんねー。
 組み合わせるって、ユニットを組むってことでしょうか?」
「うーん、歌姫だけど魔法少女、って感じかな。歌姫と魔法少女でユニットってのも楽しそうだけどねっ♪
 さ、この話はこれでおしまい! 今日は果実狩りをめいっぱい楽しむよっ!」
 そう言って、花音が果実の実る場所へと駆け出していく――。

「花音、僕はこのゴミを一旦捨ててきますね」
「あっ、うん。ありがと、リュート兄」
 生ゴミと可燃物と不燃物とをしっかりと分別して、リュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)が袋を手に花音たちの元を離れる。するとウィンダム・プロミスリング(うぃんだむ・ぷろみすりんぐ)が花音の傍に寄り、
「ところで……花音、リュート兄の事は、どうなの?
 と尋ねてくる。ウィンダムの言う『どう』の意味を理解している花音が、視線を気持ち下に落として答える。
「ゴメンね……ボクは、まだ……リュート兄さんを男性と意識する事ができないんだ。
 兄さんの、『兄さんらしさ探し』は、手伝いたいって思ってるけどね」
「うーん、そっか。うん、花音がそう言うなら、私は花音の意思を尊重する。
 ……でも、そうね、花音にその気が無いなら……私もアプローチしようかしら? なんだかんだ、イケメンだし!」
 ふふっ、ウィンダムが微笑んで直後、「なぁ〜んてね♪ 私のタイプは……燻し銀なおじ様よ。ふふふ!」と訂正する。今頃リュートはクシャミを連発しているかもしれない。
「えっ? ウィン姉の好みは、素敵なオジサマなの?」
「記憶する限りでは初耳ですけれどね。……それはそうと、『炎龍レンファス』の件では、姫は見事でした。
 私としても非常に面白い体験ができたと思いますよ? それでこそ、契約をした意味があったというものです」
 申 公豹(しん・こうひょう)がその場に加わり、『炎龍レンファス』を鎮める際に大きな役割を果たした『アヴァロン』を評価する。
「申師叔の雷公鞭は強力だから……。対処を考えるのに、無言のプレッシャーがあったね」
「おやおや。それではまるで、私がとても恐ろしい人のように聞こえるではないですか。
 ですが、姫もこれで選択の幅がひろがったのではありませんか? これまでは正直言うと、自身を守ることも危うかったわけですから」
「うっ……改めて言われると、それなりに痛いなぁ。
 でも、そうだね。これから頑張っていけば、どうしようもない戦いを止めて、交渉の場に持って行く事だって、出来るかもしれない」
 『戦いを終わらせるために』『戦う』ということが、これからの努力次第では可能になるかもしれない。それがもし実現できるとするなら、素晴らしいことだと思う。
「私も、自分の力がまだまだだって思い知らされたわ。だからね、回復の術を覚えてみたの。これで『チーム花音』の応用力は高まったと思うわ」
「私も、未熟ぶりを露わにしてしまいました。今後はより一層気を引き締め、事に当たりたいと思います」
 ウィンダムと公豹がそれぞれ、反省点とこれからの課題・成果を口にし、思いを新たにする。
「うん、みんなで頑張っていこう!
 とりあえず今日は、果実をたくさん採って、たくさん楽しもう! ……あれ、なんか忘れてる気が……」
「……それは僕のことでしょう、花音。三人で盛り上がって、一人仲間外れ感を味わいましたよ……」
 花音が振り返ると、リュートの哀愁ただよう顔がそこにあった。
「ああぁ、リュート兄、落ち込まないで! ほ、ほら、あっちに葡萄がたくさんなってるよ! 一緒に採りに行こう!」
 ともすればそのまま沈み込んでしまいそうなリュートを花音が引っ張り上げ、そして一行は果実狩りに勤しむ。


『過去は過去として存在する、忘れられなくても私は、歩き出す』

「あ、アーデルハイト様っ。ええと、この前の熱気を防ぐお薬……よ、よかったらまた頂けませんか?
 レンファスさんにも、ここの果実を届けたいと思ったので……」
「おぉ、そうかそうか。うむ、そういう事なら分けてやろう。
 レンファスの方も、自分を来訪する者が居れば対応する、と言っておった。是非行ってやって、色々話してやってくれ」
 高峰 結和(たかみね・ゆうわ)の申し出を、アーデルハイトが快く了承する。メイルーンが『氷雪の洞穴』を訪れる契約者に便宜を図っているように、レンファスも『煉獄の牢』を訪れる契約者に便宜を図ってくれるとのことであった。
「レンファスさんに届ける分もあるから、頑張って収穫しないとだね。
 あ、アリルディスさん、ここの果実を使った料理でおすすめとかあります?」
 話を振られ、占卜大全 風水から珈琲占いまで(せんぼくたいぜん・ふうすいからこーひーうらないまで)が思案して、そして答える。
「梨ならやっぱりコンポートかねぇ、ゼリーにしてもいいし。あー、でも栗羊羹とかも作りたいし。
 炎龍とやらに持ってくなら、葡萄で焼き菓子のがいいかね?」
「うーん、レンファスさん、何が好きなのかな。何でも食べてくれそうな気もするし……」
 思案する結和の視線が、アンネ・アンネ 三号(あんねあんね・さんごう)を捉える。どうもここに来てから、表情が沈んでいるような気がした。
「えっと……三号さん? どうしました?」
「あっ……ううん、なんでもない」
 明らかに何でもないわけがない、そう思いつつもなんでもない、と口にする三号に、結和は何も言えなくなる。
「まーたおっ前は暗い顔しやがってえええ」
 するとアリルディスが、三号の頬をぐりぐりとやる。
「……な、何故? てっきりこういう場合、一発殴るものかと」
「ああん? 殴ると俺の手の方が痛ぇんだよ!
 どうせお前のことだから、『過去を思い出す』ってぇのにあてられて、この前のこと思い出しちまってんだろ?」
「、…………」
 的を得た指摘に、三号は目を逸らして俯く。三号が思い出していたのは、自分の過去について語った『彼』との事。
 今でも、過去に自分が何をしたのかはハッキリと分かっていない。けれど、自分がとても恐ろしいことをしたのではないかという恐怖があった。
 自分はまた、過去の過ちを繰り返すのではないか――そう思い、一度はパートナーと別れることさえも考えた。
「暴走だか性質だか性癖だか知ったこっちゃねぇけど、お前が変なことする前に、俺が察して止めてやるっての!
 いいかぁ、俺の占いナメんなよ? 当たるのはオメーも知ってるだろうがっ」
 乱暴ではあるが、三号のことを心配し、そして信頼しているからこその言葉に、三号はともすれば永遠に落ちていきそうな闇から救い上げられたような気持ちになる。
 結和が、アリルディスが見守る中、三号は顔を上げ、先程よりは元気を取り戻した顔で言う。
「……僕はやっぱり、忘れている過去だからって、知らないふりはできない」
 ――それが、人を傷つけた過去なら尚更、見て見ぬふりはできない。
   だけど何より大切なのは、『今』の仲間たち。その為に今を犠牲にすることはできない――。
「僕はみんなと、生きていきたい。だから……手伝って、くれないかな」
 ――一人で背負い込むと、それがきっと優しい皆を傷つけるから――。
「……だめだな、なんか矛盾してる――」

「ええ。勿論ですっ」

 自分の言葉を否定しようとした三号の言葉を遮り、結和が笑みを浮かべて告げる。
「えっ……結和、いいの?」
 思わず尋ねた三号へ、結和がもう一度「勿論です」と言って、続ける。
「三号さんを辛くさせているものを、私にも共有させてください。私と三号さんはパートナーなんですから、沢山のことを共有しましょう。
 辛い思い出も。そしていつか、楽しい思い出で塗り替えられるようになるまで」
 結和の言葉に、アリルディスも同意するように頷く。
「結和ちゃんと俺が協力するって言ってんだ。素直に受け取っとけよなー」
 もう一度、頬をぐりぐりとやられた三号の顔に、ようやく笑みが戻ってくる。
「……ありがとう。二人のおかげで、一歩を踏み出せそうな気がする」
 ――過去を探るのも、楽しむのも。今を一緒に歩んでいきたい――。
「じゃあ、もっと沢山果物採りますよー! 三号さん、帰ったらお料理教えてくださいね?」
「おっ、結和ちゃんやる気だねー。じゃあ俺も頑張っちゃおうかなー」
 声を上げた結和に、アリルディスが続く。一歩を踏み出した三号の脳裏に、かつて十年後の自分にメッセージを送った時の事が蘇る。
 ――仲間を大切にしていきたい。絆を守っていてほしい――。
「……今からでも、もう一度」
 誓うように呟き、二歩、三歩と足を動かし、三号は二人に追い付く――。


『かわいい子は正義!』

「フロウちゃんが可愛いと聞いてやって来ました!
 ミーナはかわいい子が大好きです! 大事なことなので二回言います、かわいい子が大好きです!!」
 ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)が声高に宣言すると、葡萄の森へフロウに会いに向かう。しばらく歩いた所で黄緑色の髪をした女の子を見つけるが、女の子は人の気配にびっくりして隠れてしまう。
「ふろうちゃん、かくれちゃいましたよ? みーな、わるいことしましたか?」
 フランカ・マキャフリー(ふらんか・まきゃふりー)が尋ねるのを、ミーナは全力で否定する。
「してないよ! 多分ミーナたちがいきなり出てきたから、びっくりしたんだよ。
 ……フロウちゃん、ミーナとフランカと、遊ぼっ?」
「…………そー」
 しばらくして、隠れていた所からフロウがちょこん、と頭を出す。その仕草が可愛くて思わず飛びつきたくなるのを抑えて、辛抱強くフロウがやって来るのを待つ。
「……フロウ、です……」
「ミーナだよ! はぁ……フロウちゃんホントかわいい……頭をなでてあげたくなっちゃう」
 うっとりとしながら、ミーナが『なでたい』と言った時には既に撫でていた。一瞬ビクッ、と身体を震わせるフロウだが、ミーナの愛しいものを愛でるような手つきにくすぐったそうな、それでいて嬉しそうな表情を見せる。
「ふらんかは、ふろうさんのほっぺをぷにぷにするのです」
 人差し指で、フランカがフロウの頬をぷに、と突付く。ひゃっ、と小さく驚いた声を上げるフロウだが、つん、つんつんと何度か突つかれているとこちらも身体をもじもじさせ、くすぐったそうな仕草を見せる。
「これも、かじつがり、なのですかねぇ?」
「こんなかわいい子を狩れるわけがないっ! というわけで、果実狩りは始めてないけど終了! 今からフロウちゃんをかわいがる時間に移行します!」
「さんせ〜い。ふろうちゃん、ふらんかのほっぺもぷにぷにしていいのですよ」
「……えっと……じゃあ……」
 ぷに、フロウがフランカの頬を突付く。するとフランカの口に甘酸っぱい感覚が呼び起こされる。
「あまくておいしいあじがするのです〜」
「え、ちょ、ちょっとそれどういうこと!? ミーナにもやって!」
 ミーナが頬を突き出すのを、フロウがぷに、と突付く。
「あっ、ホントだ! 葡萄の味がする! フロウちゃんってやっぱり葡萄なんだね」
 ミーナの言葉に、フロウがこくり、と頷く。
 ……それから三人は、それぞれをつつき合ったり撫であったりして楽しんだのであった。