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リアクション
『ナベリウス、果実狩り? を楽しむ』
「ほら、あっちにもこっちにも、美味そうな果実が実ってるぞ」
「おー、なんかいいにおいがする〜! モモ、さっそくとりにいこう!」
「わぁ、ま、まってよサクラちゃんっ」
神条 和麻(しんじょう・かずま)が示した果実の宝庫へ、魔神 ナベリウス(まじん・なべりうす)のサクラがいの一番にすっ飛んでいき、その後をモモが慌てて追いかける。
「そんなにはしったら、あぶないよ〜! ……きいてないよね、うん」
一人、ナナだけが後を追わず、二人に周りを見て行動するように注意する。今までは何をするにも三人一緒だったのが、『ザナドゥ魔戦記』、その後の契約者との触れ合いを経てそれぞれに違いというか、個性が出るようになっていた。ナナが三人のお姉さん役で、サクラが一番無邪気で無鉄砲。モモは二人の間に立っている感じだ。
「ナナも行ってきたらどうだ? こういう時は三人揃って、めいっぱい遊んだ方が楽しいと思うぞ」
「……うん、そうだね。じゃあ、いってきま〜す!」
和麻へぶんぶん、と手を振り、ナナが先行した二人を追ってゆっくりと走る。でも三人揃ってしまえば、後は外見の違い以外は三人を見分けるのは難しくなる。
「おいしい〜。ねーねー、モモのもちょっとちょうだい」
「いいよ〜。ナナちゃんもたべる?」
「うん、たべる〜」
樹の下に三人仲良く座って、採ってきた果実を分け合って食べる。微笑ましい様子の三人を、和麻が少し離れた場所から見守る。
「あの三人が精神的にも大きくなるまでは、俺はあいつらの兄貴分なのさ。
……まぁ、何年掛かるか分からないけどね」
それからしばらくしていると、視界がぼんやりとし始める。昼間ともなれば降り注ぐ日差しで適温となり、穏やかな雰囲気も重なって絶好の昼寝空間を生み出す。
(あー……少しだけ、休むか……色々あったしな……)
そう思う頃には、既にすやすや、と寝息を立てる和麻だった――。
(ナベリウスさんたちも来ているのですね。一度は仲違いさせられた三人ですが、無事に再会出来て何よりです。俺も少しばかり、役に立てたようで)
ナベリウスも今日の果実狩りに来ていることを知った鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)が、『ザナドゥ魔戦記』最後の戦いの時を思い返し、無事に三人が再会できてよかったなぁ、と思う。
(俺のことを覚えているか分かりませんが、少し話をしてみましょう……って、あれ? 房内の姿が見えませんね……)
はたと、隣に居たはずの医心方 房内(いしんぼう・ぼうない)の姿がないのに気付く。貴仁の脳裏にとても嫌な想像が駆け巡る。
「何をするか分かりません。何かする前に捕まえないと」
もし何かしていた時はお仕置きしてやらなければ、そう思いながら貴仁が農場を、房内を探して駆け回る――。
「おぉ、懐かしい声が聞こえたと思えば、ナナモモサクラの魔神ナベリウスではないか」
貴仁が自分を探していることなど知らず、キャッキャと遊ぶナベリウスを見つけた房内の脳裏に、かつてモモとサクラに楽しい遊びと称して、『スカートめくり』と『ブラのホック外し』を教えた記憶が蘇る。
「あの時はモモとサクラだけじゃったからな。折角の機会じゃ、ナナにもこの楽しい遊びを教えて共に楽しもうぞ」
むふふ、と顔に笑みを浮かべ、房内が三人へ声をかける。
「久し振りじゃな。のぅ、三人とも。楽しい遊びをわらわとするつもりはないか?」
「たのしいあそび……? あっ、おもいだした! うんうん、あれはたのしかったね〜」
「あとでめいっぱいおこられちゃったけどね〜」
「えっ、なになに? ていうかおこられちゃうことって、ダメだよそんなこと」
モモとサクラは思い当たるものを思い出したらしくうんうんと頷き、ナナだけが何も知らず二人を交互に見つめる。
「モモ、サクラ、折角じゃからナナに教えてやったらどうじゃ?
さて、誰を相手にするかだが……うむ、向こうに捲りがいのある子が集まっとる気配がする! 行くぞ皆の者!」
「お〜!」
「おー」
「え、えっと、おー……」
三者三様の反応を返すナベリウスを連れ、房内は自らのカンが示す場所へと向かう。
……そこでは何故か、止まない風と晴れない霧が立ち込めていた。
「今日はお散歩気分で、のんびりと警備……ととと、そんなこと言っていたら早速異変発見ですっ」
ウィノナ・ライプニッツ(うぃのな・らいぷにっつ)、ウィルヘルミーナ・アイヴァンホー(うぃるへるみーな・あいばんほー)と、昔ここで『ハッピー☆シスターズ』として活動したことを思い返しながら見回りをしていた広瀬 ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)が、平和な空間に突如発生した強風と霧の空間を見つける。
「霧と強風が共存しているなんてこと、通常では絶対あり得ません。……となれば、契約者の誰かの悪巧みに他なりません」
「ファイ、被害が広まる前に、この悪巧みの首謀者を見つけて懲らしめるわよ!」
「うん! ウィノナママ、ウィルちゃん、『ハッピー☆シスターズ』、出動だよっ!」
ファイリアを中心に、ウィノナとウィルヘルミーナが脇につき、『ハッピー☆シスターズ』の名乗りを上げる。
「ハッピー☆シスターズ次女、ハッピー☆メイド!
不幸と悪事を綺麗に掃除してあげるですっ!!」
「ハッピー☆シスターズ長女、ハッピー☆ウィッチ!
不幸と悪事を微塵に吹き飛ばすよ!」(きょ、今日は誰も、年増なんて言ってこないわよね?)
「ハッピー☆シスターズ三女、ハッピー☆ナイト!
不幸と悪事からすべてを防いで守り抜く!」(あれ? こんなセリフでしたっけ? ……いや、それよりも、久しぶりに着たこの衣装、やっぱり恥ずかしいですー。また覗かれたりしないでしょうか……?)
名乗りを決めた三人は、事件を解決するべく霧と強風の中へ飛び込んでいく――。
「止まない風に晴れない霧……今の私にピッタリですぅ。
私は台風ですぅ。どうせ私に構ってくれる人なんて誰も居ないんですよぅ。私にはこの椅子だけがお友達ですぅ」
止まない風と立ち込める霧の中、額に『悪』の一文字を刻んだエリザベート……のような全然そうでない不動 煙(ふどう・けむい)が、エリザベートが校長室で座っている椅子を模したものに縋りつく。
「そんなことないよ! ほら、僕がいるじゃない! 僕と一緒に、一生覚めない夢を見よう?」
そこに、誰かは分からない――実際は不動 冥利(ふどう・みょうり)――声が聞こえ、濃霧で微かに人影と分かる程度のそれが煙@エリザベートへ重なる。
「あ、ありがとうですぅ。あ、あなたの言う事なら私、何でも聞いてやるですぅ。
……えぇ? そ、そんなのダメですよぅ……うぅ、あなたがどうしてもというなら、私……」
言って、スルスルと何やら服を脱ぐような音が聞こえてくる。残念ながら濃霧のため、多分お色気シーンであろうその場面はまったく見えなかったが。
「こ、これでいいですかぁ? ……えぇ? し、下も? ……あなた、私がいつも下を履いてないのを知ってて言ってますねぇ。
うぅ、意地悪ですよぅ……。でも……そこまで言うなら――」
「いい加減にしろやぁぁぁ!!」
何度か打撃音が聞こえ、コール・スコール(こーる・すこーる)によってフルボッコにされた煙が地面に転がる。
「……ねえ。何でこんな事になったのか分かるように説明出来る?」
「うーん? 確か煙にぃが「エリザベートに絡みたいですぅ」「ツンをデレにしてやるですぅ」って言ってた気がするけど?
後はなんか、イチャ☆イチャ空間作りましょ、って感じだったと思う! 多分!」
冥利の要点を得ない回答に、コールがやれやれと言いたげに頭を抱える。
「……で、これ、どうするの。
燃やす? サンドバッグにする? ゴミ捨て? それとも全部?」
「スミマセンー自重そろそろするので灼熱は死亡シマス。
お願いだから、嫌わないで下さい! 地祇に拒絶されたらどうすればぁ」
復活して縋りつく煙をとりあえず腹パンして黙らせた所で、二人はやって来る複数の気配に気付く。
「共産主義の原点、農業の聖地たる農場で悪さをするなど、もってのほかです!
見なさい、周りを! 作物が風で飛び、地面に落ちてしまっているではありませんか。同志フロウもこの事実をとても悲しんでおられました。
作物が機嫌を損ねて収量が落ちたら農家の皆さんにどうお詫びするつもりですか! 農作物の敵にこの美味しい果物を頂く資格はありません。
代わりに私が、とびっきりの謎料理を振舞って差し上げます!」
その場に駆けつけたマルクス著 『共産党宣言』(まるくすちょ・きょうさんとうせんげん)が、ビシッ、と指を突き立て言い放つ。彼女の後ろには魔法少女姿の藤林 エリス(ふじばやし・えりす)とアスカ・ランチェスター(あすか・らんちぇすたー)も控えていた。
「共産主義って何?」
「知らない、分からない、聞いたこともない!」
「胸張って言うことじゃないよ。……ゲス煙にはそもそも聞いてあげないから」
「えぇえ!! ちょっとそれ酷いじゃないですかぁ!? イジメないで煙にも聞いてくださいよぉ」
「…………共産主義って何?」
「分かんないですぅ♪」
「…………シネ!!」
再び、コールが煙をフルボッコにする。
「うーん、なんかよく分からないけど、とっても楽しそうだね〜☆」
「って、感心してる場合じゃないわよ。こうしてる間にも周りに被害出てるんだから。
甘美なる女の子の楽園で狼藉を働く不埒者は、魔法少女が許さない!
愛と正義と平等の名の下に! 革命的魔法少女レッドスター☆えりりんがお仕置きよ!」
魔法少女な名乗りを上げ、エリスがステッキを掲げれば、天空より隕石が喚び出される。
「大地に還して、果樹園の肥やしにしてあげる☆」
ステッキを目の前の集団へ振り、そこへ隕石が飛来する。
「お仕置きなんてイ ヤ イ ヤだ!」
「ゲスにはゲスなりの、最高の舞台を用意してあげる。ゴミ出しも出来て……一石二鳥だね」
冥利とコールが協力して、煙を『隕石の直撃による周辺の被害から救った功労者』という名の身代わりに仕立て上げる。
「あぁ、煙、皆の役に立てたんですね……嬉しい!
……なんて言うわけないじゃないですかぎゃああぁぁぁ!!」
悲鳴が聞こえた地点にファイリアたちが駆けつければ、隕石の直撃を受けた煙が無残な姿で地面に転がっていた。
「こ、この人がこの異変を起こしたのかな?」
「……違います、この人ではありません。おそらく別の者が――」
ウィルヘルミーナがそこまで言った所で、この場に現れた別の気配に身を硬くする。
「ほれ、大量じゃ! さあ皆の者、ブラを外せ! スカートを捲れ!」
「「わーい♪」」「な、なんか違う気がするー!?」
房内の指示で、モモとサクラがファイリア一行とエリス一行に飛びかかる。
「ちょ、ちょっと! なんてことするのよ!」
「や、やめてくださーい!」
身なりは幼女でも、ナベリウスはれっきとした魔神の一柱。彼女たちの動きを追うことは出来ず、一行は尽くブラのホックを外され、この強風でも捲れることのなかったスカートを捲られてしまう。
「うむうむ、良き眺めかな。これだからスカート捲りはやめられんのー」
至極満悦、といった様子で事の次第を眺めていた房内、だが途端に周囲の風と霧が止んだことで、自分の姿がファイリアとエリスに見られてしまう。
「…………」
「…………」
「お、おぉ……そんな怖い顔をするな、これは遊びじゃ、許してやってくれ――」
「「許すもんですかーーーっ!!」」
その後、房内はカンカンに怒ったファイリア一行とエリス一行に危うく燃やされかけたが、そこに貴仁が駆け付け誠心誠意謝ったことで、何とか焼却処分を免れた。
「おぉぉ……火、怖い……やめて近付けないで……」
自分からもお仕置きしてやろう、と貴仁は思っていたが、相当トラウマを刺激されたのかぶつぶつとうわ言のように呟く房内に、流石に可哀想になる。
(まあ……十分お仕置きを受けているようですし。楽しく遊んでもらおうという気持ちは理解できますし。
……エッチなことばかりしようとするのは理解しかねますが。もっと普通に遊べばいいと思うんですけどね)
そんな事を言っても、房内は「これがわらわじゃ」と頑として聞かないだろう。
とりあえずしばらくの間大人しくしていればいいか、今の所はそう思う貴仁であった。
一方ナベリウスの方も、事の次第を知った和麻にこってりと絞られ、反省の色を浮かべていた。
「やっぱりおこられちゃったね〜」
「でもおもしろかったよね〜」
「もう、おこられちゃったんだからちゃんとはんせいしようよ〜」
怒られはしたけれど楽しかった様子のモモとサクラを見、ナナがはぁ、とため息を吐く。
「おーい! ナナちゃん、モモちゃん、サクラちゃーん!」
そこに向こうから、西表 アリカ(いりおもて・ありか)が手をぶんぶん、と振ってナベリウスたちを呼ぶ。背後には無限 大吾(むげん・だいご)の姿もあった。
「ありかー! だいごー!」
ナベリウスたちも、スポーツを教えてくれた『たいせつなひと』に笑顔を浮かべ、駆け寄る。
「元気してた〜? この農場広いねー、みんなを見つけるのに結構歩いちゃったよ。
みんなは、もう一通り収穫した感じ?」
「あ、あはは〜……う〜ん、しゅうかくはした……よね? モモちゃん、サクラちゃんっ」
「う、うん、うん。しゅうかくしたよ〜」
「うん? しゅうかくじゃなくて、すかーとめくり――もごもご」
「あわわ、サクラちゃん、それはいっちゃダメっ」
慌ててナナがサクラの口を塞ぐが、時既に遅し。
「スカート……ちょっと、どういうこと? まさかみんなに悪いこと教える人が居たとか?」
聞いてしまったアリカに迫られて、ナナは事の次第を話す。
「おしえてくれたひとも、べつにわるいひとじゃないの。だからわるくいわないであげて」
「なるほど、そうだったんだ。……うん、ナナちゃんがそう言うなら、ボクはもう何も言わないよ。
モモちゃんもサクラちゃんも、いけなかったって反省してるんだもんね」
「うん。たのしかったけど、こまっちゃうひとがいるならもうやらないよ」
「おこられるのいやだもんね」
反省してます、という態度を見せる三人を見、大吾とアリカはこの件に触れるのを止める。ちゃんとナベリウスのことを気遣い、正しい方向に導こうとしている人が居ることを知れたことは、喜ばしくもあった。
「よし、それじゃあ、果実の収穫を始めようか。採れた果実はミリアさんに渡して料理してもらおう。
採れたての果実を使った料理は、きっと美味しいぞ」
「大吾は食いっ気だねー。でも、今回ばかりはボクも賛同。いっぱい身体を動かして収穫した果実を、その場で料理して食べるのって、最高だと思うんだよね。
だからナナちゃん、モモちゃん、サクラちゃん、頑張っていっぱい、いーっぱい採っちゃおうね!」
「「「うんっ!」」」
三つの声が重なり、そしてアリカの先導の下、四人は果実狩りに勤しむ。
「大吾ー、籠いっぱいになっちゃった。持ってくれる?」
「おう、任せておけ。
ナナちゃん、モモちゃん、サクラちゃん、毬栗をそのまま触ったりしないようにな」
「うん、だいじょうぶ〜」
一杯になった籠を引き受け、大吾がナベリウスたちの行動を見守る。ナベリウスたち三人はアリカの手ほどきを受けながら、果実を収穫していく。
「さ、果樹園の害虫も駆除したことだし、スイーツの時間にしましょ。
栗のモンブランと梨のゼリーとブドウのパフェ、旬のスイーツフルコースを堪能よ♪」
悪巧みを働いた者へのお仕置きを終え、エリスはアスカと『共産党宣言』……では堅苦しいので、『きょーちゃん』と採れたての果実を使ったスイーツを堪能する。
「勝利の後のスイーツの味はまた格別ね☆
……そういえば、こうしてあたしが魔法少女としての道を歩み始めてから、一人前の魔法少女生活を謳歌出来るようになるまで、三年もかかったのよね。
随分と長い、道のりだったわ……」
スイーツを口にしつつ、エリスが過去から今へ至る道程を振り返る。
(あたしが六兵衛と団交している間に豊浦宮の豊美の元で、皆が続々と魔法少女になっていくのを横目で見て、結局資本の論理には勝てないのかと内心忸怩たる思いだったわね。
……そういえば、六兵衛今頃どうしてんのかしら?)
そんな事を思っていると、アスカがエリスの様子に気付いてか声をかける。
「エリスちゃん、黄昏ちゃってどうしたの?」
黄昏た理由をエリスがアスカに話せば、アスカもまた過去を懐かしむような顔で話し出す。
「二人で一緒に空京で街頭演説したりビラ配りしたりしたよねー!
懐かしいな。豊美ちゃん達、元気かな?」
「呼びましたかー?」
「呼んだッスか?」
すると、豊美ちゃんと六兵衛が一行の前にパッ、と現れる。
「きゃあ! ……もう、いきなり現れないでよ、びっくりするじゃない」
そう言いつつも、エリスは二人にも自作のスイーツを振る舞い、豊美ちゃんと六兵衛の近況を聞いたりしながら、お茶会を楽しんだのであった。
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