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リアクション
『帰り際』
沢山の果実を収穫したアルツール一行は、今日の思い出にと写真を撮ることにした。
「はいはい、じゃあ写真を撮るから皆で並んでちょうだい。折角だから、取った果物を抱えてみたらどう?」
カメラを構えながら、エヴァ・ブラッケ(えう゛ぁ・ぶらっけ)が並ぶ者たちに声をかける。どうやら白馬がいたく気に入ったらしいネラとヴィオラは馬の上から果実を掲げ、ミーミルは大きな籠を軽々と頭上に掲げてみせる。
(……私も、彼と無事結ばれていたら、今頃は子か孫に囲まれて、あんな風景の中に居られたのかしらね)
ふと、懐かしい光景が入り込んできて、一瞬だけエヴァは瞑目する。けれど目を開けた時にはそんな事は忘れて、カメラのピントを合わせ、ボタンに指をかける。
「はい、じゃあ撮るわよー」
直後、シャッターが切られ、それぞれが笑顔を浮かべた一枚が収められる。それじゃあ帰りましょうか、そう言いかけた所に背後からアーデルハイトの声がかかる。
「ほれ、今度はおまえも入ってこい。私が撮ってやろう」
「あ、アーデルハイト様? わ、私は別に――」
「何を言う、おまえもパートナーじゃ、仲間外れはよくない。
見ろ、エリザベートはとっくに入っとるぞ」
言われて前を見ると、確かにエリザベートが一団の中に入り、ミーミルに後ろから抱きとめられる形で収まっていた。
「というわけじゃから、行ってこい。早くせんとおまえだけで撮るぞ」
「そ、それはもっと遠慮します」
そう言われ、慌ててエヴァも一団に加わる。その後も表情が硬いだの、もっと近づかんか、だのダメ出しを受けている間に、過去の思い出がもたらす寂しさは消え失せていた。
(これはこれで、幸せ、なのかもしれないわね)
「では、撮るぞ」
アーデルハイトの声が飛び、直後、シャッターが切られ大切な思い出として収められる――。
「いたた……やっぱり、腫れちゃってるか。帰ったら治療しないと」
靴を脱いで足の状態を確認したフレデリカが、はぁ、と息をつく。折角のデートなのに、足を挫いたなんてことが知れたらフィル君は心配してそれどころじゃないから、という理由で隠していた分、痛みが激しくなってしまっていた。無理をすれば歩けないことはないが、平然を装って歩き続けるのは正直、キツイ気がしていた。
「フリッカさん、お待たせしました。お福分けしていただいた果実はまとめてエリザベート校長に転送してもらいました――あっ、その傷は……」
「あっ、ふ、フィル君……。えっと、これは、その」
そこに、予想していたよりも早くフィリップが現れた事で、フレデリカは自分が負った怪我がバレてしまう。
「こんなになるまで……どうして黙っていたんですかっ」
冷却の魔法で患部を冷やし、応急処置を施しながらフィリップがフレデリカに尋ねる。声色からフィリップが少し怒っているのが感じ取れた。
「足を挫いたこと、黙っててゴメンね。でもあの場で言ったら、折角の楽しい時間が台無しになっちゃうって思ったから……」
フレデリカの回答に、フィリップがはぁ、とため息をついて言葉を発する。
「フリッカさんが僕に心配をかけたくないから黙っていた、それは今までのフリッカさんを見てきましたから、理解できます。
……それでも、黙ってないで一言言ってほしかったですよ。僕はフリッカさんを守ってあげたいのに……少し、寂しい気持ちです」
「フィル君……その……ゴメン――きゃっ」
フレデリカの言葉を遮る形で、治療を終えたフィリップがフレデリカの腕を取ったかと思うと、背に背負ってしまう。
「罰……じゃありませんけど、帰り道は僕が背負っていきますから。いいですね?」
普段のどこか弱々しい雰囲気を一掃する、力強い言葉にフレデリカは反論する気も起きなかった。
「……うん」
頷いて、きゅっ、とフィリップの首に腕を絡ませる。密着度が増したことで、フィリップは自身の背中に当たる感触をしっかりと得る結果になった。
(あっ……フリッカさんって実は、結構胸、あるんだな……。
って、僕は何を考えているんだ)
普段よく目にする格好のフレデリカは、大きくもなく小さくもなくといった具合だったが、多分服の生地が厚いとか着痩せするタイプなのかもしれない、そんな事を悶々と考えかけ、慌ててフィリップがぶんぶん、と首を左右に振る。
「ふふ。……フィル君。大好き」
そんなフィリップの苦悩? を知ってか知らずか、フレデリカが耳元に口を寄せて愛の囁きをフィリップに送る。追いやりかけていた妄想がまた蘇ってきて、フィリップは自分の顔がみるみる火照っていくのを感じていた。
(これ……イルミンスールまで持つかなぁ)
自分から言い出したものの、やり遂げられるか不安に思いかけ、今度はその不安な気持ちを払拭する意味で頭を左右に振る。
(フリッカさんは僕が支える、って決めたんだ。不安に思っていても仕方ない、やれるだけのことはしよう)
想いを新たにしたフィリップが、帰路の第一歩を踏み出す――。
果実たちをようやくのことで振り切り、和輝がパイモンの元に一人で訪れる。
「すみません、遅くなりました」
「いや、気にしなくていい。……あぁ、それと和輝、俺に対しては敬語でなくても構わない。
俺と君とは主従関係ではあるが、そこまで畏まる必要はないと思っている」
パイモンに言われ、和輝はコホン、と咳を一つして、本来の口調で話し始める。
「……で、パイモン。俺に話って、何だ?」
「イルミンスールの不調の原因について、先日の『煉獄の牢』の調査で大筋が判明した。
……信じ難い事ではあるが、『未来から来た世界樹』の言葉によって、な」
それからパイモンは、和輝に『煉獄の牢』の調査の内容、そして明らかになった『こことは違う世界』との関係性を話す。
「……つまり、こことは違う世界で起きている事件、争い……様々な出来事が、イルミンスールの寿命を縮め、不調にさせている原因だと?」
「そういう事になる。……そして彼らの話では、近々大きな争いが行われている世界への道が開かれる……俺はそう推測している」
『近々』がいつかは分からないが、いずれイルミンスールに関係する者たちは、『戦いを終わらせるための戦い』に向かわねばならないだろう……和輝にはパイモンが、そう言っているように聞こえた。
「パイモンは……いや、ザナドゥはどうする?」
「それは昼間、別の者にも問われた。……ザナドゥの、俺の答えは一つ。
事件解決に協力し、イルミンスールの寿命を回復させる」
パイモンの回答を聞き、まぁ、そうだろうな、と和輝は納得する。……が、次のパイモンの言葉は彼にとって予想外であった。
「こことは違う世界への道が開かれた際には、俺もその世界へ足を運ぼうと思っている」
「……本気か、パイモン? お前はザナドゥの王なんだぞ?」
和輝が問う、答えるパイモンの目に、悩んでいる色は見られない。
「ああ、本気だ。もちろん、国のことは信頼出来る者に任せる。その上で俺は、自ら足を運び、事件解決に協力したい。
……そこで俺が何かを為せる存在であるかを、確かめたいんだ」
二人の間に、沈黙が流れる。
「……時間を取らせて、済まなかった。君には先に、知っておいて欲しいと思った。
ではな、パートナーたちも心配しているだろう、早く戻ってやってくれ」
背を向け、立ち去るパイモン。
その小さくなる背中を、和輝は見守ってからパートナーたちの元へ帰る――。
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