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第5章 ボーンビショップ 3

 一方。囚われた村の娘たちを探す契約者たちは、ほどなくしてその姿を見つけることが出来た。けれども、問題はある。すなわち、娘たちを監視する守備兵だ。見つからぬよう、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)たちは物陰に隠れた。
「どうしたら良いと思う?」
 ルカはたずねた。ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)がルカに顔を向けた。匂いをたどるために連れてきた軍用犬を片手でなでていた。
「なるべくなら、騒ぎは大きくしたくないところだが。いまさらそうも言ってられないな」
「だろうね。ここは一斉に守備兵を倒しにかかったほうが良いと思う。相手が余計なことしないよう、出来るだけ迅速にね」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が割って入った。ルカもダリルもうなずいた。
「ちょうど、道は三つに分かれているようですし、各方向から攻めるのはどうでしょう? それなら、敵も対応しづらいと思いますが」
 提案したのは、神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)だった。翡翠が見つめる先に、三つの入り口があった。守備兵はどの入り口にも警戒しているが、戦力が分断されることは間違いない。異論はなかった。
「よし、決まりだ。行くぞ」
 ダリルの合図を待って、契約者たちは三方向に分かれていった。

 正面から急に飛び出してきた契約者たちに、守備に当たる骸骨兵はにわかに驚いた。剣を抜き放ち、かちかちと骨を打ち鳴らした威嚇の音を発して、迎撃に当たった。
「さあ、俺を楽しませてみな!」
 夏侯 淵(かこう・えん)が猛々しく吠えた。右手に持ってる小型の短剣。獅子の爪と、踊っているという名を冠するダンシングエッジ。二刀流の構えをとって、敵の中央へと突撃していった。
「カルキ! 敵は属性なら光と炎、攻撃タイプなら叩きに弱い! 淵に遅れを取るなよ!」
 ダリルが指示を飛ばす。巨体の竜人は、にやりと笑った。
「分かってるさ。任せときなっ」
 カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が骸骨兵どもに魔法を放った。光と炎。ダリルの指示通りの不死の軍団が苦手とする魔法だ。ファイアストームの嵐が敵を包み込んだ。
 その間に、夏侯淵の刀が次々と骸骨兵を粉砕していった。両の刃から放たれる衝撃波が、離れた敵にまで剣撃を叩きこむ。正面から相手にしている骸骨兵たちは、統率がとれなくなっていた。いまだ。ここぞというときに、ダリルが銃を構えた。
「淵! どいてろ!」
 ダリルが引き金をひいた。銃弾がの嵐が骸骨兵を撃ち抜いていく。全てが掃討し終えた頃には、他の仲間たちも戦いを終えたようだった。
「皆さん、大丈夫ですか!」
 ルカが囚われた娘たちのもとに駆け寄った。おびえる娘たちは、ようやく助けが来たことに歓喜した。なかには泣き出す者もいる。その姿を見ていると、助けに来て良かったと心の底から思った。
「ありがとうございます! あなた方は命の恩人です!」
 まるで崇めるように、娘たちは礼を口にする。
「ありがとう。でもね、このきっかけを作ったのは一人の男の子なんだよ」
「男の子?」
 娘たちはよく分からずきょとんとした。ルカは、ジークたちが無事であるかどうかが心配になった。骸骨王は、まだ倒されてはいない。

「はああああぁぁ!」
 リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)は鮮烈の声を放った。右手に掲げる剣をたたき落とし、敵を粉砕する。骨が粉々に砕け散って、骸骨兵たちが骨を打ち鳴らし、どよめいた。転じて、攻撃は続く。右、左と、骸骨兵が次々とリリアの剣の餌食となった。
「気合い入ってるね、リリアは」
 エースが魔法で敵を迎撃しながら言った。光や炎の魔法が、骸骨兵を寄せ付けなかった。
「その気合いが空回りしなければいいけどね。私はそこを心配してるよ」
 メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)がエースにささやいた。炎系の魔法。ファイアストームなどを中心にして、こちらも魔法攻撃を放っている。エースと背中合わせになって、リリアの戦闘域を守るように、敵を蹴散らしていた。
「リリア! 無茶はするんじゃないぞ!」
「分かってるって! それより、サポートよろしくね!」
「ったく、本当にわかってるのかい、あれは」
 メシエは肩をすくめた。リリアは細かい怪我にはまったく動じない。美しくきめ細かい肌に敵の刃が走り、血が垂れるが、リリアはそれよりも目の前の敵に神経を集中していた。
 銃声がとどろいた。はっとなって、エースは首をうごかす。リリアに気を取られていた隙に近づいていた骸骨兵が、銃弾に撃ち抜かれていた。
「翡翠さん、これは、まいったな」
 エースは頭をかいて苦笑した。
「気を抜くと、やられちゃいますよ。リリアさんのサポートに集中して下さい。こちらは自分たちに任せて下さって結構ですので。ねえ、美鈴?」
「ええ。治療も、私がおこないますので」
 柊 美鈴(ひいらぎ・みすず)がうなずいた。近くに光の玉が浮遊していた。光術で作り上げた玉だ。薄暗い洞窟内を皓々と照らしてくれている。
 美鈴はリリアに向けて、光の魔法を撃ち放った。どうっと輝く魔力に包まれて、リリアは一瞬だけびっくりする。浄化の力が、徐々に身体の傷を癒してくれた。
「これ……っ」
「ヒーリングです。これでまた全力で戦えますよ」
 リリアは美鈴を見て、力強くうなずいた。
「悪いね、翡翠さん。それじゃあ、任せるよ」
 エースとメシエはリリアのもとに向かった。迫ってきた骸骨兵に、翡翠が銃を突きつける。銃弾が連続で敵を撃ち抜いた。
「さあ、やりますか」

「い、いや、こないでぇっ」
 最後のあがきか。それとも自暴自棄になったか。囚われていた人質の娘たちに向かって、骸骨兵が迫ろうとしていた。暗くよどんだ空洞の瞳が、娘たちを見つめる。振り上げられた剣が打ち下ろされようとした。
 がいんっ! と音が鳴ったのは、その時だった。
「そりゃちょっとないんじゃないか?」
 乳白金の髪。細身ながら筋肉質の身体。巨大な太刀で剣を受け止め、にやりとした笑みを浮かべる青年が、娘たちの前に立っていた。
 どんっと骸骨兵をぶっ飛ばした。太刀を肩にかつぎあげ、骸骨兵たちを見回した。
「にしても、見事に骨ばっかだねぇ」
 数は数体。一人でもやれない数じゃない。七刀 切(しちとう・きり)はちらりと後ろを見た。娘たちの怯えた顔。これを守らなきゃ、男じゃない。骸骨兵たちが態勢を整え、攻撃に打って出ようとする。
「ふんっ」
 だんっと、頭上から落下してきた影が骸骨をいきなり断ち切った。真っ二つに分断された骸骨が左右にくずれると、影の正体が明らかになった。黒を基調としたマント姿に、ものぐさな童顔。左右に持った二つの刀をきらめかせる青年がいた。
「とんでもない骸骨の数。かよわき女性に、手は出させませんよ」
 青年が言った。囚人の娘たちの間から黄色い声援が聞こえた。
「貴仁! ワイの仕事を奪うのはやめてくれんかねぇ!」
 切はなげくように非難した。鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)は肩をすくめた。
「別にいいじゃん。どうせやってることは一緒なんだし。それよりもほら、さっさと片づけてしまいましょうよ。じゃないとまた復活しちゃいますよ」
「ぐっ、ま、まあいいけどなぁ。んじゃ、ワイはこっち。そっちは任せるからな」
「はいはい。んじゃ、いきましょう」
 貴仁と切は左右に跳んだ。ほぼ同じ動き、二手に分かれ、敵の中に突っ込んでいった。骸骨兵はどよめくも、迎撃に移る。剣を振り下ろしてくる。だが、貴仁はそれを二つの剣で弾き飛ばし、剣を握る拳から光の魔法を放った。
「バニッシュ!」
 浄化の魔法だ。粉々になった骨が塵に変わる。そうなってしまえば、もはや復活はできまい。貴仁は次々と、骸骨兵を霧散させていった。
 切の剣は、骸骨兵を粉砕してゆく。すさまじいスピードだ。姿を追うだけでもやっとの速さで、骸骨兵の間を縫っていった。切の姿が通り過ぎたと思ったときには、骸骨兵は無残にも断ち切られている。復活すら許さない、猛然たる速さの太刀筋だった。
 ほどなくして、全ての骸骨兵を倒し終える。武器を降ろした二人は、さっそく村人たちを洞窟から脱出させようと動き出した。すでに、他の仲間も動き出してる。
 師王 アスカ(しおう・あすか)が村娘たちを先導しているところだった。ぐるるるっとシルバーウルフがうなった。
「ちょっと、ベル。スタッカートをどうにかしてよ」
「ええっ、おかしいなぁ。どうしたの、スタッカート。そんなにうなって」
 オルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)がスタッカートの傍に座った。よしよしと背中をさする。スタッカートのうなりは止むことがない。いったいなにをそんなに気にしているんだと、アスカがスタッカートの視線の先に首をうごかした。
「これって……っ」
 そこには財宝の数々があった。おそらく、村から奪われたものに違いなかった。物陰に隠れていて気づかなかったのだ。思わずアスカの目がぱぁっと輝いた。いやいや、いまはこんなことをしてる場合じゃない。お宝も大事だけど、とにかくいまは村人を安全なところまで誘導するのが大事なんだ。でも、分かってはいるけど、身体はうずうずとして止められそうになかった。
「も、もう無理いいぃぃ〜!」
「ちょっと、アスカ!?」
 オルベールが制止する声も聞かず、アスカは財宝に駆け寄った。たくさんのお宝がある。彫刻に絵画に絵筆に、と。アスカは美しい筆を手にとって、うっとりとする。オルベールはたまらずため息をついた。
「ったく、いまのクラスが商人だからって、もう」
 どうしたのかと戸惑う仲間たちには、先に行くように言っておく。アスカのことだから仕方ないかと、みな妙に納得した。これでいいのかと、オルベールは自分の契約者のことを不安に思った。