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第3章 まだだ、まだ足りん!

「そう、足りぬとも! 我らのこの行動によって商店街を支配してくれよう!」
「おー、兄ちゃんがんばっとるなあ。あっちの角の雪も頼むわ」
「フハハハハ、任せておけ!」
 商店街の中央通。
 その真ん中に、ドクター・ハデス(どくたー・はです)はいた。
 手には、スコップ。
 彼は商店街の除雪作業を請け負っていたのだ!
「ククク、商店街の皆さんから依頼された除雪作業を行う事で我らの人気を高めれば、この商店街の掌握などすぐだ!」
「に……兄さんが真面目にボランティア活動をしてる!」
 その動機はどうあれ傍目にはあまりにも真っ当な兄の行動に、高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)は動揺を隠せないでいた。
「雪でも降るんじゃないでしょうか……」
 びゅうううう〜。
 咲耶の言葉に応えるかのように、ハデスに激しい雪風が吹き付ける。
「まあ、何にしても悪い事ではなかろう。わらわたちも雪かきに協力しようかの」
 奇稲田 神奈(くしなだ・かんな)はスコップを咲耶に渡すと、自分も雪に向かって構える。
「神奈さん、なんのかんの言って素直に手伝ってくれるんですね」
「な……! か、勘違いするでない! べつにハデス殿のためではないんじゃぞ!」
 赤くなったのを隠すように俯き、雪かきに専念する神奈。
 そんな自分を助ける少女二人には無頓着なまま、ハデスは今回の発明品を起動させる。
「さあ行け、『地獄の除雪車<タナトス・スノー・イレイザー>』よ!」
 その声に、ハデスの 発明品(はですの・はつめいひん)が動き出す。
「起動確認。除雪作業ヲ開始シマス」
 ぶふぉ〜。
 通りの中央にある雪をどんどん吸い取り、路肩に排出していく。
「フハハハハ、この調子なら、すぐ除雪作業が終わりそうだな!」
 だが、当然そんな事はありえなかった!
「ねえ、おかーちゃんあれなーに?」
「ただの除雪車よ。あんまり見るんじゃありません」
「ふーん……えいっ」
 こつん。
 通りすがりの子供が投げた石が、発明品に当たった。
 びーびーびーびーびー。
「制御しすてむニえらーが発生シマシタ」
「あれしきの事で!?」
 ぼっぼっぼっぼっぼっ……ぼふうっ!
 発明品から、大量の雪が噴射された。
 雪の落下地点には、ちょうど咲耶と神奈が!
「きゃあっ、冷たっ!」
「むっ!?」
 したたかに雪を被る二人。
「あ、あれ、なんですかこれっ。か、体がくすぐったい……!」
「ふ、むぅ……こ、れは……っ」
 服の中に入り込んだ雪から広がる異様な感覚。
「あ……あンっ、も、もう駄目ぇ……!」
 我慢できず服を脱ぎ捨てる咲耶。
 服を払い、胸の間に入った雪を捨て、ふるふると身体を震わせる。
「はぁっ、はぁ……治まりました……って、あれ?」
 視線を感じる。
 そう、ここは大通り。
 そして咲耶が身に着けているのは下着のみ。
「きゃ、きゃぁあああああっ!」
 しかし咲耶よりももっとピンチの存在がいた。
「は……ぁうんっ、く、くすぐったい……っ!」
 一人、その感覚に耐えているのは神奈。
 彼女が身に纏っている巫女装束の中にも当然雪が入っている。
 咲耶のように脱ぎ捨てれば、きっと楽になる。
 しかし、ここに大きな問題があった。
 彼女は つけてない のだ。
「ひっ…… こ、これしきの事で……あぁんっ!」
 いつ終わるとも分からぬ感覚に、ひたすら身悶えして耐える神奈だった。

 大変な事になっている少女を余所に、発明品たちも大変な事になっていた。
「えらー発生。えらー発生。暴走シマス」
「暴走すると言って暴走するマシンがあるか! ……むっ!?」
 掴まったハデスと共に、大通りをものすごい早さで走り出す発明品。
 雪をまき散らしながら、商店街中を走る、走る。
 そして……
 どっし〜ん!
 激突したその場所は、雑貨屋ウェザーの庭だった。