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第5章 少し離れた場所で

「ここに来るのも、久しぶりですね……」
 鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)がやって来たのは、とある山奥にある村だった。
 かつて、彼はこの村に住む少女を助けたことがあった。
 彼女は今、どうしているだろう。
 右手に大きなクリスマスケーキ、左手にソリ。
 身に纏っているものこそ魔鎧だが、彼の立ち位置はサンタさん。
 彼女が通っていた小学校の前に立つ。
「ほら子供達、プレゼントの時間だ……!」
 一瞬の警戒。
 その後わっと駆け寄ってくる子供達。
 子供達にケーキを配りながら、目当ての少女を探す。
 しかし。
(いない?)
 ケーキをほおばる子供を一人捕まえて聞いてみた。
「スノちゃん? えーと、あの子どうしたんだっけ?」
「スノちゃんならお引越ししたよ」
「えー、違うよう。お金持ちの家に売られたって聞いたよ」
「それこそ違うよ! 契約してご奉公に行ったんだよ」
「……は?」
 子供達の口から語られる情報に目を丸くする。
 とにかく、スノはここにはいないらしい。
 大人に話を聞いてみようと教師に尋ねてみる。
「ああ、スノさんでしたら引っ越ししましたよ」
「そうですか」
 子供達から聞いた通りの情報。
「たしか、その前にスノさんは旅に出るとか……」
「……は?」
 やっぱり、子供達から聞いた通りの情報だった。
「そうそう、彼女から手紙を預かっていたんです。いつか、以前助けてくれた人が来てくれたら渡して欲しいって」
 教師はそう言うと、一通の手紙を貴仁に手渡した。
 白い、簡素な封筒に丁寧な字が書かれていた。
『やさしいお兄さん、お姉さんたちへ』
 感謝の言葉と、あの日以降の暮らしは楽しかった事。
 そして、最後に『旅に出ます』とだけ書かれていた。
「……よく分かりませんが、彼女のここでの暮らしが楽しいものだったようなのは、良かったです」
 貴仁は手紙を握りしめ、雪が降り始めた空を見上げて呟いた。