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【第三話】始動! 迅竜

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【第三話】始動! 迅竜

リアクション

 同日 同時刻 迅竜艦内 ブリッジ

「全ての所属、全ての学校が1つの船に乗る。きっと課題は多いと思うけど、私はこれを、この日を待っていた……」
 迅竜の艦長席に座り、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は万感の思いを込めて呟いた。
 かねてから連携を謳い呼びかけつつ体制整備の必要性を訴えていたルカルカ。
 そしてそれはそれは”迅竜”として現実の物になった。
 ルカルカの胸に浮かんだのは団長への感謝、それから仲間達への感謝。
 数え切れないほどの感謝の念を抱いた後、ルカルカはその真摯な気持ちを迅竜へと向ける。
「よろしくね迅竜。私達の新しい拠点(ホーム)……」
 既にブリッジにはクルーが乗り込み、発進の準備は整っている。
「ダリル、迅竜の状況は?」
 艦長席からルカルカは、すぐ近くのオペレータ席に座るダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)へと問いかけた。
「全セクションの準備がそろそろ完了する。迅竜はもうじき発進可能だ」
 ダリルからの回答に頷くルカルカ。
 次いで彼女はブリッジ内をゆっくりと見渡す。
 彼女の行動と視線から、ブリッジクルーたちは意図に気付いたようだ。
 命令されたわけでもなく、一人一人が艦長に向けて告げるべきことを告げ始める。
「オペレーター。ルース・マキャフリー(るーす・まきゃふりー)大尉。既に準備完了しとります」
 最初に答えたのはルースだ。
 ブリッジの全員が緊張のただなかにあっても、ベテラン軍人特有の、そして大人の余裕を崩さないルースの声はリラックスしている。
 だが、その声に頼りなさが感じられることは微塵もない。
 必要なだけの力がかかり、不必要に力んでいないルースの声にはえもいわれぬ頼りがいがあった。
「艦内警備担当、大熊丈二(おおぐま・じょうじ)上等兵。準備完了しております」
ヒルダ・ノーライフ(ひるだ・のーらいふ)。同じく準備完了」
 迅竜艦内の警備やクルー同士の折衝を担当する丈二とその相棒であるヒルダも、引き締まった声で状況を報告する。
 艦内を隅から隅まで動き回る彼らだが、定義上はブリッジクルーとして配属されているのだ。
 ――全ての所属、全ての学校が1つの船に乗る船とはいえ、ブリッジクルーの数はまだ少なく、艦載機も少ない。
 だがそれでも、ルカルカは不安に押し潰されたりなどしない。
 たとえ数は少なくとも、この艦に集まってくれた仲間は皆が最高に頼りになる仲間だ。
 だから不安に感じることなどない。
 たとえ今は少なくとも、所属や学校を超え、守るべきものの為に力を合わせて戦う為の艦である以上、きっと数多く人が力を貸してくれるはず。
 だから不安に感じることなどない。
 ――この艦はきっと大丈夫だ。
 確信を抱いてルカルカは深呼吸すると、マイクのスイッチを入れる。
 そして彼女は、全艦放送で問いかけた。
「おはよう。艦長のルカルカ・ルーよ。もうすぐこの艦は飛び立つわ。確かにまだクルーも艦載機も少ないかもしれない。でも、私はこの艦に集まってくれたみんなを、そして金団長が私たちに託してくれたこの艦を信じてる――みんな、発進準備はいい?」
 迅竜のすべてに朗々と響き渡る艦長の声。
 廊下に、各部屋に、そして格納庫に――あらゆる場所に残響した声が完全に収まった後、ブリッジへと艦内通信が入る。
 まず聞こえてきたのは質実剛健そうな青年の声だ。
『こちら鷹村真一郎(たかむら・しんいちろう)。イコン部隊は準備完了だ』
 続いては、優しそうな少女の声が聞こえてくる。
高峰 結和(たかみね・ゆうわ)です。医療セクションも準備完了しています』
 次は理知的な青年の声が聞こえてきた。
 その声音は冷静ながらも、奥底には熱いものが感じられる。
クローラ・テレスコピウム(くろーら・てれすこぴうむ)少尉よりブリッジへ。砲術セクション準備完了』
 三番目は、やや古風な口調で中性的な声だ。
夏侯 淵(かこう・えん)。整備セクションだ。準備は完了しておる』
 各所からの報告を受け取り、ルカルカは静かにマイクのスイッチを入れる。
 マイクを手に取ったルカルカは、ゆっくりと語りかけた。
「みんな、ありがとう。これより本艦――迅竜は発進シークエンスに入る。各員は持ち場にて待機」
 艦内すべてに響くルカルカの声を受け、ダリルとルースはコンソール上に十指を走らせる。
「メインエンジン始動。稼働率上昇。現在出力80%以上。85、90、95――100%に到達」
 落ち着き払った声でダリルがエンジンの状況を告げると、ルースも他各所の分析状況を告げる。
「艦内チェック完了。異常個所なし」
 ルースがチェックと報告を終えた直後、タイミング良くダリルがエンジンの状況を再度報告する。
「エンジン稼働安定。出力100%をキープ。発進はいつでも可能」
 それを聞き、ルースも同様に口を開いた。
「各部正常。進路クリア。発進はいつでも可能」
 ブリッジの共用モニターに表示される迅竜のコンディションはオールグリーンを示している。
 自らの目でそれを確かめて大きく頷いたルカルカへと、ダリルが静かに言葉をかける。
「艦長、ご命令を――」
 ダリルからの言葉を受け、再び大きく頷いたルカルカは、ゆっくりと立ち上がる。
 それに呼応し、ブリッジクルーも全員が立ち上がる。
 全員でルカルカに向けて最敬礼するブリッジクルー。
 ルカルカは一人一人を目をしっかりと見据えて答礼する。
 そして、胸のうちより湧き起こる様々な思いを込め、厳かな声で告げた。
「迅竜、発進せよ――!」