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悪戯双子のお年玉?

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悪戯双子のお年玉?
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第二章 夢渡る悪戯双子


「保証もあるとは今回はまともそうじゃな。さて、どのような夢が見られるかのぅ。出来れば良い夢を見たいものじゃが、札使用者間の干渉、か。少々気になる事はあるが」
 草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)は夢札の裏書きを確かめてから夢札を使った。少々気になる事はあるが、とにかく羽純は夢札を使った。

 濁った空、乾いた空気、命という命が消え果てた世界。
 そんな世界の片隅でうずくまる小さな影。
「……っ、あっ……あぁ」
 静かな寝息に苦しげな声が紛れ始める。
 ここは羽純の過去。巨大過ぎる自分の力を制御出来ず、身体に痛みを生み、思考力も低下し力に支配されていた羽純。わずかに力から解放されるのは直接、力を消費し疲れ果てて眠る時だけ。しかしそれは長くはない。
「っ!!!」
 体中に走る痛みは羽純の目を覚まさせる。そして、永遠とさえ思われる苦しみの中に引き戻すのだ。
「あっぅ……」
 痛みに起こされた羽純はふらりと起き上がり、思考さえ支配する力から自分を解放しようと熱に浮かされたように荒い息を吐きながらぶつぶつとうわ言のように攻撃魔法をつぶやく。放たれた攻撃魔法は消し去る相手を選ばない。相手が建物だろうが草木だろうが人だろうが全てを消す。
「っぉ……」
 建物の焼け焦げる匂い、泣き叫ぶ声、羽純に助けを乞う声、思考は低下しているが目には映る。如何にして命が消えていくのか。だが、方法が思いつかない羽純は止まれない。止まる事を選べない。ひたすら攻撃魔法を繰り返すだけ。悲しき破壊の権化。

「……何なんだ、ここは」
「何か怖いな」
 何も知らない双子が羽純の夢にやって来た。

「おい、キスミ」
「げっ、あれは……」
 羽純に気付いたヒスミ・ロズフェル(ひすみ・ろずふぇる)が青い顔でキスミ・ロズフェル(きすみ・ろずふぇる)に教える。教えられたキスミも顔色を変えた。また痛い目に遭わされるのではと。

 しかし
「何か違うぞ」
「おう、今までよりも恐ろしい感じがするぞ」
 いつもの羽純と様子が違う事に気付く双子。

「どうする、キスミ?」
「逃げるしかねぇだろ」
 羽純の激しい破壊行動に双子は悪戯実行から逃走に切り替える事に。

 少しだけ遅かった。
 羽純の攻撃魔法が双子の方に飛んで来たのだ。

「ひゃっ!?」
 魔法の着地点にいたヒスミは慌てて避けた。
「ヒスミ!!」
 激しくびびるキスミ。

 そして、次々に攻撃魔法が飛んで来る。
「く、来るなぁぁあぁ」
 必死に避け逃げる双子。羽純の魔法は双子から逃亡の隙を奪っていた。

「ヤバイぞ、キスミ」
「オレ達、消される」
 今までのお仕置きよりも容赦の無い羽純の様子に真っ白になる双子。

「だ、大丈夫だ。こ、これは夢だ、キスミ」
「だよな。と、とりあえずこの夢から出るぞ」
 ふと自分達が夢にいる事に気付き、慌てずにこの夢から出ようする双子。その瞬間と飛んで来る魔法が二人に命中するのは同時だった。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ」
 凄まじい悲鳴を上げながら双子の姿は蒸発する様に消えてしまった。

 消えた双子は
「……こえぇぇ」
「オレ達、消えたぞ。これが夢じゃなかったら」
 冷や汗を垂らしながらぶるりと肩を震わせながら別の場所に立っていた。消されると同時だが何とか脱出が出来たようだ。

「うぉ、すげぇ」
「お祭りばっかじゃん」
 双子は羽純の夢での出来事を忘れて様々な祭りという祭りが集まった世界に興味を向けていた。

 双子が去った後、
「……」
 どこかの陰陽師が静かに苦しみに支配され破壊をし続ける羽純の姿を見つめていた。
 陰陽師は恐れる事なく、羽純に近づき、封印を施した。
 そして、物語は過去から未来、つまりは現在に続く事に。

「むぅ、わらわの初夢がよもやあの夢とは。気を付けろという事かのぅ」
 夢から覚めた羽純はため息をついた。まさか、過去の夢を見るなど思ってもいなかったので。
「……しかし、あの二人も巻き込んでしまったのぅ。まぁ、今までの事を考えれば心配なかろう」
 双子を巻き込んだ事をしっかり覚えていた羽純。しかし、夢であった事と彼らの図太さを知っているため心配など一欠片もしていなかった。むしろ今頃、違う夢で騒ぎを撒き散らしているとさえ考えていた。

「うわぁ、すごいです」
 夢札を使用したホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)は広がる世界に上気した声を上げる。
 日本のお祭りやクリスマス、イースターにカーニバル、樽転がしに牛追い祭りなど祭りという祭りが集合し、賑やかな世界を形作っていた。
 祭りで定番の屋台もたくさん並んでいる。統一性は全くないが愉快で楽しい雰囲気はどれもこれも同じ。
「今回はまともだったみたいですね」
 ホリイは意外そうに双子に対して言葉を洩らした。何度となく双子と関わっているので今のようにまともだと少しばかり拍子抜けしたりする。
「さぁ、楽しみますよ!」
 ホリイは屋台を歩き回り、盆踊りに加わり、たっぷりと楽しんだ。

 ホリイが楽しんでいた時、新たな参加者が登場。
「うわぁ、賑やかだよ」
「楽しい気分になりますね、木枯さん」
 木枯と稲穂。

「フラン、空にサンタクロースがいるよ」
「そうね。ここはいろんなお祭りが集まっているようね。危ないお祭りもあるからオデット気を付けてちょうだい」
 周囲を忙しく見回すオデットと周囲を警戒するフランソワ。

「あ、皆さん!」
 四人の旅人に気付いたホリイは快く迎えた。

「ホリイさんの夢だったんですね」
「素敵な夢だねぇ」
 楽しそうな稲穂と木枯。

「とても楽しいよ」
「屋台も色々あるわねぇ」
 周囲を絶え間なく見回しているオデットと立ち並ぶ屋台に目を向けるフランソワ。

「せっかくですから楽しんで下さい」
 ホリイはそう言って訪問者四人と祭りを楽しむ事に。

「ん〜、このリンゴ飴美味しい」
 立ち並ぶ屋台を楽しむ木枯。

「稲穂さん、顔がオレンジ色ですよ」
「ホリイさんも」
 ホリイと稲穂はオレンジ投げに参加して体中オレンジ色に。

「フランソワ、まずどれに乗る?」
「そうねぇ」
 オデットとフランソワは遊園地。

 みんながそれぞれ楽しんだ後、全員一カ所に集合した。
「……ホリイさん、あれ牛追いだよね」
 オデットが牛に群がる人だかりを指さした。
「そうですけど……」
 ホリイはうなずきながら妙な騒々しさに表情を曇らせた。
「何かおかしいねぇ」
 と木枯。
「こういう時はだいたい」
 ホリイは何となく何が起きているのか読めてきた。

 ホリイの予想は的中していた。
「うはぁー、牛が怒ったぞ」
「こっちに来るなぁ」
 牛追い祭りに遭遇した双子は牛を怒らせ、集まった人達を驚かせようとするも予想以上に牛を興奮させてしまい、背中を突かれながら逃走中。

「ヒスミさんとキスミさんだよ」
「牛を怒らせたみたいですね」
 オデットとホリイは目で双子の様子を追う。

「逃げるぞ、キスミ」
「おう」
 双子は大慌てにホリイの夢から逃亡。標的を見失った牛はめちゃくちゃに暴れ、建物や人々を襲っている。

「落ち着いて下さい。もう大丈夫ですよ」
 夢の主であるホリイが牛の元へと駆けつけ、優しく言葉をかけて大人しくさせた。

「……良かったです」
「そうだねぇ」
 稲穂と木枯は大人しくなった牛を見てほっとしていた。

「フラン!」
 オデットは打ち上げられた様々な光と形の花火を指さした。
「あら、綺麗な花火ね」
 フランソワはオデットに促され、美しい夜空に顔を向けた。木枯達とホリイも花火に夢中。
 ここは夢なので現実の花火よりも美しく不思議なものばかり。中には五人の顔の花火が輝いたり動物の形の花火が動きながら消えたりした。
「本当に綺麗です」
 ホリイはフランソワに答えながら来訪者達を見ていた。こうしてみんなと楽しんだ後だからこそ余計に綺麗に思えるのだろうとホリイは思っていた。
 花火大会が終わると四人の旅人はどこかに行った。

「準備は完了でありますよ」
 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は夢が始まってからずっと続けていた『インビジブルトラップ』の設置を完了させた。
 ここは吹雪の夢である。吹雪が傭兵時代に体験したゲリラが大量にいそうな南米のジャングルが舞台だ。
「……あの二人だから必ず悪さをしている事は確実ね」
 コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)は準備を終えた吹雪と砲撃のための絶好のポジションを確認している鋼鉄 二十二号(くろがね・にじゅうにごう)を眺めながら言った。
「そうでありますよ。来たら丁寧にもてなすであります」
「お仕置きという名のもてなしね」
 と吹雪とコルセア。これまで何度も双子の悪戯に巻き込まれたので夢札を貰った時点で今回も悪さをするだろうと予測していた。
「吹雪、二人が来ないまま夢が覚めるという可能性があるから待ち伏せよりもこちらから出向く方がいいかもしれない。でもワタシ達の顔を見た途端逃げるはずだから誰かに連れ来て貰った方が安全で確実だと思うのだけど」
 常識人コルセアは気掛かりを口にした。今まで双子を幾度となく痛い目に遭わせているのでコルセアの危惧は起こりえない事ではない。
「……そうでありますな」
 吹雪は準備を続けている二十二号を眺めながら考える。
 そんな時、
「オデット、ここは危ないわ」
「……まるで南米のジャングルだね」
 周囲に警戒するフランソワと先頭をワクワク歩くオデット。
「誰の夢でしょうか」
「凄いね」
 楽しんでいる稲穂と木枯。夢の旅人達がやって来た。
「自分の夢にようこそであります!」
 吹雪達は旅人達を快く迎えた。

「あ、吹雪さん」
「凄い夢ですね」
 木枯と稲穂。

「吹雪さん達の夢だったんですね」
「戦地だわ」
 オデットとフランソワ。

「ここは吹雪が傭兵時代の体験した場所が舞台だから」
 コルセアが吹雪に代わって夢について説明した。
「二人共どうしたでありますか」
 吹雪は顔見知りの木枯とオデットに訊ねた。

「色んな人の夢を旅しているんだよ」
「吹雪さん達は何をしているの?」
 木枯とオデットが答えた。

「双子をもてなす準備でありますよ!」
 吹雪は『インビジブルトラップ』を最大まで仕掛けている場所を眺めながら言った。
「ただ、双子をどうやって引き込むか考えているところ。会わずに朝が来るのだけは避けたいのよね。実際、双子は何かやらかした?」
 コルセアは旅人である四人に何か情報は無いかと訊ねた。

「……準備がいいわねぇ」
「……してました」
 フランソワは準備の良い吹雪に感心し、オデットは先ほど訪れたホリイの夢での出来事を思い出していた。
「ほほう、これは気合いが入るでありますな」
 想定内の展開にウキウキしている吹雪。
「お馴染みの展開ね。しかもここは夢の中だし」
 とコルセア。
「二人に頼みがあるであります! 二人を自分の夢に連れて来るか他の仕置き人に連行を頼んで欲しいでありますよ!」
 吹雪は木枯とオデットに双子を確実にお仕置きをするための頼み事をした。
 旅人四人は双子を可哀想だと思いながらも引き受ける事にした。
 それから四人は別れて旅ついでの伝言係に戻った。
 吹雪達が仕込んだ罠を念入りに確認している最中に同志がやって来た。

「双子ちゃんのいたずらは年中無休みたいだねぇ」
 天禰 薫(あまね・かおる)は呆れのため息をつきながら、双子がやらかした悪戯の後始末をしていた。その双子はもういない。
「……夢札を貰った時からこうなる気はしていたが」
 熊楠 孝高(くまぐす・よしたか)は薫を手伝いながら疲れたように言葉を洩らした。
「二人からあの子達の話は聞いていたが、これほどとはね。しかし、なかなか面白い子達じゃないか」
 熊楠 孝明(くまぐす・よしあき)は後始末を眺めながら言った。双子については薫や孝高から聞いていたので驚きはしなかった。むしろ面白そうだとさえ思っている。いぢりがいがあるという意味で。
「きっと他の人の夢でもいたずらをしているのだ。やめるように言いに行くのだ」
「言って聞く相手ならいいが、あいつらは無理だ。お決まりだが懲らしめるしかない」
 薫と孝高は今まで遭遇した双子の悪戯からこの先に待つ展開は予測済みだ。
「……懲らしめる、か。確かここは夢だったな」
 孝明は穏やかな表情の中に双子が不吉を感じるような笑みを浮かべていた。
「孝明さん、どうしたのだ?」
 薫が孝明が何かを考えていると知り、訊ねた。
「なるほど。夢という都合の良い世界を逆手に取って懲らしめるというわけだな。その考えは悪くないが、やり過ぎるなよ、親父」
 孝高は孝明が何を考えているのかを察し、代わりに言葉にした。
「やり過ぎ? その心配は無用さ。あの子達はどうやらやり過ぎがお好きらしいからね」
 と孝明。穏やかな口調が逆に恐怖を感じずにはいられない。捕まれば最後地獄を見る事は明らか。
「……薫と親父はともかく俺はあいつらに近づかない方がいいかもな」
 孝高は何度か巨熊で双子を脅した事を思い出していた。自分の顔を見るなり接近する前に逃亡する恐れがある。ここは夢だ。一度逃げられると再度捕らえるのは難しい。
「という事だ。薫、双子を連れ込むのを手伝っておくれ」
 孝明は孝高の様子を伺ってから薫に双子強制連行を手伝わせる事にした。
「分かったのだ。まずは捜しに行くのだ」
 薫は了承し、孝高と孝明を連れて双子捜索を開始する。その前に吹雪達の夢と繋がっている事に気付く事になる。同じ目的を抱いていたからだろう。そして、薫達は吹雪達のためにも双子捜索に急いだ。