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悪戯双子のお年玉?

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悪戯双子のお年玉?
悪戯双子のお年玉? 悪戯双子のお年玉?

リアクション

「へぇ、これがカルキの夢かぁ」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は帝国の龍の谷を連想させる雄大な谷に広がる光景に感嘆した。
 谷には大勢の竜族や竜達が静かに時を過ごしてた。時々、谷に響く竜達の声が勇ましく神秘さえも感じる。ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)夏侯 淵(かこう・えん)もそれぞれ、目にする光景に感嘆していた。

 たった一人だけ不機嫌な顔ではばたく竜を眺めるのは
「……初夢だっていうのに嫌なモン見せてくれるぜ」
 この夢の支配者カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)だけ。
 不機嫌な理由はすぐに明らかとなる。
 場面は瞬時に変わり、平和な谷は絶望の谷に。
 竜族の個体数は急激に減少し、わずかな竜の鳴き声が虚しく響く。繁殖力が低いため減少の速度は速く止める事はなかなか難しく絶滅への歯車は勢いよく回転している。
「……カルキ、せっかくの初夢だからもっと良い夢に変えた方がいいよ」
 ルカルカは絶望の谷からカルキノスに視線を向け、アドバイス。
「現実では有り得ない事をするのが夢なのだぞ」
 意見する淵もルカルカと同意見。
「……その顔は何かするつもりだな」
 ダリルは淵の含みのある言葉を突いた。
「当然だろう。ダリルよ、見ておれ」
 淵は腕を組みダリルを見上げながら、不敵な笑みを浮かべた。
「……心配するな。こうなったとしても俺だけは諦めねぇよ。嫁を見つけたら科学や魔法でも何でも使って数だけは増やしてやるからよ。遺伝子の振れ幅は減るが、絶滅よりはいいだろうからな」
 カルキノスは最後の竜族が息絶える様子を見守りながら静かに言うと同時に最初の竜や竜族とは少し毛色が違う竜や竜族が現れ、谷に命が戻る。
「とっとと他の奴の夢に行こうぜ」
 カルキノスはいつかの光景になるかもしれない谷の様子から目を離し、夢移動を促す。これ以上自分の夢にいても仕方が無いので。
「次は誰の夢に行くのだ。俺の夢に来るか?」
 と淵。自分の夢をみんなに見せたくてたまらない様子。実は自分の夢を確認する前にカルキノスの夢に皆集まっていたのだ。どんな夢を見たいかは考え済みなので見なくてもおおよその見当は付いているらしいが。
「まずはルカの夢だよ。暗い気持ちも明るくなるよ!」
 淵を押しのけルカルカが元気に名乗りを上げた。
「……明るく、か。予想は出来るが」
 ダリルはルカルカの言葉尻からおおよその夢を予想するも言葉を慎んだ。
「さぁさぁ、行こう」
 ルカルカは皆の先頭を行き、自分の夢へと案内した。

 世界のあらゆる物がお菓子の甘い世界。

「ここがルカの夢、スイーツ王国だよ。で、ルカがスイーツクイーン。ほら、こんなに生クリームと砂糖いっぱいのお菓子を食べても太らない!」
 ルカルカは言ったそばから手近のカロリーが凄まじいと思われるお菓子を口に放り込んだ。
「……何もかもお菓子だな。味も悪くねぇ」
 カルキノスはお菓子世界を見渡しながら手近のお菓子を一口。
 大地も草木も建物も何もかもがお菓子。お菓子で無い所を探す方が難しいほど。
「当然だよ。ルカの夢だよ。味良し、食べても食べても食べられるし太らない、まーさに、スイーツパラダイス!!」
 カルキノスに自慢げに言ってから大好きなチョコをパクリ。
「おい、訪問者だ」
 アイスクリームを頬張っていた淵が訪問者に気付き、仲間達に知らせた。

「お菓子ばっかりですぅ」
「賑やかじゃな」
 やって来たのは双子を追跡中のエリザベートとアーデルハイトだった。
「あ、エリーにアーデ、ルカの夢にようこそ! 美味しいよ。ほら、食べて食べて」
 ルカルカはテンション高くエリザベート達を迎えるなり、ケーキが載った小皿を二人に差し出した。

「ありがとうですぅ」
「うむ」
 エリザベート達は受け取るなりもぐもぐと食べ始める。
「どうしたんだ。夢を歩き回っているのか?」
 カルキノスが事情を訊ねた。
「……双子を追っておるのじゃ」
 事情を話したのはアーデルハイトだった。隣ではエリザベートがまだケーキを食べている。
「せっかく、面白い発明だから売れるって思ったのに。悪戯さえしなかったらいいのにねぇ」
 ルカルカはエリザベートの小皿に新しいケーキを次々と載せながら双子に呆れていた。

「そうですよ〜。ケーキ、美味しいですぅ。太らないのがいいですよ」
 レイリア達の夢を思い出し体型が変わっていない事に安心しているエリザベート。
「保証を出した者の立場もあるというのに」
 アーデルハイトは夢札の保証を出した者としてため息をついた。自分達が保証した事で安心し受け取った者もいるだろうし双子を調子づかせたのも確かだから。
「アーデ、大変だね。今のところ、見かけていないかな。二人がいたら何か騒ぎが起きてるはずだし」
 アーデルハイトのため息の意味を知るルカルカは同情する。散々、双子には巻き込まれているので苦労は痛いほど分かる。
「……俺の夢にもいなかったな」
 とカルキノス。
「もしかしたら俺の夢やダリルの夢にいるかもしれないという事だな」
 腕を組みながら淵が可能性を口にした。
「かもしれないね。まぁ、とにかく遊んで行ってよ」
 ルカルカは淵にうなずきながらも慌てる様子はない。すっかり双子の騒ぎに馴染んでしまっている。
「あれ、ただの空じゃないですね〜」
 エリザベートは頭上に広がる青空と雲に興味を示していた。
「さすが、エリー。あれは雲が綿飴で空がゼリーだよ。ほら、エリー小皿とスプーン」
 ルカルカはどこからともなく新しい小皿とスプーンを取り出してエリザベートに渡した。
「……ありがとうですぅ……あと」
 エリザベートはルカルカに礼を言った後、ちらりとねだるような目でカルキノスを見た。
「しゃあねぇな」
 カルキノスは誇り高く人を乗せる事は滅多に無いがエリザベートのおねだり光線には敵わず、エリザベートを肩車して空へ。
「ありがとうですぅ」
 エリザベートはカルキノスの力を借り、雲や空を食べて楽しんだ。

 散々楽しんだ後、
「……しかし、たんぽぽらしい能天気な夢だな」
 ダリルは改めてルカルカの夢を評価する。
「じゃぁ、ダリルの夢も見せなさいよ」
 ルカルカはむっとした顔でダリルに言う。
「多分、機械まみれと見たぜ」
 カルキノスはニヤニヤと予想を口にする。
「見てみない事には何とも言えん。もしそうならあいつらもいるかもな」
 ダリルはさらりと流すだけでなく双子がいる可能性も考える。
「その可能性はあるじゃろう」
 アーデルハイトもダリルと同意見。
「……楽しいですぅ」
 エリザベートはまだスイーツ王国を楽しんでた。

 ルカルカ達三人の会話に
「その前に俺の夢を見てみないか」
 淵が加わった。
 これによって次に訪問する夢は淵となった。
「それじゃ、ダリルの夢は最後のお楽しみという事で」
 ルカルカはにやっとダリルに笑ってから先頭を行く淵について行った。当然ダリルは流した。

 淵の夢。

 到着した途端、
「強そうですねぇ」
「……すごいのぅ」
 エリザベートとアーデルハイトが驚嘆の声を上げた。

 その原因は淵の異変である。小さくて可愛い姿が頑健な壮年になっていた。ダリルと背が並び、肩幅、胸板は超えていた。
「そうだろう。これが前世の俺だ。なかなかのものであろう」
 淵は驚くエリザベート達に少し得意げだった。

「ここもいないみたいだね」
 ルカルカは簡単に周囲を見回した。双子がいれば必ず目に付く騒ぎを起こしているので確認は大雑把でも問題は無い。

 淵は手近の岩に気を叩き込み割って腕を載せ
「ダリルよ、大人同士になった今、勝負せぬとは言うまいな?」
 にやりとダリルに腕相撲勝負を吹っかける。
「ほう、分かりやすい挑発だな。だが、乗ってやろう」
 さらりと流すと思いきや挑発に乗るダリル。
 そして、勝負が始まる。先ほどまで双子捜索をしていたはずが、今は腕相撲に熱中である。

「なかなか良い勝負だな」
 勝負が決まらぬ様子にカルキノス。
「二人共、頑張るですぅ」
 エリザベートも元気に応援する。
「淵が少し押し気味かな」
 僅差で淵が押している事にルカルカ。
「……悪いが」
 しばらく勝負を見ていたアーデルハイトはやるべき事を思い出し、抜け出そうとルカルカに声をかけた。
「そうだった。二人共、そこまで! 兄弟を追うよ」
 アーデルハイトによってやるべき事を思い出したルカルカは勝負に待ったを入れた。
「兄弟……おお、そうであった! 行くぞダリル!」
 すっかり勝負に入り込んでいた淵ははっと思い出し、腕を離した。
「……あぁ。次は俺の夢だったな」
 残るはダリルの夢だけ。そこにいなければ、エリザベート達がルカルカ達の夢に来た事がただの徒労となってしまう。双子が見つかると信じるしかない。

 澄み切った空に整然とした近未来の街が遠くに見える草原。
 草原のあちこちにはもこもこの羊に溢れ、鳴いて訪問者達に擦り寄るのどか過ぎる光景。

「……これが俺の夢?」
 これは有り得ないとばかりの顔で擦り寄る羊を見下ろすダリル。

「平和ですねぇ〜」
「そうじゃな」
 エリザベートは羊を撫でアーデルハイトは擦り寄る羊をただ見ていた。
「ほほーう、これがダリルさんの夢ですか。凄く能天気ですねぇ」
 ルカルカはニヤニヤと隣のダリルをこれでもかとからかう。
「さん付けするな」
 自分がからかった内容そのままに返され、ダリルに動揺が見えたり。

「このもふもふ感、なかなかよいぞ」
 すっかり愛らしい姿に戻った淵は羊を抱き締めたり上に乗ったり満喫していた。

「丸々と太って美味そうだな……ん」
 カルキノスは羊を見ている内に妙な違和感を感じた。
「どうしたですか〜?」
 エリザベートが首を傾げるカルキノスを見上げて訊ねた。手はせわしなく羊を撫で回している。
「……違和感がある。なぁ、ダリル、こいつら一寸おかしいぞ」
 カルキノスはエリザベートに簡単に答えてからダリルに自分が感じた違和感を伝えた。
「……おかしい? もしや」
 ダリルは何を思ったのか擦り寄る羊の触診を始め、何か見つけたのか軽い機械音と共に羊の腹部が開いた。
「ぎゃっ、キャトルミューティレーション!」
 ルカルカはまさかの展開に驚きの声を上げた。
 ダリルは内部を確認しつつ
「こいつらロボットだ」
 と正体を突き止めた。それから丁寧に元に戻した。
「つまり、ダリル・ガイザックは電気羊の夢を見る……って何それーっ」
 ルカルカは本物と見紛うほどの電気羊を見ながら思わず声を上げた。

「おい、どうやら捜し回ったかいがあったらしいぞ」
 カルキノスが羊を弄っている双子を発見した。
「だね」
「……また何かやらかしているな、俺の夢とも知らずに」
 ルカルカとダリルは呆れつつ双子の様子を窺った。
 キスミは電気羊を弄り陽気に鳴きながら激しいストリートダンスを踊らせ、ヒスミは大量の子羊を産ませている。
「知ったら顔が真っ青になるね」
 ルカルカは笑いながら言った。双子はダリルに怖い目に遭わされた事があるから。
「とりあえず、酷い展開になる前に声をかけに行くか」
 ダリルはそう言って皆と共に双子の所へ。

 何も知らずに電気羊を弄る双子は
「ただ増えるのも面白くねぇな。何か芸が出来るように……」
「陽気な羊だぜ。次はどうするかな」
 次々と思い思いの改造をし続け、ダリルの羊達が次々と変貌を遂げていく。

 双子の背後から
「……おい、人の夢で何をしている」
 ダリルの声。

「ん? 何って見れば……」
「見て分かんねぇか」
 双子はくるりと背後を振り返る。

 そして
「げっ、何でいるんだよ」
 声の主を知るなり真っ青に。
「ここ、ダリルの夢だよ」
 ルカルカが面白そうに言った。
「マジで?」
「どうするよ、ヒスミ」
 双子はダリルを見ながら相談を始める。このままここにいたら痛い目を見るが、まだ遊び足りなかったり。
「なかなか面白いものを作っているな」
 面白い事が好きなカルキノスが双子に改造された羊達を眺めていた。

「だろう!!」
 カルキノスの言葉に嬉しそうにうなずく双子。

 その双子に対して
「今回は楽しかったよ」
 笑顔のルカルカ。
「……この程度なら被害の内ではないしな」
 寛容なダリル。
「しかし、夢の道具を現実に持ち出せぬとは、実に惜しい。英霊の成長薬は作れぬのか」
 心底残念そうな淵。

「……英霊のかぁ、面白そうだな」
「というか、何だよ。いつもと違うじゃん」
 淵の提案にあれこれ考えるヒスミとルカルカ達の対応がいつもより優しい事に驚き、口を尖らせるキスミ。

 ここで真打ち登場。
「……大人しく私達と行くですよ〜」
「ここでの事は不問にするが、それ以外についてはたっぷりとな」
 エリザベートとアーデルハイト。

「えーーーー」
 双子は同時に不満の声を上げる。

「逃げるぞ、ヒスミ」
「おう、キスミ」
 双子は脱兎の如く逃げ、どこかに行ってしまった。

「逃げたね」
 ルカルカは馴染みの展開に肩をすくめた。

「早く追いかけるですよ。お菓子、美味しかったですぅ」
「そうじゃな。皆はこのまま夢を楽しむんじゃ」
 エリザベートとアーデルハイトも急ぐ事に。
「あぁ。それより二人は大丈夫か。随分、連れ回してしまったが」
 カルキノスはエリザベート達にうなずきながら労った。もう少しというところで双子に逃げられてしまったので。もしこれが現実ならば双子は捕縛済みだったろう。
「楽しかったですぅ」
「これはこれで良い夢じゃ。それではな」
 エリザベート達はカルキノスに答えてから去った。
 この後、ルカルカ達は目覚めるまで存分に夢を楽しんだ。

「この夢札でアーデルさんとの初夢が見れたら……良い年になりそうですね」
 ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)は双子に貰った夢札の裏書きを確かめながらつぶやいた。ザカコはアーデルハイトに対して特別な想いを抱いているのだ。
「ただ、この札の制作者があの二人というのが。まぁ、アーデルさん達が保証しているんですから大丈夫ですね」
 双子と同じ学校のザカコは多少気になりながらもアーデルハイト達の保証付きという事で納得し、夢札を使った。

「……ここは学校ですね」
 ザカコは周囲を見回し、間違いなく自分が通っているイルミンスール魔法学校である事を確認していた。
「……アーデルさんはどこにいるんでしょうか」
 ザカコは早速アーデルハイト捜しを始めた。

 捜し始めてしばらく、
「……教室にも校長室にもいませんでしたね。もしかしたら実験室にいるのかも」
 発見出来ずにいるが、ザカコはめげない。
 そんなザカコに運命の女神が微笑む。

「ザカコ」
「ヒスミとキスミを見なかったですか〜」
 アーデルハイトとエリザベートが現れたのだ。ちなみにルカルカ達の夢の後だ。

「アーデルさんに校長? 夢にしてはやけにリアルな」
 ザカコは現れたアーデルハイト達が自分が作り出した夢だと思っている。エリザベート達が双子を捜すのは日常なので。
「我らはおまえの夢の住人ではないのじゃ」
 アーデルハイトがザカコが考えている事を察し、答えた。
「自分の夢ではないという事は、本物ですか!? 夢の中で本物というのもおかしいですけど」
 ザカコは大変驚き、嬉しく思った。まさか本物のアーデルハイトに会えるとは思ってもいなかったので。
「そうじゃ、お騒がせな双子を追っておるのじゃ。他の者の夢で悪戯をしておるはずなんじゃが」
「見かけなかったですか〜?」
 アーデルハイトとエリザベートが双子についてザカコに訊ねた。
「いいえ、見ていません。良かったら詳しい事情を話してくれませんか」
 ザカコは頭を左右に振った後、詳細を求めた。
「実は……」
 アーデルハイトが手早く詳しい事情を説明した。
「なるほど、そういう事ですか。現実だけでなく夢の中までアーデルさんを説教で動き回らせるとは、いくらアーデルさんの趣味が説教でも新年早々からそんな悪戯を自分も見逃す事は出来ません。お手伝いしますよ! 人の夢をしかも初夢を引っかき回すとは許せませんね。アーデルさん、これはお仕置きが必要です!」
 ザカコは即手助けに名乗りを上げた。
「頼りになるですよ〜」
 とエリザベート。
「ではエリザベート、ザカコ急ぐのじゃ」
 アーデルハイトの合図で新たな同志を迎え双子追跡に戻った。