リアクション
とはいえ使命というものは、常に更新される。
工場長を連行しようとする一同の前へ、新たな敵が現れた。
「お願い! 彼を離して!」
懇願を向けるその女は。
A棟から逃げ出していた、秘書であった。
「お前の要求を呑むわけにはいかない」
毅然とした態度で、ジェイコブは告げた。なおも秘書は食い下がる。
「彼を離しなさい。さもなくば……」
秘書は、おもむろに上半身の衣服を脱ぎ捨てた。
露わになった胸を示しながら、彼女はつづける。
「このプラントごと爆破させるわ。――私の心臓には、爆弾が埋まっているのだから」
☆ ☆ ☆
秘書の目に嘘がないことは一目瞭然であった。彼女の心臓は、爆弾でできている。
「私は、あなたたちに危害を与えるのが目的じゃない」
胸をはだけた状態で、秘書はじりじりと距離をつめる。
「だけど、このまま彼を連れていくのなら……。迷わずこの爆弾を作動させるわ」
彼女が梅琳に気を取られている間、ナノマシン拡散のエメラダが近づく。だが、周囲に除菌クリーナーを撒かれてしまった。
「あなたたちの手口はわかっているわ。……お願いだから、彼をこちらに渡して」
苦渋の末、梅琳が決断する。
「……ジェイコブ曹長。彼を離しなさい」
ジェイコブは納得のいかない様子だったが、険しい表情で工場長の拘束を解いた。
ふらふらとした足取りで、工場長は秘書にもたれかかる。かすれた声で、彼は囁いた。
「気づかなかったよ。まさか、君がウリエルだったなんて」
その言葉を聞いた秘書は、深く目を閉じ、工場長を抱きしめた。
「あなたのためなら、どんな姿にだってなるわ」
彼らの様子を凝視していた梅琳だが、急にハッとなる。
「いけない。みんな、早く逃げて!」
彼女はすぐに、仲間たちへ避難勧告を出す。
全員がプラントから出たのを見届けてから、自分も退出を試みた。
部屋を出る直前。振り返った彼女がみた映像は、パラミタレンジャーで瞬間最高視聴率を記録した場面――ルシファーとウリエルが抱き合いながら爆破するシーンと、重なりあった。
☆ ☆ ☆
E棟が爆発したのを聞いて、他の場所にいたメンバーたちも集まってくる。
「おいおい。すげー爆発だな」
A棟付近で昼寝していた柊恭也が、眠気眼をこすっていた。
「ちょっと、これ、どういうことなのよ」
B棟から駆けつけたエイカ・ハーヴェルが、飛び散った肉片を見回して唖然とする。
彼女の脳裏には、『へんじがない。ただのバラバラ死体のようだ!』というギャグが思いついたが、さすがに不謹慎だと思って自重した。
「誰か、覚醒したデュランダルでもぶっ放ったのか?」
C棟に待機していた紫月唯斗が、立ち込める爆風を見上げていた。
「これって……犯人たちのだよね」
足元に落ちてきた二つの手首を見て、D棟のルカルカが目を細めた。
「こうなってしまったら、もう、手錠は必要ないね……」
彼女は悲しげに呟いて、一対の手首を拾い上げる。ふたつの掌は手錠よりも固く繋がれていた。
「ふん。茶番だよ、こんなものは」
ジェイコブは、くだらない恋愛映画の感想を述べるように吐き捨てた。
彼は踵を返すと、無言のまま護送車へと向かう。
「……わたくしは、ずっと疑問だったのです」
その場に残ったフィリシアが、ぽつりと呟いた。彼女の言葉を聞いた梅琳は不思議そうに聞き返す。
「どういうことだ。フィル?」
「ドラマの最終回で、なぜルシファー総統はあんな死に方をしたのでしょう」
「それが、奴の美学だったんだろう」
梅琳の返答に、フィリシアはゆっくりと瞼を閉じた。
「わたくしには、あんな死に方が威厳に満ちたものとは思えませんわ。人によって作られたものを巻き添えにして、遂げる死だなんて……」
梅琳はなにも答えなかった。風が吹き、火薬と血肉の臭いを運んでいく。
しばらくして、口を開いたのはフィリシアだった。
「あなたならどうしますか。追い詰められて、死を選ぶことになったとしたら。梅琳さんは、心中しますか?」
この質問には、梅琳はすぐに答えを用意する。
「もしそんなことになったら。私が選ぶ行動はひとつだわ」
パートナーの機晶姫、エレーネの顔を思い描きながら、彼女はつづけた。
「愛する人と、生き抜く方法を見つけるまでよ」
お読み頂きありがとうございます。
いかがでしたでしょうか? 楽しんでいただけたら嬉しいです。
今回は初めてのイコンシナリオだったので、ドッキドキでした。特に大きなミスはないと自負しているのですが、どうでしょう。もしおかしな記述があればご一報ください。
今シナリオでもまた、素敵なアクションを数多くいただき、ありがとうございます。皆様の素敵なアクションのおかげで、人質をみんな救出することができました。
工場長のラストはああなりましたが、彼が望んだ結末でもあるので、これもまたひとつのハッピーエンドな形かなと思います。
あと、普段から大したことを書いているわけではないんですが、今回は個別コメントを称号の贈呈だけにさせていただきました。
なので、まとめてという形で恐縮ですが、こちらで一言。
みなさま、ご参加いただき、本当にありがとうございました! 爆弾で殺したいほど愛してます(重い)。
それでは、またお会いできる日を楽しみにしています!