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水宝玉は深海へ溶ける

リアクション公開中!

水宝玉は深海へ溶ける
水宝玉は深海へ溶ける 水宝玉は深海へ溶ける

リアクション

「一旦ホールへ逃げるのよ! あそこなら広いから一気に掛かれるわ!!」
 叫ぶような声が階段から聞こえてくる。
「今のは、カラミティサンダース!?」
「何があったんだ?」
 調べていた部屋を飛び出した樹とベルクの後ろから、ポチの助が叫んだ。
「上を見ろですエロ吸血鬼!!」
 促されて視線を上げると、廊下の天井から何かの欠片のようなものがパラパラと落ち――
そして衝撃と同時に天井と人影が落ちてくる。
「アレクサンダル!」
 アレクは受け身から立ち上がり、近くに立っていた樹達を一瞥する事もなく前髪をかき上げる。
「これどういう状況だ?」
 衛が樹の顔を見ている間にアレクはナイフポーチから中身を取り出すと、
しんがりの雅羅に向かって躊躇もせずに彼女の後ろへを投げた。
「ッッ!」
「雅羅さん!!」
 振り返る仲間に「大丈夫よ」と気丈に答え、雅羅は肩にナイフを刺したまま階段を降りて行く。


「貴重な胸をお持ちのおにゃの子に何て事しやがる!!」
 先に喋り出したのは衛で、動いたのはジーナだった。
 彼女は歩兵用と言うにはデカすぎる対戦車ミサイルのような、
常人では扱うことの出来ない6連ミサイルを肩に背負っていた。
 ポッドから出たミサイルはアレクに目掛けて飛ぶが、
天井からキラキラした何かが舞うと、ミサイルは対象を撃墜するせずにあちら側へ飛んで行く。
「人力でそんなミサイル連射ってどうかと思いますけど。
 成る程そういう変なものの為にこちらも変なものを準備しておく必要がある訳ですね。
 非物質化って本当に便利だなぁ」
 上階に残っていたリュシアンが、レーダー撹乱のチャフを飛ばしたのだ。
 廃ビルは解体を前に崩壊寸前で、もう床がどうとか壁がどうとかそんな状況ではなかった。

「さて、と。あれ重いから嫌いなんですよね」
 独り言を言いながら発射機から離れると、
置いて来たアサルトライフル取る為にを穴付近へ戻ったリュシアンの影にスナイプの一撃が飛んで来た。
「ッ!」
 左足首を撃抜かれ、リュシアンは前のめりに倒れる。
「パートナーが援護する事は想定済みだ。
 下手に連携されないよう、先手を打っておく物だろう、小姑よ?」
 不敵に笑う樹は、リュシアンの様子を伺いながらフレンディスに声をかける。
「忍び娘! 黒いのと犬と先にホールへ行って状況の確認を」
「しかしジゼルさんが――」
「取り乱している場合か!!

 分からない事を分からないもの同士で考える事は時間の無駄だ。
 説得はする。そちらの話した事も『覚えている』。
 だから先へ行け!!!」
 樹の迫力にとっさに頷いて、フレンディスはパートナーと共に階段の方へ消えた。
 それを確認して、樹はジーナ達へ向き直る。
 廊下の真ん中では衛がサンドバッグを振り回していた。
 それは羅刹の武術の応用だったが、逆に軌道が分かり易い少々お馬鹿な攻撃だった。
 上から振り下ろされたそれを横に避け、下から斜めに振り上げられたら今度は後ろに飛んで避けるアレクに、衛は青筋を立てている。
「ちょっとは当たる努力をしろよ!」
 理不尽なリクエストを受けてアレクは一旦後ろまで下がると、勢いを付けるのか何かの確認の為か片足を地面に2、3回ついた。
「うおおおおおおあああ」
 咆哮と共に正面にきたサンドバッグに向かってアレクは飛ぶと、空中から胴回し蹴りを入れ、巻き込み落とす様にサンドバッグを地面へ叩き付けた。
 極めて実戦的でないそれは、モーションの大き過ぎる相手の攻撃への意趣返しのつもりなのかもしれない。
 そんな訳で最後の最後に正しい使い方をして貰えたサンドバッグは粉砕した。

「は!?」
 瞬間呆けた衛の腹へ向かって、立ち上がり受け身から体勢を整えたアレクは押し蹴りを喰らわせる。
 飛んで来た衛を受け止めたジーナは、正面の敵に向かって指先を突きつけた。
「やいコラそこのデカブツマッチョ!
 アンタ、パルテノペー様をどうしたいんでございやがりますです!」
「ジナ!? この状況でそれは」
 そこから一気に雑になったハンドガンの攻撃を鎧以上の防御力を持つ肉体で弾き返しながら突っ込む衛に、ジーナは大声で返す。
「るっさいバカマモ! この話を聞いたときからワタシは許せなかったのですよう!
 兵器扱い……ワタシだって機晶姫だからすぐ兵器扱いされるんです!
 ワタシはフツーに生きたいんです!
 可愛い服着て、美味しいスイーツ食べて、ガールズトークとかいっぱいして……」
「じーなー、それじゃー説得にならねーぞー」
 弾を一手に引き受けながら棒読みで突っ込む衛を無視してジーナは続ける。
「パルテノペー様をフツーにしようとか、考えないんですか!
 フツーにできない理由があったら言いやがれなのです!」
 連射しにくいマグナム弾は9発撃ち終えてやっと衛の腕の表層を削ったくらいだ。
 マガジンへ伸ばしていた手をそのままに、アレクは左手に収まっていた銃を衛に向かってぶん投げた。
 拳聖の肉体の強さは異常で、虚をついた攻撃で急所の一つのこめかみに約2キロクリーンヒットさせて、やっと血を流した位だ。
 舌打ちしているアレクに向かって、衛は額の血を拭い、向こうが何かをする隙を与えないようにラッシュを繰り出しながら話す。
「あれっくさんよぅ、
 おにゃの子はさ、胸揉んだり胸揉んだり胸揉んだり――」ジーナのハリセンを後ろ頭に受けながら衛は続ける。
「ま、そーやって愛でるもんなんじゃねぇの?
 そーゆーのが出来ないってーのはアレかい。
 あんたの『上』の方がそれをさせねぇって所かねぇ?
 なあ、あれっく王子様よぅ、魔女との契約を反故にしねぇと愛しの人魚姫様が泡になっちまうぜ?」
「バカマモはやっぱりおバカです。
 さっき言ってた辺境伯っていうのは王子様じゃなくて貴族の爵位で軍の指揮官的……」
「今そういう真面目ツッコミいいから!
 折角格好良く決めたところで――」
 話しはそこで終わりだった。
 途中からジーナとの会話に集中していた所為か、衛は気づかないうちに服に何かを突っ込まれていたのだ。
 懐に飛び込んでいたアレクは、いつの間にか向こう側に消えている。
 隙間から取り上げたそれは黒色の小さいスプレーくらいのようなもので、そして上部にあるはずのピンが存在していない。
 手榴弾を手に持ったまま固まる衛と、後ろからそれを覗き込んでやはり固まるジーナ。

「これって!?」「なっなっなっなっ!!」

 扉の後ろに逃げた樹が閉じた瞬間、壁の後ろで閃光が走り、爆音が鳴り響いた。