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第2回新ジェイダス杯

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第2回新ジェイダス杯

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世界樹ユグドラシル

 
 
「ここがユグドラシル内部か」
 ドクター・ハデス(どくたー・はです)が、周囲を見回して言った。
 同じ世界樹と言っても、ユグドラシルは若いイルミンスールや他の世界樹とも極端に違っていた。
 パラミタ最大の世界樹とされるユグドラシルは、全高が10キロにも達している。その太い幹の内部はイルミンスールのような階層的な居住部となっているのではなく、長大な一つの空間だ。構造としては、幹の内部に円筒形の空間が縦に広がっている。そこでは世界樹ユグドラシルの強力な力によって重力さえ変化し、円筒部の内側が地面となって居住空間が広がっていた。
 そのため、左右上下に地面が見えるという特異な風景となっている。太陽は存在しないはずなのだが、世界樹の魔力によって内部は光に満ちていた。どうやら、外部の光を吸収して、内部へと導いているらしい。水分は豊富で、中央部では過飽和となった水分が雲となって宙に浮かんでいる。
「空京とはまた違った大都市だが、閉鎖空間であるがゆえに内部への進入はほとんど不可能だな」
 あらためて、見える限りの町並みを確認しながらドクター・ハデスがつぶやいた。
 このエリュシオン帝国の首都に侵攻するには、守備に当たる第三騎士団を打ち破り、さらに世界樹ユグドラシルそのものからの攻撃を突破しなければならない。まさに、都市そのものが、強靱な守護結界の中にあるといってもよかった。
 さて、近々行われる選帝の儀にこの場所へと進入を企んでいるドクター・ハデスの思惑とはまったく関係なく、今日ここでは新ジェイダス杯の第二回が華々しく開催されようとしていた。
 先帝のアスコルド大帝が崩御してから、まだあまり日も経ってはいない。はたして次の大帝が誰になるのか、エリュシオンの民は言葉に出さなくとも、不安をいだき続けているはずであった。
 そこで、夏に御座船で下見に訪れていたジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)が、やや強引に許可を取りつけたのだ。アスコルド大帝の健康状態からなかなか許可が下りなかったわけではあるが、ここに至っては国民を元気づけるためにも、大きなイベントを行うべきと説いたのである。エリュシオン帝国側としても、実は次期大帝の選出でかなりもめており、そちらから民の関心を逸らせる効果があるとして許可を出したという次第である。
 背後の思惑はどうであれ、ジェイダス杯である。
 今回は、首都ユグドラシルの空とも言える中央部を直進する障害物レースであった。
 その空間に、浮遊する障害物が設置され、その合間を縫ってレースを展開するのである。
「フハハハ、レース自体は、俺たちにとっては児戯にも等しい。とはいえ、オリュンポスの威光を知らしめるために、我らオリュンポスが一位を獲るとしよう! ペルセポネ! ヘスティア! 機晶合体を許可する! オリュンポスが誇る合体機晶姫オリュンピアの力を見せてやるがいい!」
「わかりました、ハデス先生っ! 必ず一位になって、ご恩返ししてみせますっ! 機晶変身!」
 ペルセポネ・エレウシス(ぺるせぽね・えれうしす)が、やる気まんまんで答えた。さっそく、ペルセポネ専用変身ブレスレットを使ってペルセポネ専用パワードスーツを装着した。緑髪の美少女の姿から、コバルトブルーの装甲に全身を被われた改造人間ペルセポネの姿となる。
「かしこまりました、御主人様……じゃなくてハデス博士! ペルセポネとの機晶合体をおこないます!」
 大きな機晶姫用フライトユニットを背負ったヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)も、やる気まんまんだった。
「うむ」
 二人のやる気に、ドクター・ハデスも満足気だ。
「ところで、ミネルヴァ・プロセルピナ(みねるう゛ぁ・ぷろせるぴな)はどこだ?」
 いつの間にか姿が見えなくなったミネルヴァ・プロセルピナを探して、ドクター・ハデスが周囲を見回した。
「ミネルヴァ様なら、罠を設置するとか言って、行ってしまわれました」
「ええ、なんだか、凄く楽しそうでした」
 ヘスティア・ウルカヌスとペルセポネ・エレウシスが、顔を見合わせて答えた。
「しょうがないなあ。というか、ミネルヴァ・プロセルピナらしいか」
 やれやれという風に、ドクター・ハデスが言った。とはいえ、ライバルを邪魔してくれるのであれば問題はない。
「よし、今回とその後に控える作戦のためにも、資金調達のために勝車投票券を買いに行くぞ」
 
    ★    ★    ★
 
「すいません、たこ焼きくださいな」
「いや、ここは軽食屋台であって、たこ焼き屋台ではないのであるが……」
 エステル・シャンフロウ(えすてる・しゃんふろう)から注文を受けたイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)が、屋台の中で困ったように答えた。
「ええっ、ないんですか?」
 ちょっと悲しそうにエステル・シャンフロウが言った。最近帝都で流行っているというたこ焼きという物を、一度食べてみたかったのである。
「作らせていただくのだよ」
 前言撤回。タコのような触手をうねうねとせわしなく動かしながら、イングラハム・カニンガムが気合いを入れた。
「それにしても、なんで来る客来る客、ここをたこ焼き屋だと思うのであろうか」
 看板をよく見て欲しいと、イングラハム・カニンガムが小さく愚痴を言った。
「それは、しかたないわよね」
 イングラハム・カニンガムの容姿を見ながらコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)がつぶやいた。イングラハム・カニンガムの容姿を見れば、誰もが宣伝のゆる族としか思わないだろう。当然である。
「なんと、意外なお客様が。この間は、いろいろとお世話になったであります」
 エステル・シャンフロウたちの姿を見て、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が挨拶をしてきた。
「いえ、お世話になったのはこちらの方です」
 丁寧に、エステル・シャンフロウが挨拶を返した。
「それにしても、御領主様がこんな場末の屋台などでお食事とは……」
 もったいないというか、いいのかと葛城吹雪が訊ねる。
「いえいえ、帝都では偉い方々がたくさんおられますから、私なんかすぐに下っ端ですよ」
 苦笑しながら、エステル・シャンフロウが答えた。
「あまりそういう会話は感心しませんが」
 護衛としてつき従っているデュランドール・ロンバスが、控えめな声でエステル・シャンフロウに言った。
「いいではないですか。いろいろとお世話になったのですから。それに、美味しいですよ」
「その通り。ここは帝都、場末などではないのだよ」
 自分の作ったたこ焼きに絶対の自信をもって、イングラハム・カニンガムが言った。
「デュランもどうですか、一つ。はい、あーん」
「エステル様……」
 デュランドール・ロンバスに軽く睨まれて、あわててエステル・シャンフロウがたこ焼きを引っ込めた。
「で、コルセア、一つお願いがあるであります」
「嫌よ」
「まだ何も言っていないでありますよ」
 即座に拒絶されて、葛城吹雪があわてた。
「だから嫌だと言っているでしょ」
「ええと、とにかく。伊勢の改造資金を稼ぐためには、この屋台では不足であります」
 葛城吹雪の言葉に、イングラハム・カニンガムが、そんなことのためにやっているのではないとぼやいた。
「ここはひとつ、自分が優勝して賞金を稼ぐでありますから、コルセアも勝車投票券を買っておいてほしいであります」
 自分のお小遣いとイングラハム・カニンガムの屋台の売り上げをひっつかむと、葛城吹雪がそれをコルセア・レキシントンに押しつけた。
「だからあ……」
「じゃ、頼んだでありますよ。自分は、スタートの準備にかかるであります」
 コルセア・レキシントンの返事を無視すると、葛城吹雪は用意してあったDS級空飛ぶ円盤の方へと走りだしていった。