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とある魔法使いの灰撒き騒動

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とある魔法使いの灰撒き騒動

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【某場所ではこの使用方法が普通です】

「ふむ」
 偽アッシュが周囲を見渡す。自身を囲う様に、周りに生えている樹なんかを利用して四角形にロープが張られている。
「まるでリングだな、こりゃ」
 偽アッシュの言う通り、マットなど無い物の、形はリングその物であった。
「ええ、正解ですわ」
 エレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)が偽アッシュの呟きにそう答える。隙を見計らい、このロープを張ったのは彼女である。
「流石に時間がありませんでしたので、簡易的な物になってしまいましたが」
 そう言ってエレナはリングサイドに見立てたロープの傍にパイプ椅子を置き、座る。
「アンタが戦うんじゃないのか?」
「ええ……後はお任せしますわ」
 エレナがそう言うと、横からトンガリ帽子型の胸まで覆うマスク、更に白いシーツを被せてウエストバンドで止めた怪しい出で立ちの者がゆっくりとリングへと歩み寄り、ロープを潜る。
「戦うのはアンタか。随分と奇妙な格好だな」
 そう言って偽アッシュが目を光らせる。眩い光であるが、怪しい何者かは一切怯む様子は無い。
 そして、徐にシーツとマスクを掴むとはぎ取る。そこに現れたのは、
「某兄弟だと思った? ☆残念☆海音☆シャナでした☆」
ブルーのウィッグを被った海音☆シャナこと富永 佐那(とみなが・さな)であった。普段はこの格好の時はグリーンのカラーコンタクトを嵌めているのだが、今日はサングラス(【サングラス型通信機】)をかけている為そちらは確認できない。
「ああ、そのサングラスで光を防いだっていうのか。でもそれだけじゃ勝てないぜ?」
 そう言うと偽アッシュの目が怪しく光る。眩い、という程のものではないが、何処か危険を感じさせる光である。
「そう来ると思ってましたっ☆」
 佐那の言葉とほぼ同時に、エレナが座っていた椅子を畳みロープ下から滑り込ませる。それを佐那は受け取ると、盾のように構える。
 丁度座る部分と反対の部分が偽アッシュへと向けられる。その金属部分は、まるで鏡のようになっており偽アッシュの顔がはっきりと映し出されていた。エレナがこっそりと細工していた代物である。
「状態異常はこれでガード☆」
 椅子の横から勝ち誇った顔を覗かせる佐那。だが、
「俺様の攻撃はそれだけじゃないぜ?」
偽アッシュの目からビームが放たれる。その衝撃に椅子を弾かれてしまう。
「くっ!」
 慌てて構えなおすが、即座に放たれたビームの衝撃に耐え切れず、佐那は椅子を手放してしまった。
「さて、盾も無くなったけどどうするんだ?」
「ちょ、ちょっとタイム! タイム! シンキングタイム!」
 笑みを浮かべて近寄る偽アッシュに、佐那は手を合わせて懇願する。が、偽アッシュの歩みは止まらない。
 しかし、その一瞬佐那の口元に笑みが漏れる。
「ていっ☆」
 指を二本立て、目を狙い突く。隙を突いての目つぶしを狙っていたのであった。
 だが、その攻撃を偽アッシュは軽く身を捩って躱す。
「――ちぃッ!」
 避けられるとは思っていなかった佐那は忌々しげに舌打ちをし、その勢いのまま膝を着くと偽アッシュの急所を狙い拳をかち上げる。が、それすらも偽アッシュは躱してしまった。
「遅いぜ?」
 そう言うと、佐那を見据えた偽アッシュの目が怪しく光る。ビームの前動作だ。
 準備が終わり、ビームが放たれる――その時であった。物凄い音を立て、何かが近寄ってくる。
「ん? なんだ?」
 その音に思わず偽アッシュだけでなく、佐那や他の面子も視線を向ける。そこでは、ローライダーが物凄い音を立てながら様々な物を撥ね飛ばしてリングへと向かってくる。
「ありゃ何だ……っておわッ!?」
 危うく本物アッシュを乱暴運転で撥ね飛ばしそうになる。それを避けたと思うと、オアシスに生えている樹に正面から衝突する。ボンネットは歪み、煙を上げ、トランクや扉が衝撃で開く。
 その運転席から、九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)が何事も無かったかのように平然と降りてくる。そしてリングのロープを潜り、偽アッシュに向かいポーズを決めた。

「キラッ☆正義の魔法少女ろざりぃぬだよー! 将来の夢は安らかに死ぬことだよ!」

 お前のような正義が居てたまるか。今の乱暴運転を見た者が、心の中でひっそりと思った。後その将来の夢は前向きなんだか後ろ向きなんだかよくわからん上夢もへったくれもないからどうにかした方がいい気がしなくもない。
 だがそんな皆の心情を知らぬ九条は、偽アッシュに指を突きつける。
「ア……なんとかの眼球さん! 悪さは止めなさい! 故郷にいるカーチャンがネギ抱いて泣いてるぞ!」
「……なぁ、何でどいつもこいつも俺様の名前はっきり言わないんだ……後ネギ抱いて泣いてるってどういうことだよ?」
 本物アッシュが呟くが、その問いに誰も答えない。
「……どうやらアッシャーさんの眼球さんを優しく撃墜する必要がありそうです。やさしさに包まれながら涅槃へと還るがよい! このろざりぃぬ、容赦せん!」
「言ったと思ったら間違いだしよぉ……」
 本物アッシュが更に凹む。
「さぁてアッg【ピー】さん!」
 とうとう伏字が入った。腕を組んだ九条は笑みを浮かべると、カッと目を見開いた。
「あ! あれは何だ!?」
 そして明後日の方向を指さす。偽アッシュもそちらの方を向く。
「隙ありゃああああああああッ!」
 そして笑いながらサミング。正義って一体なんだろう。信じられなくなってくる。
 だがもっと信じられない事態が起こる。
「な……!?」
 サミングをかました九条の腕を、偽アッシュが掴んで止めていた。
「だから無駄だって。フェイントとか、動き見えてりゃ反応できるだろ?」
 そう言って、目に怪しい光が宿る。
「な、ならこいつでどーだ!」
 九条が懐からレモンを取出し、偽アッシュに向けて絞る。おい、魔法少女。
 そのレモンも偽アッシュは躱すが、その際に掴む力が緩んだ為に逃れる。
「え、エスケープエスケープ!」
 そしてリング外へと転がり出る。気づくと佐那も場外に逃げていた。
「あ、あのアッなんとかさん……普通にシャレにならないんですけど……」
 場外に逃げた九条が額の汗を拭う。
「全くです……折角用意したのに、これ通用しないでしょうねぇ☆」
 そして佐那が残念そうに用意したという蛍光灯やらガンタッカー(大型ホチキス)やらを取り出す。
「……おい、何でこんなもんあるんだよ?」
「え? 勿論武器ですよ?」
 本物アッシュの問いに佐那が然も当然と返す。まぁ某所では普通にこういう用途で使われているので間違いではない。
「……あの、佐那……シャナさん? この酷過ぎる準備は、偽のアッシュさんだから、ですよね?」
「え? ああ……うんそうそう」
 エレナの問いに佐那は曖昧な感じで返す。
「こ、こいつら……頼んだの間違いだったんじゃないか……?」
 本物アッシュが戦慄する。が、既に手遅れである。