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血星石は藍へ還る

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血星石は藍へ還る

リアクション

【15】


 「瑞樹お姉ちゃん、飛んで下さい!」
 指揮ユニットとなった真鈴の声に、瑞樹背中に集中する。
「了解! ブレイジングスター・展開!!」
 瑞樹の声と共に背中で展開されたのは、機械翼型の空中戦用フライトシステムだ。
 それは謎の技術で無理矢理作り上げられ、やはり制作者の性格が表れているためか、かなりド派手な見た目をしており、でもスペックや動作原理は元の飛空挺とほぼ同じという不思議な逸品だった。
 身体にシステムを一つ付けるというのは少々扱いづらいものでもあったが、グランジュエルと化した機晶姫達にとって、これを扱うのは難しいことではない。
 そして何よりこのユニットを司るのは他ならぬ制作者の瑞樹自身であった。
「ジゼルさん、いえ、セイレーンは羽根を傷つけられ、空中での行動が不利になっています。
 今が勝機です!
 瑞樹お姉ちゃんは輝さんがプロボーグでこちらへセイレーンを引きつけている間に加速を!
 ヘスティアさん、高速飛行に対応出来ますか!?」
「かしこまりました。
 ブースターの推進力を加え強化します!」
 ヘスティアの宣言と共に、グランジュエルのスピードは増して行く。
 迫ってくるグランジュエル・アクアマリンモードに、セイレーンは音の刃を作り出した。
「対電フィールド、フォースフィールド、強化装甲を展開!
 モルペー、きます!
 皆耐えて!!」
 迫り来る衝撃に全員が目を瞑るのでは無く、見開く。
 一度目の連撃は全て強化した装甲と展開したフィールドで弾ききった。
 しかしその次は想定外だ。
 更に数を増した光りの球体がセイレーンの背中の後ろに弾幕のように現れている。
「連続技だったんですか!?」
 耐えきれない程の刃だったが、目の前に赤いヘラジカを象った焔が立ち上り、セイレーンは弾幕をぶつける事なくその場から一旦離れる。
「頑張ってねぇグランジュエル」
「ありがとうございます!」装甲を外したペルセポネにお礼を言われながら、トーヴァが地面から手を振っていた。
 相対する規格外の機晶姫に、セイレーンはこいつは一度地面に落とさないと厄介だと踏んだのだろう、重力を伴った歌をうたいだそうと唇を開く。
「あれは恐らくパルテノペー・重力場がきます!
 ヘスティアさん、出力アップを!!」
「トリニティ・リアクター・システム、起動!
 3・2――」
 ヘスティアのカウントダウンの後も、セイレーンの歌は響かない。
 投擲用の槍を構えていた輝も、腕を下ろした。
「おかしい……」
「……こない、ですね」
 見上げてきたペルセポネに、トーヴァは微笑んだ。
「ジゼルちゃんね。皆頑張ってるなぁ。
 おねーさんもそろそろ行ってくるか!」
 踵を返して行ったトーヴァは、傭兵部隊を相手に竜巻のようにその場で蹂躙を始めた。
 その姿を見つめながら、真鈴は思った。
 そう、戦わなくては。
 戦って、勝利するのだ。彼女を解放する為に。
「ヘスティアさん、それにペルセポネさん!」
 一人の機晶姫として一つに解けた意識は、真鈴の想いを四人の中に共有させる。
 瑞樹は静かに目を開いた。
「……私達だけじゃ不安だった。
 でも四人の、いえ、皆の力を合体出来るのなら、頑張れます、頑張ります!
 火器管制システム・オールグリーン
 ……真鈴ちゃん、一気に行くよ!」
「出来れば戦いたくないけど――やらなきゃいけないなら、全力で戦います!」
 今、この瞬間に、四人の心を重ねて。
「ジゼルさん、私達の必殺技、受け取って下さい!!」
 輝き出したグランジュエルの搭載武器が一斉に撃ち出された。

「「「「全砲門展開完了

    アステロイド・シュート!!!」」」」

 二門のレーザーと無数のミサイルが、セイレーンへ向かって流星のように降り注ぐ。耐えきれない攻撃の重みにセイレーンは地面へ落ちていった。



 武尊。ハデス。姫星。雫澄。唯斗。
 瀕死の状態まで追い込まれ、回復を受けている五人を目に留めながら、食人は思う。
「(俺はつい最近、友と呼んだ人を何も出来ずに見送った。
 決して俺みたいな凡人があがいた所で解決する問題ではなかった。
 けど、もしかしたら死ぬ気で頑張れば何かできたんじゃないかとも今でも後悔してんだ。)
 だから今回は『死ぬ気で頑張る』。

 俺の全力でジゼルさんも皆も守り通す!」
 それは確かな宣言だった。
 自らが楯となり、味方を庇い続けてきた食人の身体は、シャインヴェイダーの回復能力を以てしても最早追いつかないレヴェルだ。
 それでも「今日のジゼルさんは刺激的過ぎて鼻血が止まらないだけ」と、軽口でやせ我慢し、彼は戦い続けた。
 太陽の形をした槍を地面に突き立てながら、それによりかかるように立つ食人は無茶な戦い方にもう立っているのすら辛いくらいだ。
「もうそろそろ、限界……かよ。

 なら……」
 残された力を振り絞り、食人が向かってのは、グランジュエルの必殺技を受けセイレーンが落ちてゆくその瞬間だった。
 身体を捻り体勢を整えようとするセイレーンへ向かって、食人はまっすぐ空へ顔を上げた。
 こちらを見続けている馬鹿の姿に、セイレーンはジゼルの声を振り払って死の歌を彼はと送る。
 その瞬間。
「ダーリン!?」
 食人はシャインヴェイダーと分離した。
「こんな美女の唄で死ぬなんて、俺には贅沢過ぎるな」
 ぼやきながら食人は『犠牲』の名を冠したスキルを発動させた。
 白い光りを目にしながら、食人は思う。
 これであの四人は立ち上がり、また戦えるだろう。
 他の皆も、進めるだろう。
 分離したシャインヴェイダーが咆哮を上げながらこちらへ駆け寄ってくる。
 シャインヴェイダーの作り出した結界に守られながら、食人は静かな眠りについた。

「どうやらジゼルさんは羽根を傷つけられた影響で定期的に地面に降りる必要があるようですわね。
 それでしたら――」
 セイレーンが壮太の設置したトラップを魔力の気配を感じて避けつつも、それを警戒しながら地面をうかがっている様子、そして戦闘の様子から分析をし、ヴェールは地面を氷術で凍らせてゆく。
 それは誰かがひっかからない程度のほんのわずかな隙間だったが、スピーディーな動きのアイランの囮誘導に惹き付けられたセイレーンが降り立つのを見越した場所だった。
 戦闘サポートプログラムが組み込まれた機晶剣でジゼルの隙をついて作り出した攻撃の刃をアイランに弾かれている間に、セイレーンはヴェールの読み通りにその場に降り、そして足を滑らせた。
 その場には糸が張り巡らされている。
『私が気取られないよう糸を張ります。
 その間に皆さんは誘導を……』立案は悲哀で、指示通りに動いたパートナーたちのお陰でセイレーンの足に糸が絡み始める。
 更に巻き付けようとした動いた悲哀に向かってセイレーンの指が伸ばされるが、瞬間飛んできたクナイに、セイレーンは手を引っ込めた。
「耀助さん!」
「行け、悲哀ちゃん。俺がここから守る」
 耀助の声に頷いて、悲哀はセイレーンの足を宙づりに持ち上げた。
 身体を捩って逃げ出そうとするセイレーンは蜘蛛の巣に捉えられた蝶のように藻掻く程に絡み付く糸に悲鳴を上げる。
「糸は動けば動く程肌に食い込むもの。
 捉えたら、逃しはしませんよ」この場ばかりは冷徹さを持った声に、セイレーンは恐れを成して舞い上がる事で逃げようと力任せに空へ向かう。
 最終的に無理矢理見つけた穴から身体が千切れる痛みも構わずにセイレーンは飛び出すが、それで力尽きた羽根は閉じ、動けなくなってしまう。
「ルカ! 俺を投げろ!!」
 コードの声に、ルカルカは一本の槍になっていたコードをセイレーンに向かって投げつける。
 それはセイレーンへ止めを刺すの為のものでは無く、ジゼルを助ける為の投擲だった。
 彼女へ当たりそうになった直前、コードはギフトの形状から人間の形に姿を変化させると、ジゼルの身体を抱きしめ共に空から落下して行く。
 このまま恐らく、コードとジゼルはギフトの飛行能力で軟着陸できるだろう。
 だがセイレーンは二人とも無事を望んでは居なかった。
 唇を開いたセイレーンに、コードは攻撃の予感を覚え、咄嗟に自らの唇を寄せ彼女の唇を塞ごうと――

 して撃たれた。
 コードが下敷きになってくれたお陰で、セイレーンというかジゼルというか最早曖昧な存在の彼女の身体には傷一つ付かなかったが。
 問題はそこだけではない――。
「おい何やってんだ、仲間を背後から狙撃する奴が何処に居る!?」
 ベルクに肩を掴まれて、アレクは煙を上げたままのハンドガンのスライドを引きながら残弾数を確認しつつ適当に答えた。
「仲間? お前こそ何言ってるんだ。ジゼルはあの男に触れられる事を許可していない。俺も赦してはいない。だから撃った。
 ベルク、お前は美しいフレンディスがお前の目の前で本人の意志に関係無く野郎の身勝手な独断で唇を奪われて赦せるのか? 『助ける為だった』だの『下心』は無いだの付け足せばハイソウデスカって笑って赦すのか? イケメン無罪? ふざけんなよ」
「……う……それは……」アレクは『よくわからないろんぱ』をつかった。1000まんのダメージ。ベルクはまけてしまった。
「独断専行で行動する奴が仲間なものか。あの塵芥虫が今直ぐ行って粉砕してやる今後差し歯無しで生きられると思うなよ――
 あとマガジン一つと三発か。糞、全身に穴開けるには弾が足りねえな」
「目的が変わってるぞ暴力王子」いつきがしょうかんされた。いつきは『てきかくなツッコミ』をつかった。よけられた。
「大体女の子のファーストキスなんてもんは実際のとこ夢も希望も無く本人の意志どころか知らない間に家族に奪われてるもんなんだよという訳で妹の初めてはまるっと俺が頂いてやるぜヒヒッ」
「むしろ自分の方が下心丸出しじゃないか変態王子、お前の言葉は総ブーメランだな」「そんな事より樹、聞きたい事があるんだが」
 樹のツッコミをスルーしつつ、アレクは雰囲気ぶちこわしだと罵られようと頑として持ったままのユーティリティーポーチを弄って、矢張り清廉な服装を破壊する黒いライナーグローブに包まれた手で以て白いレースにブルーのリボンと刺繍があしらわれたそれを取り出した。
「これ、さっきマモルに貰った」
「何だコレは…………ガーターベルト!?」
 19歳の男子の懐から女性用下着が出てきた。しかも横流ししたのは事もあろうに自分のパートナーだった。樹の頭がグルグル回っている間に、アレクは至極真面目な顔で樹に質問する。
「ガータートスに使えってさ。つまり俺はヨーロッパの伝統に従いジゼルのスカートに潜った上でこれを口で外さ無くてはならないんだが……このイベントは一体どのタイミングでやるものなんだ?
 ……どうした変な顔して。お前指輪してるし既婚者なんだろ、だったら知ってると思っ――」
「衛お前は何てものを変態に与えているんだ!!」
 樹の吼え立てる声と共にジーナのハリセンの乾いた音が庭園に木霊して、衛の頭には新たな凹みが出来上がった。


 京子と一緒に頂へ昇ってきた真は、傭兵部隊を相手にしていた。
 ヒットアンドアウェイで撹乱しつつ、気づかれぬ様に設置した糸に敵が集中したところで粘性をもったそれに感電させる。
「捕獲の『用意は整っております』
 ……なんてね」一人つまらない冗談を呟きながら、足止め用の糸を設置しようとしていたところへ、後ろからやってきた拳に、真は横に首をひねるだけで避けた。
「(――軽い)」
 前につんのめってたたらを踏んだ相手の腕を掴んで前へ投げ飛ばすと、倒れた相手の人中へ思いきり拳を叩き込んだ。
 イマイチ歯ごたえの無い戦いの中で、真のなかに靄もやとした何かが引っかかり始める。
 再び真を狙ってきた別の敵兵の蹴りを腕で防ぎながら、靄はムクムクと育って行く。
「(そうじゃない)」
「(そうじゃなくて)」
 敵へ何かを求めるいる自分に気づいて、真はやっと合点がいった。
「ああ、そうか……」
「(俺、イラついてるのか。
 ハムザさんが犠牲になったことに――)」
 あの事件の日。
 ゲーリングが突入してきたときに、組織のハムザ・アルカンはパートナーのトゥリン・ユンサルとその場に居た契約者たちの壁になり、死んだ。
 その中には真も含まれていた。
 ゲーリングに潰されたのは、ハムザの命だけではない。直前迄拳を交え、そうした仲でしか分かり合えないはずの特別な感情すらも踏みつけにされたのだ。
「(なんというか……お茶でもして、いろいろ話したかったな……)」
 ぼんやり思うのはそんな他愛も無いようなことで、考えてから真は突然沸点に達した怒りで目の前の敵の顔面に向かって右ストレートを放った。
「クソッ!!」


「ひゃっはー! どこに向けてもあたりそーだじぇー」
 派手な声を上げて箒に立ち乗りし飛び回っているのはバニーガールさんだった。
 真と共に第三階層に居たのだが、もうあそこに敵は居ない。
 折角こんな格好で箒に乗っているのだからと、いっそ開き直るように勢い任せで頂迄上がってきたのだ。
 構える機晶魔銃マレフィクスの構造を利用したミエニー銃の銀色に輝く銃身には、苺の葉と花が写実的に彫刻されており、木製の銃床は落ち着いた赤に仕上げられている。
 アンティークのようなそれは縁のバニーガール姿によく映えていた。
 トップスピードを出しながら銃弾を一斉射撃でばらまき捲り、撹乱と蹂躙に一役買っている。
「大漁大漁、うっひゃー!」
 滑り降りるようにやってきた縁に、敵兵は下階層への逃走を余儀なくされるが、そこに待っているのは待機状態のプラヴダの連中で――。
 既に上へ逃げ果せた縁の見事な陽動作戦にひっかかった傭兵部隊がどうなったかは確認しない。縁は次なる目標をサーチするため高く高く舞い上がるバニーガールの長い耳に、サブマシンガンから放たれるタタタタタタタの音が聞こえてきた。


 龍の鱗を頭に思い描く事で強化された皮膚は、攻撃を受けない。
「ッ!?」
 武器を手に怯んでいる敵兵の肩に向かって左之助は槍の二連突きを喰らわせた。
 しかしその瞬間、背後から別の敵兵が左之助を目掛けて冗談から剣を振り下ろす。
 気配を察知した左之助は槍を掴んでいた手を離し、前蹴りをすることで邪魔者を一旦退けると、空いた隙間の空間を斬り後ろへ振り向いた。
 鉄と鉄がぶつかる音がしたのは、左之助が空いた右手で居合い刀を抜いていたからだ。
「悪かったな、俺の得物は槍だけじゃねぇんだよ」
 不敵な笑みを浮かべるが、さて刀は搗ち合い、槍は向こうの敵さんに刺さったまま。
「(さて絶対絶命ってやつか?)」
 両刃の剣は返す必要が無い。速攻でやってきた横薙ぎに、文字通り絶体絶命になったはずの左之助だったが、突然その顔が龍に変化すると敵兵の喉元目掛けて鋭い牙を突き立てた。
 そしてこちらも更に左之助の読み通り、肩に刺さっていた先ほどの敵兵が律儀にも槍をつけたままこちらへやってきてくれたので、愛槍を握り抜きながら左之助は笑うのだ。
「おかえり」と。