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リアクション


ふれあい

「うーん……どうしたらラセンさんと仲良く出来るんでしょうか? どう思います?」
 ニルミナスに住み着いたユニコーン、ラセン・シュトラールの住処へと歩いて向かうミナホは誰かに話しかけるようにそう言う。しかし周りには人の姿はない。
「はぁ……やっぱり自分で考えるしか無いですよね」
 返ってこない返答にミナホはため息をつく。そうしてとぼとぼと歩いているうちにラセンの住処についた。
「……って、あれ? ラセンさんはどこに行ったんでしょうか?」
 住処を見るがそこにラセンの姿はなくミナホは首を傾げる。
「ミナホさん? シュトラールに用事かな?」
 かけられる声にミナホは振り向く。
「ああエースさんにリリアさん。ラセンさんと一緒だったんですね」
 振り向いた先。ラセンと一緒に歩いてくるエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)の姿を見てミナホはそう言う。
「森に行かれてたんですか?」
 やってきた方向を見てミナホはそう聞く。
「シュトラールがどうしてあの森に一人で行きたがらないのか気になってね」
 その原因を探ってきたとエースは言う。
「何か分かりましたか?」
「いや、特には。ただ、あの森を嫌がっているというよりは警戒しているみたいだね」
「そうですか。何が原因か分かればいいんですけどね」
 森の守護獣であるユニコーンが森に自由に入れないのは可哀想なことだとミナホは思う。
「ああ……そういえばシュトラールの森への警戒の仕方はミナホさんを避けてる様子と酷似していたかな」
 あえて気づいたことを言うのならとエースは言う。ただ、あの森とミナホの共通点など見当たりもせず、なんとなくでしかない。

「……ところで、聞いていいかしら?」
 エースの話を横で聞いていたリリアがミナホにそう言う。
「はい? 何をですか?」
「……あなたの頭の上にあるの……何なのかしら?」
「何って……チャトランさんですよ?」
「いや、それは私が連れてきたんだから分かってるけど」
 ミナホの頭にはラグランツ商店の看板猫、キャットシーのチャトランの姿があった。覆いかぶさるようにしているその姿は文字通りの猫かぶり状態だ。
「どうしてうちの看板猫があなたの頭の上に?」
「ラセンさんとチャトランさんって仲良しなんです。それで私がラセンさんの所に行く時に連れて行って欲しいって」
 そうミナホが言っているうちにチャトランはミナホの頭の上からラセンの背中へと飛び移る。
「……仲がいいのは確かみたいね」
 ラセンとチャトランの様子を見てリリアはそう言う。
「本当は看板猫の仕事サボってここに来てること怒らないといけないのかもしれないけど……とりあえず今日は一緒にブラッシングをしましょうか」
 しょうがないわねとため息をつきながらリリアはラセンの体にブラシをかけていく。その背中にいるチャトランにも小さなブラシをつかってブラッシングをする。
「うん。健康状態は悪く無いみたいね」
 ブラシをかけながらラセンの健康状態を確認していたリリアはそう言う。

「リリア。そろそろ行かないといけない時間だ」
 何か用事があるのかエースはブラッシングをするリリアにそう言う。
「あら、どうしようかしら。ブラッシングの途中なんだけど……」
 そう言ってリリアは周りを見渡す。
「……あなたしかいないわね」
 使っていたブラシをリリアはミナホに渡す。
「大変かもしれないけど仲良くなるチャンスよ。首筋ぽんぽんってしてあげると喜ぶから」
 頑張りなさいとリリアはミナホに言う。
「それと――」
 リリアはラセンに近寄り、
「――あなたの本当の名前、いつか教えてね」
 小さくそう言った。


「……どうしましょう?」
 二人を見送った後、リリアに渡されたブラシを手にしたミナホは途方に暮れる。
「ブラッシング……させてくれますか?」
 ミナホの言葉にラセンは相変わらずつれない反応を返す。ただ、最初の頃より警戒の色が薄れ、代わりに呆れというか残念な子を見るような様子があった。
「やっぱ私にブラッシングとかされたくないですよねー」
 はぁとミナホは息を吐く。どうにか仲良くなりたいが道程は険しい。
「なにか困ってるんですか?」
「?……ええと、確かファウナさんでしたっけ? 困ってるというか……」
 声をかけてきたファウナ・ルクレティア(ふぁうな・るくれてぃあ)にミナホは事情を説明する。
「そういうことならワタシがブラッシングするわ」
 そう言ってファウナはミナホからブラシを受け取りラセンにブラッシングをかけていく。手持ち無沙汰なミナホはその様子を見ながらチャトランを撫でる。
「やっぱり綺麗だなぁ……いるのは知ってたけど、こうも近くで見る機会もないもんね」
 ラセンにブラッシングをしながらファウナはそう感想を漏らす。
「そういえばファウナさんのパートナー……祐さんでしたっけ? どうなさってるんですか?」
「んーと……今日は釣りをするって言ってたかな。もう少ししたらここを通るかも」
 ファウナとそのパートナー、仲山 祐(なかやま・ゆう)は最近この村で過ごすことが多くなっていた。
「ここが一番村から湖に近いですからね」
 ラセンの住処は村の東部に位置する。湖のある森も村の東側に位置するため、釣りをするというならここを通るだろう。
「話をしてたら……」
 ファウナの声に見てみると、祐がこちらに歩いてきている様子が見れた。向こうもこっちに気づいたのか釣竿を背負ってミナホたちのもとに来る。
「おはよう村長。ファウナはここに来てたのか」
 祐はミナホに挨拶をし、そこから三人で雑談をする。

「そうだ、祐さん。今度の温泉施設づくりで何かアイディアはありませんか?」
 雑談の中、ミナホは今度の村興しのことを思い出し聞く。
「たとえば、スーパー銭湯とかにある眠れる畳部屋とかあるといいかもしれないな。自然が豊かなんだし、風を感じることが出来て、木々のざわめきなんかを聞けるように工夫したりとか」
「うーん……畳は難しいかもしれませんね。でも似たような部屋はあったらよさそうです」
 祐のアイディアにミナホはそう返した。

「そろそろ、夕飯を釣りに行かないと。失礼する」
 話が一段落した所で祐はそう言って湖へと向かっていく。
「今日の晩御飯は、何になるんだろう……私、料理苦手だしなぁ」
 祐を見送りファウナはそう呟く。
「お料理苦手なんですか?」
「料理は、もっぱら祐が作るんですよ。私は、本当に料理が下手で……」
 少しだけ恥ずかしそうにファウナはそう言った。
「契約者のパートナー同士の関係っていろいろですよね。ファウナさんと祐さんはどうなんですか?」
 ニルミナスを拠点にする契約者や、村興しに協力してくれる契約者などミナホは会ってきたが、そのどれもがパートナー同士不思議な絆で結ばれているような感想をミナホは持っていた。
「ん〜……深く考えたことなかったなぁ。たぶん、兄弟かな。少なくとも、祐はそう思ってると思うよ」
「兄弟……ですか。いいですね。私家族って父しか知りませんから憧れます」
 興味深そうに言うミナホ。
(でも、それだと……ちょっと不満かな……)
 楽しそうなミナホはファウナの少し寂しそうな表情に気づくことは出来なかった。


「さてと……それじゃチャトランさん。私達もそろそろ仕事に戻りましょうか」
 ブラッシングを終えてファウナは住処を去り、その場にはミナホとラセン、チャトランしかいない。
「え? まだいたいんですか? もう、あと少しだけですよ?」
 まだユニコーンと一緒にいたいというチャトランにミナホは仕方ないですねと許す。
「……でも、私ここですることないんですよねー」
 チャトランはラセンと一緒に楽しそうだが結局今回もミナホはラセンに触ることすらできていない。ラセンとチャトランが戯れている様子を見るだけというのは少し寂しい。
「……一人じゃんけんでもしますか」
 訂正。すごく寂しい。
「ミナホさん、ここにいたんですね。調度良かった」
「? 鉄心さん達、村にいらっしゃってたんですね」
 寂しがるミナホに話しかけてきたのは源 鉄心(みなもと・てっしん)。後にはパートナーのティー・ティー(てぃー・てぃー)イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)の姿もある。
「なにか私に御用ですか?」
「猫の額……もとい、キャットシーの額ほどの土地でいいので貸してもらえませんか? この近くで」
「この辺りですか? そうですね。この辺は特に開発計画はありませんから大丈夫だと思いますけど……何に使うんですか?」
「花壇というか……まぁ花とかいろいろ植えてみようかと」
「そういうことでしたら自由に使ってください」
 流石に村の景観を著しく壊すようなら考えるが、そうえないのであれば問題ないとミナホは許可を出す。
「ありがとうございます。……ほら二人共許可もらったことだし早速……って、君たち手伝う気ないだろう?」
 いつの間にかラセンのもとによってなでたりしているティーとイコナの二人。
「種まきは手伝いますの。鉄心頑張ってですの」
「うさうさ」
 すっかり花壇づくりは観戦モードの二人に鉄心は苦笑い気味にため息をつく。
「まぁ、いいか」
 たまにはこういう生産的な活動も悪くないと鉄心は言う。
「そういえばミナホさん。ラセンとはあれからどうです?」
 花壇づくりを始める前に、鉄心は気になっていたことをミナホに聞く。
「未だに触らせてもらえませんけど……少しは打ち解けてくれたんじゃないでしょうか」
 そう言いながらミナホはラセンと触れ合うティーとイコナを羨ましそうに見る。
「……まぁ、そのうち心を開いてもらえますよ。原因が分かればきっとすぐにでも仲良く慣れると思います」
 ミナホはもちろんユニコーンにすらその原因がよく分かっていないから前途は多難だが。

「ちょっとぶりですね……お元気でしたか?」
 ラセンのもとによったティーはインファントプレイヤーを使いユニコーンの調子を伺う。
「もし不便な所とかあったら、隠さずに教えて下さいね」
 その改善のために頑張るとティーは伝える。

「そういえばラセンさんの好きな食べ物はなんですの?」
 ラセンとの触れ合いの中イコナはそう聞く。
「一番好きなのはこの村でも育てられてる例の薬草みたいうさ」
 インファントプレイヤーを介してユニコーンが伝えたことをティーは言う。
「他には何かありませんの?」
「植物系なら基本的になんでも大丈夫だけど、人が食べられる植物がその中でも好きみたいうさ」
 前に飼っていたという人の影響かもとティーは言う。
「じゃあスイカの種を植えますから、出来た時はラセンさんにも食べて欲しいですの」
 そういうことなら大丈夫だろうとイコナは言う。
「だから、野性の動物とかが取りに来ないよう時々見てて欲しいのです。特に、食い意地の張ったいやしい泥棒うさぎには気をつけるのですわ」
 そう言って横目でティーを見るイコナ。
「う、うさぎは卑しくないですうさ〜。 ラセンさんも、うさぎを見かけたらやさしくしてくださいね……うさ」
 イコナの言葉に抗議するようにティーはラセンに言う。
「ところでラセンさんが一番好きだという薬草を食べてみたいうさ」
「……やっぱり食い意地張ってますの」
 そんな感じで二人はラセンと楽しい時間を過ごした。


「そういえば何を植えるんですか?」
 花壇づくりをしている鉄心の手伝いをしながらミナホは聞いてみる。
「イコナが植えたいというちょっと特殊なスイカと……あとは花を少し」
「花ですか? 具体的には?」
「今植えたらちょうど夏のおわり頃に咲くと思いますからその時までのお楽しみっていうのはどうですか?」
「いいですね。楽しみにしています」
 そうこう話しているうちに花壇を作り終える。
「あとは種まきか。あの二人にも手伝ってもらわないとな」

 そうしてユニコーンの住処の近くに花壇が作られ、そこにはスイカの種と数種類の花の種が植えられた。