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 ふり上げられたツルハシの突端が、眩い光を放った。
「お宝、おたから、出ておいでー。あたしが可愛がってあげるからー」
「ふふっ、何だか張り切ってるところを悪いんだけど。あまりはしゃぎ過ぎちゃうと、体力が持たないわよ」
「これぐらいじゃあ、ヘコたれたりしないないったら」
「まずは広く浅く地面をさらってみましょう。生活の痕跡みたいなものが出土した辺りを念入りに掘り下げた方がいいと思うの」
「それは確かにセオリーよね。でも、あたしの勘がココを掘れって訴えるのっ。だから間違いないわ」
「あまり過剰な期待は持たない事ね」
 上下のつなぎに身を包んだセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)(愛称:セレン)は、噴き出す汗を弾けさせながら地面を掘り進めていた。
 彼女と向かい合うようにして土砂をシャベルですくっているのが、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)。発掘作業がつつがなく進行するように、彼女は土塊を適切な場所へ移動して固めている。
「柔らかい層が出てきたら、シャベルに持ち替えた方がいいわ」
「お宝をツルハシで叩いたらもったいないものねっ」
 ザックザックと土砂を穿っていたツルハシが、何かを捉えた。
「何か出てきた」
 セレンがツルハシを肩に担ぎ上げると、セレアナがシャベルで土塊を掘り抜いた。
「年代物のブーツだわ」
「おっかしいなあ、確かにこの辺りから強いパワーを感じてるんだけど。もっと深いところにあるのかしら」
 鎖骨の辺りまで引き上げてあったジッパーを少し開いたセレンは、えり元をパタパタとあおって一息ついたようだ。
「さすがにこれ着てると暑いわー、脱いじゃおっかなあー」
 胸元まで降りていたジッパーを内股の方まで全開にすると、昆虫が脱皮をするかのように上衣を脱ぎ捨てる。
 青のビキニアーマー姿のセレンの肢体には玉のような汗が輝いており、男子の視線を釘付けにすることは間違いない。
「汗かいちゃってた分、すっごく涼しいよー」
 腰元からだらしなく垂れ下がった上衣の袖をお腹の前で結んだセレンは、セレアナにアイコンタクトを送った。
「いや、私はこのままで大丈夫だ。それよりもそんな格好だと危険だし、陽に焼けてしまうでしょう」
「陽に焼ける前に、脱水を起こして倒れちゃいそうだわ。ほらセレアナもいいから脱いで脱いでっ。見てるだけで暑苦しくなっちゃう」
 ジッパーを降ろされてしまったセレアナは仕方なく上衣を脱いで腰元に巻き付けると、その上からいつものロングコートを羽織ることにした。
「えーっ、そんな黒いの羽織っちゃったら、つなぎを脱いだ意味が無いじゃない」
「私はこれでも充分に涼しいわ。さあ、続きを始めましょう」
 公の場でレオタード姿を晒すのは恥ずかしいと訴えることも、それはそれで恥ずかしかったようである。



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 それからややあって。
「また外れを引いちゃったかー」
 シャベルに持ち替えたセレンは、地中からうす汚れた古着のようなものを発見した。
 とりあえず掘り起こしてしまおうと生地にそってシャベルを突き立てたところ、何か固いものを叩いた感触があったようである。
「セレアナ、何かあるみたい」
「慎重に掘り起こしてみましょう」
「やったー、ついにお宝を見つけたのかもっ」
 丁寧に土砂をすくってみたところ、それは給仕服のスカートから伸びる人間を模した脚であった。
「これってやっぱり、アレかなっ」
「ええ、機晶姫で間違いないみたいね」
「凄いっ。ホントに発掘されることがあるんだっ」
「続きはドジックさんを呼んで対応してもらいましょう」
「あたしたちが掘り起こしたんだから、自由にしちゃいけないの?」
「言ってなかったかしら? 出土したものはドジックさんが回収して、学園直属の検査機関へ流されるのよ」
「えーっ!? なーんだ、せっかく頑張ったのにい……」
 機晶姫の傍にヘナヘナとしゃがみ込んだセレンは、うらめしそうにセレアナの事を見上げてため息をついた。



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 機晶姫が出土したという知らせを聞いたドジックは、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)と共にセレンの下へとやって来た。
 詩穂の指導を受けて丁寧に掘削した結果、機晶姫は背を丸めてうずくまるような姿で出土したのである。
 体高は145センチ。ボブカットで、左右の“びん(=横髪)”を三つ編みにしており、外装はオレンジを基調とされている。
 その胸元にはいくつかの酒瓶を抱き込んでいて、とても幸せそうな表情をたたえたまま眠り続けているように見えた。
 首からは、火竜が翼を広げた例の紋章が刻まれたプレートを下げている。
「メイドさんの機晶姫だねっ……ケガしてるところは無いみたいだよっ」
「これは未契約の個体なのか」
「ううん、違うよ。だってこの子、お洋服を着てるもん」
「まあそうだよなあ。壊れていると思うか?」
「調べてみないと分からないかもっ。カイゼルちゃん、この娘をテントまで運んでよっ」
「カ――カイゼルちゃん!? ……ああ、まあ、分かった。任せておけ」



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 拠点に立てられたテントへ担ぎ込まれた機晶姫を、詩穂とセレンとセレアナで拭き清めた。
 機晶姫とはいえ、給仕の衣を脱着する場に男の目があることに抵抗を感じた詩穂は、ドジックを現場監督の名目で早々に追い出してしまう。
「思った通り外傷はないみたい。問題はどうして動かなくなっているのかだよね」
「ディープ・スリープ・モードへ移行しているのかしら」
「それだったら、単に起こしてあげればいいからオッケーだよねっ」
「中身が壊れちゃっててもうダメ、ってコトもあるんでしょ?」
「うん、その場合は学園のラボへ持って行って、メンテナンスが必要かも」
「じゃあまず、ディープ・スリープっていう状態から目を覚ます方法を試してみたらいいんじゃない?」
「それはそうなんだけど」
 詩穂は視線を泳がせてから、セレンに助けを乞うように見つめた。
「何か必要なものがあるの?」
「例えば、えーっと……機晶石を近づけて共振させてみるとかっ。でも、詩穂はちょっと持ってないんだよね」
「機晶石でいいの? だったらこれはどうよっ」
 セレンとセレアナはお互いに見合わせると、のど元から光り輝く塊を放出させるなり、それを手のひらで受けてみせた。
「そ、それってセレンちゃん」
 詩穂は目の前で展開された光景に、思わず目を見張った。
「あたしの蒼い機晶石は“フリージング・ブルー”、セレアナの紅いのが“バーニング・レッド”よ」
 彼女たちが身につけていたのは、融合機晶石と呼ばれている特殊なものだ。その石を体内に取り込むことによって、秘められた力を自由に扱うことが出来るようになる。
「その石を機晶姫の額に当ててみてっ。内蔵されている機晶石が呼応すれば、エネルギーの取り出しが再開されて目を覚ますと思うの」
 セレンがフリージング・ブルーを額に当てたところ、何の前ぶれもなく機晶姫が目覚めた。
「起きたあっ!」
 思わず3人の声がハモってしまった。
「うわっ、びっくりしたあ……ココはどこだ? あれー、酔っ払っちまったのかなあ。何にも服着てないや。あははっ」
 機晶姫であるから、もちろん基本装甲を身にまとった健常体だ。
「あなたは誰? 何者なのっ」
「アタイの名前はキャセル。キャセル・万能型(きゃせる・ばんのうがた)だ。よろしくなっ」
 姓はなく、単にキャセルと呼ばれているそうである。



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 お互いに自己紹介を済ませた後、ドジックを交えてキャセルの経緯を聞かせてもらうことになった。
 彼女の話によると、ドジックを筆頭にして発掘を行っているのはグレドール家の所有するドラゴンの研究機関であるそうだ。
 キャセルはそこで給仕の仕事を任されており、主に雑務をこなしていたという。
 グレドール家の主人はマーチン・グレドール(まーちん・ぐれどーる)という名であるそうが、ここの施設で何をしていたかまでは分からない様子である。
「雇い主であるマーチン様が給仕に休暇を与えて下さった日の晩のこと、突然おきた土砂崩れに襲われたのです。たまたまアタイは給仕の控え室にひとりで残っていて、地下倉庫から汲んできたワインの組成を調べて、熟成度を見ていたんです」
「そーなの? キャセルちゃんが出てきた周りから、たーくさんワインの空き瓶が出てきたって話だけど」
「――えっ!? ええっと、その……もちろんワインの出来をチェックするのは本当のことだったけど、ほんのチョコッとだけもらって、て、テイスティングしてみただけだぞっ」
 鋭い詩穂のツッコミに、キャセルは誤魔化す余裕すら与えられなかった。