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第1章 無策で特攻は危ないのですよぉ!作戦会議 Story1
エリドゥ近辺に出現したという、砂嵐を目撃したと報告を受けたエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)は、そこへ突入するべく作戦を立てることにした。
呼び出された祓魔師たちは、校長室のデスクの周りに集まり、会議を始めた。
「猫又さんを守って、取られちゃった物も全部返したんだったよね」
「あぁ、そうやね、終夏さん。けど、それで終わりってわけでもなさそうやな…」
まだ何か目的があるのかと、七枷 陣(ななかせ・じん)は手書きの地図を見下ろす。
「ビフロンスやシルキーの時のように、自分たちの力として取り込むため、妖怪の少女を狙っていたのは間違いないだろうね」
攫われたら道具として扱われていたのだろうと、メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)が言う。
「赤い髪の子供もおそらくは…。ラスコット、それについて教えてもらいたいのだけど。不確定でも、些細なことだとしても。情報はあるに越した事は無い」
「まだ、それだって分かったわけじゃないしなぁ」
「私たちが、知って損なことではないのだよね。いずれ、関わることになるならそれこそ必要なはず。現地で対策を練るよりも、こちらとしては今伝えてもらったほうが助かる」
確定まで至らなくても、開示してもらえれば有難いと告げる。
「いたとしてもね、覚醒はしていないと思うんだよね」
「覚醒とは魔性としてかい?」
「それもあるけど、能力としてもね。オレたち…というか、生物などに好んで害を与えるような者じゃないよ」
「なら、開示を躊躇う必要もなさそうな気がするね。どうしてだい?」
「向こう側が…もう見つけ出してしまったなんて、まさか…と思ったんだよ」
「あちらの手に落ちたてしまったら、マズイということだね」
いたずらに不確定な情報を開示してしまえば、探しに行ってしまうと考えたのだろうか。
ラスコット・アリベルト(らすこっと・ありべると)の様子からして、ボコールに捕まえられる前に捜索に向かうことを、心配してのことだったのかもしれない。
不鮮明な目撃ポイントでは、探すのも困難。
少人数でばらばらに行動している途中で、彼らに遭遇する可能性だってある。
「どこかのエリアに、人が集中するのはって…ことかもしれないわね?そう考えれば、今まで伝えられなかったのも仕方ないことね」
「(セレンがマジメなこと…)」
最初から最後まで目が泳いでいないか、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)の様子を見ていたセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は、“えっ!”と驚きの声を上げそうになった。
「私たちに任せられないことじゃないにしても。迂闊に、あまり別々に行動するのも…ってわけよね」
「うーん…まぁそんなことろかなぁ」
「その子供も捕まえて、どうするのか…予想はついているっていうことだよね?ラスコットの予想が当たっているとすれば」
「簡単に言えば、心臓を奪うこと。それも生きたままね」
おそらく失ったら戻ってこないだろう、メシエのその部分を指差す。
「何のために?」
「ベースに吸収されるためさ。そっちは破壊を好むやつでね、自然災害や凶事を起したりするんだよ」
「器…ではなさそうだね」
彼の口ぶりからすると適合する器という意味でなく、対の者なのだろうか。
「活動能力までは至らないから、生贄に使うとしているのかもね」
「なるほど。火山の噴火の比ではないと考えてよいのかな?…なんとも厄介な」
“そうだ”と頷くのを見て、食物が絶えることや健康被害どころでは済まなさそうだ。
「砂嵐へ突入するための対策も考えたいのだが。何か、意見があればいってくれ」
佐野 和輝(さの・かずき)はテーブルに真っ白な紙を置き、メモ用のノートを開いた。
「砂嵐ということは、目や口、耳に砂が入り込みそうだから。それらの対策が必要だよね」
視界などが悪くなることを想定したクリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)が言う。
「目はともかく。耳はガードしすぎると、周りの声が聞こえづらくなるな。口も喋りにくいと厳しいし。予定としては、俺が盾になるつもりなんだけど」
「それは刀真くんが先頭を進むということかな?」
「アークソウルを使える人が、傍にいてもらうと助かるな」
「口はどうしようか」
「軽装と考えれば、マスクあたりじゃないか。1箱でたくさん入っているのがあるだろ。どうしてもいるっていうならな。ぱっと見て、誰ってわからないとさ」
「見た目の全体を見て、判断している暇はなさそうだからね。耳には冬場に使うような、耳あて程度がよいもしれない。取りたくなるほどじゃないはずだよ」
日の高い時間帯は暑いだろうが、それくらいなら我慢できるだろうと考える。
「―…後は目か。砂漠用のゴーグルがよいかな?砂がくっついて、見えづらくならないようにね。はぐれないようにってのもあるし」
視界がゼロになっては、互いの位置も把握しづらいだろうと提案する。
「備品として、用意してもらえばいいが。…どうだろうか」
「そーですねぇ。エリドゥのお店に問い合わせてみましょうかぁ、和輝さん。現地で配ったほうがよいでしょうからぁ〜」
こくこくと頷き、エリザベートはノートパソコンを開いた。
「ショップの商品紹介に〜、ゴーグルはありましたねぇ。他のは、後ほど調べておきますぅ」
「よろしく頼む。…他に、提案などはあるか?」
「それと。服に砂が入りにくくする方法とかは、“鋭利な何かで…負わされた傷”への対策にもなるはずだよね?」
「ん〜、お店で売ってるようなものじゃ厳しいかも。無理に進んだら、この程度じゃ済まなかったと思うし」
簡単に購入出来る防護服などでは難しいと、スクリプト・ヴィルフリーゼ(すくりぷと・う゛ぃるふりーぜ)はふるふるとかぶりを振った。
「あぁ、そうだね。報告からして、容易く突破できそうにないのは、俺も理解しているよ。その砂嵐は、人為的に作られたもののようだったかな?」
「うーんとね。物理的作用とは違う気がしたから、魔術とか…そういうのだと思う」
「となると…。通過するには、結構な時間が必要になってしまうのかな」
「いや、それだと向こうの目的が進んじゃいそうだよ」
あからさまに進入禁止のシャットアウトするほどだから、時間はかけられないと言う。
「やはりそうなってくるのかな。…車のような締め切った乗り物で、近づくのが良いんだろうけど。徒歩で行く必要がありそうなら、ガード役が必要になると思う。何人かで天幕なんかを掲げて一時的に遮蔽物を作る感じだね」
「クリストファー、すぐに脱出しづらい乗り物はよしたほうがよさそうだ。転倒させられてしまう可能性もある」
「活動しやすい飛行や、徒歩がベストということか」
砂嵐の中は、操縦を必要とするものは不向きかと頷いた。
「呼んでも答えないでしょうし、別ルート…上か下から、或いは強制的に道を切り開くしかありませんわね」
「そりゃ、いるだなんて言わないわよ。や、ちょっと!つままないでよっ」
ボソッとつっこみを入れた漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)が、中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)にキュッと指でつままれた。
魔鎧として装着している状態では、抵抗しようがない。
「無理につっこむのは危険だ。もっと酷い傷を負うことになりかねない」
「まぁ、それは最終手段ですわ。スクリプト様の怪我のこともありますし。一輝様のおっしゃる通り、無策で突入しては掠り傷ではすみませんわ」
「上は台風の様に目があれば良いのですが、円錐形になっていたら不可能。下は砂嵐は無いでしょうが、目的地がはっきりしない限りは距離の把握が不可能。道を切り開く…相対する属性をぶつけて砂嵐を無効化するか、逆に同じ属性で砂嵐を緩和するか…。なんにせよ、現場をちゃんと調べない状態では如何するか決めることは出来ませんわね」
「私もそうしようと、あの時考えたのだけど。空から偵察するにしても、その先に何かいるとすれば…。落とされるリスクがあったのよね」
「だから上空から見ずに、魔法学校へ戻ったのですわね」
偵察して対策をとるというのも、危険かもしれないと告げるフレデリカ・ベレッタ(ふれでりか・べれった)の言葉に、なるほどと納得する。
スクリプトが受けた傷のこともあってか、それは当然の判断だっただろうと理解した。
「確かに…。何らかの手段で、墜落させようとしてくるだろう。上空から進入するならばそれを回避……。またはいったん退き、自力で仲間の元へ戻ることができなければな」
「えぇ。あちらからすれば、こちらの存在はまるわかり…という可能性もあるでしょうから」
「あぁ、そういうことだ。…他に、意見などは……。(―…アニス、また隠れているのか)」
ちらりと後ろを見ると、黒い影が2つ重なっていた。
1つは和輝自身ので、アニス・パラス(あにす・ぱらす)の小さな影。
“神降ろし”で呼び出した者を内に降ろさず、目立たないようにごにょごにょ話していた。
祓魔術を学んだ知識要員として、彼に呼ばれて会議へ参加したものの、“用事がないと暇だなぁ…”と時間を潰しているようだ。
「(アニス…。また俺の後ろに)」
「(ほぇ〜、だってー。こんなにたくさん人がいるのは…)」
「(対策会議なんだから当然だろう)」
精神感応で言い、しゃがみ込んで会話しようとしない少女の肩を指でつっつく。
「(リオンもちゃんと話しに参加してくれ)」
「(数分で終わるようなものを、好んで長々と話す気はない)」
テレパシーで禁書 『ダンタリオンの書』(きしょ・だんたりおんのしょ)にも言うが、ツンとした態度で拒否された。
「(本来、話し合いというものは、そうなんじゃないのか?いろんな意見があるからな)」
「(何を言うか。アニスを誰かが見てやらなければならいだろう。現地でやつらに、親しげに接しないためにもな)」
ヒトじゃない相手が、何でも仲良くなれるんじゃと接近していきそうだと感じ、アニスの様子を見ていた。
「でねでね、…そうなんだよ!うん、わかるー」
「アニス、…アニスッ」
「あっ!ごめん、リオン。声大きかった?」
「そうではない。そういった者と仲良くするのは構わんが。相手によっては、危険なやからもいる。無闇に親しくするな」
「え、えぇ?」
なぜ仲良しになっちゃけないのか分からず、きょとっとリオンを見る。
「私が言いたいのはな。今回の対象のようなやつらに、やたらと近づくなということだ。確実に利用されるぞ」
「ふぇえ、だってだってー…」
「自らの寿命を縮めてまで、行使する下法の術使いどもだぞ?まともに話が通じる相手ではない。…分かるな?」
「うぅ。じゃ、じゃあさぁ。取り込まれちゃった子たちとは…?」
「―…うーむ。正気に戻し、保護した後でないとな。それまでは接近してはならぬ。私や皆がよいと言うまでは、絶対に…だ」
目を離した隙に近づいていかないよう、釘を刺すように言う。
「むうー、はぁ〜い」
勝手に接近するのは禁止と言われ、不満げな顔をしたアニスだったが、大切な和輝にも心配かけたくないからとしぶしぶ首を縦に振った。
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