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リアクション
ユニコーン
「外傷はもう完全に直っているね。……まぁ外傷は針を刺されていただけだから当然だけど」
ユニコーン、ラセン・シュトラールの療養具合を確認してエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)はそう言う。
「呪い自体はあの時で解けているし落ちた体力を戻せば元通りだね」
そのためにここ最近は毎朝訪れて体力の戻り具合を確かめ、運動や食事を管理して体力回復に務めていた。獣医の心得からカルテを取ったりと本格的だった。
「今日はいつもの食事にこの薬草を混ぜて……シュトラール、食べられるかい?」
エースの言葉にラセンは頷いたようにエースは感じる。仕草や動作から何を言いたいかはだいたい分かるようになったとエース自身も感じてきていた。
「食事も終わったし……リリア、ゆっくりと散歩をしてきてくれないかな?」
ラセンが食事を終え、診察自体も終えたエースはリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)にそう頼む。
「分かったわ。行きましょう? シュトラール」
「危険な目に遭わせちゃってごめんね……怖かったでしょう?」
村を歩きながらリリアはラセンにそう言う。守りきれずラセンを生命の危機に合わせたことをリリアは未だに悔やんでいた。
「相手を捕まえることばかり考えて、捕まえた後のことを警戒してなかったわ……ごめんなさい」
詰めが甘かったとリリアは謝る。
「チャトランもごめんね? あなたの友達を守れなくて」
ラセンの背中に乗るキャットシーのチャトランにもリリアは謝る。チャトランもまたラセンが心配でエースたちがラセンの元へ行くときいつも連れて行ってもらっていた。
「……優しいのね。あなたは」
ラセンがなんと言っているのかは分からない。でも伝えたいことは分かる。
『ありがとう』
そうラセンは思っているとリリアにはちゃんと伝わっていた。
「ごめんにありがとうって返事はおかしい気がするけどね」
そう言って優しくリリアは笑う。
(まだ、自分のことは許せないけど……)
それでもこのラセンの感謝の気持だけは受け取ろう。リリアはそう思う。
「……そろそろ帰りましょうか。帰ったら温泉に入りましょう?」
ユニコーンの住処にはユニコーンのための温泉が備え付けられている。ラセンの体力が順調に戻っているのはその効果もあった。
「……チャトランはこの後仕事だからね?」
雑貨屋ラグランツ商店の看板キャットシーのチャトランにリリアはそう言う。
「明日も連れてくるから……ね?」
不安そうなチャトランをリリアはそう言って撫でるのだった。
「うさ〜……守るって言ったのに、ちゃんとできなかったです。痛い思いまでさせてしまって……うさぁ〜……」
ゴロゴロと住処で休むラセンの周りを回るのはティー・ティー(てぃー・てぃー)だ。リリア同様、守れなかったことを大きく悔やんでいる。
「……ごめんなさい。ああいう場面も想定して、そばに居させてもらったのに」
最後の最後で失敗してしまったとティー。
(針が飛んでくることに『シックスセンス』や『野生の勘』が働いていれば……)
粛正の魔女の力に契約者の力は効きにくい。それと同様に感じにくいものでもあるんだろうとティーは感じていた。針が飛んでくる音さえ気づければ防げたかもしれないが、超感覚でもない限りそれは難しいだろう。
「でも、快方に向かってるみたいだし本当に良かったです……」
そう言って無事を確かめるようにティーはラセンを抱きしめる。
「ごめんなさい。わたくしのスイカの為に……」
ラセンを抱きしめるティーの横からそう言うのはイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)だ。
「あのスイカの価値に気づいたことは見事ですけれど、そのためにラセンさんを傷つけるなんてティー以上に食い意地が張ってるのですわ」
「……………………」
「でも、ラセンさんのお陰でスイカも花もすくすく育ってるのですわ。来月辺りには収穫して花も見れそうですの」
一緒に食べましょうとイコナは言う。
「何かして欲しいことあったら、遠慮なく言って下さいね」
とりあえずティーはイコナの最初の発言は流すことにしてラセンから離れてそう言う。
「とりあえず今日はラセンさんの好物のミナス草を貰って来ました。一緒に食べましょう?」
「ハーブなんかももらってきていますの。ラセンさんさえ大丈夫でしたら一緒にお昼を頂きたいですの」
ティーとイコナはそう言って昼食の準備を始める。
「……いいんですよ。あなたとこうして触れ合えるのが一番のお礼です」
インファントプレイヤーでラセンが何かお礼がしたいと言ったこと受け取ったティーはそう返す。
「ラセンさんはお礼がしたいと言ってるんですの? むしろこっちがお礼したいくらいですわ。スイカを護って頂きありがとうございますですの」
「……………………」
とりあえずイコナの空気破壊スキルはスルーするしかないと思うティーだった。
「あっちはまぁ、大丈夫そうかな」
ユニコーンの住処で繰り広げられる風景を遠巻きに見ながら源 鉄心(みなもと・てっしん)そう言う。ティーやイコナがついているし、他の契約者たちも気にかけている。順調に回復していっているのは鉄心自身感じられていたし、全快するのもそう遠い日じゃないだろうと。
「……こっちはこっちでしっかりやろうか」
鉄心が今やっているのはユニコーンを守るために設置された罠の撤去だ。命の危険があるものは早々に撤去されたが、落とし穴や警報機といったものは散在して残っていた。
「誰かが引っかかったりしたら大変だからな」
なお今朝ここを通った雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)が三個くらいの落とし穴に続けて落ちたことを鉄心は知らない。雅羅が自分が落ちた落とし穴を綺麗に埋めたためサイコメトリでも使わない限り気づくことはないだろう。
そんな感じで鉄心は罠の撤去作業を続けた。
「ふー……一段落かな」
息をついた鉄心は休憩がてらに試してみたいことがあるのを思い出す。
(……返信があるとは思えないけど)
ユニコーンを襲撃した『黄昏の陰影』と呼ばれる傭兵団。面識は出来たためテレパシーの第一条件はクリアしている。同じパラミタに射るなら繋がるはずだと鉄心はためす。
『……なんだよ』
「……驚いた。まさが返事が来るとは思ってなかった」
向こうからの返事を受け取り鉄心はそう返す。
『それで、何のようだ?』
どこかダルそうな感じで傭兵は送ってくる。
「聞きたいことが三つある。一つは縄から脱出した方法。二つは粛正の魔女の力が場所問わず永続的なものなのか。三つは粛正の魔女に対するキミらの感想」
前回の事件の時に疑問に思ったことを鉄心は聞く。
『一つ目は想像通り粛正の魔女の加護。あのバケモノは人を傷つけられないだけで物を消したりとかは簡単にしやがる』
契約者の力の影響下にあるものを除いてと傭兵は言う。
『二つ目、場所的な制限はない。力を与えるのも奪うのはいくらでも可能だ。今こうしてテレパシーが繋げられるのは俺たちが魔女の力を返したからだ』
だから今はあのやっかいな呪いもないと傭兵は言う。
『三つ目……あの魔女への感想? 一言で言うならバケモノなんだが……』
あえて言うならと。
『ありゃ、当然善人ではない。だが悪人ってわけでもない。……役目を果たそうとする壊れた機械だ』
壊れた機械が理解不能な力を使い振るう。そんなものバケモノ以外のなんでもないと傭兵は言う。
「善悪を離れた存在ね……もう一つ聞きたいことがあるんだが」
『サービスだ。答えてやる』
「……なぜ、そんなに素直に答える?」
『一つはあの魔女が俺らに口止めをしていないこと。二つは今やった情報はこちらをこれ以上不利にはしないこと。前回である程度話したり予想できることだからな。それで何より三つ目。あの魔女の力を研究するのも俺らの仕事だからだ』
「……こちらに情報を渡してこちらが出した答えを回収するつもりか」
『そういうことだ。せいぜい頑張れ』
そうこちらに送ったのを最後に傭兵から返事はなくなる。
「魔女の思惑と傭兵たちの思惑は必ずしも一致していない……か」
もしかしたら魔女よりも傭兵たち、その雇い主のほうが曲者かもしれないと鉄心は思った。
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