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通り雨が歩く時間

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通り雨が歩く時間

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 イルミンスールの街。

「マスター、ヨシノさん達が良い方で何よりでしたね。でも探求会のシンリさん達は如何なる方なのでしょうか」
 フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)は前回知り合ったヨシノ達の事を思い出しつつシンリもまた善人であればと思っていた。
「さぁな。友愛会の情報では悪い奴らが多いわけじゃなさそうだから話が分かる奴である可能性は高い。ただ、魔術の研究もそうだが、犠牲を出す事で生まれるものが沢山ある以上連中の考え方は理解できるが悪意なけりゃ犠牲厭わないのは無邪気にも程がある」
 ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は魔術師として探求会について思うところがあるようであった。
「そうですね。確か、遺跡に興味があるという事でしたからこの街にいるのかもしれません」
 フレンディスは周囲を見回しながら言った。
「探求会ですかー。実績多数で随分優秀な方々のようですが僕には敵わない事でしょう! ま、得意分野が違うので比べられませんけどね」
 忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)はいつものようにノートパソコン−POCHI−を使っての情報収集担当として獣人姿となりピグの助に乗っていた。ちなみに普段端末にはセキュリティロックをかけているが、犬の本能なのか万が一の盗難防止の為端末と自身の首輪へチェーンでロックをかけている。
「……ポチ、今回も情報処理の方、お願いします」
「任せるさね」
 フレンディスとマリナレーゼ・ライト(まりなれーぜ・らいと)はしっかりとポチの助を頼りにしていた。
「ご主人様、マリナさん、全ては僕のこの優秀な頭脳と端末に入っておりますので今回も存分に役に立って見せます」
 頼りにされて相当嬉しいポチの助は存分に胸を反り、やる気満々。
 早速、探求会の捜索を始めようとした時、
「……やっぱり、ウルディカの奴らもいたか。よほどあのレシピの薬が欲しいんだな」
 ベルクが付近にいる知り合い三人組に気付いた。
「そうみたいですね、私達もお手伝いしましょう」
 放っておけないフレンディスは真っ先に知り合いの元へと急いだ。
 その後ろをベルク達が続いた。

 グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)達は友愛会から探求会が遺跡に興味を抱いていると聞き、イルミンスールの街にやって来た。
「エンドロアを蝕む魔力はその反面生命力の代用品だが、生命維持であればまだ手はあるからな。薬を得る事を最優先にする」
 とウルディカ・ウォークライ(うるでぃか・うぉーくらい)
「当然です。問題も無く手に入る物ではなさそうですが、やっと見つけた可能性。何としてでも手に入れますよ」
 ロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)も同じく例のレシピの薬を完成させる事を優先する。
「……二人共、焦っているな。俺の状態、予想以上に悪いらしいのか。俺が苦痛に耐えるだけでいいのに」
 グラキエスは自分のために必死になるロア達の姿を見つめ小さくつぶやいた。こうして自分を助けようと悩み、これまでに見た助けられないと苦しむ姿、一縷の望みに縋る今の様子、グラキエスはそれを見るのが辛くて何とかしたいと思っていた。
「とりあえず、エンド、君は体を休めていて下さい。交渉は私達がやりますから」
 ロアは早速、本日体調の悪いグラキエスを気遣った。グラキエスの今の状況は”補助具があれば大丈夫”ではなく”補助具で何とか体の限界を引き延ばしている”状態なのだ。
ウルディカの言葉通り、魔力が生命力を肩代わりしているため生命力自体はあるのだが体は魔力への抵抗力がないため浸食され続け弱っているのだ。
「ここで突っ立っている時間が惜しい。急いで探求会の奴らを探すぞ」
 ウルディカはさっさと歩き出した。
「……俺にも何か出来る事はないのか」
 グラキエスは先を行くロア達の背を見つめながらぽつりと洩らした。
 その時、
「探求会の方は見つかりましたか?」
 フレンディスの声が三人を引き止めた。
「これから捜すところだ」
 グラキエスが代表して答えた。
「例のレシピの事だな」
「あぁ、何としてでも必要だからな」
 苦労人同盟であり心の友であるベルクの言葉にウルディカは語調を強めて答えた。
「何としてでも、か。欲する理由も気持ちも解るが、あまり強引な事はするなよ」
 ウルディカの必要であれば手段を選ばぬ様子にベルクは念を入れた。ベルクとしても対立して友人とやり合いたくはない。
「それは約束できません。今の私達にとって大事なのは件の薬を得る事だけですから。そのために手段を選んでいる時間はありません」
 ロアも同じく万が一の際は手段を選ばぬ様子。
「……相手は話の分かる人かもしれないからその話は後にするさね。まずは捜してからさ」
 マリナレーゼが間に入り、物騒な話を打ち切り、捜索を促した。
 マリナレーゼの言葉を合図に全員での捜索が始まった。『捜索』を持つフレンディスとウルディカの尽力で屋外の喫茶店に目的の人物を発見する事が出来た。丁度通り雨の中、先客が情報収集している所だった。

「ヨシノ会長から探求会は遺跡の事を気にしていると聞いてもしかしたらと思いましたが」
 御神楽 陽太(みかぐら・ようた)の子孫の御神楽 舞花(みかぐら・まいか)は探求会がいるのではないかと捜し歩いていた。彼らの特徴は前回知り合った調薬友愛会から入手済みである。途中、通り雨に遭遇するも『捜索』を持つ舞花は捜索を続けた。
 その結果、とある屋外喫茶店で
「……一致しますね」
 聞いた特徴と一致する女性を発見した舞花はためらう事無く近付いた。
「こんにちは、今日は素敵な通り雨ですね。私は御神楽舞花という者です。あなたは調薬探求会のオリヴィエさんですよね。調薬友愛会の方から聞いた特徴にとても酷似していますので」
 『貴賓への対応』を有する舞花は丁寧に女性に挨拶をした。
「あら、ヨシノちゃんを知ってるのねぇ。元気にしているのかしら? 体を結構痛めつけてたから……あ、良かった向かいの席にどうぞ」
 オリヴィエは少しだけ驚くも友愛会と知り合いの舞花に嫌な顔はせずありふれた質問を投げかけて席を勧めた。
「はい、お言葉に甘えさせて頂きます。元気にしていましたよ」
 舞花は向かいに座って飲み物を頼んでから質問に答えた。
「そうなの。魚竜の肝で鎮痛剤だなんて実験好きのあの子も随分大変みたいね。優しいヨシノちゃんの所にいるから大丈夫だとは思うけど」
 オリヴィエは最近耳にした友愛会の近況に少しだけ顔を曇らせた。
「気に掛けていらっしゃるんですね」
 喉を潤した後、舞花は思わず洩らした。一つのレシピを争っている人達とは思えなかったから。
「えぇ。二つに別れて交流も少なくなったけど私は嫌いじゃないから。雨、綺麗ねぇ」
 オリヴィエは穏和に笑み、雨を楽しみ始めた。
「……お聞きしたい事があるのですが」
 舞花は早速目的を果たそうとするが、
「オリヴィエさん、どう? あたしの実験」
 空からやって来た守護天使によって邪魔された。
「シノアちゃん、とても素敵よ。情報収集はどうなったの?」
 オリヴィエが感想と共に任務の案配を訊ねた。
「さっぱり。ヴラキの奴、見つからないから猫になって逃げたのかも」
 シノアは肩をすくめて疲れたように答えた。
「そうなの。あぁ、ごめんなさいね」
 オリヴィエは放置したままの舞花の事を思い出し、穏やかに謝った。
「いいえ、質問をしたいのは私だけではないようですから、全員が揃ってからお願いします」
 舞花はこちらに来るフレンディス達とグラキエス達を発見し、質問を引っ込めた。
 ようやくやって来るなり
「あたしらも話に加わってもいいさね?」
 マリナレーゼが代表として口を開いた。
「……あらあら、今日は来客日和ねぇ。私はオリヴィエでこの子はシノアちゃんよ。舞花ちゃんと同じ目的よね?」
 オリヴィエは楽しそうにフレンディス達とグラキエス達を迎えるなり訊ねた。
「そうさね。あたしは最近調薬友愛会の相談役に就任させて貰ったマリナレーゼと言うさー」
 マリナレーゼは相手が名乗った事により速やかに自分も名乗った。
「それじゃ、遺跡について知ってるよね。教えてよ」
 これはチャンスだとシノアは情報収集者が口にするよりも先に訊ねた。
「確かに遺跡事件については少しは知ってるけど、当然秘密もあるさね」
 マリナレーゼはすぐには話さない。目的は情報収集である。それが果たせる保証がない限りこちらが情報を提供する義理はない。
「秘密というと特別なレシピの事ね。相談役という事はこちらに力を貸すのは難しいという事かしら」
 オリヴィエは笑みを浮かべ、マリナレーゼの口が堅い理由を察する。
「察しがいいさね。無闇矢鱈に情報を無償提供するサービス精神は持ち合わせていないという事さね。おそらく私だけでなくこの場にいる皆そうさ。どういう事か分かるさね?」
 ドライな商売人思考のマリナレーゼはオリヴィエ達に正しく伝わるようにとゆっくりと話した。
 途端、
「それってあたしらも何か教えなきゃいけないって事でしょ。つまりウララに力を貸す事になるじゃん。あたし、絶対に嫌だから!!」
 シノアは苛立ちの声を上げ、忌々しそうにマリナレーゼ達をにらんだ。
「相変わらずウララちゃんを嫌ってるのねぇ。同族嫌悪かしら」
 オリヴィエは嫌がるシノアの様子に微笑ましげ。
「またそういう事を言う……オリヴィエさんは!!」
 シノアはオリヴィエをにらんだ後、よほど嫌なのかそっぽを向いてしまった。
「それじゃ、シンリちゃんとヨシノちゃんが揉めたレシピを教えてあげるわね。その代わりにあなた達が持っているレシピを教えて頂戴ね」
 オリヴィエはあっさりとマリナレーゼの交渉に乗り、レシピの内容を教えた。ポチの助はしっかりと端末に収めていた。
「ポチ、情報を見せてあげて下さい」
 フレンディスはオリヴィエの返事を得るなり、ポチの助に情報提供の準備を促した。
「ご主人様、もう用意は出来てるのですよ!」
 ポチの助はそう言うなりノートパソコンの画面をオリヴィエに見せるのだった。
「ありがとうね」
 オリヴィエは礼を言うなり食い入るようにレシピの内容をしっかりと頭に入れた。
 交渉が一つ終了したところで
「……ところで遺跡に興味を持つ理由は何ですか? やはり正体不明の魔術師ですか? 私達は平和のために行動を起こしていますが、調薬探求会の思惑は別なのでしょうか?」
 舞花は立て続けに気になった事をオリヴィエにぶつけた。
「最近の魔術師の一連の騒ぎにとても興味を持っていて捕獲をして素材に使えないかと考えているのよ。ほら、魔力そのものというから、調薬の幅も広がるんじゃないかと」
 オリヴィエの答えは友愛会とは別物であった。友愛会はあくまでも野次馬的な興味だったが、探求会は利用を目論んでいる。