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リアクション
古城に到着した北都達は、慣れた様子で城内に入った。ササカの言葉通り魔法系のごみはそれほど転がっていなかったが、ごみ箱はどこもかしこも満杯だった。
北都達は二人だけなので特に酷い場所、厨房と実験室を片付ける事にした。
まずは実験室。
「また薬にふたをしていないし、食べながら作業をしていたのかな。これも片付けないと。思い出して食べたりしてお腹壊してもいけないし」
実験中と思われる作業を完全に停止させてから北都は『超感覚』で臭いを関知して食べかけのままにして腐った物をごみ袋に入れていく。
「……確かに前よりは綺麗にはなりましたが、まだまだですね」
『博識』と『薬学』を持つ北都の確認を得てからクナイは出したまま放置されていた薬品や素材を棚に片付けた。
片付けが終わると厨房へ移動した。
厨房。
「……予想通り出ましたか」
厨房に入るなり『禁猟区』でクナイは冷蔵庫の周囲を素速く走る黒光りのアイツを察知し、
「成敗!」
北都が目にする前に手早く処分した。
「……あぁ、調理道具も食器も使用したまま放置しているよ」
北都は溜息をつきながら明らかに落ちないだろう汚れがこびりついた調理道具や食器は洗わずにゴミ袋に入れていった。
最後に自分達が集めたごみとごみ箱を綺麗に片付けてから終了とし、古城を出た。
すっかり雨は止んでいた。
古城前。
「クナイ、虹だよ」
北都は空に現れた綺麗な虹に気付き、見上げた。
「……いつの間にか雨が上がりましたね」
同じくクナイも空を見上げ、虹を眺めた。
「綺麗だね」
「……そうですね」
北都はすっかり虹に心を奪われていた。そんな北都の横顔をちろりと見たクナイはそっと北都との距離を詰め、手を繋いだ。
「……」
北都は握る手の感触に気付き、ちろりとクナイの横顔を見た後、クナイに気付かれないように虹の方に視線を戻した。『超感覚』使用で発現した北都の尻尾は嬉しそうに揺れていた。ただ、虹を見たせいか手を繋いでるせいかは北都だけの秘密だが。
「……」
言葉を交わさなくとも幸せなクナイと北都は手を離さず、しっかりと繋いだまま虹を眺めていた。
ヴァイシャリーの街。
「……確かヴァイシャリーで過ごしているはず」
酒杜 陽一(さかもり・よういち)は絵音と元誘拐犯三人組が気になり、絵音の両親に居場所を訊ねた末、このヴァイシャリーの街にやって来ていた。
「元気にしているといいけど」
イルミンスールの森の時、騒ぎ解決に手一杯で会えなかったのでますます気に掛けていたり。
歩き回って少し経過後。
「……いた」
陽一は楽しそうに通りを歩いている四人を発見した。
発見したのは陽一の方だけではなく絵音の方もだった。
「陽一お兄ちゃん!」
陽一に気付いた絵音は元気な声を上げながら駆け寄って来た。
「陽一お兄ちゃんもこの街に来てたんだね」
絵音は陽一との再会に笑顔で大喜び。何せイルミンスールの森では会えなかったので。
「絵音ちゃん達に会うためにね。元気にしているか気になって」
陽一も笑顔で答えた。みだりに余所様の家の事に口出しする気が無いため余計な事は言わなかった。ただ、絵音達家族にはずっと仲良しでいて欲しいとは思っている。
「元気だよ!」
絵音は迷い無く返事をした。
「それなら良かった。三人も元気そうで良かったよ」
陽一は絵音にうなずいた後、やって来た三人にも声をかけた。
「おかげさまで」
「あの時、会わなかったらきっと俺達の時間は止まったままだった」
「時々寂しい時もあるけど、幸せだよ」
イリアル、ハルト、ナカトはそれぞれ思い詰めた表情はなく晴れ晴れとしていた。ほんの少しの憂いはあれど。
「……大切な人を失った記憶は忘れられないものだからね。それでも前に進んでいるようで安心したよ」
陽一は前向きになった三人にほっとした。
その時、
「陽一お兄ちゃん、この子達に触ってもいい?」
絵音は陽一が連れて来た絵音捜索に活躍した事があるセントバーナードとペンギンアヴァターラ・ヘルムことペンタに気付き、触りたくてうずうずしていた。
「いいよ。この子はペンタって言うんだよ」
そう言いながら陽一はペンタの頭を撫でながら名前を教えた。
「ペンタ、可愛いねぇ」
絵音は優しくペンタの頭を撫で楽しそうに笑った。
「ありがとう」
陽一はペンタと戯れる絵音を見守りながら思っていた。絵音の気持ちも大事だが、幼くて難しいかもしれないが、両親が社員とその家族のために頑張っている気持ちを絵音にも考えて欲しいと。
しばらく戯れていた時、突然通り雨がやって来た。
「……ん、雨? しかし、この雨」
陽一は妙な雨に小首を傾げた。
その横では
「とてもきれいな雨だね。鈴の音がするよ」
セントバーナードに戯れる絵音が光る雨に心奪われていた。
「絵音ちゃん、雨に濡れたら風邪を引くから近くの喫茶店に行こう」
「何か食べながら雨宿りをしよう」
イリアルとナカトは雨の美しさよりも絵音の身を案じた。
「うん。陽一お兄ちゃんも一緒に行こうよ。ねぇ?」
絵音はうなずき、大好きなお兄ちゃんの手を握って甘えた。
「いいよ。美味しい物を食べようか」
断る理由など無い陽一は可愛いお誘いを受ける事にした。
五人は近くの喫茶店に入って新たな再会に遭遇し賑やかな雨宿りをする事に。
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