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リアクション
ヴァイシャリーの街。
「ふわぁ、フランカちゃん、雨、雨、濡れちゃう、濡れちゃう」
買い物中に通り雨に遭遇したミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)はフランカ・マキャフリー(ふらんか・まきゃふりー)の手を引っ張って近くの喫茶店に急いで避難した。
店内。
「……綺麗な雨だね。ちょうど、小腹も空いてるから何か食べようか」
ミーナは窓から見える淡く輝き鈴の音を響かせる雨に和んだ後、空腹具合を確認してから提案した。
「たべる。ふらんかもおなかすいたの!」
ミーナの提案にフランカは即賛成して脇に立てられているメニューを取った。
1ページを開いた途端、
「みーな! みーな! これたべたい!」
フランカは大きく載っている大食いチャレンジメニューを指さし挑戦志願。
「……大食いチャレンジ? フランカちゃん、それ大人用だけど大丈夫? 他にもおいしい物あるよ」
フランカの挑戦志願に驚きつつ食べ切れない事よりもフランカがお腹を壊してしまうのではと気遣うミーナ。
「だいじょうぶ!」
フランカはにこにこと自信満々。
「……まぁ、フランカちゃん、燃費悪いもんね。それじゃ、注文するよ」
ミーナは少し心配ながらも店員を呼んでフランカのチャレンジメニューと自分の軽食セットを注文した。
しばらくして二人が注文した料理は運ばれ、
「……フランカちゃん、本当に大丈夫?」
ミーナはフランカが注文した料理の実物を目の前にしてもう一度心配を口にした。
「だいじょうぶ! だいじょうぶ! ふらんか、おなかすいてるから」
そう言うなりフランカは笑顔で食べ始めた。
「……フランカちゃん」
ミーナは食べながらフランカの食べっぷりを見守る。
フランカの食べるスピードは失速する事無く次々と量は減っていく。それと共に周囲の声が徐々に高まり盛り上がっていく。
「頑張れ!」
「すげぇ」
「あんなに小さいのによく食べるなぁ」
フランカに応援、感心、驚きの声を上げ、自分達の事を後回しにする客達。
すっかりフランカは皆の注目を集めていた。
「がんばるよ!」
フランカは応援する客に手を振り、余裕を見せつける。
「……もしかて」
チャレンジを見守る店員はまさかの展開が近い事に黙している。
そして
「おいしかったのー♪」
最後の一口を頬張り見事に完食してフランカはご満悦。
「……嘘だろ」
チャレンジを見守っていた店員は驚き、小さく本音をぽろり。
「すげぇ」
「よくやったな!」
「いい食べっぷりだったぞ!」
他の客達は拍手をしてフランカの偉業を称えた。中には立ち上がる者もいたり。
「みーな、みて」
フランカは空になった皿をミーナに見せて笑顔。
「フランカちゃん、大人用をクリアなんてすごいね」
仰天する店員を尻目にミーナはフランカの頭をなでなでしながらたっぷりと褒めた。
「えへへへ」
褒められたフランカは嬉しそうに照れ笑い。
これにてフランカのチャレンジは終わりかと思いきや
「おいしかったからおかわりしたいの!」
にっこりと店員におかわり宣言をするのだった。
「えっ、お、おかわりですか?」
まさかの追加注文に度肝を抜かれ青ざめる店員。
「あははは、こりゃすげぇや」
「おいおい」
「あの小さな体にどれだけ入るんだよ」
他の客達もまさかの展開に驚きや大笑いが発生。店員は賑やかな空気の中、急いで厨房に消えた。
「フランカちゃん、大丈夫なの?」
さすがのミーナもおかり宣言に驚きフランカを気遣った。
「だいじょうぶなのー」
フランカは元気に答え、すっかり戦闘準備万全。
おかわりのチャレンジメニューがフランカの前に運ばれた。
「たべるのー♪」
フランカは運ばれるなり食べ始めた。これまた食べる速さは落ちる事無く次々とフランカの口に運ばれた。
そして、とうとう
「おいしかったのー♪」
とフランカのお腹に全て収まった。
食べ終わった丁度その時、
「フランカちゃん、ほら雨が止んだみたいだよ」
ミーナはいつの間にか雨が止んだ窓の外を指さした。
「ほんとうなのー!」
フランカはにこにこと晴れた窓の外を見た。
「あ、あの、チャレンジ成功者として写真を撮りたいのですが」
店員はカメラ片手に恐る恐るフランカに声をかけた。
「とるのー!」
フランカは元気に返事をしてポーズを取り、可愛く写真に収めて貰った。大食いチャレンジの最年少記録保持者として早速店内に飾られた。
「すごいね。フランカちゃん、可愛く写ってるよ」
ミーナは飾られた写真を見てにこにこしながらフランカの頭を撫でた。
「えへへ、おいしかったのー♪」
頭を撫でられ、嬉しそうにするフランカ。
この後、二人は仲良く喫茶店を出た。
そして、
「あ、みーな、みーな」
空に架かる虹を真っ先に発見したフランカは興奮気味に指を差しながらミーナに教えた。
「うわぁ、虹だね。とても綺麗」
フランカが示した先を確認するやいなやミーナは感動の声を上げてじっと虹を見上げた。
「きれいなのー」
フランカもすっかり虹に感動。
ひとしきり虹に感動した後、ミーナとフランカは仲良く歩き出した。
通り雨が来る少し前、ツァンダ東の森にある鍛冶一族ジーバルスの里。
「……という事なんですよ、族長」
ハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)は族長にニーナ・ジーバルス(にーな・じーばるす)がとある事情で復活のような事を成した話をした。なぜならニーナはハイコドとソラン・ジーバルス(そらん・じーばるす)が幼い頃に事故で死んでしまっていたから。
「ふむ。ところで話は変わるが、お前たち二人、結婚して子供を作りなさい」
事情を聞き終えた族長は180度話を変えた。
「……あの、知っていると思いますが、俺の妻は……」
「ぞ、族長、ハコくんはソラと結婚していて……その……」
ハイコドとニーナは族長の無茶苦茶な話に呆然。
「……」
口出しをして当然のはずのソランは静かに夫と姉の様子を見守っている。何か思うところがある様子で。
「……お前たち、嫌なのか?」
族長は質問の形を少し変えて攻める。
「……いや、好きだった人だし……嫌かと聞かれたらそうではないが……」
ハイコドはちらりと隣に座るニーナの横顔を見てから困ったように答えた。
「……えっと、その……それは嬉しいけど……でも」
ニーナはしどろもどろに答える。
「それなら何も問題なかろう」
と族長。ここまで食い下がるのは、ハイコドとニーナがジーバルスでごく稀に生まれる『魔眼』持ちのため子供を作らせて魔眼持ちが生まれる確率を上げたいという魂胆があったりするからだ。
「……族長の考えは分かりますが(つーか、これじゃ俺種馬じゃねぇか。何考えてるんだ、族長)」
ハイコドは思う事はあれど婿入り者であるためか本音は表には出せず。
「……えっと……族長の気持ちは判るけど……その歴代の魔眼持ちは皆族長になってるし。それに……」
ニーナは初代の『収束眼』によって並行世界のニーナのかけらを集め蘇生して貰った事を思い出していた。
ニーナの考えはそこでは終わらず
「……(というか……私、生娘なんだけどどどど)」
顔は真っ赤になり心内はパニック状態となった末、許容量オーバーとなり無意識に隣に座るソランの胸をぐにぐに揉んで嫌がらせを始めた。
「……はぁ(見事にこの雨空は俺の心境を表してくれてるな。しかし、変な雨だ)」
ハイコドはいきなりの事で心の整理がつかず、ぼんやりとおかしな雨空を見つめた。
いつの間にやら雨が降り始めていたが、話に夢中になっていて気付かなかったのだ。
「お前はどうだ?」
族長はソランに話の矛先を向けた。
「……約束」
ソランは姉の嫌がらせも族長の言葉も耳に入っておらず、幼い頃に姉とした約束を考えていた。
そして、
「ハコ、お姉ちゃん、結婚しなよ。二人共、お互いが初恋なんだからいいんじゃない? 嫌じゃないでしょ? 二人が幸せになったら私も幸せになって三人全員が幸せになるんだから」
夫と姉の方に向き直り、真剣そのものの表情でとんでもない事を言い出した。常識が邪魔をしている二人を何とかくっつけるために。
「いやいや、お前、何言ってるんだ!? 重婚だぞこれ? それでも二児の母かよ」
ハイコドは妻のまさかの言葉に慌ててツッコミを入れた。
「ハコ、問題無いよ。重婚じゃなくて一夫多妻だから」
ソランはにこやかに問題無いと言い放った。
「……一夫多妻って……そんな所もあるだろうけど……俺は……」
ハイコドはまさかの妻の発言に戸惑いの顔で言葉を濁した。
「お姉ちゃん……大丈夫?」
ソランは嫌がらせをやめた茫然自失のニーナの顔を覗き込んだ。
「……ニーナ……」
ハイコドはニーナの顔を見てどうするべきか考える。
「……」
二人に呼ばれてもニーナはまだぼんやり。
「お姉ちゃん、幼い頃にした約束覚えてる?」
ソランは“二人でハイコドのお嫁さんになる”という約束をニーナに思い出させようとする。
「……約束……あっ……えと……」
忘れていないニーナは途端に爆発状態の顔をうつむかせて縮こまる。
ニーナの反応を確かめた後、
「という事でユーやっちゃいなYO! みんな仲良くベッド……」
ソランはニッと笑いながらぶっ飛んだ発言をしようとするが、
「頼むから待て」
ハイコドに邪魔されてしまう。
「……考える余地は無いよ。みんな幸せになるんだから」
絶対に成功させたいソランは必死。
「……ソラ、何でそこまで必死なんだ。本当にいいのか?」
ソランのあまりの必死さにハイコドは思わず訊ねてしまう。ソランの立場だと断固反対するのが普通なのだから。しかも自分の姉となればなおさら。
「もちろんだよ。本音も本音! 一緒になれたら嬉しい。ほら、この輝く雨も結婚しなよって言ってる……それにね、私達三人が幸せになれるのはこれだけしかないんだよ。この条件以外で幸せになる事は無理なんだから」
ソランは晴れやかな笑顔で自分の気持ちを述べ、淡く輝き鈴の音を鳴らす雨を示した。ハイコドには憂える自分の気持ちに見えていたが、ソランには幸せを導く素敵な雨に見えているらしい。
「……そうは言ってもな……」
ハイコドは溜息を洩らしつつソランとニーナの頭をなでなでしながら考える。自分はどうするべきなのかを。
「……」
ニーナはぼんやりと雨を眺めるも隣に座るハイコドの横顔を見てはますます顔の温度を上昇させる。
ここでソランは攻め手を変える。
「……現実的に考えてもいい事だよ。ほら、お姉ちゃんもハコも考えてみて? このまま結婚すれば一族皆がいろいろ助けてくれるよ、お金とか土地とか……その他もろもろ」
現実的な観点から二人をくっつけようとする。
「……かもしれないが、それ以前の問題で」
とハイコド。魔眼持ちを欲する一族なら何かと便宜を図ってくれる事は容易に想像出来るが、問題はそれではない。
「……ハコ」
ソランはじっと真剣味を帯びた青色の瞳をハイコドに向けた。その目は、結局どう思っているのか話してくれと訴えていた。
目の奥に潜む意図を読み取ったハイコドは
「お前がみんなの幸せを願っているのはよく分かるしありがたい事だと思う。ただ……子供もいるし……どーしたらいーのか」
ソランから目を逸らさず、あらゆる事を考え迷走中であると改めて言葉にする。
「……お姉ちゃんは?」
ソランは改めてニーナに訊ねる。
「……嬉しいけど……でもね」
ニーナは顔を赤くしながら答えた。
「……大切なのは常識よりもハコとお姉ちゃんと私が……みんなが幸せになる事だよ。常識を守って幸せになれないのなら常識なんて邪魔なだけなんだから」
ソランはじっとみんなの幸せを模索する姿勢を見せる。
まだ話を続けるかと思いきや
「……とりあえず、雨も止んだし。帰らないか」
ハイコドはいつの間にやら雨がやんだ事に気付き、良いタイミングだと帰宅を切り出した。
「……そうだね。お姉ちゃん、帰ろう」
ソランも言葉はつぐみ、ニーナに声をかけた。
「……虹」
ニーナはそっと向こうを指さしながらまだ少しぼんやり気味に言った。
「ん? あぁ、綺麗な虹だね」
ソランはニーナの示した先に広がるこれまでにない美しい虹に感嘆の声を上げた。
「……だな」
とハイコドもうなずき、ソランとニーナの顔をちらりと見た。結婚云々はともかくこうして綺麗な虹を三人で眺める今は間違い無く幸せであると思っていた。
「帰るか」
ハイコドが先に歩き出し、その後ろをソランとニーナが続いた。
とんでもない問題を保留にしたままハイコド達は里を出た。
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