リアクション
7/完結
ここまでよく、連中をうまく引きつけてくれたものだと、竜斗は家族に、パートナーたちに内心、深く感謝をしていた。
「はああぁっ!!」
鍔迫り合いの状態に持ち込んだ、自分自身の偽物と互いを弾きあう。
後ずさった相手は、他の三体の位置取りとほぼ誤差なく、一直線上のラインに位置する。
それは、ほんの一瞬のこと。セレンの仕掛けた罠が、麗の援護射撃が、それぞれをその場所に僅かな瞬間のみとはいえ、縫い付けた。
重ねられるは、ユリナのパイロキネシス。──もう、このタイミングしかない。
「いくぞっ!!」
アンボーン・テクニックを発動。
小細工は一切いらない。自分の、今まで見せた最高威力を越えるこの威力でただ、一直線に四体の鉱物兵器を貫いていく。
──そして、それは成った。
家族を、自分の手で守る。竜斗の想いは、そこに成就した。
*
怒りはまだ、消えてはいない。強く、ひたすら強く未だ、美羽の心の中で燻り続けている。
けれどそれは、ぐらぐらと煮えたぎる熱さではない。
静かな、怒りだ。そして同時に、心は冷静に、自分のすべきことを認識している。
「絶対に。破壊してみせる」
それゆえの、圧倒だ。
数の上ではあちらが上でも──美羽は、ひとりではない。
彩夜とともに。彼女の託した想いとともに、美羽は戦っているから。
想いの力が上乗せされている分だけ、力関係が逆転している。
打ち出された拳を叩き割り、打ち返して吹き飛ばす。
コハクが、よくぞここまで使わずに引きつけておいた──熾天使としての力を開放し、瞬時に複数の敵を消滅させていくのを見上げ、こちらも決着をつけることを心に決める。
「これで、おしまい」
あなたたちが負けたのは、この「気持ち」を持っていないから。
そんなものに、負けはしない。
踏み込みから、動作までは一瞬。
天宝陵万勇拳の、名のもとに。
美羽の正拳突きが、カローニアンをまっすぐ、打ち貫いていた。
*
どうにか……なった、か。
強いられた極度の緊張を越えて、ぷつりと糸が切れたようにかつみはずるずると、壁に預けた背中ごと、腰を地面に落としていく。
「うまくいってくれて……どうにか、だな」
爆弾をつかったトラップとの、二段構え。ほんとうにどうにか、真正面からではどうにもならない相手を倒すことが出来た。
「っ!?」
だが、その安心も束の間。
不意に聞こえてきた不審な音に、びくりと身体を跳ね上げる。
──だが、そこにはなにもなく。
「……気のせい、か?」
彼らが立ち去った音だということまでは、さすがに気付かない。
荒神たち四人の姿など、もうどこにもないのだから。
とうに彼らは、「ひと仕事」終えていた。
*
「なかなか、元気そう……ってわけにもいかねーか」
病室に、見舞いに訪れた垂は、セレンフィリティの全身包帯まみれのその姿に、苦笑する。
「ま、生きてるだけもうけものってとこよ」
普段はあれだけ露出の多い服を着てるくせに、なんというか。
隣のベッドには、セレアナ。こちらは一度意識を取り戻したものの、また気を失ってしまったらしい。セレンフィリティが優しい目を彼女に向けているのを見て、肩を竦めあう垂と唯斗。
「それで、他の皆は無事なの?」
「ま、なんとかね」
カーテンを少し開き、唯斗が病院の中庭を見下ろす。
どうにか起き上がることを許可され散歩に出てきた彩夜の、その車椅子を押す美羽。その右手には分厚く、包帯が巻かれている。梅琳と加夜とが、その様子を見守っている。
雅羅は今も、アルセーネの傍に付き添っているはずだ。
「そうそう。カローナのじいさんは廃人になって発見されたよ。十中八九、一緒にいた連中の仕業だろう、だとさ」
見舞いの林檎を勝手にとって、ひと口齧る垂。
「で、財団も解体。まあこれで、一件落着ってとこかな」
「そう」
それにしても、派手にやられたな。おふたりさん。
言われ、セレンフィリティは微笑する。──たしかに、ね。
でも、生きている。こうやって。
鉱物兵器たちのように「生み出され」「生きること」を強要されていた者たちと違い。
自分たちは──生きているのだ。
この自分たちが、本物だ。
(了)
大変長らくお待たせいたしました、ゲームマスター、640です。リアクション『最強タッグと、『出来損ない』の陰謀』後編、いかがだったでしょうか?
苦戦の描写を具体的に書いてくださった皆様も多く、せっかくなので……とこんなお話になりましたが、満足していただけたでしょうか?
それではまた、いずれお会いできることを祈りつつ。
ではでは。