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イルミンスール大図書室、その深層は!?

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イルミンスール大図書室、その深層は!?

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    ★    ★    ★

「それにしても、誰もいないですね。この世界には、誰も住んでいないのでしょうか」
 野原に出たリース・エンデルフィアは、大司書の手がかりになることはないかと周囲を見回しました。
「あっ、あれ見て!」
 すると、マーガレット・アップルリングが彼方を指さしました。見れば、髪の長い女の子が歩いているではないですか。
 ふいに身をかがめると、女の子は地面から何かを拾いあげました。本です。
「そこのお嬢さん。我が輩に、話を聞かせてはくれまいか」
 アガレス・アンドレアルフスが声をかけましたが、女の子には聞こえないのか、そのまま歩いて行ってしまいました。
 銀色の長い髪を微かに地面の上に引きながら、女の子は何冊かの本をかかえてすたすたと歩いています。
「追いかけましょうー」
 セリーナ・ペクテイリスが、乗っている電動車椅子のスピードを上げました。
「待ってくださーい。待ってー」
 リース・エンデルフィアたちが追いかけていきますが、なかなか女の子との距離が縮みません。女の子は歩いているだけなのに、不思議です。
 やがて、女の子は大きな建物の中に入って行きました。
「よし、入るのだ」
 アガレス・アンドレアルフスが、女の子の後を追って躊躇することなく建物の中へと入っていきました。続いてリース・エンデルフィアたちが中に入って行くと、建物の中にはたくさんの女の子たちがいました。
 女の子たちは皆同じ端整な顔立ちをしており、長い銀髪を少し床の上に引きずりながら、本をかかえてたくさんの机の間をせわしそうに行き来しています。
 机には、別の女の子たちが座っていて、せっせと何か作業をしていました。
「何をしているのでしょうか?」
 大胆にもマーガレット・アップルリングがのぞき込みます。
「ここは何をしている所なのですか?」
 ペンとメモを片手にマーガレット・アップルリングが女の子に聞きましたが、忙しいのかこっちを見てもくれません。
 どうやら、女の子たちは、本の修繕をしているようです。
 持っている羽根ペンの先をインクに浸すと、流れるように文字をなぞっていきます。すると、掠れかけていた文字が、くっきりと甦りました。破れている紙は張り合わされ、表紙の装丁が傷んでいる物も綺麗に修繕されていきます。なんだか新しい物をつけて直していると言うよりも、傷んだ所を動画を巻き戻してでもいるかのように復活させているみたいです。これならば、魔道書も本来の姿を損なうことなく修繕できるでしょう。
 女の子たちが修繕している本は、大図書室で見かけたような気もしますし、そうではなかったような気もします。いくつかは、地球産の物も混じっているようです。
「あのー、大司書さんはどこに……」
 リース・エンデルフィアが訊ねますが、女の子たちは作業に集中していて返事をしてくれません。
「邪魔をしては、悪いですわよぉ」
 セリーナ・ペクテイリスに言われて、しぶしぶリース・エンデルフィアは女の子たちから離れました。そのまま、返事がないのをいいことに、ちゃっかり女の子の身体にタッチしようとしているアガレス・アンドレアルフスをひっつかんで引き戻します。
「きっとぉ、あの方たちはぉ、繕い妖精さんなのですよぉ。だから、邪魔をしてはぁ、いけないのですぅ」
「そうですね。皆さん、頑張ってください」
 セリーナ・ペクテイリスに言われて、リース・エンデルフィアがぺこりとお辞儀をしました。
 すると、今まで無反応だった女の子たちが一斉に顔をこちらへむけて、ニッコリと微笑んだのです。そして、女の子たちは、スッと大きな部屋の一箇所に目をむけました。そこには、ドアがあります。
「行ってみよう」
 アガレス・アンドレアルフスが、リース・エンデルフィアの手の中でバタバタとしながら言いました。

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「ふむふむ、こっちの方からお宝の匂いが……」
 トレジャーセンスであちこち探りながら、日堂真宵が言いました。
「こっちですわね。ちょっと通していただきます。すみません、すみません」
 日堂真宵が指し示した方向へ、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントがすいすいと歩いて行きます。途中、廊下の左右の本棚に収められたまだ覚醒していない魔道書たちに挨拶を忘れません。
「背景としては、手間の割りには単調かな」
 さっとスケッチブックに、現在の廊下の様子をスケッチしながら土方歳三が遅れずに後をついていきます。
「ちょっと、おいていくわよ、もう」
 勝手にあちこちにポスターを貼っているアーサー・レイスにむかって、日堂真宵が怒鳴りました。
 『世界カレー化計画。カレーは最高!』と書かれたポスターを所構わず貼っているので、アーサー・レイスは遅れがちです。
「抜けましたー」
 本棚の建物から外に出られて、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントが歓声をあげました。全ては自分の手柄だと言いたげなどや顔です。
「あれ? アーサーは? またなの。まあいいかあ」
 振り返ると、いつの間にかアーサー・レイスの姿がいなくなっています。まあ、いつものことと、日堂真宵はスルーしました。

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「ついに、我々は、秘境本棚地獄を抜けました。ですが、途中コルセア隊員の貴い犠牲を……」
「生きてるってば!」
 相変わらずマイクを握りしめたままの葛城吹雪に、コルセア・レキシントンが容赦なく跳び蹴りをくらわせました。
「うぼあっ!」
 あっけなく、葛城吹雪が吹っ飛びます。地面に激突すると、なぜかたくさんの本が地面から飛び出して周囲に飛び散りました。ここの地面は、本でできてでもいるのでしょうか。
「トラブルは、予期せぬときに襲ってくるものであります。こんなときは、あわてず騒がず、野営して体力を回復させるであります」
 そう言って、葛城吹雪は歴戦のダンボールを取り出すと、ベースキャンプの設営を始めました。
「こら、ここに何日居座るつもり!? これじゃあ、りっぱな遭難者じゃない」
 さすがに、コルセア・レキシントンが突っ込みます。
「では、タイトルを『探検! 大図書室の秘境』から『脱出なるか、大図書室の深淵』に変えるでありま……うぽあっ!」
 容赦なく、コルセア・レキシントンがダンボールごと葛城吹雪を吹っ飛ばしました。

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「くそう、酷い目に遭ったな。大丈夫か、怪人デスストーカーよ」
 ドクター・ハデスが、やっと怪人デスストーカーの墜落場所を見つけて駆けつけてきました。
「だ、大丈夫DEATH……」
 そうは答えますが、すでに怪人デスストーカー、ボロボロです。
「くそう、こんなことであれば、戦闘員たちをマップ作成のために散らすのではなかった」
 ドクター・ハデスが、悔しがります。
 本来であれば、ハデスブラザーズノーマル戦闘員ポムクル戦闘員さんオリュンポス特戦隊などがいる大所帯だったはずなのですが……。調査に派遣したと言えば聞こえはいいですが、実際には、気がつけば一人減り二人減りと、迷子になってバラバラになってしまったのでした。
「とにかく、邪魔者は排除するぞ。頑張れ」
 怪人デスストーカーを助け起こすと、ドクター・ハデスはそうはっぱをかけました。