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イルミンスール大図書室、その深層は!?

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イルミンスール大図書室、その深層は!?

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本の先の世界



「これは……。なんて凄い光景なんだ」
 目の前に現れた光景に、グラキエス・エンドロアが目を見張りました。
 その部屋は、構成としてはよくある普通の部屋と何ら変わりありませんでした。ちょっとアンティークなリビングという感じです。ただ、一つ違っていたのは、そこにある家具が全て本棚だったということです。しかも、ちゃんとサイズのあった本が収められています。
「このランプシェードは、変わった形をしているが、ちゃんとした本だ」
 明かりのついているランプの傘から一冊の本を手にとって、グラキエス・エンドロアが言いました。その目が、キラキラと輝いています。手の中の本は、左右が不揃いな台形をしており、薄く光を通す半透明の紙が綴じられていました。
「『光の種類と、その照らす場所』か……。面白い」
 奇妙な本に書かれた文字を辿りながら、グラキエス・エンドロアが言いました。
「ふむ、このソファーまで本でできているとは、確かに驚きではあるな」
 ゴルガイス・アラバンディットが、ソファーに座りながら言いました。横に手をのばして、本を一冊手に取ってみます。
「ええと『もふもふ・もふもふ』?」
 その背表紙は大きくふくらんでいて、中には綿が詰められているようでした。それが、クッションの代わりになっているようです。
「だが、いつまでもここにいるわけにはいくまい。この場所を調べるためには、先に進まなくては」
 ゴルガイス・アラバンディットが、よいしょと重い腰をあげました。けれども、グラキエス・エンドロアは、まだいくつもの本を読みあさっています。
「ゴルガイス、グラキエスの読書を邪魔してはいけませんよ。グラキエス、好きなだけ読書していいんですよ、私が許します」
「また甘いことを。まあ、この状況では仕方あるまいか。よし、探索は我らで行おう。アマダス、グラキエスを頼んだぞ」
 ゴルガイス・アラバンディットが、護衛のために連れてきた機械化ヒュドラをグラキエス・エンドロアの護衛にと、その場に残しました。
「行くぞ、ベルテハイト」
「分かりました。グラキエス、もっと面白い本を探してきますから、ここで待っていてくださいね」
 そう言うと、二人はこの不思議な本の部屋から外に出ていきました。
 本棚のドアを開けると、長い通路がどこまでも続いていました。その左右の壁も、全てが本棚です。
「この先に、大司書がいるのだろうか……」
 ゴルガイス・アラバンディットとベルテハイト・ブルートシュタインは、その廊下を進んでいきました。

    ★    ★    ★

「そっちは、何かいそうだよ」
 リカイン・フェルマータの後ろにぴったりとひっついた禁書写本河馬吸虎が、ディテクトエビルで何かを感じたのか、十字路の一方を指さして言いました。
「んっ、もう。そんなにひっつくな! 邪魔よ!
 お尻のあたりでもぞもぞする禁書写本河馬吸虎を、リカイン・フェルマータがポンとお尻で弾き飛ばしました。
「じゃあ、そっちに行くわ。大司書がいるとすれば、そういうとこの先に決まってるもの」
 そう言うと、リカイン・フェルマータが禁書写本河馬吸虎の意見を無視して道を選びました。
「『我が道を行く、墓穴編』の所を右と……」
 またたび明日風が、角の本のタイトルを確認して、マップに書き込みました。
「あなたは何か感じないの? こういう所は、来慣れているんでしょ?」
 リカイン・フェルマータが、またたび明日風に訊ねました。
「来慣れているって……。拙者も、こんな場所は初めてでござるよ。このまま遭難したら……。まあ、革表紙ぐらいは、食べられるかも……」
 たまに見かける革表紙本を見て、またたび明日風が言いました。燃料にする紙はたくさんありますから、後は水があれば革を煮ることができるというところです。とはいえ、ここで火でも使ったら、大変なことになりそうですが。
「何か感じたら、すぐに報告するのよ。後、本棚に隙間があったら、すぐに報告すること」
「あい分かったが、なぜでござるか?」
 またたび明日風が聞き返しましたが、リカイン・フェルマータはチラリと禁書写本河馬吸虎の方を見ただけでした。

    ★    ★    ★

「こ、これは、どっちへ行けばいいのよ……」
 巨大なバインダーブックの回転ドアの中に迷い込んで、セレンフィリティ・シャーレットが地団駄をふみました。白いページの中で、すでに方向すら分からなくなっています。
 なぜか、この回転ドアは、先に進もうとすると、ぐるりと一周して戻ってきてしまうのです。
「ええい、強行突破よ!」
 思い切りグルグル回転ドアの中を走り回りますが、はっきり言ってこれは逆効果です。
「ちょ、ちょっと。はぐれるから暴走しないで」
 セレンフィリティ・シャーレットの姿を見失って、セレアナ・ミアキスが焦りました。
「うおおおお……!」
 声は聞こえるので、離れてはいないようですが、回転ドアはグルグルと回っていて、迂闊に入れません。
「見切った!」
 チラチラと残像のように見えるセレンフィリティ・シャーレットの腕を素早く掴むと、セレアナ・ミアキスが回転ドアから引っ張り出しました。
「おっかしいわね。ゴチメイがここを通ったんなら、こんなドア破壊していそうなものなのに」
 代わりに自分が破壊したそうに、セレンフィリティ・シャーレットが言いました。
「と言うことは、来てないってことじゃないの。他の場所……っていっても、ここを通りすぎないと進めないわけかあ」
「やっぱり、破壊するしかなさそうね」
 セレンフィリティ・シャーレットが身構えます。それを見て、セレアナ・ミアキスがあわてて止めました。
「うーん、ページを変えてみるとか」
 セレアナ・ミアキスが、パラパラと回転ドアのページをめくってみました。すると、何やら風景画が現れました。
「絵のページがあるわね。試してみましょうか」
 そう言うと、セレアナ・ミアキスはセレンフィリティ・シャーレットと共にドアに入ってみました。パタパタとページが回転して、反対側に出口が現れます。そこは、本のページに書かれていたのと同じ野原の風景でした。
「やっと外に出られたみたい」
 ほっとしたように、セレアナ・ミアキスが言いました。
「で、ここはどこなの?」
 周囲を見回して、セレンフィリティ・シャーレットが聞きました。当然、セレアナ・ミアキスに分かるはずがありません。
「おーい、誰かいませんかー」
 他にも捜索隊はたくさんいるはずですから、連絡を取り合うしかありません。けれども、いくら呼んでも返事はありませんでした。
「ま、迷った……!?」
 まさかねと言う顔で、セレンフィリティ・シャーレットが言いました。