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リアクション
プロローグ
「お母さん見て! これってユリの花だよね?」
森の中を10歳ほどの女の子が駆け回る。その後ろを二人の男女が寄り添うように歩いていた。
「本当にリリィはユリの花が好きね」
少女の母と見られる女性は微笑ましそうにそう言う。
「うん。……でも、向こうのユリと少し違うの」
「ここはパラミタだからね。地球の……日本に咲くユリとは似ていても正確には違うわ。……リリィはどっちのユリが好き?」
「どっちもきれいで好きだよ。でも、どっちかというと向こうのユリが好きかなぁ」
リリィと呼ばれる少女は少し考えてからそう答える。
「そう。なら、村ができて落ち着いたらまた地球に行かないとね」
「うん」
少女は笑顔で頷きパラミタに咲くユリを楽しそうに観察し始めた。
「……いいんですか? ミナスさん。また地球に戻って。また帰れなくなるかもしれませんよ?」
少女の父親は少女の母親にそう聞く。
「いいんじゃよ」
「……その、嘘つくときにいきなり年寄り口調になるの止めませんか? 似合いませんよ?」
「それを言うなら将くんも私のこと『ミナス』って呼び捨てにしてくれない? 結婚して子どもまでいるのに」
「……年の差考えると無理です」
少女の母親は男の困った顔を見ていたずらな笑みを浮かべる。
「なんてね。本当に大丈夫よ。5000年も向こうにいたんだもの。下手をしたらこっちよりも愛着あるわ」
たとえまたパラミタへこれなくなってもと少女の母親は笑う。
「でも……今はここに村を作りたい。それが私の償いだから」
滅んでしまった街にしてみれば何も意味のないことでもと。
「村ができて落ち着いたら、隠居して三人でまた地球で暮らすのもいいかもしれないわね」
そういって少女の母親は笑う。
今となっては10年も前のお話。大魔女とも呼ばれた一人の女性にしてみればあまりにも小さく他愛のない願い。
けれどけして叶うことのない願い。藤崎 将というたった一人の男性の中にしか残っていない願いだった。
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