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平行世界の人々と過ごす一日

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平行世界の人々と過ごす一日
平行世界の人々と過ごす一日 平行世界の人々と過ごす一日

リアクション

 朝、イルミンスール魔法学校内、廊下。

「全く魔術師の一件が落ち着いた矢先に変な事が起きたと思ったら……犯人はいつもの双子だとは……何を考えているのやら。珍しく害を起こしている訳じゃ無いのが救いですね。ただ、絞られてもまたあちこちで悪さをしている可能性だけは払拭出来ませんが」
 ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)は知った本日の騒ぎの犯人について呆れの溜息。知っているため双子達の現在の行動まで読み取ってしまう。
 そうして廊下を歩いていた時、
「あれはアーデルさん? でももしかしたら……」
 前方にアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)の後ろ姿を捉えた。しかし、すぐに声をかける事は出来なかった。なぜなら本日は平行世界からの客人達が来ているので。
 とりあえず
「何かありましたか?」
 名前は呼ばず用件を訊ねる形で声をかけた。
「あぁ、折角こちらの世界に来たのでこちらの自分に会おうと思っての」
 ザカコの声に振り向いたのは平行世界のアーデルハイトであった。
「こちらの……あぁ、平行世界の……良かったら自分も一緒にいいですか?」
 相手の口振りからザカコはすぐにどの世界か了解し、案内を買って出た。
「頼む。ここの者が案内をしてくれるとなると心強い」
 微笑みの魔女アーデルハイトはザカコの案内を受ける事にした。
 すぐに校長室へと着き、二人のアーデルハイトは対面を果たした。

 校長室。

「まさか来ているとは思いもしなかったのじゃ」
 アーデルハイトはザカコが連れて来た客人、平行世界の自分に驚きを見せた。
「……初めましてじゃな。前回は慌ただしくゆっくりと話す機会も無かったのでこのような機会が持たれればとと思いここに立ち寄ったのじゃ」
 微笑みの魔女アーデルハイトは挨拶を交わし、学校に来た理由を打ち明けた。
「それはどうぞ楽しんで下さいですぅ」
 エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)は無邪気に客人を迎えた。
「では自分はお茶を準備しますね」
 ザカコはお茶の準備に取り掛かった。

 そして
「お茶の準備が出来ましたよ。アーデルハイト様、アーデルさん」
 ザカコはカップを微笑みの魔女アーデルハイト、アーデルハイトの順に渡していった。
「……うむ?」
 微笑みの魔女アーデルハイトはカップを受け取った際、自分の呼び名に首を傾げた。
「その、いきなり親しげに呼ぶのも失礼ですし、区別が付きにくいので様付けで呼んだ方が良いかと思いまして」
 ザカコは微笑みの魔女アーデルハイトの様子を察して理由を話した。いくら知っているとはいえ客人は平行世界の住人、つまり初対面なのだ。それなのに親しげたのはまずいと。
「そうか。面倒を掛けてすまぬ」
 ザカコの気遣いに笑み、微笑みの魔女アーデルハイトは喉を潤した。
「いえ……どうぞ、校長」
 ザカコは笑みで返してからエリザベートにカップを渡した。
「ありがとうですぅ……おいしいですよ〜」
 カップを受け取るなりエリザベートは喉を潤し、子供の笑顔を咲かせた。
「……」
 エリザベートの様子をじっと何事かを思いながら見ている微笑みの魔女アーデルハイト。
「どうかしましたか?」
「いや、ここのエリザベートのようにもう少し子供らしくしてくれたらと思っての」
 気付き声をかけたザカコに微笑みの魔女アーデルハイトは仕事一筋の子供校長を思い出していた。
「アーデル様の世界の校長ですか」
「毎日、仕事ばかりでの。見ているこっちが心配になるくらいじゃ」
 察しの早いザカコに微笑みの魔女アーデルハイトは息を吐きながら言った。
「本当にすまんな。こちらの双子が迷惑を掛けてしまい」
 アーデルハイトは改めて双子の所業を謝った。
「いいや、こうして貴重な時間を過ごす事が出来て嬉しく思っておる。それにヒスナ達もこちらに来ているそうじゃな。彼女達にとってもこちらの自分に出会う事は良い経験になるはずじゃ」
 微笑みの魔女アーデルハイトは柔和な笑みを湛えて応対するばかり。怒りの気配は微塵も無い。
「…………(アーデルさんは勿論の事ですが、アーデル様、さすが微笑みの魔女、素敵で穏やかな人ですね。笑顔に慈愛が満ちているというか……こちらのアーデルさんや校長も少し位優しくなってくれたら、でもそうなったらあの双子もますます調子に乗って面倒ですね)」
 ザカコは二人のアーデルハイトのやり取りを静かに見守りながらあれこれ考えていた。
「ところでアーデルハイト様はストレスを発散する機会などはありますか。何かと仕事も忙しいでしょう」
 怒る事の無い平行世界のアーデルハイトに対してザカコは心配になって訊ねた。
「……ストレス発散……特には無いの。あえて言うと生徒達の元気な姿を見る事かの。仕事に追われていようとも生徒達の姿を見ていると彼らの成長を助けるために出来る限り頑張らねばと思い、一層力が入るのじゃ」
 微笑みの魔女アーデルハイトは教育者の顔で答えた。遠くを見るその瞳には自分の世界の学生達の姿が映っているのだろう。
「そうですか(……何というか凄いですね)」
 ザカコは微笑みの魔女アーデルハイトの隙のないストレス発散に感心するしかなかった。
「平行世界の大ババ様は凄いですぅ」
 エリザベートは子供らしく率直な感想を口にした。
「……エリザベートよ」
 アーデルハイトは複雑な表情でぼやくばかり。
「悩みと言えば、先に言ったようにエリザベートが仕事に没頭しているくらいじゃな」
 微笑みの魔女アーデルハイトはカップの水面に目を落として唯一の悩みを洩らした。
「もしかしたらお互いを足して半分に分けたら丁度良くなるかもしれませんね」
 ザカコは軽く笑いながら発言。
「ふむ、そうじゃな」
「確かにの」
 アーデルハイトと微笑みの魔女アーデルハイトは納得の顔。
「面白そうですね〜」
 エリザベートは笑っている。
「でも、よく考えると平坦になったら魅力が無くなってしまいますね」
 ザカコは先の言葉の続きを言った。平坦ではないからこそ目の前にいるアーデルハイトだからこそ想いを寄せたのだから違ってしまえばザカコが抱く想いも変わっていたかもしれない。
「確かにの」
 アーデルハイトはうなずき、喉を潤した。
 そして四人でしばらく和んだ後、微笑みの魔女アーデルハイトの希望でザカコはこの世界の学校を案内する事になった。

 その後、微笑みの魔女アーデルハイトが帰る際、見送りに駆けつけ
「またいつか、今回のようにゆっくりお話できると良いですね」
「そうじゃな。昨日は世話になった。感謝する」
 ザカコと微笑みの魔女アーデルハイトは笑顔で別れの言葉を交わした。