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リアクション
昼、イルミンスールの街。
「また会ったわね」
セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は笑顔で百合園女学院生の自分との再会を喜んだ。
「えぇ……やっぱり……その服装なのね……」
令嬢セレンフィリティはこちらの自分のビキニ姿に前のように赤面し困惑していた。
「そりゃ、これがあたしだもの」
セレンフィリティは腰に両手を当てて胸を張り相手の反応なんぞどこ吹く風。むしろ楽しんでいる。
「会うのは二度目だが、やはりすごいな」
薔薇の学舎生徒のセレアナはセレンフィリティの格好や性格に苦笑を浮かべていたが、その表情にはほんの少しだけ翳りがあった。
「えぇ、変わらずあの調子よ(何か冴えないわね。どうしたのかしら)」
セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は聡く青年セレアナの翳りを見て取った。
そこでセレアナは平行世界の自分を誘って飲み物調達に行き、セレンフィリティ達は近くのベンチに座り見送った。
「あれからどう? 元気にしてる?」
セレンフィリティは隣に座る令嬢セレンフィリティに訊ねた。
「……えぇ」
令嬢セレンフィリティは返事するがどこか物憂げであった。
「何か元気が無いわね。何か悩み事でもあるの?」
表情の変化を見逃さなかったセレンフィリティは少々心配げに声をかけた。
「……そんな事はないわ……」
否定するも表情は全く晴れていない。
「もしかして……セレアナが浮気したとか?」
セレンフィリティは定番の問題を挙げた。神経質で繊細な彼女なら人より心底気にしてもおかしくないと思いながら。
「ち、違うわよ! 彼はそんな人じゃ無いわ。とても誠実で優しくて……その事じゃなくて……もっと別の事で……」
令嬢セレンフィリティはムキになって反論しようとするも突然口元を抑え、ベンチに座り背を丸くして少し辛そうに何かに堪えた。
それを見たセレンフィリティは
「……もしかして妊娠?」
思わずつぶやいていた。
「……」
落ち着いた令嬢セレンフィリティは黙ったまま。打ち明けるかどうか迷っているようであった。
「話してくれない? あたし達他人だけど他人じゃない。でしょ?」
セレンフィリティはニッと笑みを浮かべ、力になろうとする。何せ相手は自分だから放っておけるはずもない。
「……そうね。あなたの言う通りよ。彼と私の子」
相手が最高に話しやすいためか令嬢セレンフィリティは打ち明け、お腹に手を当て微笑んだ。しかし、その表情はすぐに物憂げなものに戻った。
「…………ただ、この子の誕生を祝福してくれるのが私達だけと思うと……」
令嬢セレンフィリティは伏し目がちに悩みを打ち明けた。
「そっか(確か二人は駆け落ちしたのよね)」
セレンフィリティは上映会の映像を思い出した。地球で屈指の大富豪の令嬢故にセレアナとの仲を認めて貰えず、セレアナの駆け落ちの誘いを受け入れていた事を。
「……だから……」
令嬢セレンフィリティは溜息を吐く。彼に付いて行った事には後悔は無さそうだが。
「あぁ、もう母親がそんな顔しちゃ、旦那も子供も元気出ないでしょ。それに女は母親になった瞬間から強くなるんだからいちいち悩まないのよ。それに開き直ってしまった方が大抵の場合、物事うまくいくわよ」
セレンフィリティは思いやりある叱責とエールを送る。
それだけではなく
「それに祝福するのは二人だけじゃないわ。あたし達が祝ってあげる。丁度、翌朝までたっぷりと時間はあるし。どう? まぁ、自分に祝って貰うっていうおかしな事になっちゃうけど」
きちんと祝いの言葉も忘れない。
「……いいえ、嬉しいわ。ありがとう」
令嬢セレンフィリティは普通では有り得ない人からの祝いの言葉にクスリとした。
「で、妊娠の事はセレアナには言ったの?」
悩みを解決したところでセレンフィリティは肝心な事を思い出した。
「……悩んでいて言い出せなくて」
令嬢セレンフィリティは軽く頭を左右に振って答えた。繊細故に悩みにばかり囚われて言うべき人にまだ報告をしていなかったらしい。
「それなら二人が戻って来たら報告ね。きっと喜んでくれるわよ。セレアナだもの」
セレンフィリティはニッと笑みを浮かべた。まだ話してもいないのに打ち明けた後の結果はもう予想済み。なぜなら性別は違えど両方ともセレアナだから。
「……えぇ」
令嬢セレンフィリティは報告の事を考えてか少しばかり緊張していた。
一方。
「……それで彼女との間に何かあったのよね? どこか表情が冴えなかったもの」
セレアナは二人だけになるや即訊ねた。青年セレアナを誘ったはこれが目的だったのだ。
「冴えない、か。敵わないな……実はここ最近セレンの様子がおかしいだ。身体の具合が悪いのか時々口元を抑えて辛そうな表情をするんだ。心配して声をかけてもなんでもないとかわされるばかりで……何か思い悩んでいる様子もあって」
悩んでいる事を看破された青年セレアナはここ最近の令嬢セレンフィリティの異変を打ち明けた。どうにかしてあげたいのに何も役に立てず歯痒い思いを込めながら。
「他に気付いた事は?」
「他には……」
追加の質問に青年セレアナは気になる事をあれこれ伝えた。
その結果、
「……そう。あなた、心の準備をしておいた方がいいわよ……近いうちに父親になるから」
セレアナは一つの可能性に気付き、それがほぼ確定だとした。
「父親……それは……もしかして……だったら、なぜ言ってくれないんだ」
青年セレアナはセレアナの謎解きの結果に驚くも別の疑問を口にした。どうして報告してくれなかったのかと。
「私にはどうしてか分からないけれど、初めての事で不安だったりするんじゃないかしら」
セレアナは定番と思われる悩みを言った。今度は確定ではなく推測。
「……そうかもしれない。それだけじゃなく、今までいた場所を出たせいで彼女は頼ったり子供を祝ってくれる家族もいない……あの時、自分が誘ったせいで」
青年セレアナは令嬢セレンフィリティの憂いを思い心を痛めた。
「…………(そう言えば、この二人は駆け落ちしたのよね)」
セレアナは二人の経緯を思い出しつつ
「そうね。だからこそ、あなたが守ってあげないと。あの子とお腹の子供のことを」
励ました。頼れる家族が側にいない時こそ彼が心の支えになる必要があるから。
「あぁ、そうだな」
青年セレアナは力強くうなずいた。
「家族ではないけど、私も祝うわ。あなた達の幸せは私にとっても嬉しい事だから」
励ますだけではなく祝いの言葉を忘れないセレアナ。まだ本人に確認を入れてはいないが、間違い無いはずだから。
「ありがとう。早く戻って悩みに気付けなかった事を謝らなければ」
青年セレアナからは憂いは消えていた。
セレアナ達は人数分の飲み物を購入してからセレンフィリティ達の所に戻った。
令嬢セレンフィリティは二人が戻って来るなりベンチから立ち上がって迎えた。
そして、青年セレアナが自分の前に立つと
「報告が遅れたのだけど……」
妊娠した事やすぐに報告しなかった理由を告げた。
「……すぐに気付いてやれずに悪かった」
セレアナは妊娠はともかく悩んでいる事に気付けなかった事を謝り、彼女を抱き締めた。
「ありがとう」
抱き締めたまま心底の言葉を贈る。自分との子供を宿し父親になれるという新たな幸せをくれる事を。
「……」
令嬢セレンフィリティは嬉しさから言葉無く抱き締められたままでいた。
「……解決したみたいね」
「そうね。何より幸せそうで安心したわ」
セレンフィリティとセレアナは邪魔にならないようにそっと見守っていた。
この後、セレンフィリティの提案で令嬢セレンフィリティの妊娠を存分に祝った。
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